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言ノ葉  作者: はぎぽん
五章 呪ヒ
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残骸と旋風

 燃え盛る炎が、辺りを灰にしていく。

 遠くの山で、爆発が起きた。戦時の時の、不発弾だと琴葉先輩は言う。

 そこまでは、理解の範疇だ。

「―――何でだ―――――」

 

 なぜ、こんなにも火の手が回るのが速い?

 クスクスと、不気味に微笑む先輩。

「火災風って知ってる?火災が起きた時に生じた気圧差が起こす、風の事。その速さは人間をゆうに超える」


 焼け付くような熱が、喉を、肺を伝わる。炎は、既に近隣の住宅地まで来ていた。

「火災風が起きるには、材料が必要なの。燃えやすい物と、そこを吹き抜ける風。それと酸素」

 この辺りは山が多い。山々の隙間を縫うように風が吹き抜けており、弱くも強くも常に風は吹いている。それに今は四月の終わりで、枯葉も多い。

「100パー起きんじゃねーか」

「そういう事になるね」


 一際強い風が起きる。その風に合わせるかのように、炎が合わさっていく。

「火災風はその内に一つとなり、火災竜巻を起こす。そうなったら、もうオシマイだよ」

 先輩の言葉通り、火は一つになり竜巻のように高く上がった。皮膚は乾き、焼けた喉が張り付く。

「こんなん起こしたらアンタも死ぬだろ」

「うん、そうだね。このままじゃ、私も死んじゃうかも」


 死に関して何とも思わないかのように、彼女は吐き捨てる。まるで、死を恐れていないように。

「でもね、私はまだ死なないよ。残った皐月ちゃんを殺す為に―――例え身体が消えてもこの魂だけであの子を殺す」

「どうしてそんなにアイツを殺したがるんだ」

「君には関係無いよ」


 パン―――――ッ!!

 近くで小規模な爆発が起こると、オレの頭上に火の玉が降り注いだ。咄嗟にソレから身を(ひるがえ)すが、いくつかブレザーに当たり火が着く。

「クソが―――ッ」

 ブレザーを脱ぐと、その場に叩きつける。酸素を奪われた炎は、即座に鎮火された。


「今だったらまだ引き返せる。もう止めろ、先輩」

 彼女は何も言わず、落ちていたガレキを持ち上げ、自ら(・ ・)こちらに投げつけた。屋上から飛ばしてきた時よりも威力も速度も無いが、その目はハッキリと拒絶の色が浮かんでいた。

「全く――ブレザーのクリーニング代は払ってもらうぜ」

「その前に生きてれば――ね」

 

 それが引き金になったかのように、ヒュンヒュンとガレキが唸りをあげる。全てかわそうとするが、その内のいくつかがオレの肩口を切る。オレの肩からは、赤く熱い液体が流れていた。

「―――うわっ、熱っちいッ!!」

 足をもつれさせて地面に手をつく。土は火災で焼け、触れる事は出来なくなっていた。


「そろそろ飽きてきちゃったな………もう、オシマイ?」

「――まだに決まってんだろ、テメーを止める」

「そう、じゃあ早くしてよ。私そろそろあの子殺しに行きたいんだけど」

「させるかっての」


 火を纏った竜巻から、火の玉が飛び交う。それらをかわしながら、オレは琴葉先輩に近づく。

「――近寄るな―――――ッッッ!!」

 直後、オレは突き飛ばされた。

――何に?

 地面の熱さに焼かれないよう、素早く立ち上がる。見るとそこには、大きな地割れが起こっていた。

「もう……やめとけよ―――」


 ヨロヨロと、彼女に歩いていく。ガレキが、炎が、オレを襲う。彼女の感情の触れ幅が大きくなるに連れて、それらも威力を強めた。

「こんな事したって、何になるんだよ――ッ!?」

 一瞬だけ、彼女の攻撃が止まる。

「―――――さあね」


 再び攻撃が再開される。オレは、彼女に近づくこともままならない。

「死ね――」

 彼女の口から、言葉が漏れた。

「死ね――死ね――死ね、皆死ねよ――――ッッ!!皆嫌いだ―――皆、皆皆死ね――ッッ!!」

「何がそんなに気に食わねぇんだよ……?何がテメェをそうさせるんだよッ!?」

「うるさいッ!!君には――君は関係無いよッッ!!」


 彼女が激昂すると、飛んでくるガレキの飛翔速度も上がる。今のガレキは、音速を超えている――。当たれば、即死だ。

 彼女は、呪われている(・ ・ ・ ・ ・)

