表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アサルト・オン・ヤオヨロズ  作者: 金精亭 交吉
第一章【黄金連休、我が身休まず】
14/59

第一二話 『茶飯事』

前回までのあらすじ:

 捕らわれの飛鳥を救出する作戦も遂に大詰め。

 野守蟲の闘いを千歳らに任せ、歓奈と衛介は飛鳥奪還のため鵺に挑む。だが接近戦を強いられ苦戦する歓奈に、飛鳥を守りつつの状況でピンチの衛介。

 そのとき咄嗟に擬神器を託された飛鳥がこれを用いることで、どうにか彼らは起死回生。これは同時に、PIROが更なる新メンバーを得たことも意味したのであった。


 大型連休中の飛び石に合間合間と存在する平日は、総じて物事にいそしむ気力の湧き難き時候として悪名高い。


 社会人諸兄ではここぞとばかりに有給をとる者も多しと聞くのに、あろうことか世の学生らはおしなべてその権利を持たんのである。

 当たり前と云われてしまえばそれまでだろうが、かねてより吾人はこの制度に少なからぬ不満を抱いてきた。


 ことほど左様に我々学徒はしばしば登校を億劫がるものなれど、この傾向は常の休日をも怠け寝転がって暮らすような物臭にとりわけ顕著なようである。


 学校という世界には茶飯事的に運動部で活動し、土日問わずに溌剌と汗を流すを至上の喜びとするような人種も一定数の生息が確認されている。休日も基本的に校門をくぐるが日課として板付いた彼らをして、飛び石など端から敵でなかったというわけだ。


 まあ、それもその筈。

 朝っぱらから用具庫に身を屈めたり校庭を駆けずり回ったりすることを思えば、椅子に座して授業を受けるなんど屁の河童、と云われても頷くに容易やも知れない。


 一方、云うに及ばず俺は前者の(ともがら)である。

 学校に赴く自体は本来吝かではないものの、斯かる場合は同日の論でない。わざわざ休日を割いてまで学び舎に汗水流さんと思えるほどには、快活にもなれぬ。


 よって本日のごとき飛び石の狭間は何かと苦しい。尤も、こたびは夕べの闘争諸々もあって殊更である。

 あの後まっすぐ地元へ帰還してそのまま解散だったのは結構であるが、如何せん距離があるせいで帰宅時間は日付を大いに跨いだ。最終的に就寝せし時刻なぞ記憶にも無いほど草臥れていた我々であったのだ。

 日がな一日寝れども寝れども、もはや足るるに及ぶべからず。


 平常通りの授業日扱いであるから、今朝の学活は八時半開始だ。床の目覚時計に目を遣れば、ただいま丁度八時二五分。

 ――ああ。あーァ、南無三宝。


 またしても遅刻が約されてしまった次第である。

 突如として来襲せる絶望の打ちひしぐところとなった吾人。


 いや、この頃の異常さに比ぶれば遅刻くらい何の、と余裕ぶってもいられぬ。つい先日も大幅な遅れを来たして二時限目からの出席となったばかりなのだ。担任教師吉田も如何なる顔で俺を迎えてくるか、わかったものではそろそろない。

 跳ね起く俺はすぐさま慌て、「住吉っ、オソヨウだ、住吉! 俺らは仲良く遅刻を踏んだぞッ!」などと叫んだものであったが、不可思議なことに、この声で跳ね起きるべき者など部屋には虫一匹となかった。


 寝起き初番の我が叫びは虚空へと響く――千歳は一体どうしたものやら、影も形も見当たらないではないか。……これは何事ならん。


 ところが目をこすりつつも彼女を探して部屋を一巻き睨め回すと、枕元に見慣れぬ物体のぽつねんと置かれたるを発見する。襤褸(ぼろ)っちい風呂敷に包まれし凡そ一〇センチ四方の直方体だった。


