第五話 忘れ物と白い影
うーん。ロイ隊長、俺、レイルの三人か……。グレイが居れば、こんな空気じゃなかったのにな。ふぅ、まぁ頑張りますか。とその前に……
「……もっかいだけ謝らせて?……そんで許して下さい」
つい敬語になってしまう俺。レイルには頭が上がらないな。
「周辺に気を配りながら移動するぞ」
そこにロイ隊長の声が聞こえた。ロイ隊長は先に乗り込んでしまったようだ。
「はい」
返事を返すレイルに、俺はもう一度だけ謝った。
「ごめんな、ほんと」
「もぅ、謝り過ぎ。ちょっといい?」
レイルに手招きされた俺が近づくと、レイルにでこピンされた。
「いて……」
「あ、痛かった?これでおあいこね」
そう言って笑うレイルは怒っている様子もなく、俺は少しほっとした。
よし、俺も車に乗るか、と入口に足を掛けた時、ロイ隊長の声が聞こえた。
「おい、ラーグ。お前は外を歩け。車は俺がゆっくり走らせる。但しラーグ、何かあるといけないからドアの横を歩けよ。調査チームの車を見つけたら、今回はひとまず帰還できるからな。頑張ろう」
へぇ、俺は外歩くんだー。ってえぇ?!
何が出てくるか分かんないんだろ!?俺一人で外歩くんかよ!え、ちょっと怖いかも?
「……中じゃダメなんすか?隊長」
「なんだその弱気な姿勢は。車の中からじゃ見つけられないものもあるだろう?それをお前が探すんだ」
「いやいや、それは分かってますって。別に怖いとかそういうんじゃないですけど、でも……」
「…………」
「……分かりましたっ。こういうのが俺の仕事ですもんね。隊長よりも早く、逃げろっていう指示を出してやりますよ」
皮肉めいたこともブツブツと言いながら入口に掛けていた足を退かす。
「大丈夫よ。危なくなったら……ほら、私はここに居るから、すぐ中に入れるわ」
レイルが入口のドア近くについている通信機の前に立って言う。
そんなに心配されなくても、大丈夫だと思うんだけどな。
まぁ、忘れ物取りにきた奴が襲われるって、昔からよくある話だしな。でも一人じゃねぇし、取りにきた奴。……って俺一人じゃね?これから外俺一人だよな!?
「ラーグ、出発するぞ。……マーカーは置いたか?レイル」
「はい、置きました。大丈夫です。センサーも異常なしです」
「よし」
そうして、ロイ隊長がゆっくり走らせる車の脇を俺が若干速めに歩く。少し先しか、肉眼では捉えられない。
自分の進んできた方を振り返っても、ただ真っ黒なだけだ。失踪した調査チームも迷った、とかであってほしい。消えたなんて、気味が悪い。
生きている人間が一度に複数消えたりするのは、ありえないことだから。それに敵が居たとしても、調査チームとはいえ、強者だらけだ。こんなところに来るならなおさら強い者が集められただろうに、全滅の知らせ……。おかしい。
おかしいが確かめる術はない。
だから俺たちが失踪した調査チームの捜索と、この空間の調査を任されたんだ。
車を見つけたら、一度帰ることになってる。でもこんなに周りが真っ暗なんじゃ、車なんて探せないぜ?
見つかんなかったら、どうするんだよ。とか思いつつ周りを見回す。と、そのとき。
ん?なんか俺の視界に白いものが……って白いもの?!なんだよ、白いものって。ま、まさか、車見つけちゃった?
そう思いながら立ち止まって周りを見回した俺に、ロイ隊長が車の中から声を掛けて来た。
「ラーグ?どうした、何か見つけたのか?」
うーん。見た、けど見つけてはいない、かな?
「いえ、なんか見えた気がしたんですけど……どこ行ったんだ?車かとも思いましたけど、なんかフワフワしてるっぽかったっすね」
「そうか。何か見つけたら扉をノックしろ。車を止めるから」
「了解」
そうして俺はまた歩き出す。
非実在生物(?)は信じないんだよ、俺は。しかし‼そこに居るのなら姿を見せておいて欲しいとも思う。
仲間なのか敵なのか、把握していないと大変なことになる。
俺らは命を懸けてここまで来てるんだからな。ターゲット以外のものが居ると邪魔なんだよな。にしても……何もない。疲れて来たし、あぁでも戻らなくちゃいけないんだよな。俺ら真っ直ぐ進んでんのかね?人間て円を描くように歩くから、前に進めないんだって聞いたことあるけど、今まさにそんな状況なんじゃ……?!俺の一日がぁ……。