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IP:異世界戦争  作者: 葦原 聖
一章
7/23

第七話 決意の砲撃

この過ぎっぷりは笑っちゃうほどです、はい。

いや、ほんとは反省してます、はい。

すべては我が遅筆のせいです。

毎日更新四日目です。



 遠ざかっていく車輪の音を聞きながら、アシュレイはこの状況を打破できる方法を必死に頭を巡らせ考える。

 アシュレイ側の戦力は、アシュレイとともにいた護送隊の精鋭五人と先遣隊で今動ける二人、そしてアシュレイ自身を含めての計八人。

 人数自体は申し分ないが、二番(ドラス)級を相手にするには如何せん装備が貧弱すぎた。

 ―――せめて青シリーズがあればな。

 アシュレイは心中で独り()ちる。

 しかし、死と隣合わせなこの状況で無いものをねだってもしょうがない。むしろ死を呼ぶことになるだろう。


「...総員、対個人戦闘態勢!」


 この場で一番階級の高いアシュレイの声により、各々が起句を唱え、それに反応し辺りが白い光で染められる。

 唱えた起句は、『強化(de fulse)』。アシュレイたちの持つ宝珠(オーブ)に込められた三つの魔術式の一つで、効果は至極単純。使用者の身体能力を上げるという物だった。

