#81 護道孤夏を救い出せ!
桜南校内に黒翅が侵入する中、教室待機組の生徒たちの中でもそれぞれの意思が行動を起こそうとしていた。
「……なぁなぁ優璃」
太刀川奏也は自身の携帯に目を落としながら優璃は携帯の画面に指を滑らせていた。
「待って!今ドロップ動かしてるから!今ボス戦だから!」
どうやらゲーム中だった様だ。パスドラ?ハズドラ?いいえ、それはパズドラ。
「なになにどーしたの?」
由美が横から奏也が手に待つ携帯の画面を覗き見る。
「え、なにこれ」
由美の漏らした感想はまさにそれだ。
画面に開かれていたのはメッセージ本文画面。そこにはただ一言『たぬえね」と意味不明な四文字が打たれていた。
送信先は、女の名前の様だった。
「……『護道孤夏』って、確か奏ちゃんに告白してきた……」
つい昨日に聞いた奏也の暴露話に出てきた人物である。
ボスバトルを倒した優璃はどれどれと奏也の携帯画面に目を向ける。
「たぬえね?なにこれ」
謎の平仮名四文字に意味を見いだそうとするが目ぼしい答えは出て来そうにない。
すると奏也は神妙な面持ちで、自信なさげな自分の予想を言葉にする。
「これ、わいには『たすけて』って意味やと思うんやけど、どや?」
ふむ、と優璃と由美、後ろで耳を傾けている李女はもう一度携帯画面に視線を落とす。
確かにキーフリックで助けての文字を打とうとするとこんな具合になる、というのは納得できる。
では、何で素直に『助けて』の言葉を打たなかったのか。急いでいたからといって自分の打った文字の意味が伝わらないと意味がない。
……普通に文字が打てない状況に陥っていたのだとしたら、という結論にやがて収束する。
「……もし、侵入者の件に巻き込まれていたら、という事か」
李女が確信を突く。
もしそうだとしたら、、、四人の間に怪しい雲行きが流れ出す。
「そんなの、助けなきゃじゃん!」
一目散に教室を出て行こうとする優璃の手を由美が引く。
「コード無しの単独行動は危険よ、うちも行く」
「当然わいも行くで。あの子と話つけやなあかんし」
「……コード無しの優璃ちゃん達が出て行くのは危険だ。先生に迷惑かけるのは申し訳ないが、私も行こう。」
四人の少女(内1人男)は意志を固めた。
閑散とした中庭で草木を眺めている橿場直之は身の回りで起きている騒動を他人事の様に聞き流していた。
煩い不良の声、飲み込まれる生徒の叫び声はやけに身近だ。
それでも彼は動こうとはしない。
所詮は他人事なのだから。
ドライな彼はやる気のない目を伏せ、閉じることにする。
……自分に声をかけてくる者が現れるまで。
「……何をしているの?」
そんな時は、すぐにやって来た。
流石の直之も目を丸くして声の主を見上げる。
「……あ、ッと、流星?」
「そうよ、流星雨凪」
1日ぶり……それもかなり嫌悪的に罵られたことしか記憶にない直之は彼女と顔を合わせずらい心境にあった。
出来ればこの二人しかいない広い中庭から早くも逃げたいまでに直之は気まずい思いをしていた。
「あれ、何とかしようとは思わないの?」
雨凪は正門に目を向けながらそう言った。
「……何?何とかしなきャいけねェのか?面倒だから遠慮したいんだが。」
直之は言葉を選んでいた。一応目の前の彼女は自分が暴力を働いた女子生徒の友人なのだ。何となくキツい断り方が出来ないのがどこかもどかしい。
「あら、面倒ならこんなところにいない方がいいんじゃない?結構目立つわよ。ここ」
「絡まれたらそん時考える。それまでは他人事だ」
そう、他人事に首を突っ込むのは省エネ精神な直之らしくはない。
そういうのは、そういうのが好きな奴らに任せる。
例えば、天条心二達である。
「……お、おい。守郎?」
正面玄関まで辿り着いた心二は、横たわる悪友に視線を落とす。
「……あ?……って心二かよ」
力ない表情で守郎はいつも通りに毒を吐く。
同じく、力ない声音で。
「何、負けてんだよ。バカ野郎」
「っせーなバカ野郎……悪いな。」
最後に小さく漏らす。
守郎が負けた……と言うことは、何人かの不良の校内への侵入を許したということだ。
「……ちなみに、何人?」
「5人だ。3人はそこらへんで倒れてるだろ?」
「うん。……まぁ守郎にしては良くやった方だね!もう休んでろよ」
心二は正面玄関から続々と押し寄せてくる不良たちに目を向ける。
「……あとは、オレの仕事だ。」
「そんなことないよっっ!!」
バタバタと後ろから聞こえてくる足音に振り返る。
やはりいつもと変わらない、みんなだ。
「優璃!由美!菜川!奏ちゃん!」
「いや奏ちゃんちゃうわ!」
気持ちの良いツッコミが心二を奮い立たせる。迫り来る不良達の進撃も何ら怖くない。
