第10話 2人の存在
神の祝福を受けた聖なる泉を覗き込む。
澄んだ水は透き通り、水底を鮮明に見る事が出来た。
そして水面に映るは自らの姿。
銀色の長い髪は光を浴びて風に靡く度にきらきらと美しく舞う。
整った顔立ちで、その瞳はまるでサファイアの様。
有り得ない程白い肌からはあまり生気を感じさせない。
そして背には2対の半透明な羽が存在する。
真白なワンピースを纏うその姿は神秘的で生き物とは思えない程美しく、近寄り難い雰囲気を醸し出していた。
自分の姿を見るなんて、一体何百年振りだろうか。
ちらっと隣を見ると、こちらにも自らの姿を確認せんと恐る恐る顔を覗き込む2人の姿が。
"妖精王"であるリューイは真白なワンピースを身に纏ったクリーム色の髪を持つ優しそうな少年の姿。
その瞳はアクアマリンの様で美しく、聡明さが伺える。
背には私の羽と似た1対の半透明な羽があり、耳は少し尖っている。
"竜王"グレンは私達とは全く異なった姿をしていた。
"竜王"の名に相応しい竜の姿。 がっちりとした筋肉質な身体は堅い鱗に覆われ、その紅い鱗は光を反射して様々な色に見える。
瞳はガーネットの如き美しさだが爬虫類特有の縦長の瞳孔が覗き、じっと見つめていると吸い込まれる様な感覚を覚える。
長い首、鋭い牙と爪、それから頭部に生える2つの角は竜の威厳を感じさせる。
そして竜の象徴ともいえる1対の蝙蝠に似た羽は広げればかなりの大きさだ。
だが、幼い為かまだ小さいその姿は威厳があるというより愛らしい。
そんなグレンは今、悪戯を思い付いた子供の様な顔をしている気がする。
何だろうかと少し離れて様子を見てみる事にした。
すると突然、グレンが前脚で水面を強く叩いた。
叩かれた水は当然隣で泉を覗き込んでいたリューイに掛かるわけで……
リューイは何があったのか分からずずぶ濡れになってしまった。
それからすぐ、隣でにやにやしてるグレンを見つけて水掛け合戦に。
抑え切れなくなってクスクスと笑みが溢れる。
この2人がいれば生きることが全く飽きないし、全く寂しくない。
2人が生まれたのはまだ今日なのだが、もう2人に感謝したい事が沢山出来てしまっていた。
そんなふうに考えていると、バシャッという音と共に冷たい水が掛かってきた。
『きゃっ…うぅ〜』
どうやら2人が一緒に掛けてきたみたい。
ワンピースがびしょびしょ。
勿論私も反撃っ!
それから日が暮れるまで飽きもせず水を掛け合ったのであった。