事件の前奏曲《イントロダクション》Ⅲ~魔導師と魔法師の密会~
小走りで教室に入るとホームルーム開始十分前にも関わらず、一番遅れてきそうなチャラ男こと相模は意外なことにもう座っていた。俺が座ると、イスを後ろに傾けながら体を右に傾けながらこっちに顔を向けると、ニヤニヤしながら話しかけてきた。
「おい、そんなに顔を真っ赤にしてどうしたんだ?」
「な、何でもねえよ」
「どう見ても何かあったようにしか見えねえけどなー」
そこまで、相模はニヤニヤしていたのから一転して、いつもでは見せることはないであろう真剣な表情になる。そして、相模は小声で耳打ちをしてきた。
「昼休憩、この北校舎の左側の屋上に来い」
「ああ」
俺はそう答えると、すぐに何の用件かを察した。その用件とは、俺が魔法師な件についてだ。なぜバレてしまったか、といえば単純明快だ。魔法を使ったことがバレてしまったからである。
光玉を出す、とか極小サイズの炎出す、などをしても目に見えるぐらい魔力量を消費できる訳ではない。だが、俺が使用したのは、補助魔法の中では普通に使った場合一番魔力を消費する身体強化魔法だ。
つまり、人の魔力量を感知さえ出来れば、俺が魔法を使ったことは文字通り一目瞭然である。そして俺達《レインと俺》の読み通りアイツは、魔力を感知可能な魔法師だった、ということだ。ということは、アイツが所属している魔法師協会への誘いだろうか?
にしては様子がおかしかった気がする。もしも勧誘したいのならあんな真剣な顔をせずに気楽に楽しそうに誘えばそっちの方が入ってもらえる可能性は高いだろう。ただ、本当に魔法師協会への誘いがあるかはわからないし、メリットやデメリットを真剣に話すつもりなのかもしれないが。何かおかしい気がする。
そんな一抹の不安を抱えながら俺はホームルームに入った。最初自己紹介をやり、その後各種連絡をした後、ホームルームは終わった。各種連絡にビリから二番目までの名前が呼ばれ、昼休憩に走ることを言われたりしたが。
五分休みに入ると、みんながそれぞれ知人がいるのかグループを形成して話している。その中に幼馴染の姿があった。近くに居た女の子に声を掛けて成功したらしい。その相手の女の子は、相模が言っていた生物学が得意な茶髪のメガネっ子だった。
確かに科学コンクールに毎回応募しているような奴は理数系だけとはいえ、勉強の話がさぞ楽しいことだろう。あ、相模がアイツらの輪の中に入っていた。だが、簡単にあしらわれてしまった。戻ってくるなり俺の言う。
「簡単にあしらわれてしまったよ」
「そうかよ。チャラ男のくせに苦手なんだなそういうの」
「ああ、俺は純真だからね」
そう笑いながら返してきた相模を見て、どこが純真なんだよ、と思っていると一時間目が始まった。初めは坂上 恵美先生が行う数学の授業だ。体育の先生ではなかったらしい。まったく似合わないなと思いながら真面目にうける。
数学は一番点数が取れる教科なのだ。というか、本当のことを言うと百点をキープしたい。数学百点はちょっとしたプライドなのだ。二時間目は体育、三時間目は英語。四時間目は物理基礎と続いた。
理科は基本的に後で教科書を見れば解るので、解らないように眠っていることもあったが今回はなぜか眠れなかった。なんでだろうか?ついに物理の授業は終わり、時は来た。昼休憩だ。俺は緊張しながら指定された北校舎の左側の屋上に向かう。そこに行くともう既に真剣な顔つきの相模が居た。
俺が相模に聞こうかと口を開こうとすると相模から喋り出した。
「お前は魔術師だな、どこの魔術師だ。少なくとも日本を知らない魔術師のようだが」
真面目な顔つきを変えずに言う相模に対して俺はもちろん「異世界の魔導師」などと答えられないので外見から考えて言った。
「西洋の魔女の生き残りの子孫だ」
「ほう、さすが西洋の魔女。よく考えて行動しないのか」
「何が悪いんだ?」
「お前、少なくとも後一日で、忍者に殺されるぞ」
「な、何でだ?」
これには俺も驚いた。忍者が実在したこととこの学校に居たことだ。そんな驚く俺に相模は俺の想像を超える驚きの事実をいう。
「当然だろう。東京にも魔術を感知する結界が貼られているんだから」
「そんな結界が!?」
「あるんだよ。お前らは知らなそうだが。その様子だと紫藤家に連なるものでもなさそうだな。まあ、最後にどうが付くとしかわかっていないが」
「なんの意味があるんだ?その紫藤家に連なるという意味は?」
「魔術を使ってもいいんだよ。そいつらと国家に仕える忍者一族だけな」
「じゃあ、なんでお前は魔力感知できるんだ?魔力が扱えない状況だと取得できないだろ」
そうこれが今、命を狙われている人がいると知って相手の怒りの表情がわからないくらい緊張している俺が唯一気になったことだ。だが、回答はあっさりしたものだった。
「宮城、新潟、東京、愛知、大阪、兵庫、福岡のとあと、各所の原子力発電所以外は感知されないから魔術の使い放題だぜ」
「まあ、せいぜい頑張れよ。あと、忍者殺すなよ。力づくでねじ伏せた後に説得すれば多分大丈夫だから。でも、逆に殺したらおしまいだが」
「ていうことで俺は学食を食べにでも行くわ」
「お、おう」
そういうとアイツは、後ろを向かずに右手だけを「じゃあ」といった感じであげると左手と同じようにポケットに手を入れ歩いて去っていった。これまでの話を考えると俺の命を脅かす存在である忍者は相模からすると俺よりも弱いらしい。