「早速だみんな!あいつらを撃退するぞい!」
「任せて心二!」
等身大のライフルを召喚する優璃は狙いを定める。
走ってくる奴らを足止めするには、もちろん足を狙うのが効果的だ。
意識を集中させると視界には照準を合わせるポインターが出現する。狙い所にポインターが重なれば、あとは引き金を弾く。
至って簡単、バーチャルシステム内での射撃において、不発はほぼあり得ない。
……しかしそれは、力を持たない者が相手の時のみだ。
「コード展開ィ……behemoth!」
不良達3人の前を走る男はコードを展開したと同時、照準を定めた右足が膨張し呆気なく弾丸を弾く。
「……銃撃が効かない、どうしよう来るよ!」
焦る優璃の肩に優しく手を置くのはコード展開済みの李女だ。
「大丈夫。」
李女の尻部から生える9本の尾先には段々と大きくなる水球。
水神雌狐のコードを所有する菜川李女の必殺コード、水圧砲射の射出準備だ。
「ところで天条、実は厄介なことになってな」
李女は表情を険しくしながら水圧砲射をぶっ放す。
「……昨日聞いた太刀川に告白してきたという護道さんが不良達に接触してしまった可能性が高い。」
「……え!?」
ボフッ、、、と李女の水圧砲射を全身膨張によって弾く相手側の不良。
「くっ……やはり一筋縄ではいかないか……って、あれ?」
李女は突然目を丸くする。
不良に自身の切り札が通用しなかったから……ではない。
一刻も早く奏也の想われ人である孤夏を探さなければならないのに、当の奏也がいなかった。
「おいあんたら。」
存在感を放つ奏也のドスを効かせた声音は二人の不良を振り向かせる。
「あ?」
二人の側で口にガムテープを貼られ寝かされている孤夏を見て、少し安堵する。
彼女は意識を失っている。
それはつまり……彼女の中では女の子の『太刀川奏也』を壊さなくて済むのだから。
「さ、始めよっか。」
「おやおや何を始めようってんだ?可愛い顔して意外とノリ気?」
ゲスい笑みを浮かべながら近寄ってくる不良の一人に奏也はフン!と言い放つ。
「わいを女やと思っとんのやったら、改め〜や」
すーっと邪念を吐き捨て呼吸を整える。
バーチャルシステムを展開させると出現したのは奏也の右肩に掛けられた身の丈を上回る程の槍だ。
「……ってゆーか、どっからどー見ても男やろがーーー!!!」
「うわっ何だこいつ!」
怒りや虚しさをぶつける様な直情的な刺突を繰り出す奏也に不良は冷静に半身に逸らして回避する。
「いっきなりひっでぇな。な?あんたも仲良くイイ事しようぜ?」
グイッと槍を持つ手側の肩を掴み壁際まで追い込まれる。
「ぐっ……」
「イイ声出すじゃん、気に入ったぜ」
男の吐息が首筋を通る。左手を強引に掴まれる。不良の覗き込むような視線が気持ちを悪くする。
すぐさま槍で目の前の野郎を斬り伏せようにもこうも密着されては槍を使えない。
重い槍は片手で扱う事が出来ない時点でこの場を逃れることはできない。両手で槍を持とうにも左手は不良に握られて自由が効かない。どうにも出来ない。だから奏也はホッと一息吐いた。
……本当に、身近な人がこの場にいなくて良かった。
奏也は男とは思えない程に柔らかそうなぷるぷるとしたその唇をキヒッと歪ませた。
「……あぁ?」
そして、不良に自身の身体を預けた。同時に
背中に両手を回し、互いの息が顔に掛かるくらいに密着させていた。
「へへっ。んじゃ、愉しもうぜ」
グイッと奏也の顎を掴み、自らの唇を奏也の唇に重ねようとした……その時。
忘れてはいけないが既に奏也の両手は不良の懐に重ねられていた。
ブスッ……ドボドボ……。
「……ッ?あぁ?」
不良は眉を顰め、目線を落とす。
いつの間にかどこかへ消えていた槍はいつの間にか奏也の両手に握られて、不良の身体を貫いていた。
「……先ずは一人」
トドメとばかりに不良の顔面に思い切りの突き上げを放つ。鼻部から上を吹き飛ばす槍の威力は凄まじく、魔物の様だ。
後ろから見ていた残りの不良は目をひん剥いて身構えている。
「……アンタ、いい性格してんな。悪女ってところか」
「わいは大事なモン護るなら悪にでも何にでもなるで。」
脳漿がこびり付く槍先を振り払いながらズン!と槍を地面に突き刺す。
「さて、残るはアンタ一人や。」
孤夏が目を覚ますまでに決着を付けたい奏也としてはすぐにでも速攻を仕掛けたいところ……だが。
「一人……それはさっきアンタが殺したバカと同じ扱いってか?悪いがオレの実力は……そいつ100人分でも足りねぇくらいだ!」
ギシッ、、、踏みしめる廊下が悲鳴を上げるかの様な騒音が辺りを包む。
耳を塞ぎたい欲求に支配されるよりも早く、不良は発言する。
「コード展開、Leviathan!」
