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第16話 記憶

 2人が息を呑んだ気配がした。

 私、この2日間で涙流してばっかり…思い返すと少し笑えてくるかも。


 その分2人にも迷惑掛けちゃってるね……



「……アリシア?大丈夫ですか?もしかして口に合いませんでしたか…?」


『んっ…ごめん、ね。大丈夫…とっても、美味しかった』



《……なぁ、オレ達が来る前、何かあったのか?》



 グレンの言葉にリューイがハッとした顔になる。



 でも、違うんだ。2人が私に会う前に何かがあった訳じゃない。

 逆に、何もなかったと言うべきかもしれない。


 この世界ではない、何処か別の……




 それは、唐突だった━━




 ブワッと大量の"何か"が頭の中へと流れ込んでは記憶の何処かに消えて行く。


 流れの止まないそれは、とても膨大な量で……





 ━━━ブツン、と壊れたTVの画面が消える様な、そんな音を残して私の意識は沈んでいった。











 アリシアは、涙を流しているのに……


 僕には何も出来なくて……


 とてももどかしい……



 そんな事ばかり、考えます。



 僕にはアリシアが味わって来た孤独の苦しみは分かりません。


 だから尚更、アリシアが涙を流している事が辛いのです。


 僕達がもっと早く側に行ってあげていれば……


 でもそれは、もう過ぎ去ってしまった事で……



 だから少しでも元気が出る様に、グレンに美味しい果物を採ってきて欲しいと頼んだのです。


 心優しいグレンは、嬉々として引き受けてくれました。






 目が覚めたアリシアは大きな欠伸を1つ。

 僕が近くに居た事に気付いていなかった様です。


 ふふっ、アリシアは顔を紅く染めて俯いていて、とても可愛らしいですね。


 そして丁度グレンが帰って来たみたいです。


 赤や黄、桃色等、沢山の種類の果物が入っていて、グレンはそれをアリシアに差し出しました。

 ふふっアリシアはまだ目覚めたばかりですよ、グレン。


 余程早くアリシアの笑顔が見たいのですね。

 勿論、僕も見たいです。



 僕が果物の事を説明すると、どうやら"食べる"という行為も抜け落ちているようでした。


 僕達はグレンと違って魔力で身体が創られているので食事は必要ではありませんが、折角ですから皆で味というものも味わってみたいのです。

 きっとアリシアも気に入ってくれる筈ですよ。


 僕とグレンは赤い小さな果物━━リーチェ━━を口へ運び、"食べる"という行為のお手本を見せました。


 リーチェは甘酸っぱい味で、ふわっとした甘味が口の中に広がり、少し酸味が残ってとても美味しいです。

 甘いものが苦手な方でもきっと気に入る事でしょう。


 アリシアは僕達の感想を聞いて、恐る恐る手を伸ばしました━━━が、その手はスッとリーチェだけでなく、籠にすら触れる事なく空をきってしまいます。


 どうやら、この世の万物に触れる方法もご存知ない様子。



 アリシアは、何らかの原因で我等の父である創造神から授かった筈の知識が欠落してしまっている様なのです。


 これからも僕達がしっかりサポートしなければ、ですね!

 気合が入ります!



 こほん、少し話が離れましたが、僕はアリシアに笑顔になって貰う為にグレンに果物を用意して貰ったんです。

 だから━━


 自分の手を覆う様に魔力を纏わせ、顔を俯かせているアリシアの"手を取った"

 そして驚き過ぎて固まっているアリシアの手に、同じく魔力を纏わせたリーチェを"置いた"


 僕やアリシアは肉体を持っていない。

 だからこの世の万物に触れる事が出来ないのです。

 アリシアの顔を伺ったところ、アリシア自身もそれを理解していたようでした。


 だからアリシアは触れる事が出来なかった。


 でも、肉体がないのならば"肉体の様なものを創り"だせばいいのです。


 この世界には、素敵な"魔法"が存在するのですから。

 ふふっ、面白いでしょう?



 僕はこの時、能天気にもそんな事を考えていたのです。

 この後、まさかあんな事になろうとは……

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