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言ノ葉  作者: はぎぽん
三章 揺ラギ
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静寂と疑念

 あれから、オレと舞先輩は黙りこくったまま電車を降りた。

 彼女の過去を知った。オレは、何も言えなかった。

 一言も交わさず、何も声をかけてやれずに、彼女と別れた。



――パチン。

 スイッチを押すと、パチパチと蛍光灯が点滅する。部屋は静かで、冷たい空気が辺りを包んでいる。

「―――?」


 二階に続く階段に、茜は体育座りをしながら、俯いていた。

「メール、読んでくれていたんだな」

「もう、寝る前だったよ。あとちょっと遅かったら、鍵閉めちゃうところだったもん」


 テーブルの上は綺麗に片付けられ、鈴音さんと皐月の騒いだ痕跡も無くなっていた。

「――やっぱり、何かあったんだね?」

 見上げた妹の顔。オレは、彼女に全てを話した。話し終わる時には、時計の針は二回転していた。




「――土砂崩れと、爆発?ううん、そんなニュースは見てないよ」

 ココアを注いで、テーブルに運ぶ茜。

「お兄ちゃん達の行った場所だと、地すべりはよくあるからね。土砂崩れが原因で爆発したとしても、予想ぐらいはされてたんじゃないかな」

「――どうして、そんな所へ行ったの?」


 唐突だった。

「やっぱり、生徒会長さんと事件を調べてるんだね――何が、あったの?」

 オレは、山の中で起きた出来事を茜に話した。少女を助けに行ったこと。その少女が謎のパニックに陥った事。

 その時、少女の言葉が頭で反芻された。


――あの人はどこ―――ッ?!



「――あの人?」

 そう、『あの人』とは誰のことだろうか?

「どうしたの?お兄ちゃん」

「いや……何でもない」


 嫌な予感がした。

 まだ、何かある――今日起きた事よりも、さらにひどい何かが起こる、そんな予感がよぎった。

「ふあぁ――眠い……悪い茜、もう寝るわ」

「うん、この話はまた今度だね」

 はっきり言って、まだ眠くは無い。茜には悪いが、一人きりで考えたかった。





 自室のベッドに飛び込むと、ズボンのポケットが震えた。緩慢な動作で携帯を引き抜くと、画面をスライドさせて電話に応答する。電話の相手は、鈴音さんだった。

『やっほー、良人君』

「…どうしたんですか、鈴音さん。こんな真夜中に」

 時間は既に、午前零時を迎えようとしていた。一体、どんな目的で彼女はオレに電話をかけたのだろうか。


『あー…いや、皐月がね、「なんか良人、悩んでるのか最近元気無いんだよ」って。だからちょっと、慰めてあげようかなーって』

 完全なるありがた迷惑だった。

「いや、特に悩みなんてのはないんすけど」

『まあまあ、とにかく聞きたまえよ少年。いやー、皐月から聞いたよ。そっちの生徒会長さんと、良い感じなんだって?』

 ありがた迷惑な上に、勘違いだった。


―――ん?

「なんでアイツが知ってるんですか」

『お、やっぱりそうだったんだ。へぇー…そかそか、皐月に報告してあげないと』

「――は?」

『それと良人君。君も気をつけたまえよ。女ってのは恐ろしいから、君みたいにすぐ誘導尋問(・ ・ ・ ・)にかかる人はあっという間に騙されちゃうんだから』



――ダマされたッ!!

『うんうん。青春だねえ。じゃ、知りたかったのはそれだけだから。頑張れよ、少・年』

「え、おい、ちょっ!?鈴音さんっ!?」


―――プツン。

 抗議する間もなく、電話は切れた。結局、彼女の目的が何なのかは闇の中に消えてしまった。






 朝は、昨日の続きとは思えないほど静かで、落ち着いたものだった。

 いつも通りに皐月に叩き起こされ、朝飯を口の中に詰め込まれながら学校に向かった。


「最近、変わらなくなったよな」

 空を見上げながら、それとなく呟く。

「変わらないって?」


 いつぞやと同じようなやりとり。いつぞやと同じような道。いつぞやと同じような会話。

「いや、ほらそこ」

 オレが指差す所には、新しく回転したフライドチキンのチェーン店があった。扉の前には、杖をついたにこやかな白髪の老人が立っていた。


「あのおじいさん、赤髪のピエロさんとライバルなんだよね」

「ハンバーガーとチキンじゃ比べようもないだろ」

「まあ、それもそうだよね」


 全国にチェーン店が出回っているこの時代だ。街に出れば、少し探せば見つからない事が無くなっている。

 しかし、量が多いということは、その分土地が食われるということになる。

 その内、全てが同じになってしまうんだろうか。どこへ行っても、どこを見ても同じもの。

 変わることの無い世界。それは、このように同じもので全てを統一してしまうことなのだろう。そんな事を考えてると、なんとなく恐ろしい気がした。


「良人、また難しい顔してる」

 むにいいいいぃぃぃ……と、皐月の両手がオレの頬をつねる。身体を捻って逃れると、彼女の表情は曇った。

「やっぱり、悩んでる」

 俯き、歩き出す皐月。オレは、静かについていった。


「生徒会長さんと事件調べてるの、知ってる。昨日、スズ姉に聞いたんだ」

 ああ、鈴音さん…なんでこう、面倒な方向に持っていくんだ……


「私には言えないのに、生徒会長さんなら言えるの?」

「いや皐月、オレは―――」

「私に迷惑をかけたくないから?いつもそうやって、私を遠ざける。七年前の事故も、そうだった。私は―――」

「――悪い、皐月。そういうんじゃ、ないんだ」

「生徒会長さんが好きだから?」

「――そういうのでもない。ただ、オレは―――」


「――ダメなんだ」

 オレの言葉を聞き取ると、彼女は俯き、早足でオレを抜いて行ってしまった。

ちょっと話のアイデアがつまってまいりました…(笑)

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