第二話 望まぬ真実
一話(しかも短い)しか書けなかった...orz
来週は三話くらいはいきたいです...。
感想等をお待ちしてます...。
―――ワタクシはカルロッサ・ダ・ガンロワーネ。この国の王女の立場にある者ですわ。
そう告げた目の前の女性を、勇真は呆けたように見る他なかった。
緩く巻いた黄色の長髪に勝ち気そうにつり上がった同色の瞳。やや低めの身長を厚底の履き物で補っているその女性ーーカルロッサは自らを王女と称した。
それは、ここは日本ではないと明言されてしまったようなものだった。
ここはお前の知る日常から大きく外れた場所である、と。
呆気に取られたまま固まっている藤を尻目に勇真は考えを巡らせる。
だとするならば、ここが日本でないならば、一体―――。
そうして思考の渦に入り込み、信じたくない結論に達しようとしていた時、上品さに塗り固められた声によって現実に引き摺り下ろされた。
「んふふ、どうやらガンロワーネを、この国の名前をお知りではないご様子」
そうだ。勇真も藤もその名前は知らない。知り得るはずがない。
そも、勇真も藤も、地理に関しては高校二年生の平均レベルしか物を知らない。
そして、その知識の中に、ガンロワーネなる国名は存在しなかった。
その事実が勇真の辿り着いた結論に説得力を持たせていくかのようだった。
「考えられるとするならば、この国から遠く離れた地域の出身、あるいはあの勢力の出身、―――そして、こことは別の世界の出身」
そして、決定的となるその一言が無情にも告げられる。
愕然とした面持ちで硬直する勇真を、カルロッサは感情を窺わせない微笑を浮かべながら見定める。
時の止まったような静寂を破ったのは、勇真と同じ髪と瞳を持つ少女の言葉だった。
「え、別…の世界……?え?」
「藤?」
藤の声に宿る窮迫した様子を感じた勇真は痛みに顔をしかめながら慌てて振り返る。
「え。じゃあ大和は?ママは…っ?!」
「無礼は―――」
「構いません。…ヤマトという方はそちらの男性、ではないようですわね?」
切羽詰まった様子でカルロッサに問い詰めようとする藤。その様子を見かねたのか、メイドが諫めようとするものの、それはカルロッサ自身により止められる。
「初めの説明はそこからにした方がよろしかったようですわね。ワタクシ達の調査隊が発見した時にはあなた方だけだったようですわ。…もしや、他にもお仲間が?」
「大和!大和を探してくださいっ!背が高くて、短くて黒い髪してるんです!わたしたちよ近くにいたはずなんです!」
「検討はします。…ですが、もしこちらに来ていたとしたら生存は絶望的と言わざるを得ません。発見時のあなた方は瀕死と言っても過言ではない状態でしたから」
「そん、な…」
「藤ッ!」
怪我による身体的なダメージに加え、精神的なダメージが許容量を超えたのだろう。藤は糸が切れたように寝具に倒れ込んだ。
それを見て、勇真は直ぐ様藤の元に駆け寄ろうとするものの、怪我のせいで思うように動かず、寝具から無様に転げ落ちただけだった。
「ウェディ、ジハーダを」
「はっ」
カルロッサの命令にメイド――ウェディは短く了承の声を上げ、藤を優しく寝具の上に寝かせ直す。
その後、勇真にも助けの手を差し伸べようとするも勇真は目で礼を伝えるだけに留めた。
寝具に凭れつつ自力で起き上がり、静かに部屋を退出するウェディを横目に見ながら、勇真は疑問をカルロッサに突き付ける。
「…まるで俺……僕達が違う世界から来たって確信しているみたいな言い方でしたね?」
勇真自身、何故自分がこれほどまでに冷静に問答を続けられるのかが不思議でたまらなかった。
いままで見たことないほど取り乱す藤を見たからかもしれないし、それとは別の要因かもしれない。だが、確実に言えることが一つだけあった。
それは、今のこの状況に少なからず興奮を覚えている、ということだった。
そしてその興奮の熱に吸われるかのように思考だけは冷たくなっていく。
「もちろん確信しておりましたよ。ワタクシは一度あなた方とは別の召喚された異界人と見えたことがありましたから」
「なっ?!」
その言葉による衝撃は一拍遅れて勇真の脳へと届いた。
「その人は、今どこに…?」
「……残念ながら先の大戦にて亡くなられました」
目の前が暗くなっていくかのようだった。
大戦、勇真とは別の地球人は戦いに駆り出されそこで死んでいったとでも言うのだろうか。
そうだとしたら、同じように今ここにいる勇真と藤は―――。
「あの方は、最後までワタクシたちを救うために戦った、と聞いていますわ」
「…たち、も」
「え?」
「僕、達もそう在れ、と…?」
「――いいえ」
次に驚くのは勇真の番だった。
あまりにもはっきりとした否定に冷え切った思考の裏で組み立てていた仮設が崩れ落ちていく。
ならば、何故。何故勇真と藤をこの世界に召喚したのか――。
「勘違いは正さねばなりませんね。ワタクシ達は領域内で傷付き倒れていたあなた方を保護しただけに過ぎません」
「なッ!?じゃっ、じゃあ、俺たちはどう、してこんなところに......」
「こんなところ、まあそう思うのも無理もありませんわね」
少しだけムッとしたようにカルロッサはそう零した。
当然だ。自分の生まれ育った国、世界を悪く言われて何も思わない方がおかしいだろう。
だが、今の勇真には自分の発言を訂正する余裕すらなかった。
「...可能性の話ですが、一つは単なる偶然。それがいくつも重なりあなた方はここに落ちた。もう一つはワタクシ達ではない別の勢力―――魔族によって召喚された」
「魔...族...?」
「はい。...もう少し話したいところですが、そちらの方が心配です。貴方もお疲れでしょうし、続きは後日ということに」
「そんなっ、ちょっと待ってくださいっ...!まだ...!」
勇真の静止に構うことなく、カルロッサは懐から取り出した銀細工の鈴を鳴らす。
するとすかさず音も無く扉が開かれ、ウェディが顔を覗かせた。
「城の中はある程度は自由に動けるよう取り計らいます。ジハーダ、頼みましたよ」
それだけを言い残し、カルロッサは来た時と同様に優雅さだけを感じさせ、退室していった。
そしてウェディも一礼した後、追うように部屋を後にした。
「うんうん、どうやら精神に過大な負荷が掛かってしまった故のものだねぇ」
間延びした声が静寂な室内にいやに大きく響いた。
いつの間にかヴァンが藤の近くに行き、検診していたようだった。
「ヴァン...さん」
「あぁ、ダメダメ。聞きたいことがあるんだろうけど僕は何も知らされていないからねぇ」
ヴァンは足音を鳴らしながら勇真に近付き、寝具へ横たわるように指示する。
「今の君たちが必要なものは長時間の休養だ。魔術がいくら万能なものであろうと過信しすぎてはいけないからねぇ」
ヴァンの言葉に従い疲弊した体を横たえると、よほど体が休息を欲していたのか、すぐに頭が霞がかり睡魔が押し寄せる。
深く呼吸をすると、勇真は自分の内が甘い香りで満たされていくのを感じた。
「うんうん、古典的だけどこういうのはやっぱり効くものだねぇ」
そう言い残し、ヴァンは足早に病室を去ってく。
後に残ったのは、二人の異世界人と、小さな机の上で甘い匂いを醸し出す小さな花だけだった。