第四話 見張りと
ラーグたちが話している頃、見張りをしていたレイルは、皮膚にチクリとした痛みを感じて顔を顰めた。
「いたっ。なに?」
虫の羽音さえも聞こえないのに、と周りを見回したレイルは、軽い変化に気付いた。
「あ、空気が……。うわっ、どーしよ。襲ってきたらやばいな……」
ロイ隊長の所へ行った方がいいのか、ラーグの所へ行って他の人も感じるのか聞こうか、少しだけ逡巡しているうちに、異様な空気は消えていってしまった。
「あぁ、迷っちゃダメ。命にかかわっちゃう」
呟いて、ふと、(あ、ラーグ)と思い出し、交代することを思い出した。
呼びに行くと、ラーグは部屋で起きていた。
「あれ?寝てなかったの?ラーグ」
レイルに呼びかけられて、俺は顔をあげた。
「ん?あー、レイル。もう交代か?早いな~」
「ダメじゃん、寝なきゃ」
「うん。そうなんだけどさぁ、グレイとちょっと話してたからさ」
「グレイと?」
「あぁ、なんかグレイ、ラキの方行くらしい。俺ら、ここ三人になるみたいだからさ。グレイとそのこと話してたんだ」
「そうなの?そっか三人か。でもラキだって一人は可哀想だもんね、何かあったら……」
「あぁ。でもグレイが行くから安心だな」
「うん。私たちも頑張らなきゃ!……ってそういば、早く見張り行かなきゃ!」
「そうだな」
俺はレイルと話しながら歩き出す。
「でも、なんかちょっと不安かも……。もちろんラーグや隊長は頼りになるし、私だって戦えないわけじゃないけど……」
少し不安そうな様子になるレイルに、俺は問いかけた。
「そんな不安になるなよ。……なんかあったか?」
「え?うん。あのね、さっき空気がいきなり尖ったの。それでちょっと気になっちゃって……ごめん。気にしないで」
「そんなの無理だろ。チームの誰かが不安だと、チームに迷惑がかかるだろ?俺もポジティブでいるように割と気をつけてるんだからな」
「うそー。ラーグってそのまんまじゃん?!気をつけてるように見えなーい」
「失礼な」
レイルの言葉に、俺がムッとして言い返すと、レイルが屈託なく笑った。
そんな風に話していたら、車の外に出た。
今使っているワゴンは、中が改造されていて、キャンピングカーみたいな内装になっている。そして数人で使えるように結構でかい。
「今は普通だな」
俺の言葉に首を傾げるレイルに、「空気だよ、空気」とまた俺が言う。
「本当だ。うん、あのさラーグ。さっきみたいなのまた起きたらやばいと思うから、私もここに居ていい?」
「え?見張りか?」
「うん。ラーグは寝ててもいいから」
「え、でもそれじゃお前が寝れねぇじゃん」
「それは別にいいよ。毎日四時間睡眠で慣れてるし……」
レイルの口から驚きの数字を聞いた俺は一瞬固まった。
「は?四時間しか寝てなくて、訓練であんなに動けんの?逆に怖いけど尊敬~」
「畏怖ってやつ?」
「いやー、そこまでじゃないけどなー」
そんなこんなでレイルと二人で見張りをすることになった。
俺は結局、レイルの言葉に甘えて、少し眠ることにした。
だが俺はロイ隊長が交代に来る直前まで、眠っていたらしい……。
「おはよ、レイル」
「……」
あれ?やっぱ俺がずっと寝てたこと怒ってるんかな?
グレイももうちょっとで行っちまうし……ひとまず謝ろう。
「あのさ、見張りの時だけど、寝ちまって悪かった。本当ごめんな?レイル」
そう言ったらレイルが振り向いた。
やべ……怒られるかな?
「あ、おはよ。よく眠れた?ラーグ。また寝不足とか言わないでよ?」
あれ?いつも通りだ……。
「あのさ、俺がさっき言ったこと、聞いてた?」
「え?なんか言ったの?!ごめん‼考え事してて聞こえなかった!」
「いや、そんなに慌てなくても……。見張りの時のこと、謝りたくてさ」
「え?あぁなんだ、そんなこと?別にいいのに」
レイルは笑ってそう言った。でも俺はつい言い返してしまう。
「いや、別にいいって、そんなわけないだろ」
「いいよってば」
あ、レイルってグダグダすんのキライだから、こういうのダメなのか……。
俺は少し慌ててしまい、再び何か言おうと口を開いたとき、グレイが車の外に出て来た。
ある意味グッドタイミング、グレイ。
俺は心の中でグレイに向かって親指を立てた。余計なこと言っちまうかもしれないからな。
出て来たグレイは、俺たちの雰囲気に気付くことなく、地上から降ろされたエレベータのような箱に乗り込んだ。
「じゃあレイル、ラーグ。またすぐに会えるだろうけど、またな!」
手を振って、グレイの乗った箱を見送れば、地下はまた静かになった。