3-3-5 ファーストコンタクト その2
向かい合う三人――[祝融・lieg]、厨川半心軒、レヴィは、それぞれ同時に仕掛けた。
『モブの方は一旦無視キメ込もうかァ~~! まずは能力持ちッ! 燎原を駆ける双つ矢よ!』
第一階梯 [箭]――読んで時の如く魔力素で形成した矢を放つ魔術!
祝融は照準たる両掌を二人へ向け、恩寵の[火]を乗せた[箭]を二つ放った。対する二人は、示し合わせたように祝融を狙う。鎖の先に付いた【錘】と、【大杖】から発生した人魂の様な[呪い]を差し向けた。
『なんじゃそら! 揃いも揃って原始的な奴らじゃのう!』
須臾の差で先に到達した二つの[箭]は、それぞれもう一方の【錘】と[壁]に大きく弾かれた。祝融が心中で悪態を吐く。大きく離れ過ぎている……これでは、[火]で爆破しても有効打にはならない。
とすると、ここは一旦攻勢思考を捨て置き、迫りくる二つの原始的な攻撃に対処せねばならない。一瞬の内にそう決着づけた祝融は、好戦的に口角をつり上げ、両手を打ち合わせた。
『塵界流るる霾翳よ来たれ!』
第三階梯 [流影陣]――粘性の力場を作り出す魔術。力場は強い反発志向を帯びており、触れるもの全てを斥ける。祝融は、その力場を両掌に接続して発生する様に設定していた。
思い切り左右へ離された両手の間には、シャボン玉の様にふわふわと膨らみながら広がる半透明の[流影陣]が現れ、その反発志向を大いに発揮して【錘】と[呪い]を難なく遠方へ斥けてみせた。
「くっ……噂には聞いちょったが、これが[魔術]なる業か!」
防御と攻撃に用いた二つの【錘】を手元に引き戻して加速させながら、厨川は敵戦力を分析した。確かに【錘】は、敵の両手で潮風に揺れる謎の物体(魔術?)に命中した筈だが、己の【瑞】が発動した様子はない。[魔術]には【瑞】が全く効かない訳ではない事は、例の捕縛した双子の話に明らかだが――。
「どうも、やっぱり、想像していた通りに俺の瑞は[魔術]と相性悪かね!」
厨川は、敵の方を睨んで振り向かず、そのまま背後の部下二名へ呼びかける。
「三岳、石橋! 分が悪い、潰すぞ!」
普段の教育の賜物か、部下二名は『潰すぞ』の言葉だけで厨川の意図を完璧に察し、阿吽の呼吸で「応!」と答えて何処かへ駆け出した。これは逃げた訳ではないとレヴィと祝融の二人もすぐに分かった。何らかの目的を持った動きだ。
レヴィと祝融は、部下二名へ引っ張られていた意識を、すぐに厨川に戻した。気になるが、厨川はそう易易と動かしてはくれなさそうだったからだ。
だが、最初から一人の祝融と違い、レヴィは背後でまごついている使えない護衛二人に激しい苛立ちを覚えた。
「何ヲシテイルノデスカ! 貴方達ハ奴等ト違イ『銃』ヲ持ッテイルデショウ!? サア、敵ヲ撃ツノデス!」
「し、しかし、レヴィ少尉……僭越ながら相手は味方であります!」
「上官ノ命令ハ絶対ダ、コノ無能共メ! 敵・味方ヲ言ウノナラアッチノ敵カラ撃テ!」
護衛二人は顔を見合わせた。そして、戸惑いがちに祝融とその背後の厨川へ銃口を向け、引き金に指をかけた。
『原始的な、あまりに原始的な! そんなもので私を獲ろうってのかい!? ちゃんちゃらおかしいぜ!』
祝融は両掌に魔力素を注ぎ込み、[流影陣]の範囲を拡大させる。と同時に、厨川もまた防御を固めた。
瞬間、両者へと降り注ぐ銃撃――当然、それらが大した効果を齎さないであろう事はレヴィとて折り込み済みである。彼等二人の攻勢を引っ込める事、それこそが彼女の狙いなのだ。
レヴィは跳んだ。狙うは両者、同時にだ。畏れ多くも天を指差し、祝詞奏上の儀を掌る。
「祈誓!」
嗚於、我が神、d-ASAR-LU2-ḪI (Asarluhi)よ! 真に偉大なる d-AMAR.UD (Marduk)の架蔵せし第十二次元宇宙の ṭup šīmāti (天命の書板)によりて、現世に溢るる贓物を還元し、我に苟且の奇跡を貸し与え給え!
