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 予定通りとはいえ少々強引でもある街への最初の旅が始まったその日。

「結構きついなー」

 上りはよかった。だが、山の下りになると明らかにトーヤに疲労の色が見え始めた。いくら転移を乗り越え干渉された魂が強化されたとは言え、ここに至るまでの付け焼刃の修行ではさすがに追いつかなかったらしい。

「マジで山越えだな、さすがにてっぺんまで行かなくてよかった」

「登山が目的じゃないしな」

 トーヤよりは大丈夫そうに見えるが、体力おばけだと思っていたナツにも少し疲労の色が見える。それを考えたところでふと、本当の体力おばけは今も平気で歩いている私だったのでは、と一瞬過ったが、ま、私は人じゃないしとその考えをスルーする。中身が人間身体は人外でもそっとしておいてほしい悩みはあるのだ。

「帰りは遠回りでもなるべく平坦な場所を選んだほうがいいですか?」

「いや。これでも傾斜を考えて回り道してるんだろ?」

「回り道っていうか……道じゃないよな、これ。足場がよくわからないってのが精神的にクる」

「なるほど」

 私たちが通っているのは確かに道じゃない。なるべく草の丈が低い場所を選んでいるものの、誰も通ったことがない山奥や森というものはかき分けて進まねばならず、その踏みしめた草の下に予想通り土があるとは限らないのだ。既にトーヤは一度ぐにゃっとした何かを踏んでしまったのが感覚として残っている為、一歩踏み出すのにも厳しいものがあるのだろう。最も蛇なんか踏んで噛まれても困るので、既に三人分の足元は防御系術で強化済みであるので、草の下が巨大な穴でもなければ死にはしないが。一応その確認のために歩く先頭も私である。私は飛べるので。

「ってか孤児院の子供を連れて行くってどうやるんだ? どう考えても小さい子は通れないだろ」

「連れて行けたとしても出られない天然牢になりそうだしな」

「そこは大丈夫じゃないでしょうか? 集落に住んでる人たちなんて、一生を生まれた村で過ごして出ないことも多いみたいですよ。旅行者に優しい世界じゃありませんし、冒険者ですら住む街周辺で挫折する人もいるらしいですし。ただまぁ、連れて行くのは……荷車でも借りようかなぁ」

 うーんと悩んでいると、あ、と声を上げたナツがさっと顔色を変えた。あ、しまった、と気づいた時にはもう遅い。

「もしかして……俺らを最初に転移させたあれで移動させる予定だったのか」

「へ? ……あ、あー!」

 ナツの言葉で完全に察したトーヤが若干涙目でごめんと連呼してくる。いいの、と首を振っても納得しないようだ。

「そもそも孤児院の人を移動させる任務自体、私が移動してから読むデータに記載されてたんです。既に私があの転移魔法を起動させている可能性は高かった。あの規模の魔法道具がもう一つある可能性は低いですが、もともと私は孤児院の人たちを移動させるのもできる限り通常の方法で考えています。なにせあの魔法はどこの国も喉から手が出る程欲しい発明品でしょうから、知らない方が幸せです」

 あなた達は緊急事態でそれどころじゃなかったので説明しましたが、と付け加え、再度この世界で不用意な発言をしないよう言い含める。

 ナツが気づいた通り、確かに私はもし一人だったのであればあの骸骨蔓延る地から転移魔法無しで抜けた可能性は高い。なぜならあれは他に手に入らない貴重品だ。抜ける力があるのならば、脱出に使いはしない。あれを残していれば孤児院問題は解決したのに、とナツが考えるのも当然だろう。だが、それをまた移動に使えない理由もあるにはあるのだ。

「問題は孤児院の子供で一番小さい子は何歳かってとこだな。まさかの赤ちゃんとかだったら山越えどころか野宿も無理だろ」

「いや、そもそもこの世界の人間の子供が俺たちの知る乳幼児と同じ扱いになるのか悩むところだな。なにせ生まれた瞬間から……いや、母親の胎内にいる時から魔力を浴びてきたわけだ。ルティアルラが俺たちを最初『ただの人間』と表現した辺りからもこの世界の人間は俺たちの知る人間と違うのかもしれないし」

 ナツの言葉に、へぇと瞬きをしトーヤの視線がこちらを向く。少しため息を吐いて頷いた。ナツはまったく、まぁ私の言葉のせいか。

「ナツの言う通り、まぁこの世界にはこの世界の理がありますが……赤子の移動は危険ですよ。それでも、村が襲われ赤子を連れて移動しなければいけないこともないとは言えない世界ですし、生き延びることもあるとは言えます。そもそもこの世界の生命の死亡原因があなた達の世界じゃありえないものばかりでしょ? モンスターに襲われる、山賊に襲われる、孤児だって孤児院に入れるとも限りませんから」