 アシュレイたちの体を仄かに白い燐光が包んでいく。

 宙を舞う砂煙は今だ消えることはなく、辺りを覆い隠している。


「―――いや、待て、これはっ...!」


 アシュレイが散開、と指示を出す間もなく辺りを覆っていた砂塵が渦を巻き、アシュレイたちの元へと凄まじい勢いで襲ってきた。

 油断していたアシュレイたちはなすすべもなくそのまま吹き飛ばされた。


「――おいおい、お前らもそんなもん持ってんのかよ」


 アシュレイは向上した身体能力を十分に活用して受け身を取る。

 その最中見えた光景に舌打ちしたくなる気持ちをなんとか堪えて、小さく呟く。


「やはり初期型では話にならんか...!」


「4年前の爺どもならまだしもそんなもんじゃ俺様は傷一つ付けらんねえぜ。俺様たちだって日々シンカってのをしてるからな」


 アシュレイの睨む先で仁王立ちする魔族。先ほどまでその身を隠していた外套は布切れとなって足元に落ちてしまっている。

 最近最前線の国から情報だけは届いていた魔力鎧だ。

 強さが上がっていくごとにその密度は増していき、一番(ウェノ)級になると最新の装備や魔術陣での攻撃では歯が立たないという厄介な代物だった。


「俺様だって弱い者いじめはしたくねえんだ。爺に言われてるからな。だけど新型兵器を出さないってんなら話は別だ」


 魔族の胸の中心が赤色に怪しく輝く。

 それを見たアシュレイが表情を急変させる。


「まずいっ...!総員防御を―――!」


「―――ウェンロゥ」


 風が、吹き荒れた。

 いや、風という名の暴威だ。辺りにその爪痕を残しながら拡大していく。

 そんな前後不覚な嵐の中、咄嗟に防御の魔術式を構築出来たアシュレイは、しかし何も出来ないままただ力の奔流に身を任せるのみだった。

 いつしか、溶けるように暴風圏は無産していき、辺りには満身創痍で横たわる人々の姿があった。

 その中心にはやはり仁王立ちする魔族の姿。


「俺様はラスティ。ドルヴィク隊最強の兵士だ。―――あんまり舐めてっと死んじまうぜ?」


 魔族、ラスティは愉悦に満ちた表情の元、舌なめずりをした。





 勇真は目の前の現象に心底驚きを感じていた。思わず隣を見やる。藤もまた驚きに目と口を皿のようにしていた。

 勇真の周囲には、飛び回る物体があった。

 丁度藤の拳大くらいの大きさで、形状は球体。漆を塗ったような艶やかな光沢が機械的な冷たさを感じさせる。

 つい先ほどまで勇真の手の中にあったものだった。


「浮いてる...な」


「浮いてる...よね。――――じゃなくて、どうするの?」


 藤が鹿爪らしい表情を浮かべる。

 どうするとは、これからどうやってアシュレイの元へ戻るのか、ということだろう。

 勇真も考えていたことだ。

 そして結論として出たのが正面から突破するというものだった。


「まずは、ヴァンさんを説得して戻ってもらう」


 まずは戻らなくては話にならない。しかし、問題はヴァンが戻ってくれるか、ということだった。

 アシュレイが出る前に言った通り、今の状況で最優先されることは馬車にある黒い球体と勇真たちを無事公爵領へと送り届けることなのだろう。

 その状況下で勇真と藤、そして黒い球を乗せてわざわざ危険域に舞い戻ることを承服するだろうか。


「そこが、問題だな」


「...うん、とりあえず、話してみないと、だよねっ!」


「ちょっ、まっ!?藤っ!?」


 勇真が止める間もなく、藤は馬車の中をヴァンの元まで進む。

 激しい揺れを物ともしない藤。

 周囲を飛び回る黒球を持て余している勇真では止めようもないのも当然だった。


「ヴァンさん、ヴァンさん、少しいいですか」


「なんだい?こう見えて僕、人生で一番集中してるから出来れば話かけないでほしいんだけどねぇ」


「えぇっと、黒い球が、浮いて...、えっと勇くんが?魔術式とかで...。~~~~っ!とにかく後ろ見てください!」


 説明を、諦めた。

 魔術式が何かすら分からない藤ではやはり無理があったのだろう。

 一から説明しようとしたのが間違いだったのではないか。

 しかし、時間の短縮としては申し分のない方法だった。

 藤の並々ならぬ迫力に押されたのか、ヴァンが弾かれた様に後ろを振り向いた。―――そして、顎が外れるほどあんぐりと口を開けた。

 ―――あぁ、開いた口が塞がらないっていうのはこういう状況か。

 思わず勇真はそんな場違いな感想を抱く。

 それほどまでにヴァンのその様子は滑稽でならなかった。

 しばらくそのまま固まっていたかと思うと、ヴァンは突然手綱を思い切り引く。

 それに反応して馬が急停止し、勇真たちは投げ出されるように前方へと転がり込んだ。


「奇跡だ...」


 痛みに呻く勇真と藤。そこにヴァンの呟くような声が届く。

 目を向けると、ヴァンは転がったままの姿勢で呆然としていた。


「ヴァンさん...?」


 勇真の声にはっとしたかのような仕草を見せ、そそくさと立ち上がる。

 その瞳には先ほどまでと違ってひどく真剣な色が浮かんでいた。


「これの変換効率、ちらと見ただけだが確か...。それなら二番(ドラス)級の鎧と言えども貫ける...。そこに初期型だとしても幾つも重なれば...!」