「グ、ァア……!」
レヴィの右肋骨が一本、還元。だが、その代わりに貸し与えられた魔力素は人という容れ物を満たし、なお注がれ続けて収まりきらず溢れ出す。
すぐさま傷口を止血、更に血中内に鎮痛薬――モルヒネでは計算能力が鈍ってしまう為、神経に作用して痛みを感じなくさせる抗NGF抗体とtyrphostin(チロシンキナーゼリン酸化阻害薬)――を精製した。これにより、肋骨を失ったが戦闘への影響は最小限に抑えられた。
できうべくんば、[これ]は使わずに終わらせたかったが……四の五の言ってられる状態ではない。手加減を強いられている現状、切れる手札を惜しまず切らなくては生き残れそうになかった。
9mmパラベラム弾と共に跳ぶレヴィの全身から満遍なく湧き上がる神秘的なまでの高濃度魔力素は、レヴィの周囲に蜃気楼を生じさせ、背後の景色を醜く歪める。
『なっ……[māmītu]って、お前まさか……!』
祝融は驚きを隠せなかった。もちろん、厨川の方もレヴィが今まで一度も披露した事のない隠し球を前に驚き、身構えてはいたが、祝融の驚きは、思わず母語の『中国語』ではなく『共通語』で声を上げてしまった程だ。
『祈誓……そりゃ[咒術]、[祈禱咒術]の分類だろう!? おいおい、確かに原始的とは言ったがそれは方向性が違う……! お前、どこの生まれだよ……!』
「喰ライナサイッ……!」
祝融の声を無視し、レヴィは二次元的な護衛二名の射撃を跳び越して、上空から地上の二人へ向けた三次元的な攻撃を開始した。
第一階梯 [箭]――それは宛ら意趣返しの様相を呈しする。レヴィの指揮に従い、数えるのも億劫なほどの[箭]が蒼天を埋め尽くした。
『くっ、アレが噂に聞く忌術師なのか!? あの[人魂]らしき攻撃は【瑞】とかいう奴だと思っていたが……まさか、あれもそうだったのか!? いや……古すぎて分からん……! [祈禱咒術]を専攻しておけば……嗚呼、なんで私は数学なんか専攻したんだ……! 何の戦術的優位性もないじゃない!』
*
灰崎炎燿と法倉螺湾、その進路を塞ぐ老漢は、口に加えていたジョイント――乾燥した大麻を巻紙で筒状に包んだもの――を地面に落とし、足で踏み消した。
「さて、仕事か……面倒だが、やらぬ訳にもゆくまいて」
どこか余裕の雰囲気が漂う老漢と違い、灰崎と螺湾の方は切羽詰まって半ばパニック状態に陥っていた。
突然の襲撃、突然の爆発、突然の出会い、突然の呼び掛け……。
コイツは一体、何者だ。敵なのか?
ならば――と、灰崎はある考えに至る。仕方ない、と。
邪魔立てするようならば殺してでも押し通る!