「俺たちの概念を一度改めた方が良さそうだ」

 そんなことを話しながらも地図を広げて歩きながら、一度二人を止め木を駆け登る。見晴らしがいいところまできて遠くを見つめ、うん、と頷いて飛び降りる。

「今日はこの辺りかな。五分くらい歩いたところに休めそうなところがあるからそこで野営しよう。周辺の確認は私がするから」

「……悪い。俺らもはやくやれるようになるよ」

「ごめんルティ……でも、ああでも、や、休める……! いやほんとごめん、最低だけどっ」

「全然最低じゃないですから。むしろ初日でいきなり山越えだったのにかなり進んでます、ありがとうございます」

 若干涙目で訴えるトーヤに思わず笑みを零し、大丈夫ですと言って首を振る。あとで全快とはいかないだろうが、体力回復の術でもかけてあげようか。ほら、と地図を見せ、予想した進行距離を教えれば、トーヤとナツがおおと感激したような声をあげる。

「この、下の方にあるのは道か?」

「それは一応、隣国までつなげようとした道らしいんです。ただこの道の先で予定していた場所が自然災害で使えなくなったらしく途中で止まってるんだとか。一応その道の端にこれから向かう場所よりも拠点には近い村があるみたいなんですが、冒険者組合がないのでそこはまた今度にします」

 元は隣国までつながる筈だった道が私たちが拠点にした森の南に通っているのだ。だがそれは隣国まで届くことなく、一つの村を最終地点に途絶えている。とはいえ、拠点に近いのは間違いない。規模によってはよい取引、仕入先になるだろうから要確認ではあるが、その村に入るのに『冒険者だ』という証明が欲しい為今回は後回しだ。

「俺たちの拠点がこの辺りなら……この村から北上するのが一番道が安定してるんじゃないか?」

「あ、そうかも。問題はどれくらいこの辺りの道が上りになってるか、か? 俺たちの知ってる地図みたいに等高線がないからなぁ、地図じゃ読み取れないし。最悪俺たちが荷車に子供乗せて引っ張る可能性もあるだろ?」

「……斜面がきついと後ろが落ちるな」

 二人が話し合うのを聞きながら結界道具である錬金石を置き、半径三メートルほどの地下込み球状の安全地帯を作り出す。これは私が作ったものなので念のため発動に間違いがないか確認して、二人に断り一度周囲を見回りに行く。だいぶ日が落ちているが、いくつか食べられる果物を見つけることができた。一応念の為米や乾燥させた肉の在庫をいくつか持ってきたが、できれば保存できる食品は大事にしたい。一つの木から取り過ぎることなく少しずつ果実を集め、ナツが作った巾着にいれて持ち帰る。縫い目がかなりしっかりしている、売り物でも通用しそうな品だが、ナツは何処を目指している男子なのだろう……。

 夜を超すのは結界のおかげもあって、一応時間を区切り見張りをまわしたものの、特に問題なく過ごすことができた。私は睡眠時間が短い為二人に優先的に休んでもらい、早朝。まだ眠る二人の分も朝食を得ようと、昨晩と同じように周囲の果実を集めて回る。

 と、二人と合流する前にばさりと羽音が聞こえて顔を上げると、一羽の鳩が目の前に降りてくる。指先を出せばそこに乗った鳩の足に小さな紙が括りつけられているのを確認し、それを摘まむとしゅるりと鳩は空気中に溶けて消える。これは前任が残した鳩なので、主人がいないことで最後の仕事を終えて消えてしまったのだろう。そっと紙を開きそこに書かれた文字を確認した私は、眉を寄せて駆け戻る。

「ナツ、トーヤ、起きて、大変! 前任の伝書鳩に頼んで孤児院で子供たちを世話している人にこれから状況確認に向かうと連絡を入れたんだけど」

「待って待ってルティ、いきなり情報が多い。おはようおかえり、で、伝書鳩?」

「いや冬夜、その辺り聞くのは後だ。大変って、孤児院に何かあったのか?」

「緊急、と。孤児院のある土地が商人に買われたらしくて」

 買われるだけならまだいい。商人も体裁を気にして子供たちのその後の面倒も見たのかもしれないが、その後が問題だった。小さな手紙に詳細は書かれていない。ただ最後に一言あるのは「子供たちが売られてしまう」という一文。

「闇商人に目をつけられたんだ。この世界はまだ、国によっては奴隷制度がある、まずいの!」

 驚愕の表情を浮かべた二人が焦る私よりも早く準備を始めたのは、この直後であった。


※異世界の話ではありますが荷車に人を乗せてはいけません。次話別手段を(ナツが)とりますのでご安心を。

また道の先が自然災害、とありますが描写はぼかしているもののそういった描写が苦手な場合今後の展開にご注意下さい。

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