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言ノ葉  作者: はぎぽん
二章  怨嗟
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階段と少女

 無人の教室で机に突っ伏して寝ていると、ガラガラと扉の開く音がした。ああ、もう放課後か。

「今日部活無いし、一緒に帰ろうよ。良人」

 皐月(さつき)の声が教室に響く。まだ少し肌寒い四月の空気が、オレの肌を優しく撫でた。


 あれから数日過ぎた。また生徒は姿を消し、彼が消えてからもう10日経っている。あろうことか、舞先輩も行方をくらませ、音信不通のままだ。

「最近悩んでるでしょ、良人」

 俯いたまま話し始める、皐月。ここ数日の間、色々な事がありすぎて、彼女も、オレも、少し混乱していた。


「私には言えない悩み?」

「いや、そういうわけじゃ――」

「――分かってるよ。調べてるんでしょ?あの事件の事」

 オレは、口を閉ざすことしかできなかった。

 雨が降っていた。ここ数日続く雨に、オレはウンザリしていた。


「別に、言わなくても大丈夫だよ。言っても、止めないだろうから」

 でも、と彼女は続けた。水分をたっぷり含んだ灰色の空は、重く、オレの心にのしかかるようだった。

「バレたら強制的に退学処分、そうでなくてもただでさえ不気味な事件なんだから、身の保障はできない。気をつけないと、命の危険もあるんだから」

 彼女の声は、こころなしか震えていた。俯いた顔を上げると、じっとオレの目をみつめる。彼女の目は涙ぐんでいて、少しばかり充血していた。


「幼馴染だから、心配なんだよ……良人に何かあったら、私…は―――」

 言いかけて、そのままもう一度俯き、黙ってしまった。彼女の後ろ手に結んだ茶色の髪が、頭の動きに合わせて揺れる。

 一言も声を発さずに、黙々と帰るオレたち。遠くの山で、(カラス)が鳴いていた。


 それとなくいつも見ている掲示板を覗こうとポケットに手を突っ込んだ時、ふとある事に気づいた。

 携帯を学校に忘れてきたようだ。

「悪い皐月、学校に忘れ物した。取ってくるっ!」

「え、ちょっと?!良人っ?!」

 

 言い終わるか終わらないかの内に、オレは走り出していた。




 誰もいない教室は暗く、雨で冷えた空気が静寂を包んでいた。

――あった、オレの携帯。

 オレは携帯をポケットにねじ込むと、すぐさま帰路につこうとした。

―――ヴヴヴヴヴ――――


 ふと、携帯が鳴る。見ると、知らない電話番号が出た。

「誰だ……?」

 怪訝に思ってスライドさせると、舞先輩が出た。


『―――何度も電話したのに、まさか全く出ないなんてね』

「るせーな、学校に忘れてたんだよ」

『と言うことはあなた今、学校にいるのね?』

――ん?

 

