第三話 一夜目
ふと地上と連絡を取っていたグレイが、ロイ隊長に報告する声が聞こえた。
「ラキから、地上は何の問題もないと連絡がありました」
ふーん。上は何にもないんだ。ラキは1人で上に残ってるから襲われたらどうするんだろ?
「ちょっと待って。こんなにターゲットが襲ってこないなんてことある?遅すぎない?」
「あぁ、だが案外頭が働くのかもしれない。今夜は1人ずつ見張りをしよう。この辺りの調査が終わったら、元の場所に戻って仮眠をとるんだ」
レイルがラキの連絡を耳にして呟くと、報告を聞いて何やら思案していたロイ隊長が口を開いた。
やった、今夜は眠れるんだ。見張りすんのはめんどいけど、眠れるならまだマシだ。
俄かに喜んだ俺は、
「おい、ラーグ。お前から見張りをするんだ。その次がレイル、グレイ、そして朝までは私がやろう」
ロイ隊長の言葉を聞いて、思考が一瞬停止した。
は?俺からかよ……とか思ったら、レイルがそんな俺の様子に気付いたのか口を挟んだ。
「あの、隊長。ラーグは昨夜の休憩があまり取れなかったようなので、私と順番を変えてもいいですか?」
あーぁーいーのに……最初にやっちゃえばそのあと眠れるし……。
「ん?別にいいぞ。勝手にしろ。但し、見張中に眠るなよ」
「はい、もちろんです。ありがとうございます」
「あぁ。……おいグレイ、話がある。来い」
レイルとの話が終わったロイ隊長は、グレイと仮眠室へ入っていってしまった。
「レイル……気使わせて悪いな。別に最初でもよかったんだけど……?」
「ふーん、そう。でもラーグ、そしたら眠っちゃってたよ、きっと」
「そんなことねーよ。……ってか今寝に言ったらやばいかな?」
さっきのロイ隊長とグレイのことを思い出して躊躇した俺だったが、仮眠室からグレイが出て来たのを見て、もう問題ないと判断した。
話の内容が気になった俺は、グレイの部屋で待つことにした。少しすると、車内の見回りを済ませたグレイが戻ってきた。
グレイは俺が居るのを見て少し驚いたようだったが、「どうしたんだ、ラーグ。お前が他人の部屋に居るなんて珍しいじゃないか」と言ってきた。
おいおい、誤解を招くような発言をするなよな、グレイ。俺はちょーっと人見知りで慣れないと他人とかかわるのがちょっと苦手なだけじゃないか。そんな重傷者みたいに言うなよ。
そう言うとグレイは笑いながら謝った。
「すまんすまん。で、何か用かラーグ」
あぁ、そういえば。
「え?あぁうん。さっきの話、何だったんかなって。聞いてもいい話?ダメな話?」
「どうせ聞く話だ。ただ単に俺が1度、というか地上に戻ってラキと待機だと。さすがにラキは戦闘員じゃないのに1人にするのは危険だろうと隊長も言っていた。だから俺が上に行く。通信の方はレイルが居るから問題ないだろう」
「えー。俺とレイルの仕事量が増える~。めんどい」
「隊長だって動いて下さるんだし、大丈夫だろ?」
「しょうがねぇなぁ」
「しょうがねぇって仕事だろ。……真面目にやれよって」
「ん?」
「真面目にやれよ、はラキからの伝言だ」
「あぁ、なんだ。グレイがラキに見えたのはそのせいか」
するとグレイが真顔になって言った。
「まぁとにかく、俺はお前らと一緒に居られない。何かあっても助けには来られない。お互い生きて帰ろう」
「それはグレイも同じだろ。それにお前に言われなくても分かってるよ。俺だって死にたかないぜ」
言い合えば、空気が柔らかくなった気がした。
だが周りの空気はそれに反して殺気立ち、重くなっていく。だがその空気も、すぐに薄れて消えていった。