 俺はその妙ちきりんな未確認物体に張付けられたる、付箋の走り書きを意味もなく読み上げる。


「べんとう……………弁当……?」

 然りげに探偵小説的展開を匂わせておきつつ、事件は存外早々な解明を見ることとなった。


 有り難や、ここに高砂衛介は昼食を入手したのである。ただし詰め甘きかな、願わくば登校前に俺を叩き起こしてくれさえすればなお良かったが、今ここで兎や角(あげつら)いはすまい。


 持ち慣れぬ弁当箱(タッパー)を引っ掴み、制服を猛速で被ると、しどけない頭髪もそのままに家を飛び出す。

 これに勝る有難きは無し。はたから見て如何に気持ちの悪いか知れぬが、笑みは到底止まらない。


 甲斐性も無く、俺は嬉々として遅刻を極め込んだのであった。

 たかが遅刻ごとき、何だと云うか。痛くなければ痒くもない。

 まともな昼飯が在るというだけで心成しか、斯くも肩身は広くなるのである。具体的には、生まれて初めて携帯電話を得、それを学校へ持って行った際の昂りに通ずるものがあろう。



 麗しの桧取沢さんは特別定刻に遅れるでもなく、普段通りに登校していたらしかった。

 彼女の場合は以前だって幾度ならず、ああした仕事の後何事も無き様子で学校へ来ていたに違いない。げに、嬢は真面目なのだ。


 しかして今日も静かに淑やかに、普段(、、)と何ら変わらぬ日常を送っていた。前にも述べたが学校における桧取沢さんは本当に大人しい娘である。

「あ、あのっ。高砂、くん」

 何とも面白いくらいに、噂をすれば影であった。脳内でとはいうものの。

「よっス桧取沢さん。いやはやどうも、昨日は大変だったねぇ」

「……ぇと」


「何か、いかんことが?」

「え、ええと………すみません。学校でその話題はちょっと……ほ、本当すみません」

 彼女は大変気まずそうであった。加え、話の調子はもとの口下手な趣に戻っている。良く云うなればオン・オフの切替えが潔い人なのだ。


 嬢曰く、あれは無闇矢鱈と開けっ広げにすべからざる検案らしかった。

 なるほど解せぬではないけれども、世間一般人には冗談か妄想以外には聞こえ得ないような気もするのだが。……まあ、さもあらばあれ。


「そっかい、ゴメンゴメン」

「で……それで、先日預けた学級日誌の件なんですけれども、その、持ってきて……下さいました?」

 あらら、こいつは弱った。件の日誌冊子は持ち帰った当日、家の机に投げたきりである。更にあろうことか、本日俺は日直といった訳なのではあるまいか。大慌てで家を出たことを今になって悔やむ。


 俺はあんぐりと口を開けて情けなく答えた。

「いやあの、詫びの言葉も無えんだがその……家に置きッパで」

「ええ、とするとつまり……」

「すまんッ」そう云って俺はパチと掌を合わせる。

「ああー……、そ、そうですか」さすがに呆れられたであろうか。


 彼女は続けた。

「でしたら吉田先生に出欠と遅刻者の数だけで良いので、報告しておいて下さい。

 えーと……次回分は一つ後の番号の人に回して頂ければ結構です」

 手際良い代策に安堵を得る。見るかぎり怒ってはいないらしい。学級委員がこの娘で良かった、とつくづく思った。

 俺が頷きぺコリと一礼すると彼女はほんの優しげに微笑み、そそくさと席へ帰って行った。


 すると、大した間も置かずに我が肩を叩く者が現れる。梶原裕也である。


「よう、頑張ってんな。何つか、割とイイ感じに話せてんじゃね? ま、ザワさん自身がコミュ障なのはそう簡単に変わんないわ」

「うス。やぁ別に、何つうこたあないや。普通に喋っとっただけだわ」

「痩せ我慢してんなよーォ」

「いや……そうじゃなく。実のところあの娘にゃ結構色々あんだ。ともすると、惚れた腫れたに(かま)ける暇なんぞ元々無いのかも知れん」

「アッハッハッハ、何を利いた風な口きいてんだオマエ!」

 恐らく彼には、俺が色話から逃れる為に出鱈目を吐いた風に聞こえているのであろう。


 然れど俺は真剣に思うのだ。確かに表面的には仲良く(?)やれている。しかるに桧取沢さんとは心の距離が、真の意味では丸きり縮まっていない、と。

 むしろ先日初対面の飛鳥のとほうがよほど打ち解けられている印象がある。

 