「螺湾、分かっているな? お前はお前にできる事をやれ! 奴は日本語話者だ!」
「――了解!」
一、二歩、守るように前に出た灰崎に遅れて、螺湾もまた覚悟を決めた。どうせ、迫りくる危機に対して自分が出来る事など何時もと変わらず一つしかない。この軽々しい口を死ぬまで動かし続ける事。その一点のみに自分の人生は集約されていると言っても過言ではないのだから。
「なあ! そこの爺さん、頼むから聞いてくれよ! 『僕らは敵じゃないぜ』! 何を殺気立って廊下のど真ん中に仁王立ちしてんだ? ここを通してくれよ――!」
言葉に力なんてない。就中、『嘘』なんぞは、慎重の上にも慎重を期して吐かねば容易に破綻する劇物。突飛すぎるものは言わずもがな通らず、連呼しても阿呆以外に大した効果は見込めない。今の様に、雑多な真実で覆い隠してなるべく『嘘』を意識させないようにし、少しずつ少しずつ刷り込んでゆく事で徐々に徐々に相手の心理に浸透させるしかない。
真実には『嘘』という名の修飾を、『嘘』には真実という名の虚飾を。
これは他人を丸め込む上での鉄則。初歩の初歩。常套手段といえよう。
直後、大きな衝撃でビル全体が揺れ、背後で裏口の扉を叩く警備の者たちの紛糾する声を掻き消すほどの悲鳴がビル内から聞こえてくる。
……この爺さんみたいに、中にも他の襲撃者が居るのか? ならば、時間がない。早急に脱出しなくては。そう考えた螺湾は、更なる『嘘』を重ね、四藏匡人の如く自我を崩壊させようと試みる。これまで吐いてきたのは、その場しのぎの為の『嘘』ばかりだったが、今回に限りしのがずとも突き抜ければ及第点。そう考えれば余裕も余裕だ。
「――爆発音と振動、聞こえてんでしょ? 危なそうだから中に避難したいんだよ、爺さんは何を思ってそこに立って――」
「別に、通りたくば通れば良かろう」
「――っ!」
しかし老漢は、道で人とすれ違う時の様な半身の姿勢を戯けて取りつつ、事も無げにそう言ってのけた。通りたくば通れ。恐らく本心だろうその言葉一つで、螺湾は『嘘』を吐き散らす口実を失ってしまった。
「敵か、『そうじゃない』か。そこにさしたる意味を見いだせぬな。儂は戯れに付き合ってくれと確かに申した。だが、お前さん達が理が非、是が非でも通りたいと申すのであれば……何を遠慮することがある。よもや、老いぼれ一人押し退けられん足弱でもあるまい」
螺湾の喉に空気が詰まる。向こうからここまで明け透けに言われてしまうと、灰崎と螺湾がこの様な生命に関わる状況下で、無理に立ち塞がる老人を押し通らずにごちゃごちゃと口先を弄している事実こそが、胸中に渦巻く警戒心、敵愾心、そして何らかの企図の存在を暗に認めているようなものだ。そんな奴の吐かす『敵じゃない』なんて『嘘』は通らない。
まんまと出鼻を挫かれた螺湾と同じく、螺湾を庇うように前に立つ灰崎もまた目の前の老漢に対して攻めあぐねていた。探知機を取り出して確認する分には、青の反応――間違いなく、この老漢は魔術師だ。
故に、魔術の恣行を警戒し、片言隻句、一挙手一投足に注意を払っているのだが、こうして面と向き合っているにも関わらず、何の攻撃の片鱗も見受けられなかった。老漢は何のアクションも起こしていないように見えた。
――そして、魔術師を相手取る時はそんな状態こそが最も危険! と、双子の講義に於いて、灰崎は口を酸っぱくしてそう教えられている。
何を企んでやがる……どうする。どうするのが正解だ。どう攻めるのが正解だ。
銃も薬品も大体が取り上げられ、使える道具が限られている中、あるかも分からぬ正解を灰崎は必死で探す。
奴の目的は何だ。「戯れ」とはどういう意味だ。俺たちを悩ませ、足止めしておくのが目的なのか……? しかし、そうする動機はなんだ。襲撃を成功させる為だとしたら、沢山の能力者と纏骸者が居るであろう会議場を重点的に抑えるべきだ。
……態々、俺たちを狙い撃ちする様な真似をしてまで拘る理由が見当たらない……。
此処に留めておきたいのか? それは確かであるかもしれない。やつは裏口も封鎖した。
だが、ビル内に留めておきたいのであれば、それこそ通せば良い。俺たちはこれから中に入って行こうとしているのだから。つまり、そうではない。微妙にずれている。
もっと、何か……別角度の発想が必要だ……。
俺たちを妨害して目的を為遂げようというのではなく、妨害そのものが目的……?
