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IP:異世界戦争  作者: 葦原 聖
一章
3/23

第三話 力との対面 前編

クリスマスということで更新してみました!

ぎりぎりなのは目をつむっていただけると...。



 その集団は奇妙な客たちだった。

 店に足を踏み入れた時から、店の店主はそう感じていた。

 フードを被っていることは、別段珍しいことではない。

 この国、ガンロワーネは近くに砂漠を有しているだけあり、少し風が強い日なんかはフードが欠かせない。

 それでも長年この場所で宿屋を経営してきた店主からしてみると、普段の客とは違うなにがしかを感じていた。


「へい、らっしゃい!…っと、お兄さん達見ねぇ顔だな!旅のお人かい?」


「…はい。ここらへんは不慣れで。5人ですけど、いくらに?」


「安いの、ちょっと安いの、高いのあるけどどれにするかい?」


「えっと…」


 少し逡巡(しゅんじゅん)した後、少年はちらと後ろを振り向いた。

 後ろで事の成り行きを見守っていた背の高い人物が微かに頷きを返す。


「じゃあ高いので」


「まいどあり!1人10000ペールだよ!」


「部屋割りはどうする?うちは最大3人部屋だよ!」


「…2人部屋と3人部屋でお願いします」


「はいよ、これがカギね!一番上の階の奥の2部屋だよ!」


「ありがとう、ございます」


 少年はぎこちなく礼を言うと、フードを被った仲間の元へと戻っていく。

 少年が合流したその集団は、そのまま階段の方へと足早に向かっていく。

 階段を上る直前で、最後尾にいた二人だけが小さく会釈したのがひどく印象的だった。



♦♦♦♦♦



「ユウマ、君は天才だ!」


 昼食を終えた頃、入ってくるなり大声でそう言った人物を、勇真は少し...いやかなり迷惑そうに睨んだ。

 ボサボサとした癖っ毛の目立つ薄緑の長髪に、丸眼鏡の奥で意外と大き目な瞳が勇真を凝視している。まるでその瞳が輝いているかのようにも勇真には見えた。


「一体何度目ですか...。そういう話は研究室で聞くっていつも言ってるじゃないですか」


「むぅ、だったら私のこの熱情と感動は一体どこにぶちまければいいというのだ!」


「研究にでもぶつけといてくださいよ...」


 頬を膨らませ、憤るその人物―――アシュレイに勇真はぞんざいに返事を返す。

 この対応が数日アシュレイと過ごしてみて学んだ中で一番のものだった。


 カルロッサの話を聞き、泥のように眠ったのは今から五日前の事だった。

 あの後目覚めてみると、勇真と藤は別々の個室――と言っても、共用の居間のようなもので繋がっているが――で再び目覚めた。

 夢だった!と藤も勇真もパニックになるなどしたが、すぐにメイドや執事に取り押さえられ、安静を命じられた。

 渋々と寝室に戻りふて寝してみると、次に起きた時にはケガが完治しており、勇真と藤は飛び上がるほど驚いた。


「なら、行くぞ!どうせ勇真は今日も私のところに来るんだろ?」


「...まあ行きますけど」


 魔術。それが完治後の検診でヴァンに説明された単語の中で理解できた唯一のものだった。

 気になったものは本で調べる。そういう信条を持っていた勇真は、藤に一言告げてから図書室へと向かった。

 カルロッサの言の通り、図書館には自由に入ることはできた。

 

「まったく、なんで魔術式は読めるのに文字は読めないんだか。いちいち私が読み上げるのは無駄でしかないぞ!」


「そんな事を言われても...」


 そしてこの事実を知ったのだった。会話が成り立っている、それだけで勇真も藤も日本語であると思い込んでいたのだ。違う世界で同じ言語が用いられているなんてことはあり得ないにも関わらず。