 何せ同級に籍を置き、昨晩命懸けで共闘したりなどした所で、彼女は飽くまで“仕事人”であり、俺のことなど同僚、もしくはある種の後輩としての他には見えておらぬ風が感ぜられたからである。

 無論この感じは千歳や飛鳥にも同様で、実をいうと鹿ヶ谷氏にすら心底気を許している風には見えなかった。なお、任務中は幾分と人が変わるため、これは特にPIRO事務所内で顕著だったということになる。


 然れど(あつ)い友情や色恋沙汰などといった、浮世の戯れとは薄縁の澄みきった気質こそ、かの若さであの弓裁きを為すと云わるれば納得もしうる。

 学校での彼女が大きな群れには決して属さず、大人しい面々と、あくまでそれなりに付き合っているに留まる所以の如何もここらに有りげだ。


 彼女が如何なる環境で育ったのかなど端倪すべからざることだが、凡庸な家の親は娘に弓を習わせあのような組織に入らせたりなどすまい。

 弓は剣や槍とまた一線を画し、無経験の者はその弦を正しく引きしぼるさえままならぬという程である。

 これらの点から、桧取沢嬢は“普通の女子高生”にあらず、と一まず結論を出しておく。


 未だ知らぬ事も多い為に暫定的且つ勝手なものではあるが、少なくとも恋愛対象として呼ばうなどは不可能に決まっているのだ。

 傾城の麗容や学校でおどおどと喋る姿はよくよく愛嬌を感じさせこそするものの、残念ながら実生活が茶飯事的に夕べの様子といった以上、あたら豊満なるその乳をも持ち腐れとせねばならぬとは。


 ……以上、一男子として満腔の遺憾を記せるなり。


「おい、こりゃ強ち嘘じゃあないんだぜ」

 尚も裕也は腹を抱え笑って()った。そしてその大声を耳にしたか、他の男等も数人ぞろぞろと集まって来た。雁首揃え、いつもの麻雀仲間だ。刻も昼休みである。

「早よ飯食おー」


「お前ら聞けって、衛介が目っ茶面白れーこと抜かしやがんの」

「へえ。エーちゃん何つったんだよ?」――人の真面目な語りをおどけ話へ広げるとは、何と不埒な。

「待て、特に可笑しなことは云っとらん!」


「ウェーイ」

「かーらーのォ?」

 さあ進退ここに窮る。えい、最早何だって構わぬ。何か云わねば。僅かにでも面白味有る、諧謔的文言をば。


「ぬう……桧取沢さんとかけまして。中国と説きます」

「その心は」


「……どちらもパイがでかいのだ」



 弁当箱の中身はたいへん美味であり、素晴しきものであった。しかるにそれ自体が我が身に福を呼ぶと云ったわけなどありはしない。


 むしろいつぞやの首相に劣らんばかりの下手糞な(ギャグ)で場を白けさせた挙句、ある愚友がネット上にそれをつぶやき学年へ広めんとまでしたものだから、なかんずく始末が悪い。

 よってめでたく「(しも)芸人」なる屈辱的二つ名を賜る羽目となったのである。


 まだある。帰り前に担任教師吉田へ学級日誌提出の延滞を詫びた際、彼は苦虫を噛み潰した様に嫌な顔をした。


 この若く威勢のよい保健体育教師はどちらかというと体育会系の出だが、話が校則関連や、物の〆切り云々になると三半規管が憐れまれるほど喧しい。

 特に課題など、休みの日をまたぐ延滞時に逐一電話をかけてくるあたり病的である。

 ……断言する。こんな担任、俺は好かない。

 尤も、担任に関しては本筋と皆目無関係であるから程々にしておく。


 さてまた、時は帰宅の道中。

 裕也がふと妙な話題を切り出した。只今この男が恋人との交際一ヶ月記念日において、当面相手に何をか買ってくれようと問うた矢先、そんな事を女も持たぬ童貞に尋ねてその心算(つもり)は如何ならん、と俺が突っ撥ねたところである。


