平和な戦場Ⅴ~帰宅途中での修羅場Ⅳ~
そんなことを考えるとその考えの前提を覆すようなことを湯川さんが言った。
「じゃあ、行こう」
「どこに?」
幼馴染が困惑した顔でそう尋ねるのも当たり前だろう。この話の流れで行けば湯川さんの家であることが七割、隣の湯川さんの母親の家に行くことが二割、湯川さんが常人と逸脱していることを考えて一割はその他という内訳だ。ただ、常識から考えて相手の親にも断りをいれず、下校途中で拘束時間が長くなるであろう家に誘うというのは有り得ない。
だから、幼馴染は他の場所に行く可能性が高いと考えて何処に行くのか聞いたのだろう。まあ、湯川さんは自分の家に招く気なのだろうが。やはり常識知らずなのか俺の予想通り湯川さんは答える。
「わたしの家だけど?」
「ということは湯川さんの家に結構な時間いることになるだろ?」
「うん、そのつもりだけど?」
やはり、研究者一族の家庭だからか俺の言わんとするところがわからないらしい。そんな湯川さんに説明した。
「大体の下校する時間は親が知っているんだから、その時間になっても帰ってこなかったら親が心配するんだ。だから、一旦帰って湯川さんの家に行くってことで良いか?」
「わかった」
「ていうことで帰るぞ」
「うん」
こうして、ひとまず俺たちは湯川さんと別れて来た道をたどって行く。そして、もうすぐで高校の前か、というところでなぜか今まで恥ずかしそうにして俯き、黙っていた幼馴染が喋りだした。
「あの湯川家の中はどうなってるんだろうね」
「ただ、湯川さんがパワードスーツとか言ってたしすごいんだろうなあの家の中は」
「そうだね」
そして会話は終わりまた沈黙のままもくもくと家へ向かって歩き続けた。俺はそのことに疑問を感じていた。当たり前だ、いつもだったらあの流れで絶対にパワードスーツについてとか、湯川家の功績となにがすごいのかを永遠と喋っていただろうなのに今はなぜか俯き、黙っているのだ。
さっきは恥ずかしそうだったけどなぜ恥ずかしいんだ?同じく恥ずかしそうにしていた場面といえば「二人で行くよりも緊張しないと思うから」といった場面だ。あれは湯川さんにバレて、いや、俺にもバレていたな。ということは俺にバレてるのも恥ずかしいのかもしれない。というかそっちの方がはるかに恥ずかしいだろう。
そんな幼馴染にかければいいのはこれだろう。
「なんで、さっきからお前は黙ってるんだ?」
「え、な、なんでもないよ」
「そうか」
「パワードスーツというのはもう実用化されてるんだよ」
「へえ」
「HAL・・・・・・」
こうしてパワードスーツについての話を帰宅するまで聞きながら帰った。