 そうして惚けていたところ、声をかけてきたのがこのアシュレイだった。


「あっ、そうだ。藤も、一緒に行く?」


「...わたしは、いいよ。庭で少し歩いてくるね」


「そっ、か...」


 藤はずっとこの調子だった。

 一応表面上は落ち着いたようには見えても、付き合いの長い勇真から見ると無理をしているのは一目瞭然だった。




 自分の研究室で、アシュレイは勇真に読み上げていた術式紙から目を離し、勇真に向かって言葉を飛ばした。


「しかし、もうここまで読めるようになるとはな...。魔導姫に匹敵するかもな」


「はい...」


 それに対応する勇真の言葉には覇気がまったく籠っていなかったが、アシュレイは気にせず続ける。


「ほぼ独力で召喚魔法陣の術式を完成させた方だ、その才能は1万年に1人と言われていた。本人は勇者召喚(あんなこと)に使われるなんて思ってもみなかったらしいがな」


「はい...」


 再び応える勇真の返し、やはり覇気どころかやる気すら感じられないそれにやはりアシュレイは反応はしない。


「最期は勇者とともにご逝去されたと言われていてな。立派なお方だよ」


「はい...」


 三度繰り返されるそれに、とうとうアシュレイのこめかみに青筋が浮き出る。


「...お前、私の話聞く気ないだろ」


「はい...」


 雷が落ちた。

 それも特大級の。 

 そう錯覚するほどの叱責を浴びた勇真は涙目になりながらアシュレイに正座で向き直る。


「どうした、今日はいやに気が散っているじゃないか」


「藤が、心配で」


「フジ、というと同室のあの子か?確かに、少し危なげな雰囲気をしていたな」


「今日はここまでで帰らせてもらいます...」


「ん。そうか、そうだな。行ってやれ」


 その言葉を背中に受けながら、勇真は研究室を後にした。

 時刻はまだ夕方にもなっていないというところ。おそらく藤はまだ庭園の方にいるはずだった。

 まばらにいる人を横目に見ながら、庭園へと向かう。この城はだいたいの道が庭園へと続いている構造を取っているため、迷うことはない。

 いよいよ庭園に近付いたころ、仄かに花の香りが漂ってきた。

 赤や紫、白色といった様々な花や樹が一面に広がっている。中には地球で見たこともあった植物なんかも見受けられた。

 そんな(いろどり)の中、しゃがみこんで花壇を見つめる藤の背中が見えた。


「よっ、藤」


「!勇くん...」


 勇真はそのまましゃがみこんでいる藤の隣に座り込む。

 藤はしばらく何も言わずに花壇の花を見つめていたが、やがてぽつりとこぼすように言葉を漏らす。


「わたしたち、なんでこんなところにいるんだろうね」


「藤...」


「大和も、茜ちゃんもいなくって。それで、ママもいない。...もう帰りたい」


 そう言って抱え込んだ膝に頭を埋める藤にかける言葉を勇真は持っていない。

 自分でも不思議なくらいこの環境に適応しているのだ。勇真が慰めに何を言ったところで、藤には逆効果だろう。

 それでも、勇真にできることは、こうして横に寄り添うだけだった。

 ―――せめて茜さえいてくれれば。

 勇真は目覚めてから何度こう思っただろう。おそらく、藤も勇真と同じ気持ちで大和の名前を呼んでいる。

 それが分かっている勇真は


「ユウマ様、フジ様、少々よろしいでしょうか」


 唐突に勇真と藤に対して背後から声がかかった。

 何事か、と二人が振り向くとカルロッサに付いていたメイド、ウェディが立っていた。

 

「ウェディさん、どうしました?」


「先日延期させて頂いたお話の続きを、と。ただし、カルロッサ様はお時間が取れず、代理の人を立ててあります」


 ついに来た。勇真はそう思った。

 中途半端で終わらせられた話、そして大和と茜の安否。それらは勇真も藤もずっと聞きたかった話だった。

 勇真も藤も神妙な顔をして深くうなずき、先導するウェディの後を追った。


 

 



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