#88.5 流星シャトル!
キュッキュッと常に耳を劈くフローリングを蹴る音。ウレタン樹脂を蹴り擦るまさに体育館って感じのこの音が私は嫌いじゃない。
よくバスケ部の友達が「部活嫌だなぁ〜」って愚痴ってるのを聞いてあげるけど、その度に心の中で思うの。
何で辞めないんだろう?って。
勿論思ったからって言いはしない。もう2年も続けてる部活なんだから、ここまで来たらやり遂げたいよね。たまに零してみたい愚痴だって誰にでもあるんだから私は黙って聞いてあげる。
ここが小学生とは違うところで、中学二年の私、天条紅空の有効的で友好的な人付き合い論です。
「……。」
そんな私はぼけーっと天井に挟まったバレーボールの数を数えています。
いくら挟まってたの?って聞かれれば、あれ?いくつだろう……ってくらいに適当な数え方です。
気を紛らわせればいい今の私にとって、挟まってるバレーボールの数なんてどうでもいいんです。
……一応これでも部活中なんですけどね。
「紅空〜、次コート入ってね〜」
おっと、私の順番が回ってきたようです。先輩であり私の所属するバトミントン……ではなくて『バドミントン部』の部長、谷口最夏先輩の指示に返事をしつつ私はよっこいしょっと重たいお尻を上げます。
……あ、嘘嘘。別に重くないです。胸は重たいですけどね。
女子のバドミントン部は人数が多くてコートに入れる人数以外はこうしてさっきみたいに挟まったバレーボールの数を数えていたりし
ます。他の子達はアニメとかの話をしてるけど残念ながら私には付いていけないです。弟のしんくんなら分かりそうな話題ですが。
確か前にしんくんが「卍解!」とか言って遊んでた気がします。そのアニメが今バドミントン部内で流行っているのです。
ばんかいとか言われてもよく分からないです。とりあえずしんくんは自分の成績を挽回すればいいのにな。
さてと、コートが空いたのでさっさとラケットを持って入ることにします。ノロノロしてると副キャプテンの喝が飛んできますからね。
相手は男子バドミントン部の同級生、田中くん。特に喋ったことはないけど少しイケメンな感じで苦手かな。
女子バド部の話題でアニメ話の次点に来るのは恋バナです。恋バナと言っても皆が思ってそうな心をキュンキュンさせるような物じゃなくて「○○?ありえないっしょ」「それよか○○でしょ〜。てか最近花子いい感じじゃんどーなの?」「くっは、ありえないっしょ
。アイツ手汗マジぱねーの。保湿ぱねーのって」って感じの弧威馬那なの。
「天条〜ジャンケン。」
田中くんは先攻後攻を決めるべくジャンケンを求めてきます。バドミントンは先攻後攻が割と人によって重要度が違いますから真剣です。ちなみに私はサーブが苦手なので後攻を勝ち取りたいですね。
よーし、勝つぞ!
「先攻後攻ジャッシンほい!」
「……は?」
ジャンケンをする時の恒例の掛け声を発しながら私はチョキを出します。
田中くんはジャンケンをしてくれませんでした。
「田中くんジャンケンしてよ」
「いやいや、何その掛け声。ジャッシンほい?」
おやおや、どうやら私のジャンケンの口上に戸惑ってしまったようです。これって初めて試合で当たる人とのジャンケンでのあるあるで、良くこんなやり取りが見られます。
……私だけじゃないはず。
要は育ってきた地域で違うみたいです。具体的な例を挙げると二組のチームに別れるときにやる『グッパー』と呼ばれるもの。これに至っては名称すら地域で違うのかも。
グッパーの口上は本当に様々。「グ〜と〜パッ!」って掛け声もあれば「グッパーでわっかれ〜ましょっ!」とかその他諸々。
ちなみに私は「グッパーなーれーなってーオトナッ!」って掛け声。長すぎていつジャンケン出すのか戸惑う人がほぼ全員なくらいに置いてけぼりを食らう掛け声。これのせいで以降、私がジャンケンの掛け声をする機会を与えてもらえなかったの。ウチの地域は色々と独特みたい。
「……ったく、オレが掛け声やるよ。はいジャンケンぽい!」
田中くんの平凡な掛け声に合わせて私は変わらずチョキを出す。相手はパーなので私の勝ち。
「それじゃ後攻で。」
「りょーかい。」
ラケットを胸の前で構え、腰を低くする。いつでも動けるように肩の力を抜いて、田中くんの手元に集中。羽が田中くんのサーブによって高く、高く上げられる。
試合の緊張感が一気に全身を支配する。私は弾むようなステップで羽を打ち返した。
「……はぁ。」
試合が終わりました。結果は敗北。あと一点でデュースに持ち込めたのに、もう一手が及びませんでした。
持ってきたタオルに顔をうずめ、しばらく賢者になります。
「紅空。」
隣から聞こえてきた良く知る声に私はバッと顔を上げます。
側にいたのは凛々しい笑顔の最夏先輩。
「さっきの試合惜しかったね、もうちょっとだったのに」
「あ、ありがとうございます。」
見てたんだ。全然気付きませんでした。
……まぁ気付いてしまったら試合に集中出来なさそうなので鈍感で良かったです。
