第八話 レイルとラキ
「んー、旨かったー!ごちそうさま」
「お粗末さまでした。さてと……今夜からまた頑張ろ~」
「おー。……やっぱ、もうちょっと寝るかな」
「まだ寝るの~?見張り始めるとき、呼びに行くね」
「うん、そうしてもらえると助かる。よろしく~」
「OK、おやすみ」
「おやすみ~」
夕食を終えると、ラーグはまた仮眠室へ向かった。ラーグは昔から寝るのが好きなのだ。最近は満足な睡眠がとれていないのもあって、疲れが溜まってきているのだろう。
「ロイ隊長は眠らなくても平気なんですか?ラーグは昔からよく寝てましたけど」
ラーグの後ろ姿を目で追ったレイルは、次にロイへと視線を移した。
「あぁ、俺は別にしばらく眠らなくても平気だ。今のうちにグレイたちと連絡を取っておいてくれ。俺は見張りを始める」
「はい。あ、じゃあラーグを……」
「あいつはまだ呼ばなくていい。見張り中に眠られても困るからな」
「あ、そうですね。分かりました」
ラーグのことを気遣ってくれたのだろう。ロイ隊長はそのまま見張りをするために出て行った。
レイルは食事の片づけなどをしながら、考え事をしていた。
もし、調査チームのワゴンが見つかったとして、どんな状況になるのだろうか。そのまま何事もなく帰る、というのが最良の例だ。
だが最悪の例というのも、想定しておかなくてはいけない。
もし、ワゴンに誰も乗っていなかったら?人間はどこへ行ってしまった事になるんだろうか。
ただ後ろ向きな考え事かりをしていると、気が滅入る。気分を変えて、ラキの声でも聞こうと、レイルは通信機を取った。
しばらく呼び出すと、グレイが出た。
「あ、グレイ?ラキも元気?」
『あぁ、こっちは特に異常はないぞ。俺もラキも全然元気だ』
「そっか。こっちは今日、ラーグが車の外を歩いて人の目でも辺りを探してみたんだけど、特に何も見つけられなかったの。あ、でも、ラーグが途中で何か白い靄みたいなものを見たって言ってた」
『霞っぽいのなら、こっちでも少し反応があったかもしれない。今、空間の調査をしているから、ラキに聞いた方が早いと思う。ラキに代わるな』
「うん、お願い」
『……代わったよ~。そっちはどう?レイル』
「ふふっ、みんな元気だよ~」
『……あいつ、ちゃんと仕事してんの?』
「してるよ~。すんごい嫌そうだけど。早く帰りたいなぁ……」
『そうねぇ。あいつのおごりでケーキ食べに行こうよ!』
「あ、それいいね!あはは、妙案だねっ。あたし、ラーグにカレー作ってあげたし、貸し1だもん♪」
『そ、そうなんだ。あいつの好物だもんなー』
「ラーグは変わんないんだ。不思議だよねー、変わらないっていうのも」
『そうね。ところでレイル、あなた大事なこと忘れてるんじゃない?』
ラキに言われて、レイルははたと我に返った。そうだ、今は楽しくお喋りなんてしていられないのだ。
「そうよ‼危なかったわ、聞くのを忘れるところだった。今日の調査で、ラーグが白い靄みたいなものを見かけたって言うんだけど、そっちのレーダーには何か変化はあった?」
『いいえ。ほとんど何も感知しなかったと思う。……そうね、何なのか分からないから、充分気をつけてって言っておいて』
「分かったわ、ありがとう。そっちの二人も充分気をつけてね。ラキとグレイは私たちの命綱だし」
『えぇ、分かってる。グレイがいるから大丈夫。……そろそろ交代だわ。レイルたちも出来るだけ休んだ方がいいよ。じゃ、おやすみ』
「そうね。頑張ってね、二人とも」
『そっちもね。じゃあ』
「うん。おやすみ~」
レイルは壁に取り付けてある通信機から離れた。
ラキたちも感知しなかったあの靄は何だったのだろうか。見たのがラーグだけでは心もとない情報だから、ラキたちに確認したのだが……。
というのは、なにもラーグを信用していないからでは無い。ただ命を懸けている自分たちは、迂闊な行動をするべきではないのだ。
その時背後からガタンっと音がした。
「っっ!」
背後で音が鳴ったのでとっさに振り返ると、そこに立っていたのはラーグだった。
「あ、わりぃ。驚かしちまった?ちょっと躓いたわ……」
「う、ううん。ところでラーグ、もう眠くないの?」
「え?あぁ、うん。見張り交代してくるな」
「了解。気をつけてね」
呼びに行く前に起きてくるとは思っていなかったから、レイルはすこし驚いていた。
「OK……さっきラキと話してた?あいつら元気?」
「え、うん。聞こえてた?元気だって言ってたよ」
「そっか、なら良いや。……なんか俺のこと言ってた?」
「……え~と、ちゃんと仕事してんの?ってラキが……」
答えたレイルの声が細くなっていることに、寝起きだからかラーグは気付かずに、むすっと渋面を作った。
「むぅ。ちゃんとやってるって言っといたか?」
「うん。言ったよー」
レイルの様子には気付かずに、ラーグはサンキュ、と呟いて見張りの交代の為に車を降りて行った。
「……ラーグ、ラキのことどう思ってるのかなぁ……」
残されたレイルは、ぽつりと小さく呟いた。