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偽りのルノワール  作者: 小美里 戒
第4章 内乱
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番外編 淑女二人

 

 ガチャガチャと手元のガントレットの細部を確認しながら、マリンダは悪態を吐いた。


「ええい、くそっ」


 むっつりと不満げな表情で己の魔法具『暁』を眺めている彼女の隣で、ユリシアが楽しそうに笑った。


「うふふっ。直った?」

「まぁ、なんとか、な。直りはしたさ。だが現状ではやはりこれ以上の性能は望めん」


 苛立った語調には訳が在る。


「あれだけの啖呵を切ったはいいけど……やっぱり伝説の大賢者、っていうのは伊達じゃないのねぇ」

「ふん……っ」


 しみじみと言うユリシアの横でマリンダは鼻を鳴らし、腕を組む。


 かの『審判の剣』の一撃を打ち返した『暁』。

 あの時は余裕の表情で語ったマリンダではあったが、実際には最大威力の紅牙を放った時点で、既にオーバーヒート寸前だったのだ。

 その後イゾルデの巨人を相手にもう一撃放った訳だが……あれが駄目押しとなり、『暁』は限界を迎え、壊れてしまった。

 現在はその『暁』の修理をユリシアの研究室で行っている所だった。


「むぅ……」


 『審判の剣』を扱っていたゴーシュは弱小ではないが、魔術師としての力量ではマリンダに及ぶべくもない。

 すなわちなんとかマリンダが競り勝った、ということは、純粋な魔法具としての性能面ではやはり『審判の剣』が『暁』を上回っていた、ということだ。

 それは少なくとも魔法具製作においては大賢者カーマインの方がマリンダより優れていた、という証拠に他ならない。


「はぁ……まぁ私もまだまだ精進が必要、ということだな」

「貴女は一体どこまで強くなるのかしらねぇ……」


 快活にユリシアは微笑んでいたが、マリンダは真剣な表情だった。


「歩みを止める訳になどいかん」

「あら?」


 思いの外強い口調だったのでユリシアは小首を傾げる。


「満足し立ち止まってしまったら……恐らく私の背中などすぐに追い抜かされてしまうだろうし、な」


 マリンダは再び『暁』に嵌め込まれた魔石、それから術式を確認すると懐にガントレットを仕舞い込んだ。


「それってルークに?」

「あぁ、そうだ。正直驚いたぞ」


 先のイゾルデとの一戦で勇猛果敢に黒衣の魔女と戦う息子(娘?)の姿がマリンダの脳裏に蘇る。


「まさか完成しているとは、な。私が見るに『武装結界・螺旋』も大分安定しているように見えた」


 マリンダは知っている。

 ルークが己の奥義を更に昇華させる為に四苦八苦し、それでも成功せずに頭を悩ませていた日々を。

 あれほどの天賦の才を持つ少年であっても、難しい技なのだ。


「私が帝国に行っていた1年でここまで成長する等とは思っていなかった」


 たった1年だ。

 たった1年でルークは見違えるほどに成長した。


 ここ最近のマリンダが1年間でルーク程成長した事など無い。


 だが。


「あいつは成長期だが……まだまだ負けてやる訳にはいかん」


 言葉とは裏腹に楽しそうにマリンダは言う。

 その表情には子供を想う親の情愛が確かに存在した。


「貴女も大概親馬鹿よねぇ」


 呆れたようにユリシアが肩を竦めたが、マリンダは心外だとばかりに言い返す。


「ユリシア。お前にだけは言われたくない」

「ふふふっ。まぁお互い様よね」

「いや私は……」

「はいはい。貴女は親馬鹿じゃない、親馬鹿じゃない」

「むぅ」


 図星を突かれたのか。

 口をへの字に曲げて拗ねたような顔をしている親友の横顔を眺めながらユリシアはひとしきり笑っていた。



   ☆   ☆   ☆




 『暁』の修理を終えたマリンダは膨大な数の資料に目を通している真っ最中のユリシアに声を掛けた。

 その瞳には先程まで談笑していた時のような穏やかさは無い。

 鷹の如き鋭い瞳が俄かに光を帯びた。


「で、どうする?」


 突然の話の切り替えだったが、ユリシアは露ほども気にせずに頷いた。


「そうねぇ。まぁ逐一ディルからは報告もらっていたけど……」


 美しい眉根が顰められる。


「個人的な所感になるが、かなりやばい状況だぞ」

「……やはりメフィス帝国は?」

「あぁ。確実に攻めて来る。断言してもいい」


 マリンダが帝国に行っている間の話は概ねユリシアも聞いている。

 彼女が現在手にしている報告書の中には帝国で最も危険度の高い人物の名前が刻まれていた。


「レオナルド特務官……」


 現在のメフィス帝国における最重要人物。

 紅牙騎士団内ではその見解で一致していた。

 彼こそが先の戦争の主導者であり、デロニアに地獄を齎した張本人だ。


「特務官、などという生易しい地位じゃない。はっきり言って皇帝も宰相も実際はレオナルドの言い成りだ」


 今のメフィス帝国に置いて実権を握っているのが、高々一特務官、というのは解せない事ではある。


「どうして、そのような……」

「あまり地位を向上させると動き辛いからだろうな。そういう意味合いでは、奴は最も自由度高く動き回れる地位を築いている」

「誰も彼もが言い成り、というのは?」

「怖いのさ、レオナルドが、な。誰も奴に逆らえない。逆らえば殺されると誰もが怯えている。奴がのし上がった裏事情までは分からんが、恐怖政治を布いているのは間違いが無い」