 もはや周囲など見えていない。そんな態度でヴァンは呟く。

 そうして顔に喜色が浮かんだかと思うとすぐに項垂れた。


「だが、魔術式が読めないと話にならない...」


「...読めます」


「え?」


「俺、読めます。アシュレイさんに少しだけ教えてもらいました」


 途端、ヴァンの顔がコマ送りのように変化していく。

 諦観、理解、そして希望へと。


「奇跡だ...!」


 もう一度、噛み締めるように言う。

 そして、くるりと振り向くと、御者台の方へと足早に歩いていく。


「...君がどのような覚悟でそれを手にしたかは分からない。だけど、起動してしまったからには君は無関係ではいられない」


「ヴァンさん...」


「命を落とすことになるかもしれない。―――それでもいいのかい?」


 ヴァンは勇真に背を向けたまま問う。

 勇真の答えはもうすでに決まっていた。


「はい。俺はもう逃げたりしません」


「...うん、そうか。...少佐はまだ死んではだめな人だ。君の力を、貸してくれるかい?」


 勇真の答えはもうすでに決まっていた。



♦♦



「ユウマくん、こちらには黒真珠があるとは言え、相手は二番級だ。加えてユウマくんは素人と言っていい。だから、君のすべきことはただ一つ、鎧を貫くことだ」


 来た道を引き返す中、御者台に呼ばれた勇真はヴァンから指示を受けていた。

 ヴァンの真剣な声が勇真の緊張を高めていく。


「鎧とは、魔族が最近編み出した技法でね。そのままの意味で、魔力を纏う。これがものすごく硬い」


「それを、これなら...」


「そう、貫ける。それらは現状最高性能だ。恐らく一番級のすら通すはずだ」


 そして、と一旦間を置いて、ヴァンは話を続ける。


「あれは任意に張っているものだから、不意打ちで破られると必ず解ける。まあ、ここは運も絡んでくるが、少なくとも初期型でも通るくらいには薄くなるはずだ。そこを、少佐たちで叩く。後は逃げるだけだ」


 それだけを聞くと至極簡単な作業のようだった。


「問題は、どの魔術が使えるかだけど...。『閃光』が使えるなら申し分ないだろう」


 ヴァンは恐らくあえて朗らかにそう告げた。

 勇真の覚悟が試される場は、すぐそこまで迫っていた。



 しばらく馬車を走らせたところで、目を疑う光景に遭遇した。

 使用したのは山道からの避難道。樹も多く、馬車で走ると振動が体をひどく苛んだことは記憶に新しい。

 しかし、目の前に広がるのは一面の平原だった。

 いや、凪ぎ倒された木々で作られる、疑似的なもの。

 それが円形に広く拡がっている。

 そしてその中心。土が見えるそこにはアシュレイと魔族の姿があった。

 他の護送隊の姿が、あちこちに横たわっているのが見える。

 かろうじて身動きしているのが見えることが幸いと言える。


「っ!馬鹿が、何故戻ってきた!」


 いち早く気付いたアシュレイの怒声が響く。

 嬲られたのか、その身はもはや満身創痍と言ってもいいほどの傷を負っていた。

 それでも気力でなのか倒れることをよしとしないその姿は気高くもあった。


「おうおーう。なんだ、ちゃんと渡してくれんじゃねえか。やっぱ無駄な血は流さないに限るな」


 アシュレイの対面でラスティが笑いとともに言う。

 しかし、今の勇真には届くことはなかった。

 極限の集中と緊張により頭がおかしくなってしまいそうだった。

 ヴァンが馬車を止めるのを肌で感じる。

 扉を開けて、起句を唱える。簡単なことだ。失敗するはずが――――。


「...藤」


 白くなるまで握りしめていた手に藤の手が重ねられる。

 緊張や不安が溶けるように消えていくのを感じた。

 小さくありがとうと呟くと、藤はそっと手を放した。

 意を決して、扉に手を当てる。

 アシュレイもこんな気持ちだったのだろうか。

 外からはアシュレイの声がいまだ響いている。

 ゆっくりと勇真は力を込めていき―――。


「――――閃光(de leara)!」


 扉が開き、目標を目で捉えた瞬間、勇真は起句を唱える。

 勇真の前を浮遊していた黒球が小さく震えた後、宙に模様を描いていく。

 間隙は一瞬。

 模様が光を放ち、魔術が現象となって魔族に襲い掛かった。


「―――あ?」


 まさに閃光が走ったかのようだった。

 模様から放たれた熱線が吸い込まれるようにラスティの腹部を貫いた。

 ラスティの口から惚けたような声が漏れる。


「少佐!」


「―――っ!総員、攻撃!」


 恐らく反撃の機会を狙っていたのだろう、足元に横たわっていた何人かがすかさず起き上がり、アシュレイの号令の元、攻撃の起句を唱えた。

 光弾が束となってラスティに襲い掛かる。

 その身に余さず衝撃を受けたラスティは受け身を取ることもなく、遠く離れた積み重なった樹に衝突した。

 

 ―――こうして勇真の初戦は成功と言える形で終わりを告げたのだった。


 



ちなみに、アシュレイさんたちは前半部分のあとも戦ってます。結果は力及ばずって感じですが。

くれぐれも瞬殺されたわけではありません。

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