事件の前奏曲《イントロダクション》Ⅱ~幼馴染の思い人~
家から出ると、ちょっと出るのが早かったのでいないのかと思ったのだが、意外なことに幼馴染は待っていた。一体いつからいるのだろうか?まあ、早いといっても今着たばかりなら五分ぐらいなので不自然でもないのだが。もしかしたら、唯一の会話できる時間を楽しむために十分前くらいからスタンバイしていたりして。
自意識過剰だ。とか言われそうだが意外とアイツは寂しがりやなのだ。そう考えると、なぜ勉強の話以外を話そうと常に努力しないのかが謎だ。そんなことを考えていると
「よし、行くか」
「じゃあ、行こうか」
という、いつも中学生になってぐらいからやっている応答を条件反射で答えて俺たちは歩き始めた。今日の話は
「剛体に力が掛かっている箇所をなんというか?」
「作用点」
理科の物理Ⅰの運動とエネルギーらしい。まあ、こういう理科ならば解るのだが国語などの特に古文などは全く勉強していないのでアイツの理数系にしようという心遣いには助かる。そんなこんなで悲しいことにいつもになってしまっている会話をしながらもう後一分で高校に着くというところで、俺は思いついた。それを俺は幼馴染に話した。
「ここって施設が良いからそれにつられて、来た奴とかは勉強の話しても大歓迎なはずだから友達できるんじゃないか?」
「そ、そうかもしれない。がんばらないと」
名案を思いついてよかった。と思ったあと、俺は幼馴染と共に学校の下駄箱まできた。すると、もしかしたら前の俺なら拾うことは出来なかったかもしれないぐらいの音量で幼馴染が可愛くつぶやいた。
「仁のバカぁ」
ちょっと、待てよ。とりあえず言っておくと俺は鈍感でもないしある程度自分のことも信用しているのでこの発言を無かったことにしたり、聞き間違いだとか何も感じないわけではない。つまり、俺は正確に理解したはずだ。間違っていたらナルシストなのだが、たぶんあっているだろう。
アイツは、俺が好きなのだ。
信じられないことだが、間違いではないはずだ。まず、幼馴染と今日したことといえば、一緒に登校した、勉強の話をした、友達が作れるという話をした、の主に分けると三つである。一緒に登校したのは別にバカ呼ばわりされることでもないし、言っている感じからして違う。勉強のクイズでは今回は間違えていない。となると、最後だ。
自分で心の中とはいえ言うのはあまりしたくないのだが、恐らく友達を作ることで、俺と話す時間が減るということと、俺がそれに対してなにも思っていない。その二つから出たのがあの発言だろう。
それにしても、一般男子高校生よりもちょっとアイツのお陰で女子耐性がついているといっても、あれは可愛い。これが俗に言うギャップ萌えという奴なのだろう。この感じから考えると、もしも幼馴染の部屋で熊のヌイグルミを見つけたりしたらコロっと落ちてしまうかもしれない。
それぐらいやばいのだ。今は荒事が起こりそうなので、色恋沙汰をしている場合ではないのだから、止めて欲しい。やばい。相手が好きだと思っていると思うと意識してしまう。ということで、「待って!」と言いながら一瞬悲しそうな表情を見せた幼馴染を見ながら俺は逃げるようにして小走りで教室に入った。