「……」


 ミストリア王国内の事情は粗方問題が片付きそうな今。

 次にユリシアが目を向けなければならないのは当然隣国の動向だ。


「……貴女でも対処できそうにない?」

「無理矢理に奴を殺せ、と? 正直私でも強引に突破口を開けるかは分からん……奴の警護は常に厳重だ」

「マリンダがそんなことを言うなんて」

「二人程いるな。とびきり厄介な奴が。いや、下手をすればもっといる可能性もある」

「……そう」


 マリンダでさえ、そのように称する人間が常にレオナルドには侍っている。

 無論、その二人以外にも警護の人間は大勢いるのだろう。


「帝国の……レオナルドの目的は?」

「普通に考えれば、やはり大陸統一、というか支配が目的だろうな」

「……」


 思案するように顎先に手を当てつつ黙り込んだユリシアの隣でマリンダは続ける。


「考えようによってはレオナルドはゴーシュよりはよほどシンプルだ」

「というと?」

「奴は魔獣と一緒さ。より領土を広げたい。支配地域を増やしたい。その為に強くなる必要がある。だから力を手に入れる。逆らう者は殺す」

「……いつの戦国時代の思考よ、それ」


 ぼんやりと呟いたユリシアだったが、マリンダは真面目な顔で頷いた。


「まさしくそれだ、ユリシア」

「え?」

「レオナルドは歴史の教科書に存在するような戦国時代の強者であり、暴君であり、支配者。そういった類の人間だと想定しておけ」

「……」

「そして。そういう人間は厄介であり……迷いが無く、強い」


 マリンダがこうまで断言するのは珍しい事だけに、ユリシアは嫌そうな顔になった。


「次から次へと……頭が痛いわね……」

「とはいえ私達が何もしていなかった訳ではない」

「ええ。本当に……紅牙騎士団がわたしにとっては最後の拠り所だわ」


 無論、マリンダ達が収集して来てくれた情報は大いに役立つものだ。


「レオナルドに反発を抱いている勢力は多い。だが如何せん、戦力の差は絶望的だ」


 だが、それ以上に利用価値があるのは、帝国内での反勢力との渡りを付けられる所まで話を進めて来てくれた事だ。


「こちらの素性は明かしていないので、あまり密接に結びついている訳ではないが、幾人かの当てはある」

「……それらを上手く利用していかないとね」

「ああ。戦略的な方針はユリシアとグエン、あとはディルに任せるさ」


 優秀なマリンダの部下達が纏め上げた報告書と騎士団の参謀達の力があれば、マリンダでは及びもつかぬような作戦も固まる、というものだ。


「貴女はどうするの?」

「時が来れば動く。それまでは――」


 そう言って彼女は窓から中庭を見下ろした。

 そこにはメイド服に身を包んだ己の息子の姿が在る。


「あの子と一緒に力を練るさ」


