夜間狙撃のススメ
昼より夜がいい。
すべてが見えなくなる時間。
自分が丸ごと消えるこの間が小さい頃から大好きだった。
今は銃を片手にフィールドを駆けている。
「正面に三人。トレーサーで弾道が見え見えだな。だが、応射する必要はないぞ。奴らは牽制組だ!」
「左に四人くらい、いる感じがする~。夜間嫌い。敵見えないもん」
「そうぼやくな。こっちには夜間専門がいるじゃないか」
「あ、そうだね。その子はどこ?」
「たぶん右から狙ってるだろうな……ライトで照らしといてやろう」
夜間のサバゲーは弾が流星のように光って飛び、キラキラと散っていく。
ライトは昼間のように照らすけど、照らしている本人も丸見え。
離れてみているとそれらは交差してちょっとした宇宙を思わせる幻想となる。
それを見るのも一つの楽しみではあるけど、本当の楽しみは――。
「わッ! ヒットォッ!」
「なにッ!? どこから!?」
「トレーサーの弾じゃない! 普通の弾だ!」
「姿勢は低くしろ!」
スコープ越しに暗闇の中でごそごそと動く影が三つ。
最初は四つだったけど、一人撃って残り三人。
真ん中で光の乱舞があるからお互いに対岸の影は見えにくい。
けど、スコープ越しで見ればそれほどでもない。
一度定めた照準はずっと捉えることができるし、光もそれほど目に入ってこない。
しっかりと照準をつけて一人、また一人と撃ち抜いていく。
「左の四人が全滅ですね」
「彼だな」
「“例の人”ですか」
「妙な言い方するな。でも、流れはこっちに傾いたぞ」
味方が前線を押し上げる。
前進する進路上には敵はあんまりいないしこのまま押し切れると思った。
だが――。
「グぉッ! ヒットだ!」
「えっ? キャっ! ヒットですぅ!」
味方がやられた。
トレーサー弾ではない。
通常弾か。
敵陣にも自分と同じ人がいるようだ。
夜間は狙撃手の独壇場。
同じなら考えることもほぼ一緒。
夜が好き。
こうして好敵手とも闇夜で対決できる。
狙撃できる地点をスコープでじっくりと探す。
闇夜での索敵はお互いにライトを使わない状況では勘と細かい間違い探しの感覚を頼りに見つけていくしかない。
だから、端からじっくりと探していく。
味方のライトも乱雑に照らし出されていくが、意味はあまりなさそうだ。
その間にもライト持ちの味方はやられていくのだから。
「お互いに打つ手はなしか……スナイパー同士の対決になっちまったな」
いつの間にか、銃声は収まり乱舞するライトも止まって静寂が訪れた。
この一瞬でお互いに発見。照準。発砲。
一連の動作、速さが同じ。
発射された弾も相手の弾と交差するのまで良く見えて、お互いに着弾する。
「「ヒット!!」」
実弾ならお互いに死んでいただろう。
どちらの弾も寸分の狂いもなく額に命中していたのだ。
退避所にはこれまたそろって入ることになった。
「あなたが“ノーチェ”さん?」
「そう、だけど。君は?」
「ようやく会えました! ボクはあなたのファンで夜間の狙撃手となったんです!」
「フ、ファン!?」
「そうです! よく夜なのにあんなに正確に当てられる人は見たことなくって、それに憧れて……」
「けど、こんなこと嫌われるよ。狙撃手というだけでも肩身狭いんだ」
「そんなことは無いですよ! カッコいいです!」
ファンだというその子は自分に少しでも近づきたくて夜間ゲームができるフィールドを渡り歩いていたらしい。
会えるまでに技量を磨いていたそうで。
もう本当に自分と技量は同等以上だと思う。
だけど、夜間の狙撃は誰であろうとも譲る気はない。
この時間だけが好きなのだから。