「あっは、悪り悪り。そうだったな」

「さっきから乙に絡みやがって、喧嘩を売ってるんじゃあるまいね」

「いや、そ、そういや全然関係ねー話……!」これはしたりと思ったか、いささか無理矢理に話を他へ移したようだった。


「ん。今度は何さ」 

「朝のニュースでちらっと見たけどよ――こないだ喋ったホラ、あすこの遺跡? っぽいやつ。アレ、どうやら封鎖されるらしいな」

 今度は何を云い始めるかと思えば。

 野守蟲の死と共にその話は閉幕したのである。この期に及んで報じることなどあったものか。

 裕也にしてみれば単に世間話として語っているのであろうが、此方にとっては面白いどころか心底忌まわしき話であった。


「アー……俺ん地元の殺人あったとこか」

「そう、そう」

「ありゃ気安く近づいたもんじゃない。結局何が埋まってたか知らんが、あんなもん掘ったら祟られるんだぞ。その結果が例の事件なのだろ」

「……どうかしたか衛介」きょとんと裕也は首を傾ぐ。


「いや、世の中意外に、鬼が出るか蛇が出るか解ったもんでもねえんだ。俺が何を云ってんのか、お前さんには今一解らねえかも知れんが――」

 吾人はここまで述べながら、己が何をば語り、また何を以て口をつぐむべきなのか分別しえぬといった逡巡にかられた。「もし一生解らんならば、当然それに越したことはねえ」


「お、おう?」

「い、いずれにせよ封鎖ッつうのは英断だと思うねえ」

「えと、テレビじゃ宮内庁がナンタラっつってたし、単に皇族陵の類だったってだけの話じゃね……」

「ほう。お役所も良い仕事するでねえの。実際誰の墓だって構わんわ。下手に掻き出さず塞いどきゃいいんだよ」

 千歳の勾玉との因果関係は現状定かでない。

 然れどあくまで“元彼君”の台詞が正しければだが、某大学史跡発掘チームに対する加害者は昨日の敵の背後の者と同じということになる。


 手元の教科書「日本史・B」に因れば、勾玉とは縄文時代後期から古墳時代にかけて多い出土物の一種で、取り分け呪術的意味合いの強い宝飾品であるとされる。

 その形は獣の牙爪を象った物とか当時の人間が定義した“魂”の姿を現しているとかの説が有るらしく、此の程関わった妖力や妖石との関係をそこはかとなく連想させるものであった。


 仮に敵が妖石の収集を目的としているのならば、今得た情報を加味して以下の様な推測を立てることが出来る。

 まず、件の遺跡にもそれに勾玉やそれに類するものが埋蔵されていたと仮定したい。


 通常の勾玉は主に翡翠や琥珀などの珠石を材料に作られるらしいが、千歳の携帯ストラップになっていたそれなど稀に例外が存在するようである。

 連中が最終的に何を目的としているものかは推し量り兼ねるものの、妖石を収集している以上、墳丘から出土し得る品はそれを素材としているのであろう。


 次に彼らが目当てを回収するに際し邪魔となったのが、気の毒な発掘隊の人々であった。彼らに因って掘り当てられてしまえば最後、恐らく万遍の無い回収は不可能となってしまうのだ。

 なにせ古より呪術師など一握りの者には扱われておきながら、今日まで存在自体明るみに出ていない希少鉱物。更に人類がそれを加工した遺物とくれば古今未曾有の考古学的大発見として、さぞかし大仰に取沙汰されると見て疑いない。

