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鏡の中の君

作者: HAL model

鏡の中の君。





春の君は

制服を着て春の日差しの中 くしゃみをしてる。


夏の君は

スカートの裾をはためかせて自転車を漕いでる


秋の君は

学校帰り 銀杏並木を友達と歩いてる


冬の君は

マフラーを巻き 白い息で遊んでる




高校生の私は

「ブランド」と言うものを知った。

やつらは私の物欲を刺激してくる。



どう考えても月のお小遣いじゃ足りない。



バイトは校則で禁止されてるけど

そんな事言ってる場合じゃない。

こっちは死活問題よ。


とにかく時給の良さで飛びついた工場のバイト。

私のバイトデビュー。

ああ私よ なぜこの仕事を選んだんだ⋯⋯

工場のラインでの仕事ってなかなか地獄。

仕事って大変なんだ。



トイレに逃げ込み 鏡を見て

覚えたてのメイクを直す。


工場のバイトにメイクは いらないんだけどさ

鏡の中はこの子は少しだけ大人

いい気分。


友達とママにメッセージを送っておく


「地獄ですドーゾ」



バイトを入れない休みの日は

パパとママと一緒に お買い物。


友達と行くと足代もバカにならないのだ。


そしてママにお願いして

目当てのブランドのお店に。


最初は

「このお店は高校生にはまだ早いわよ」

と言ってたママが

私を着せ替え人形のようにアレコレ着せて

すっかりテンションが上がってしまい、


必ずバイト代で返すと言ってるから と

パパにお願いしてる。


え バイトするの私なんですけど。



試着室の鏡の中の私


ママはそれを見て

胴体の裾の部分がもっとシェイプしてる方がいい

ほんの数センチ、と言ってる。

私もそう思う。


店員さんが 服に合わせた

ヒールを持ってきてくれる。


可愛いデザイン。

履いてみると

ヒールの高さが足りない感じ。

あと1センチ高くなくっちゃ。

ほんの少しだけど

その1センチがとっても大事。


ママがいそいそと 高いヒールを持ってきた。


そうそう、この高さ。

さすがママ わかってる。


鏡の中の子は 1センチ脚が長くなって

いい感じ。

艶々の黒髪が揺れて

笑ってる 自信満々。



ママが洋服よりもバッグにお金をかけろって言う。

そんな事言っても

バッグまでお金回らない。

なんでだろう?かわいいリュックでいいのに。

よくわからないよ。



結局

予定してるバイト代の半分くらいを

前借りするカタチで アレコレ買ってしまった。

パパママありがとう。

バイトがんばるよ。



私の夏休みはバイト漬けになった。

真夏の工場は冷房が入ってるのに蒸し暑くて

すぐにメイクは諦めた。

タオルで汗をゴシゴシ拭いて

洗面所に逃げ込みバシャバシャと顔を洗った。

鏡に映るこの子は 頑張ってる。






私は工場のバイトは夏で辞め

リサイクルショップのバイトに切り替えた。


なんとなんと 生活雑貨から洋服も扱ってる。

本当はダメなんだけどね、と

店長が バイトの先輩と私の気に入った服をお店に出さないでそのまま売ってくれた。お店に出すよりずっと安く。



工場のバイト代で パパへの返済は終わってた。

初めて買った ブランドの服。

すごく特別。

あの服を中心に リサイクルショップでバリエーションになるような組み合わせを考えるようになった。


ここにも鏡があった。


すこし明るい色にした髪。

鏡の中の子は ずっとずっとメイクも上手になった。


トップスに羽織る軽いアウター。

都合良く 色違いが入ると店長にお願いして 色違い全部買わせて貰った。

バイト代天引きだから もう全然残らないの。


入荷したリサイクルの洋服で

ディスプレイのコーディネートが楽しい。









バイトが面白くて そのまま頑張っていたら

店長になってた。


家電とかも扱ってたお店だったけど

ファッションやブランドの部門が伸びて

洋服だけ 独立して古着屋さんの体裁で

新店舗出す事になって私が店長。


古着だから 同じ服は1点も無いし

仕入れのセンスがすごく大事。

服のデザインが良くても 布そのものが

ヘタってたらダメだし 難しい。


店内の装飾も私の意見を殆ど取り入れて

やらせてくれた。


店内は鏡だらけ。


古着屋さんって

とにかく商品点数が多くて ごちゃごちゃしてる

イメージだったから 思い切って商品点数を減らして

鏡をたくさん設置した。

明るくてキチンと服のバランスが見えるように。


合わせ鏡になるようにして 自分の背面もスッキリ見えるようにした。


ファッションは前から見ると装飾品は付いてるし

顔やメイクで判断しちゃうけど

背中からみると バランスだけを

シビアに見るようになる。

完成されたファッションは

背面からみて すぐに「かっこいい」って感じる。



ショーウィンドゥに映るお客さん達

店内を見てニコニコしてる。



ウチの店内の鏡、好評なのよ。

先月 雑誌も取材に来たし。


鏡の中の 子と 対話して

ほんの数センチでも妥協しちゃダメだよ!

そんな事を 高校生ぽいお客さんにフランクに話す。



店内には鏡が沢山。


鏡の中の私はすっかり大人。


メイクを覚えて鏡を覗きこんでいた頃を思い出す。


春の君は

制服を着て春の日差しの中 くしゃみをしてる。


夏の君は

スカートの裾をはためかせて自転車を漕いでる


秋の君は

学校帰り 銀杏並木を友達と歩いてる


冬の君は

マフラーを巻き 白い息で遊んでる



工場のトイレに逃げ込んで

覚えたてのメイクを直してる私



ママと一緒に見た試着室の鏡の私



バイトを変え

鏡の中の子は ずっとずっとメイクも上手になった。



そして

今日の私


合わせ鏡の店内で

後ろ姿のバランスを感じてる

その感覚を信じて それを伝えてる。





鏡の中の私は

大人になった私に頷いてる

うんうんって。





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― 新着の感想 ―
[一言] 青春まっさかりの女の子が生き生きしてる雰囲気が伝わってきました( ´・ω・`)b 工場のバイトは筋トレにならない上に退屈だから自分も短期の一回でやめましたね く( ̄Д ̄)ノ マイナス40度…
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