……同時、奏也の左肩を何かが掠める。まるでドリルの刃先に接触しているかのように制服が何物かに巻き込まれる。
「!?」
反射的に槍から手を放し羽織るブレザーを脱ぎ捨てて距離を取る。
そんなブレザーの成れの果ては異常だった。
ある一点を中心に螺旋し、跡形も無くなった。あのままブレザーを手放さなかったら……と思うとゾッとする。
「……なんや、これ。そもそもアンタコード持ちかいな。」
ゴクリ、と喉を鳴らし額に汗が流れる。
これは、まずい。
成績平凡。特殊能力特になし。奏也は、究極的に普通の人間だ。
そんな彼が、得体も知れないコード能力を有する相手に太刀打ちできるのか。
……単刀直入に結論を出すと、無理だ。
「……っ。」
奏也は状況を整理する。相手は一人。それもコード持ち。考えられる能力は、恐らく物体を捩じ切る類のものだろうか。
しかしさっきの攻撃、奏也は相手から充分距離を置いていて接触もしていない。それなのに攻撃を受けてしまった。発動範囲が恐ろしく広い証拠だ。
いつ次撃を受けてしまうか、すぐ次の瞬間かもしれない。
……逃げるしかない。
そもそも奏也の目的は、そこで倒れている孤夏を助けることだ。侵入者は排除しなければならないが、無理に倒す必要なんてない。
覚悟を決めて奏也はカッターシャツのボタンを全て開ける。さっきみたいに服が巻き込まれてもすぐに脱衣できる為だ。
カッターシャツから覗く黒い長袖のシャツは螺旋の斬撃に巻き込まれたら脱衣時間も考えて、回避不可能だ。受ける事ができるのは一回きりだ。
「いっったらぁぁぁぁぁぁ!!!」
再び槍を召喚し不良……の後ろで横たわる孤夏目掛けてダッシュを開始する。
「らぁぁーー!」
低姿勢の奏也から繰り出される突き上げは呆気なく一瞬で創り出した空間渦巻く螺旋の斬撃に巻き込まれ、槍の刃先からザクザクと刻まれてしまう。
「うっそやろ……んの野郎!」
続けて召喚する槍を持つ手をギュッと絞りフルスイング。
不良の顔面直前であたかも豪速球を打った時の様な衝撃が槍を手放してしまう。やはり螺旋斬撃に妨害される様だ。
「そろそろオレの能力も察しが付いてきたか?」
言いながら不良は蹴りを繰り出す。鈍い痛みが奏也の腹部に残る。
「……大方な。発動範囲とかは、曖昧やけど、厄介なんは、確かや」
しかし奏也。消耗していく体力ながら自分の脇腹を足蹴した不良の右足を両手で掴む。
「……放せよ、オレは女だからって加減はしねーぞ?殴り殺されてーか?」
「女ちゃうってゆっとるやろが……。」
ゴッ……、容赦ない不良の拳が奏也の脳を揺らす。頬を抉る。左の眼球を潰す。しかし奏也、不良の右足を放さない。決して力を緩めず両手で固める。
……これは、チャンスなのだ。
さて、人類の歴史において忘れてはいけない
狩猟武器である槍には多種多様な使い方がある。
突く、斬る、殴る、投擲、棒術、空飛ぶ箒ごっこならぬ空飛ぶ槍ごっこ、本当に様々だ。
しかし、槍を一番使いこなす為にはやはり槍の長所を活かすことだろう。
長所でもあり短所でもあるその、リーチの長さだ。
「……んっ!」
奏也は頭を後ろを逸らし、目一杯の勢いを付けてヘッドバットを繰り出す。
「……んの野郎!」
すぐに飛んでくる右拳を後ろへ下がり回避。そして槍を召喚する。
その槍の刃先、奏也が少しでも前へ出れば簡単に不良の身体を貫く程の長さ。
「……はっ!?」
突如として召喚された槍に対応が追いつかず不良は顔面を貫かんとする槍から必死に逃れようと身体を反らした。
「……ぐっ!!」
奏也の攻撃は不発に終わった。
「調子乗ってんじゃねぇぇぞ!!」
怒りに任せ不良が繰り出すのは、自身の切り札、コード能力の螺旋斬撃。
やはり何にも触れることもなくただ不良の伸ばした右手に呼応するようにして奏也の右手がグニャリゴキュリと不気味な音を立てて刻まれていく。
予想外だったのが、螺旋斬撃の支点としているのが生身の右手だったということだ。これでは全身が刻まれるのは逃れられない。
「ぎっ……ぐぅぅ……!!」
大量の血液ポリゴンが吹き出す。手の血管がプププと切断され、骨が砕かれ、色んなものが混ざった肉塊へと姿を変えていく。
バーチャルシステム内では、痛さは感じない。……だが頭がズキズキと痛む。自分の腕がミキサーにでも突っ込まれてるような光景は、目に痛くないわけがない。
打つ手がない、このまま無残にも千切りの結末を迎える他ないのか。
……奏也は負けられなかった。
「わいは……負けられん!!」
思わず取った奇策、それは道ずれだ。
血液が一定量以上を失うまで……意識を失って戦闘離脱してしまうまでの恐らく僅かの間までに目の前の不良は倒さなければならない。孤夏の身を、護るために!