何の得がある? いや、何がどう困る? 俺たちを留めておくことで誰が困る? このまま足止めが成功した場合、俺たちは匡人たちと合流できず、逃げられない……。そして、匡人たちもまた逃げられない……。
灰崎は何かに至りかけていた。
「爺さんは――」
その間に、螺湾は苦しみつつも再び口を切っていた。流石というべきか、彼の黙っていた時間はほんの一秒程度だった。
口実なくとも『嘘』は通り得る。いや、通してみせる! 何処までも高まってゆくひりつく様な緊張が螺湾の頬の筋肉をぴくぴくと痙攣させ、知らず識らずの内にどうしようもなく染み付いてしまった胡散臭い詐欺師の笑みを顕然と作り上げていた。
知ってるか? 爺! 「俺は騙されねぇ」って、知ったふうな顔で気ぃ張ってる様な奴ほど良く騙されんだよ! そっちの警戒を、こっちの警戒を、どちらも逆に利用してやる!
視点を変えろ! 初歩で駄目なら発展させるまで! 小さい『嘘』で駄目なら今度はドデカイ『嘘』だ!
みてろよ……今に世界滅亡の大預言を信じさせてやる!
「――僕らを殺しに来たんだ! そうだ、そうに違いない! 分かったぞ、このゴロツキめ! さては、現代魔術聯盟の魔術師だな!?」
灰崎がチラと後ろ手に見せていた探知機の画面を見て、螺湾は老漢の正体を知り、そして知っている事を明かす選択をとった。
「もし、儂がそうだと言ったら――」
「『当然、殺してやる』!」
老漢に口を挟ませない。
「『原型が分からないぐらいに叩きのめした後、帰る前にビルを爆破してビルごと生き埋めにしてやる』! 『この降り頻る雨の中、朽ち果てるまで野晒しでも良い』! 『それとも、これから人工島が突入する嵐の中にでも放り出そうか』!」
その時――灰崎が叫んだ。
「螺湾、伏せろ!」
それは突然のことだった。
遥か向こうの角から、恐怖に打ち震え、逃げ惑う人々が怒涛のように押し寄せてくる。恐らく、背後にある裏口を求めてのことだろう。
その一団の先頭を走るは、銃を構えた警備の者たち……予めMCGを通して情報を受け取っていた彼等は、しゃがんだ灰崎と螺湾を確認するや老漢の背に向かって銃撃を放った。
灰崎は、私物の携帯からMCGに救援を求めていた。彼の本命は螺湾の『嘘』ではなく、こっちだった。
取った! 完全なる不意を突いた! ――死ね!
しかし、灰崎のその確信は、すぐに露と消え去る。
「つまらぬ」
「なっ――!」
銃弾が老漢を貫くことはなかった。そればかりか、辺りに反射するような跳弾音を幾度も響かせたかと思うと、床に臥せる灰崎と螺湾の身体に突き刺さった。
これに驚いたのは警備の者たちも同じ。すぐに立ち止まろうとするが、その背後に押し寄せる避難者の所為で止まろうにも止まれない。恐怖に駆られた避難者に背中を押されて、老漢の方へと押し出されてしまった。
瞬間、先頭の警備の者たちに突き刺さる[何か]……。
防刃防弾の上着が絹のように裂け、その隙間に沿って血が吹き出す。四肢は乱雑に骨ごと泣き別れ、ある部位は床へ落ちたが、またある部位は宙にとどまった。
当然、後続の避難者たちもこの惨状に気付くが、その更に後続はまだ気付かない。彼等は、とめどなく死地へ殺到し続け、全体の四分の一ほどがバラバラ死体と化す頃にようやく止まった。
『別の道を行け!』
灰崎が英語で叫ぶと、徐々に彼等は言葉の意味を理解し、従ってほうぼうへと散り始めた。
老漢はその一連の展開をじっと静観していた。そして、灰崎が痛む身体に鞭打って立ち上がろうとした時、その口を開いた。
「忠告する。止まれ。既に同じものがお前さんたちの周囲を取り囲んでいるぞ……と言ったら、どうする?」
老漢は、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。その上から押さえつけるような言葉に、重傷で立ち上がろうとすらできない螺湾が反発する。
「ふん、それは『嘘』だね……『人工島と共に海底へ沈めてやろうか』!? 灰崎! 奴は『嘘』を――」
「いや、螺湾……本当かもしんねぇ」
「灰崎!?」
灰崎はずっと老漢を観察していたけれども、彼が特別に何かしたようには見えなかった。だというのに、あの刃は忽然と何時の間にか出現していた。灰崎は覚えている。さっき、老漢がそこを通った時は何もなかった……。
そんな訳で、彼の言葉が丸っきり『嘘』とも言い切れなかったのだ。
しかし、動かずにどうすればいい……どうやってこの爺を倒せばいい!?