 マリンダとて非常に優秀な人間ではあるが、彼女は政治的な策謀などはイマイチよく分からない。

 その上、己よりもユリシア達の方が優れている事を理解している。


 ならばやるべき事は一つ。

 いざという時に活路を開く力を得る。


「牙を砥ぐ。それが結果的にお前を助ける力になる」


 マリンダに迷いは無い。

 己はユリシアの願いを叶える為の剣でいい。


 彼女は気位の高い女性だ。

 だが、マリンダ=サザーランドという剣を振るうのが、他ならぬユリシア=ファウグストスであるというのならば……それは本望だ。


「また……頼りにさせてもらうわね」


 瞳を閉じてユリシアはそっと囁いた。


「ああ。それが……『約束』だから、な」


 マリンダは窓の外から冬の空を見上げた。

 降りしきる雪の中、寒風が突き抜けてゆく。


 それらを眺めていると……懐かしい記憶がマリンダの脳裏に蘇って来た。

 

(あの日の夜も……こんな風に雪が降っていたな)




   ☆   ☆   ☆




 未だ若かりし頃。

 順風な結婚生活の中、突如ユリシアを襲った悲劇。


「倒れた、だと?」


 マリンダが急報を聞いた時。

 ユリシアの夫、サザン=ファウグストスの病の進行はもはや誰にも止める事など出来ないものだった。


 当時、今ほど魔法薬学に精通している訳では無かったユリシア。

 彼女は、夫を救う手立てを持ち合わせてはいなかった。


「……ユリ、シア?」


 力無く眠るサザンの傍で俯き、疲れ果てたユリシアはマリンダの知っている彼女では無かった。


「……」


 精気の感じられぬ瞳がぼんやりと虚空を見つめている。


「マリンダ……」


 これほどの弱々しいユリシアの声を聞いた事など無い。


「サザンは……?」


 ゆっくりと無言のユリシアに促され、マリンダはサザンの様子を窺う。

 ベッドで眠るサザンの衰弱し切った肉体は、かろうじて呼吸をしている事を除けば、ほとんど死体と変わらない。それほどの惨状であった。


「今夜が……」


 目を伏せたまま、ユリシアは呟く。


「今夜が峠、だって……」

「……そんな」


 二人の間には子供も生まれたばかりだ。

 どうしてこうなった。

 マリンダはユリシアとサザン程の仲睦まじい夫婦を知らない。

 これ程まで優しく、心の美しい友を知らない。


 何故。 

 どうして。


(よりにもよってこの二人が――)


 目の前で止めどなく涙を流す親友の姿を見ているだけでマリンダの胸がどうしようもなく痛んだ。

 彼女は無意識の内に固く握りしめられている拳を己の膝に叩きつけた。

 サザンを見下ろし、マリンダは静かに呟く。


「……何をしている」


 その声は微かに……しかし確かに震えていた。

 