 さすれば、おのずと敵は妖石の広まったぶんだけ妖怪変化を回収に遣り、殺生をさせて奪取するという策に訴えうるわけである。


 前回・前々回で、相手が如何に手荒な手段をも露と厭わぬ鬼畜の輩である事実は明白となっている。

 ……とはいえども連中としても省ける手間は省く為、早急に手を打ち調査陣を消した上で回収したと考えられるのだ。


 したがって、ここでは遺跡その物も既に空であるものとする。発掘員に化けた刺客は確かに先日桧取沢さんが倒したとしても、昨日我々が山梨で四苦八苦している間は回収するに充分なはずだ。

 そこにまた時宜に叶うよう役所が封鎖を発表したとあらば、敵は渡りに船といって雀躍したことであろう。

 

 ここに敵はとんでもない「何らか」を入手してしまった次第か。

 敵に塩を送るを以て不首尾と為せど、その責が当方にあるわけではない。それでも、今やまさしく()()()()に刃物と云うべき状態になってしまっているのだからおっかない。


 一方、事件を経て危険と見做したか遺跡が差し押さえられたお陰で、これ以上墓を掘る者は現れまい。

 下手に宝を入手したばかりに無辜(むこ)な被害者が増えるという不条理は金輪際、少なくとも地元では無さそうに思える。

 ――むしろ、現状喜ばしきは思いつく限りこれのみであった。

 斯かる具合に考えてみれば、事態は丸っきり終ってなどいないではないか。肝を嘗めて前言は撤回しよう。


「衛介、なあ衛介ってば」

 裕也が呆れた顔で、しきりに声を掛けてくる。

「……ン、おぉ。今何か喋ってたかい」

 またもや地金の錆を露呈したらしい。俺は意図せず長考に陥ってしまっていた。


「おまっ。ガチで聞いてねーのかよ」

「スマンすまん。いーやともあれ、お墓と鼻糞はあんまし穿(ほじ)らんほうが良い」

「んな話とっくに終ってるっつうの……てか今日の衛介なァんか変じゃね」

 流石我が友。俺が諸々に気を病んでいると容易く見抜いてのける。

 それでもこの友に相談できた話でないのは自明の理であって、しかも桧取沢さんがあれ程に憚っていた以上、ゆめゆめ噯にだって出せはしない。


「そうかい? マァちょいと、いや、かなり疲れとんのかもな。どうも今日は調子悪りい」とは、強ち空言でもなき話であった。


「やァい、生理だ、生理」

「その下らん冗句、次はオマエの智美ちゃんに云ってみるが良いぜ」

「お、ちょっぴり怒ってるな……? じゃ、今日は(はら)冷やさねえように早よ寝んだぞ! 暖かいもんも食っとけよ!」

 我が莫逆(ばくげき)の友は、よく笑う男である。無為に茶化されこそしたが、俺は少し元気が出た気がした。

 いざ機嫌を治さんと思う。切り替えは大切であろう。


「あいや、別に怒っちゃいねえ。ご結構ありがとさん」

「そら良かった。オレとしたことが心配しちゃったわ」


「んん……ところで話は大分戻るけどよう、女へのプレゼントにキーホルダとかってのは如何かね」俺は、そこはかとなく思いついた旨を語っていた。先程は大層きつく撥ね付けてしまったのが、今更ながら申し訳無く思えてきたのである。

 いささか忸怩たる思いで、俺は付け加えた。

「今時ベタ過ぎだっつったらそうだが、ペア持ち縁結び系アクセサリというのを敢えて嫌がる女もそうは在るめえ」と。

 只、これしきが果たして参考となるものか否かは、いざ知らず――。


 そして丁度我らは駅に着き、立ち話もそこそこにして銘々の帰路に就いたのであった。

 一つ思わくは、この時の会話が多少なりとも虫の知らせとなってさえいれば、後の我が対応はもっとましなものとなったのやも分からぬということである。

※本場中国で使われる麻雀牌は日本で「下駄牌げたパイ」と呼ばれるだけあって、一つ一つがやたら大柄です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