「……あ?な、何して……!?」
奏也の奇策にして秘策。それは、螺旋斬撃の支点である右腕を不良の顔面に接触させることだった。
槍の刺突攻撃を螺旋斬撃によって回避した時、奴は眼前の空間に螺旋斬撃の支点を置いて槍の刃を受け流した。
後から加わった「槍」を切り刻んだと言うことは、同じく後から加わる『不良の顔面』も当然刻まれるということだ。
「やばいやばいやばいやばばばばばばば」
自身の危機を今更理解したようだが、もう遅い。
螺旋斬撃の巻き添いを受けた不良の頭部はあっという間に切り刻まれる。
絶命した不良によって、奏也の右手を刻む螺旋斬撃が急に消失する。
「……と、止まった。」
ふーっと心からの安堵を漏らして奏也は腰を抜かす。
殴られた左の目は腫れ上がり、口元からは血が滴る。
何より右の肘から下は全損している。夥しい量の血を失っても奏也にはうっすらと意識があった。
いつ意識を失ってもおかしくない状態で奏也は眠らされている孤夏の元へ這い寄る。口元に乱雑に貼られたガムテープをそっと引き剥がす為だ。
「……うぅん」
呑気な寝言を漏らす孤夏を見てふふっ奏也は笑みをこぼした。
「……よかった、無事みたい……やな」
最早立つ気力も無かった。意識を閉ざすのも時間の問題だろう。
もしかしたら奏也より早く起きた孤夏が、自分の正体に気づいてしまうかもしれない。
今の自分はボタンを全て開けており、男らしい真っ平らな胸板が一目瞭然で確認できてしまう。
女だった自分に惚れてくれた彼女を……傷つけてしまうかもしれない。騙していた自分を軽蔑し、離れて行ってしまうかもしれない。
この救出行為を後悔する時が来るかもしれない。
奏也は変わらず安堵する。
後悔……なんて、するわけないじゃないか。
好きな人を助けることが出来た。たとえ嫌われたとしても充分過ぎる対価だ。
「……っあかん。」
視界が段々狭まる。少しでも気を抜けば、プツリと夢世界へ放り出されるだろう。
奏也は最期に並んで横たわる孤夏の横顔に目を向ける。
「…………」
身を賭した彼の決死行。
その結末は彼が目を覚ました時。
果たして彼の世界は、報われるのか。
おはようと声を掛けてくれる者がいると信じて、奏也は微睡みへと堕ちていく
。
ガキ使見ながらあとがき書いております。
毎年毎年どうしても見てしまいますねぇw
ガキ使見ないと年越せないですわ。
さて、今年最後の『バ革命』更新です。
早速明日の21時に更新分の話は用意しておりますので明日もよろしくお願いします。
……といっても内容は半年前に5000PV記念で書き下ろした番外編の修正版です。
今後のエピソード、と言うよりバ革命の最終話の伏線を張っているので是非ご一読お願いします。
尚、挿し絵は当時のままの物を収録しているので多少のくずれた画力は目を瞑ってくださいw
あとがきイラストは『ご注文はうさぎですか?』のココアちゃんのシャフ度です。
シャフ度と言えばシャフト。シャフトといえば物語シリーズですね!
そろそろ憑物語がオンエアされますが、オレは明日にでもニコ生でタイムシフト視聴ですかねw
それでは、皆様よいお年を!