「先輩、そりゃどういう――」

『今すぐ、屋上に来て頂戴。伝えたい事があるの』

 伝えたい事を伝えて、プツンと電話は切れた。







「――まったく、電話をしてからここへ来るのに、どうしてこんなに時間がかかるのかしら」

 屋上へ階段を駆け上がるを、扉にもたれかかった舞先輩を見つけた。続く雨なので、屋内で雨宿りしていたのだろう。

 で…だ。

「何でアンタがオレの電話番号知ってんだよ」

「ああ、そんなのネットでバラまかれ……学校の先生にお願いして見せてもらったからよ」

「おい、今何か言いかけてなかったか?」

「―――とにかくっ!新しい情報を見つけたからあなたに伝えたかっただけよ」


 彼女はブレザーのポケットから一枚の紙切れを取り出す。紙には、定規でまっすぐに書かれたような文字が続いていた。

「週に一度、木曜日に生徒会が設置した意見箱を開ける事になっているの。そこで、この紙を見つけたわ」



――生徒会の皆様へ。

 このところ続いている、失踪事件。

 もう何人も死んでおり、そしてまた一人、姿を消しています。

 私は、彼女の居所を突き止めました。彼女に会い、今週の土曜日にある所へ来てほしいと伝えています。

 もしこれが呪いだとするならば、彼女は死ぬ―――

 どうか、彼女を助けてあげてください――――






 文字の列は、そこで終わっており、下には地図のようなものが書かれていた。

「指定した場所はここから電車で20分ほどの山間部よ」

 同時に地図を取り出すと、赤くマークされた部分を指差す舞先輩。彼女がいると思われる場所だ。

「―――ん?彼女(・・)?」

「そう…それよ。次の犠牲者は、女性。私の読みはハズレだったみたい」


 バタバタと、雨粒が屋根を叩く音が聞こえる、今日いっぱい、止みそうにはなかった。

「それと、この手紙を書いた人。その人が全く分からないの。もしかしたら、そこに連れて行くこと自体が罠なのかもしれない」

「俺たちが……殺されるって事か?」

「――分からないわ。これだけだと、行くべきかどうか、迷ってしまう。だから、あなたの判断を聞きたいの」


 オレは、先輩の本意に気づけないでいた。

 オレは彼女よりも頭が悪い。そんなオレに、なぜ判断をゆだねるのだろう?

 頬に、冷たい感触が伝わる。彼女の手だった。


「あなたにはね、正しい答えを導く力があるの。だからあなたに、どうするか決めてもらいたいの」

「――行かないならどっちにしろ死ぬ。それで助けられるなら、オレは行く」

 ふっ、と彼女の表情が緩んだ。


「そういうと思ったわ。今週の土曜日、彼女の所に行きましょう」

 待ち合わせの場所と時間を取り決めると、彼女は用事があるからと急ぎ足で帰ってしまった。周りの空気は冷たく、風の唸る音と雨粒が屋根を叩く音だけが場を支配していた。




 階段を駆け下りると、黒い何かにぶつかりそうになった。

 急ブレーキをかけたせいで足はもつれ、階段を転がるように落ちていく。

 マズイ、このままじゃ壁に―――

 そう思った時、ふにっとした何かに止められた。気づくとオレは、白い腕に抱きとめられた。


「わわっ?!…っと、危ないよ君、大丈夫?」

 真上から、女の声が聞こえた。やっとの事で見上げると、目の前には布切れがあった。

「痛て…白か―――ぐおぁっ?!」

 抱きとめられたと思ったら、太ももに蹴りを入れられた。


「な、何で蹴るんだよっ?!」

「君がっ、私のスカートの中覗いたからでしょっ?!」

 少女は、恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤に染めていた。リボンの色から見て、先輩だ。

「ったく、分かった分かった、謝るからまず落ち着けって」


 オレの声を聞くなり、ぷしゅうと風船が沈むように彼女の怒りは収まっていった。

「とにかく、危ないよ走ったら。それと先輩なんだから敬語を使うこと」

「るせーな、オレは元からこうなんだよ」


 すると、彼女はもう一撃食らわせようと足を上げる。地面に手をついてる状態なので、チラチラとソレが見えているが、指摘した瞬間にオレは夜空の星にされるだろう。

「分かった、分かったから蹴ろうとすんじゃねーよチクショオオッ!!」

「はあ…もういいよ。言っても分からなそうだし。私、千歳(ちとせ) 琴葉(ことは)……君は?」

対馬(つしま)良人。てゆーか、何でこんな時間にいるんだよ?」

「え?…あ、えーと…じゅ、授業中に寝ちゃってて。今起きたの」


 明らかなウソだった。

「いいから帰らねーと雨、強くなるぞ。早く帰れよな」

「どっちにしても敬語じゃないんだね…まあ、いいか。良人君ね、覚えたよ。またね、良人君」

 手を振ると小走りに去っていく琴葉先輩。なんだか、不思議なヤツだった。



前回、何だか短めだったので頑張ってみました。

茜ちゃん…出番少ないなぁ……

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