宣告と繁華街
曇天の空が、辺りを包んでいた。
生徒が消えて十一日、舞先輩から一通のメールが届いた。
『話があるの』
メールの文面は、それだけだった。
「よく、ここだと分かったわね」
バタバタと校旗が風に揺れる。先輩は、考えた通り屋上にいた。
「この前、妹がボソッと言っててな。気に入ってるんだろ?ここ」
「ええ、ここにいると気分が安まるの」
屋上に佇む、舞先輩。その姿はとても儚げで、美しいものだった。
「あなたに来てもらったのには、理由があるの」
「失踪事件について―――だろ?」
彼女は一瞬躊躇うと、重く口を開く。
「そう――よ。来てもらったのは、失踪事件についての事」
とても申し訳のなさそうな表情をする彼女。一体、どうしたのだろう。
「良人君には悪いけれど……あなたには、身を引いてもらいたいの」
―――は?
「ちょっと待てよ、どういうことだ?始めはあんなに手伝え的な事言ってたのに、どうして急に――」
「――とにかくっ!!事情が変わったの」
オカシイ。今の彼女は何かがおかしかった。
「ごめんなさいね、良人君。あなたを、危険な目に合わせたくないの」
そう言い捨てて、屋上を去ろうとする先輩。オレは、彼女を呼び止めていた。
「―――ちょっと待てよっ!!自分勝手な事言いやがって!!」
「ええ、私も……自分勝手だと思うわ」
彼女は、そのまま姿を消してしまった。
ドカリと、ベッドに頭から飛び込む。オレは、あまりの彼女の変化にイラ立っていた。
――ガチャリ。ドアノブを捻る音が聞こえる。そこに立っていたのは、妹の茜だった。オレの乱暴なドアの閉め方に反応したのだろう。
「後にしてくれ茜、今は話をする気分じゃないんだ」
「――何かあったの、お兄ちゃん?」
寝転がるオレの横に、腰掛ける茜。その目は、心配そうにこちらを見ていた。
「生徒会長さんと、何かあったんだね」
「アイツ、あんだけ巻き込んでおいて今になって事件は調査するな、だとよ。戦力外通告だろ、コレ」
「生徒会長さんとの間に、何かあったの?」
「――いや、全然。急に言われて、コッチも混乱してんだ」
考えれば考えるほど、彼女の本当の目的が分からなくなった。
「何考えてんだよ、アイツ――」
なぜ、今更オレを遠ざけたのだろうか?
彼女らしくもない不可解な行動に、オレは困惑していた。
「――何か、お兄ちゃんを遠ざけなきゃいけない理由が、あったんじゃないかな」
「ソレが分からなくて、苦労してるんだ。普通なら、先輩があんな事言うはずがない」
それに、あの時の先輩は少し様子がおかしかった。まるで、何かに取り憑かれたような、焦り――
そう、それはまるで――
――あの時、目の前で錯乱していた―――
――あの時の少女のようだった。
「どうしたの?お兄ちゃん」
心配そうな目でオレを見つめる茜。自分でも気がつかない内に、身体には汗がじっとりと滲んでいた。
――呪い―――
――錯乱した少女―――
――不可解な先輩―――
恐らく、この三つは繋がっている。
嫌な予感がした。これからもっと最悪な事が起こる、そんな予感。
「――やっぱり、納得行かねぇ。アイツともう一回話してくる」
オレは不安げな妹をよそに、自室を後にした。
誰もいない公園で、オレは舞先輩を待っていた。
彼女に電話をしても、プツリという音と共に留守電へと切り替わる。ダメもとでメールを送ったが、やはり返事は来ない。
とりあえず、指定した待ち合わせ場所で彼女を待っているが、何分、何十分待っても彼女は来ない。
「何やってんだよ、先輩――」
オレは、無意識のうちに駆け出していた。
人通りの多い繁華街。
オレは、彼女を探す手がかりもなく、とにかく探すために街中を探して回っていた。
相変わらず、携帯は一度も震えることは無く、彼女とは音信不通だった。
「どこにいるんだよ、アイツ」
上がる呼吸を無理やり働かせ、もう一度走る。日は完全に沈み、街灯がポツポツと明かりを灯し始めた。
どれだけ走っただろう。駅前に、学校に、先日のケーキ屋に―――彼女が行きそうな所へは、全て行きつくした。
彼女は電話にも出ることなく、メールも帰ってこない。結局、見つからないままだった。
「いや――まだ、探しきれてないだけかもしれないな」
そう自分に言い聞かせ、もう一度来た道を戻ろうと走り出そうとする。丁度その時、一人の少女がオレの横を通り過ぎた。
茶色がかったブレザー。少し茶色のスカート。オレの、学校の制服だった。
背丈も丁度舞先輩ほどで――
――オレはその少女を追いかけた。
「おいっ!待ってくれっ!!」
急いで彼女を呼び止めると、少女はゆっくり振り向く。
「あれ――?君は確か、良人君――だっけ」
そこにいたのは舞先輩では無かった。確か――
「琴葉――先輩?」
「ああ、やっぱり良人君か。久しぶり」
「え?あ、どうも」
間延びした口調と、マイペースな性格に、一瞬言葉を詰まらせた。
「それにしても凄い急いでたけど……どうかしたのかい?」
琴葉先輩に聞かれて、答えるべきかどうか迷った。しかし、言ったとしても舞先輩は怒らないだろう。オレは今日あった事を全て話した。
「ふうん……生徒会長さんが、ね――」
「何かいつもと様子がおかしかったんだ。もしかして、アイツの身に何かあったんじゃ―――」
オレの言葉は、琴葉先輩の指によって遮られた。
「そういう不吉な事を言うもんじゃないよ、良人君」
パッと、指を離す先輩。舞先輩みたいな事をするヤツだった。
「言葉っていうのにはね、魂が宿っているんだよ。言ってみれば、言霊。不吉な事や縁起の悪い事は、口に出すと本当に起きてしまうの。だから、そういう事は言っちゃダメ――」
「じゃあ、いい事を言ってれば実現するってのか?」
「あくまで言い伝えだよ。それこそ、本当に起きちゃったら笑えないからね。大丈夫、生徒会長さんにはちゃんと会えるよ」
じゃあね、と腕をブンブン振る琴葉先輩。最初から最後まで、彼女はマイペースで――
――どことなく、不思議な感覚がするヤツだった。
アイデア―――が――
絶望的に無いです。はい。