 言霊、そんなモノに頼らなきゃいけないほど、彼女は弱かったのだ。

 だから―――

「テメェは、オレが助けてやるよ―――」


 ペッと、唾を地面に叩きつける。そのほとんどが血液だった。

 自嘲気味に、琴葉先輩は笑う。

「私を?君が?そもそも、一体何に呪われてるのさ」

「自分、自身だ。アンタは自分で自分を呪って――自分を追い詰めて、自分を殺してる」

「―――ぷっ、くく――馬鹿?馬鹿なの――馬鹿でしょ――ふふ、あははははは――――ッッッ!!」


 腹を抱えて笑い出す先輩。その瞳には、一切の感情も含まれていなかった。

「知ったような事を言わないでよッッ!!君なんかに、何が―――」

「―――これから知るつもりだ。だから、もう止めろよ――先輩」

「…………聞き飽きたよ、その言葉」


 オレを冷たく見下す先輩の口から、再び呪いの言葉が紡がれる。しかし、何も起きない。

 ポツリ。

 オレの頬に、何かが落ちてきた。雨だ。

「―――雨?」

「そうだよ。喉が渇いたでしょ?ほら、飲みなよ」

「バカにしてんのか」

「全くもってそのつもりだけど」

「――随分と下に見られたモンだぜ、ったく」


 違う。

 勿論、彼女の狙いはオレに飲ませる事じゃない。

 ならば、何を狙っている?

「くす、何も分かってないんだね、良人君」

 

 空気が冷えれば、何が起こるんだっけ?―――そう、彼女は聞いてきた。

 火事が起きて、雨が降った。気温が急に下がっている。

 もしも、空中の水分――雲の中の水分が急激に冷やされて固まったら?


――コツン。

 始めは、小さな氷の粒だった。

 それはだんだんと大きさを増していき、オレの体を叩く。

「――まさか」

「そのまさかさ」


 (ひょう)だっ!!

 アイツ、最初からコレを狙っていて―――

「簡単には殺さないよ。こうやって地道に――ねッ!!」


 パラパラと乾いた音を鳴らして落ちてくる雹は、その質量を高めてオレに襲い掛かる。肩が、腕が、頭蓋(ずがい)が歪んでいく。

「クソ――が―――」

 頭と首を押さえ、逃げる事しかままならない。オレはこのまま殺され――

「―――?」


 目の隅で、何かが動いた気がした。

 ガレキの下で、蠢く何か。

「―――――――」

 

―――舞先輩だった。

 彼女はそのまま琴葉先輩に悟られぬよう起き上がり――


――無理やり、ガレキに刺さった脚を引き抜いた。

「―――――――――ッッッ!!!」

 ブシュリと鮮血が溢れる音が聞こえた。脈が、切れていたのか―――

 その悲鳴と音とに驚き、琴葉先輩が彼女の方を向く。チャンスは今しかない。

 オレは走り出し、彼女の細い身体に肩を突き出した。


「――ッッ」

 音も無く吹き飛ばされる先輩。オレはその腕を、掴んでいた。

「――ようやく掴んだぞ」

 状況が飲み込めた先輩は、オレを引き離そうともがく。オレは、彼女を握る手に力を込めた。


「言ったはずだ。アンタは助けるって」

「何を……言ってるんだよ。この状態じゃ、君は逃げも隠れもできない」

「ああそうかよ、でもこれならアンタもタダじゃすまない。アンタを守れなくても――皐月は、皐月と舞先輩は守れる。ほら、殺せよ」

 一瞬の沈黙。その表情は、何かを躊躇っているようにも見えた。


「君ってヤツは……とことん私を苛立たせてくれるね。だから―――」

 彼女の周りの空気が、数段階下がった気がした。

「――次で、終わらせるよ」

恐らく、次で最終話となります。

続編予定ですが、投稿は出来次第なので未定です。

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