「……紅空さ、お願いがあるんだけど」
「はい?」
最夏先輩は急に笑顔を引っ込め、真剣な眼差しを向けてきます。整った美形の顔立ちから向けられる真摯な眼差しは不覚にもドキドキと胸が高鳴ってしまいます。
「ウチらの最後の試合。団体戦のメンバーが一人足りないからさ、二年生の中から選ぼうと思ってるんだけど……紅空、どうかな?」
「……え」
なんとなんと、私が先輩方の最後の試合に参加してくれと頼まれてしまいました。流石の私も開いた口が塞がりません。
「どう……?」
「ど、どうも何も私ですか!?私で……いいんですか?」
女子部員の中から選ぶとなると、実力は横並びって感じで、その中から私が選ばれる理由が分かりませんでした。
最夏先輩は私の思っていことを何となく察したみたいで浅く座っていた腰を下ろして三角座りで言葉を紡ぐ。
「紅空ってこんな練習の試合でもすっごい真剣じゃん?良く動くし手を抜かない。例え実力があんまりでも、ウチらは紅空と最後の試合で戦いたいかな。」
「……おぉ。ありがとうございます。」
すごい。とても良く部員の事を見ていたんだ。それが、三年生の総意だと言うのなら私は自信なさげにこう答えます。
「それじゃ、出ます!出させてください!」
今でもよく覚えている、先輩方と一緒に戦った最後の試合。悔いの残らない様に最後の最後まで相手から返される羽に食らい続けた。
震える足。疲れる首。揺れる胸。
広い広い体育館の隅で行われていた私達の試合は静かに幕を下ろした。それは先輩の三年間が終わりを告げたのと同時でした。結果は二回戦止まり。
私は泣かなかった。終わりを迎えた先輩達が涙を流す中、これからがある私何かが一緒に泣けるはずもなかったのです。
「紅空。」
試合後、帰り支度を済ませた私に最夏先輩が声をかけてくれた。泣き腫らした顔にはいつもの凛々しい表情が戻っていた。
「お疲れ様。本当ありがと一緒に戦ってくれて。」
「……いいえ、最後私負けちゃいましたし。」
目を伏せる私の肩に優しく触れて最夏先輩は微笑む。
「いやいや、大事な場面を紅空に任せてしまった私達の非力が原因だ。それでも、一回戦で紅空が勝ちを繋いでくれたから二回戦に進めたんだよ。本当ありが
とね」
その言葉を聞いて、私はどこか救われた気がした。
「私こそ、先輩方と最後まで一緒に戦えて嬉しかったです。」
ふと、私の記憶に流星群が横切る気がした。その一つ一つには先輩たちとの思い出が詰まっている。毎日の放課後を共に過ごしてきた優しくて頼れる先輩たち。
その全てに最夏先輩がいた。
気が付いた時には、私は頭を下げていた。半泣き面を隠すのに精一杯で、それでも涙を堪えた声音を振り絞り、一番言いたかった言葉を口にします。
「にぃっ……二年間!本当にありがとうございました!」
私はようやく……涙を流せました。
「……姉ちゃん、青春してたんだなぁ」
少々長くなってしまった話がようやく一段落つくと、聞き手の我が弟である天条心二ことしんくんは手元のお茶の入ったグラスを呷ります。
「まぁね、お姉ちゃんにも色んな甘酸っぱい青春があるんだから」
私も話し疲れたので手元の『守る乳酸菌』ことカラダにピースで私たちの生活を支えてくれるcalpisを飲みます。
「ふむふむ。優しい先輩だったんだな、最夏先輩」
そうよ〜と私は沈みそうな心を表に出さないように穏やかな笑顔を含める。
「そろそろ行こうかしら、しんくんはどうする?」
「行くよ行く行く!今度は最夏先輩から姉ちゃんの恥ずかしい話でも聞こうかな」
にへら〜っと無垢な笑顔でとっとこ玄関へと向かうしんくん。
「待ってしんくん。乙女には色々準備があるんだから。待ってる間に一発抜いてきたら?へけっ!」
「乙女が一発抜くとか言ってんじゃねぇよ!!……てゆか何で最後ハム太郎の鳴き真似?」
相変わらずのしんくんクオリティーなツッコミを受ける私は思わずニヤニヤしてしまう。本当、しんくんは面白い弟ね。
「……最夏先輩、元気にしてるかな」
玄関で待っているしんくんの為に私は手早く自室に上がり準備を済ませる。今日はこれから最夏先輩の退院祝い。入院先の病院へ向かう最中、再び私は青春を振り返る。あの時頭に流れた流星群は、あの日以降降ってきてくれない。
でもあの日の夜空は綺麗だったなぁ。
……今日の夜空は、綺麗なのかしら。
本当に更新遅れてすみません!!
遂に自分も就職まで半年切ってしまいました。
まぁあまり関係なく小説は更新していくつもりなのですが……w
しかし今はテスト前!!
今週中には続きの話のエピローグをあげてちゃちゃっとラストエピソードに入っていきます。
とりあえず今回は自分のブログ内で発表した書き下ろしの番外編ですw
二ヶ月以上投稿していない作品の目次に『この作品は二ヶ月以上投稿されていません』って注意書きが出るのには焦りましたw
読者いなくなると思ってwww
さてと、これからもよろしかったら『バ革命』をよろしくお願いいたします。




