事件の前奏曲《イントロダクション》Ⅰ~始まりの朝~
今日の朝は何も変わらない朝だ。まあ、普通はそうだろう。だが、俺は昨日から魔導師として目覚めたのだから、何かあるかもしれないと考えるのは当然である。しかも、あの少女はこう言っていたのだ。
「すみません。もう、時は来てしまいました。あなたに頼るしか道がないのが心苦しいですが、時が来てしまったのです」
つまり、あの謎の少女の言うことを信じるならば俺が昨日から魔導師に目覚めたのは偶然ではなく。時が来てしまい、俺が魔導師として目覚める他、対策がなかったからだ。つまり、魔法による荒事が行われる可能性が高い。
それに、例え俺が幾ら天才魔導師だからといっても他県で大規模魔法を使用されても、魔力探索圏外だ。謎の少女が俺の実力を把握していなかった可能性があるが、その可能性は低い。少なくとも未来のヤバイことを察知できる能力があるからだ。
それに過去に戻れる可能性も高い。「頼るしか道がない」と言っているのだからほかの道を試したはずだ。まあ要するに、ここら辺りでその魔法を使っての荒事が起きる可能性が高いということだ。
丁寧に言うと、まず県外の可能性は無く幾ら東京が一部を除き範囲内だとしても、大規模魔法を使用された後に気づきました。では遅い。だから、ここの近辺で魔法を使っての荒事。魔法師どうしの戦いが起きる可能性が高いのだ。
だから 、これからは平穏な朝を迎えないかもしれない。前に妹に俺が寝ている間に勝手にベッドの中に入られる、なんてこともあったがそんな風に不快になるぐらいではこれからは済まないかもしれない。はあ、何というか不幸だ。
そんなふうに現状を確認して軽く暗い気持ちになっていると、母に朝食ができた事を知らされた。まだ、若干早いのだが早いにこしたことはないのでパパッと学校の制服に着替えてバッグを持ち下に降りた。
下に降りると、味噌汁のいい匂いと魚の刺身のあの匂いがする。他の家のことは余り知らないのだが、味噌汁と刺身は一緒に食うものではないと思う。確かに、同じ和食なのだが。
その事実でやはり、母がアメリカ人なので、慣れていないのか時折不自然な組み合わせの和食が出ることを思い出しながら俺はリビングに顔を出した。すると、もう既に両親と眠そうな妹が座っており俺のことを待っていた。
「いただきます」をみんなで言った後、食べ始めると食べながら母が話し掛けてきた。
「今日は高校生になってからの初めての授業だからね。スペィシャルな料理にしたよ。これをもりもり食べて頑張ってね」
そんな英語由来の単語の発音が本格的になっているのを聞きながら、母親が興奮してどうするんだよ。と内心ツッコミをいれた。そして、しばらく食べていると、妹と母の会話の内容が聞こえてきた。
「寝不足そうだけどどうしたの?」
「秘密」
「昨日部屋から声が夜聞こえたよ。そういうのは程々にね」
「ハーイ」
何か物凄く嫌な気持ちになったのは何故だろうか?そんなことを考えて、ご飯を食べ終わると少し早いが、イスの横に置いておいたバッグを持ち家から出た。




