覚醒Ⅵ~全力疾走~
そんなことを思っていると、遂に十分になった。よっこらしょと立ち上がろうとすると{ガタン}{バタン}{ズー}{カッカッカ}というのがそこらじゅうからうるさく聞こえてくる。俺が足音がする反射的に右に振り返ると、まるで競っているかのように我先にと他人を押しのけたり、足を引っ掛けたりして他人を妨害しながらすさまじいスピードで駆けていくクラスメイトの姿があった。
もちろん、前の奴も例外ではなく体を鍛えているのかすさまじいスピードで出て行く。俺は唖然としていたので、対応できずに取り残されてしまった。何かはわからないが、とにかく走った良いことはわかる。なぜなら、男子の一部生徒はともかく、女子生徒までもが走っていたからだ。
最初は女子も男子も欲しがるものか欲しい権利が一位だともらえるのかと思ったのだが、これだとさっき見た足が遅い奴が足が遅い奴を妨害する理由がわからない。だとすると、最下位に近づくにつれて何かもらえるものが減るだとか、最下位に近づくにつれて、罰が増えるとかそんな感じの類だろう。
そうするとヤバイなと思いながら席を立ち、俺は全力疾走を始めた。すると、予想通り体育科の先生なのか坂上先生は現役男子高校生の俺のスピードについてきながら言った。
「間違いなく、お前が最下位決定だな」
そういい終えると坂上先生はスーツから竹刀を取り出しながら言い放つ
「かーーーつ!!!お前はグランド二十週だ!!」
竹刀でたたかれながら俺は思った。教師の質の低下どころの騒ぎじゃないよ。なんで平然と法を犯している先生がいるんだ?日本はヤバイのか?崩壊しちゃうのか?そんなことを誰かに心の中で聞きながら俺は竹刀から逃れるために精一杯走る。さすがに、グランド二十週と竹刀を叩かれ続けるのはキツイので魔力探知で、まだ抜かせる位置に人がいることを確認しつつ俺は補助魔法の呪文を手で描く
[ああ、女神よ。美しき女神よ。そなたの力の一部を貸しておくれ。我は神の子の人なり。神の子なり。女神よそなたが慈悲深い女神だと信じ我は望む。我に山河を打ち砕く力を。馬のような速さを]
そうして魔力をこめると、成功したので内心ほっとした。なぜなら、今の呪文は日本語で書いたからだ。もしかすると、成功しない可能性があった。だからといって、まだ慣れてない異世界の字は書けないのでこうするほかなかったのだ。
もちろん、体育科の先生とはいえ先生がボルト並みの速度で走れるわけではないので先生と俺との距離が離れて行く。なぜか、振り返ると先生は悲しそうな表情をしていた。ドSかよ。そして、下駄箱前で太っているめがね男子を抜かし、無事俺はグランド二十週を走ることから逃れた。
その代わり、グランド十週を走ることになったが。