その時、廊下から避難者たちが散るのと入れ替わりで、数人の集団が角を曲がって姿を表した。
「灰崎さん!」
*
「匡人!」
大量のバラバラ死体の転がる廊下の先で、血に濡れて床に臥せる灰崎さんがこっちに向かって大音声をあげて叫んだ。
「やっと見つけた、螺湾さんもいる……! あの敵をさっさと始末して帰るぞ……!」
周囲から上がる息の揃った返事。否応なしに高まる期待感から、俺の足は自然と早まった。やっと帰れる。だが、それも二、三歩も進んだ所ですぐに止まってしまう。他ならぬ灰崎さんの制止によって。
「それ以上、こっちに来るんじゃねぇ!」
そのあまりの剣幕に気圧されて、俺は立ち止まる。他の者たちも異変を感じ取ったか、遅れて止まった。
そこの爺を灰崎さんが気にしているのは分かる。だが、多勢に無勢、すぐに片が付く。なにより、こっちには秘密兵器のリガヤ・ババイラン少尉も居るのだ。しかし――、
「灰崎さん……?」
「下手に踏み入れば死ぬぞ! 大丈夫だ、こいつは俺たちだけで……十分だ……!」
そうまで言われてしまうと、俺も見縊っていた事を認めざるを得ない。そいつはそんなにヤバイ敵なのか。
「どうしますか? 匡人様」
「私共は四藏様の御指示に従います」
クローン二人が俺の指示を求めてくる。
何か……俺たちに出来ることはないだろうか。
その時、背後のリガヤ少尉が何事かをボソリと呟き、軍靴をカッと鳴らした。今度はどうしたのかと思っていると、イサが「敵が来たヨ!」とすかさず翻訳してくれた。
振り向くと、白濁色の獅子に跨った魔術師らしき三人が、物凄い勢いで迫ってきていた。それに対し、リガヤ少尉は一歩も引かずに迎え撃たんという構えだ。
どうする。こいつらを先に処理すべきか? それとも爺を……ちっ、悩む時間はなさそうだ。
「Paggulo!」
【肆句 - 鳴動せさす/曲枝/打擲/山吹の - Tanigid】
リガヤ少尉の右掌から金色の光が生じ、杖の形状を取る。【Gintong baston (金杖)】……純金製の杖だ。頭が膨らんでいる造形は棍棒を思わせる。軽く10kg近くはあるであろう物体を、リガヤ少尉は軽々しく振るった。
石突が床に叩きつけられ、「ドン」と相応に重々しい音が響く。すると、割れた床の隙間から、間欠泉のように勢いよく【霧】が発生し始めた。それは立ち所に廊下を覆い、景色を霧の向こうに消し去る。
リガヤ少尉の瑞――【迷霧】だ。
彼女はこちらに一瞥をくれた。
尋ねているのだろうか。どうも、俺にはそう見えた。しかし……お前に改めて言われるまでもないさ。既に方針は定まった。
「あの敵は灰崎さんと螺湾さんに任せ、俺たちは追手を始末するぞ!」