「貴様はユリシアを幸せにするんじゃなかったのか。こんな風に、泣かせる為に結婚したのか? 違うだろう?」


 我武者羅に。

 不甲斐ない友を叱りつける。


「だったらもっとしっかりしろ! 貴様は私に散々娘の事を自慢して来たな? その娘をどうするつもりだ? こんな風に、情けなく、寝ている暇なんてないだろうが!!」

「マリンダ……」

「目を覚ませ! なんとか言ってみろ、サザン!!」


 まさかその怒鳴り声が聞こえた訳ではないだろうが――。


「……マリンダ?」


 ――その時、サザンの瞳が僅かに開いた。


 日頃から不健康そうな色白の男だったが、今日は一段と青い顔色だ。


「あぁ、来てくれたのか」


 目を細める優男に向かってマリンダは必死に口角を吊り上げた。


「……貴様を笑いに来たんだ。ユリシアを泣かせる大馬鹿者をな」

「はは……相変わらず、きついなぁ……でも……丁度いいや」


 弱々しく力無いサザンの声色に不安を感じたマリンダは即座に言った。


「私などどうでもいいだろう……ユリシアと話せ」


 サザンの限界は近い。

 否が応にもマリンダにはそれが分かった。


「いや、ユリィとはね……もう、たくさん……たくさん話したんだ。だから、マリンダ……今度は君にお願いが……ある」


 途切れ途切れの消え入りそうな声だ。


「……聞くだけ聞いてやる。言ってみろ」

「いいや……君は必ず僕の願いを叶えてくれるよ」

「いいからさっさとしろ」

「あはは。うん、そうだね。お願いしたい事は一つだけなんだけど、ね」

「……なんだ?」


 その時。

 これだけ弱り果てた姿で在るにも拘らず。

 

 その時だけは、サザンの瞳に何よりも力強い光が宿ったような……そんな気がした。



「ユリィを……お願い」



 言葉は震えず、真っ直ぐと。

 彼は射抜く様な眼光でマリンダに告げる。



「君の言う通り……僕はユリィを泣かせてしまう最低な男だよ。あの子にも……メフィルにも碌に愛情を捧げられない情けない男だ。これが傲慢で我儘で、独りよがりで、無神経で、無責任なお願いだとは分かってる」


 それは一人の男が。

 友に己の使命を、願いを託す叫びだった。


「でもね。一人だけ知っているんだ。僕の代わりにユリィを助けてくれる人を。ユリィを愛してくれる人を」


 誰よりも頼りになる親友を。

 サザンは知っていた。



「この世で僕の次に……ユリィの事を愛している君ならば……」



 そう言ってサザンは微笑んだ。


「馬鹿野郎が……」


 掠れた声を自覚したが、マリンダの声の震えは止まらなかった。


「はは。君でも泣いてくれるんだね」

「貴様が余りにも大馬鹿だからな」

「僕のお願い……聞いてくれるかい?」

「あぁ……約束してやるさ。不甲斐ないお前には任せておけんからな……」

「その罵声も聞けなくなるのか……あぁ、君とユリィの二人の仲の良さに嫉妬する事も、ユリィを抱きしめる事も。娘の成長を見守る事も……もう」


 それはなんだか。


「寂しい、な」

「ふん。これでユリシアは私が一人占め出来る訳だ」

「ははは、そうはいかないよ。ユリィはメフィルのものだからね」

「なんだ、貴様元気そうじゃないか」

「あぁ……本当だ、何でだろう」


 ぼんやりと不思議そうに天井を見つめるサザン。



「最後の力、って奴なのかな」



 その時、大慌てでシリーが小さな子供を手に抱いてやって来た。


「奥様! お嬢様をお連れしました」


 その手に抱かれた幼い生命。

 メフィル=ファウグストスは眠そうな目を小さな手の平で擦りつつ、ユリシアの腕に手渡された。

 事情を呑み込める筈も無いメフィルはぼんやりと父親を見つめていた。

 まだ眠いのか、その頭はうつらうつらとしている。


「あぁ……本当にメフィルは可愛いな、天使みたいだ」


 幸せそうに微笑み、サザンは僅かに動く手の平で愛娘の頭を撫でた。


「どうか健やかに……元気で育って……」



 ひとしきりメフィルの頭を撫で終え――最後にユリシアに瞳を向けた。



「ユリィ」

「……はい」


 夫に答えるユリシアの瞳からは涙が溢れ出ており、決して止まる事は無かった。


「先立つ僕を……許してくれとは言わない」

「サザン……」

「こんな時に……僕を忘れて誰か素敵な人を見つけて、なんて事を言えたら格好いいのかもしれないね……だけど、僕には難しそうだ……君が僕以外の男と一緒に居るのは……はは、みっともないけど辛いな」


 弱々しい微笑みの中、対するユリシアは必死に笑顔を作ろうと努力をしていた。


「僕と……結婚してくれてありがとう。ユリィは僕なんかには勿体無いくらい素敵な人なのにね」


 まるで幼子の様にユリシアは首を振る。


「そんなことない。そんなこと……絶対にない」

「君を支えてくれる家族は大勢いる。友人もいる。娘を君に任せきりにしてしまうのは心苦しいけれど……きっとユリィなら大丈夫」

「……うん……うん」

「ユリィの夫になれたことは僕の人生で一番の幸運で……奇跡だったよ」


 ユリシア=ファウグストスに一目惚れし、なんとか彼女と繋がりを得ようと必死に駆け回り、親を説得し、無理矢理にお見合いをセッティングした若かりし頃は、今でもはっきりと思いだせる。


 ユリシアの好きな物を必死に調べ、ユリシアを楽しませる為に走り回り、ユリシアに少しでも自分の事を想って欲しくて、我武者羅に毎日を過ごしていた若かりし頃。

 ユリシアからプロポーズの返事を聞いた時の喜びは決して消える事は無かった。



「君との出会いが……僕の人生を変えてくれた」



 彼女を振り向かせる為に努力した日々はサザンにとっては輝いた日々だった。

 彼女と結ばれてからの日々は更に尊く、何にも代えがたい宝物だった。


「君とメフィルの幸せを……何よりも願っている」


 無数に蘇る思い出の中。


 それでもサザンが最後に言葉にしたい事はたった一つだけだった。



「……愛しているよ、ユリィ。この世の誰よりも」



 最後に最愛の妻に己の想いを伝えた後、



(あぁ……叶う事ならば……生まれ変わる事が出来たならば……もう一度、ユリィと……)



 サザン=ファウグストスは眠る様に静かに息を引き取った。




   ☆   ☆   ☆




 ここの所の疲れの影響か。

 いつの間にか眠ってしまっていたのだろう。

 瞳を開けると、瞼から溢れた雫が頬を濡らしていた。


「……ふふ。ずるい人だなぁ」


 既に10年以上昔の事なのに。

 今でもサザン=ファウグストスはユリシアの心を掴んで離さないのだ。

 輝かしい日々を忘れる事が出来ない。


「自分がこんなに一途だなんて、昔は思わなかったわ」


 そんな独り言を呟き、眦の涙を拭いながら微笑む。

 そして、自分の両肩に毛布が掛かっている事に気付いた。


「……マリンダ?」


 傍に親友の姿が無い。

 だが突然屋敷の庭からとてつもない力を感じ、思わず窓に駆け寄った。


「はははっ! 随分と腕を上げたな!」

「くっ! このっ!」

「だがまだ甘い!」


 屋敷の実験場の中。

 楽しそうに稽古をする親子の姿が在った。

 常人からすれば稽古どころか、一体何の死闘なのか、と思う程の高次元の戦いではあるが、マリンダとルークにとっては、当たり前の日常に過ぎない。


「ふふふっ」


 あの二人はこの先も更に強くなっていくのだろう。

 それこそ自分などには及びもつかないような領域まで。


「……サザン。マリンダは約束を守ってくれているわ」


 マリンダ=サザーランドは心から愛する友であると同時に、ユリシアにとってはそれ以上の存在でもあった。


 サザンの死後、弱った己の心を最も強く支えてくれたのは彼女だ。

 ミストリア王国の暗部との戦いの最中でも常に危険に身を置き、ユリシアを守ってくれたのも彼女。

 いかなる戦場においても、最終的にユリシアの活路を開いたのもいつも彼女だった。


 学生時代にマリンダに出会えたこと。

 それはユリシアにとってはサザンとの出会いにも決して劣らない奇跡だった。



「これからも……マリンダと一緒に……家族の為に、メフィルの為に……頑張るからね」



(だからどうか……見守っていてね)


 

 今は亡き夫に胸の中で微笑みかけるユリシア。


 その時、サザンの優しいエールが聞こえた様な……そんな気がした。





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