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バ革命  作者: 、、
〜追憶の運命一会編〜
80/96

#73 嚆矢濫觴のプロローグ

彼の気になるあの娘は同じクラスの学級委員長だった。


いつも口を引き締めて決して笑顔を見せない彼女の名前は青山(あおやま)礼愛(れあ)


彼、如月(きさらぎ)(しずく)の初恋の女の子だ。




挿絵(By みてみん)




クラスに一人はいる(絶対いるとは言ってない)美少女。話そうと思えば話しかけれるのだ。


ただ、その会話に感情は無かった。


話しかけられたから義理で淡々と言葉を返す。

それが話しかけてる側へ伝わってしまうのが、美少女青山礼愛の所有する現時点で最強のぼっちスキルだ。


故に中学一年生、友達は0である。

そんな中学校生活二週目。中学二年生になった礼愛に、話しかけるのは勇気を振り絞った如月雫だ。



「なぁ青山」


「……なんだ?」




挿絵(By みてみん)




席に座って文庫本を読んでいる礼愛はゆっくり本から目線を雫に移す。


人の敵意丸出しな視線には慣れっこだった雫だが、礼愛の向けて来た視線に思わず身を引いてしまう。


冷め切った氷のような瞳。

眉毛で切り揃えられた前髪は目元に影を作り、少々怖かった。


「あ〜、こっ……これなんだけどさ」



言いながら雫は横から先ほどの数学の授業で理解できなかった問題を書いてるノートを見せる。


「なんだ、分からないのか?」


一瞬見せた柔らかい表情に雫は少し頬が緩む。


「そ、そうなんだよ。これの公式ってさ……」


質問すると礼愛は笑顔は浮かべはしないが、一所懸命に教えてくれた。



「お〜なるほど、ごめん昼休みなのに。サンキュー青山!」



「あ、あぁ。」


教え終わるといつの間にか閉じていた読みさしの文庫本を口元を覆うようにして雫を見送る。


意味もなく教室を出た雫は扉に背中を預け、礼愛の様子を盗み見る。


昼休みだと言うのに提げられた弁当箱の入っているらしきカバンには手をかけず、本を読み始める。


周りの席で弁当箱を囲んでいるクラスメイトとを比較したら、礼愛の席だけがやはり浮いて見える。


さて、ここで昼休みなのに同じく教室で弁当を机に広げない生徒が一人。



「おーーい、如月ぃ」



後ろから飛んでくる重い声音にため息を吐く。



「……何すか。」



「何すか……だぁぁ?とりあえず表出ろ」


胸倉を掴まれ凄む巨体、その後ろでケラケラと笑みを浮かべる取り巻き四人。


礼愛と同じく、如月雫も別の意味で中学時代に孤独を味わっているのだった。






調子に乗りたい年頃なのは分かる。


雫は皮膚の擦り切れた右拳をブンブン振り回してため息を吐く。



「……ったく、一々疲れる。今日は昼飯どこで食うかな」



しかし自分の力量を把握出来ないくらいに盲目になってしまうのはどうなんだろうか。


よく不良を気取っている学生は、相手のちょっとした言動や態度でキレてくる。

もし喧嘩を売られた彼が反抗的な態度を取らないという根拠が何処にあるのか。


自分の思い通りにサンドバックになってくれる人間を嘗めたままでいると、痛い目に見るのに何故気付かない。


それに気付かせるために、雫は強さを手に入れたのだ。





その日の放課後、雫はひょんな事から礼愛の意外な一面を目撃する。



季節は本格的に夏に近づいていたが、21時頃にはすっかり日が暮れている。


特に部活もしていない雫だが、入浴前のランニングは欠かさなかった。


丁度その日から、ランニングコースを少し変えたからか、いつもとは違う過ぎ行く背景に退屈はしなかった。


闇夜に染まり行く広い公園に入ると、街灯が所々に灯っていたため、さっきまでの薄暗い田んぼ道に比べれば視界ははっきりとしていた。



様々な遊具が配置された遊戯場を過ぎ、野球やサッカーをやるにしても余りある程のだだっ広い草むらへと出た。



「……ん?」


規則正しい呼吸を乱すことなく、雫は自身の視界に入った一つの人影に疑問符を浮かべる。



こんな暗がりで、しかも見たところ女の子一人だけの様だ。


誰かと待ち合わせかと言う考えが一瞬よぎったが、それなら公園入り口の遊具広場で充分だろうし、何よりよく見やれば彼女の両手には長細い棒らしき物が握られていた。



街灯の真下にいる彼女は、良くも悪くも幻想的であった。


心許ない街灯に照らされた彼女の表情が読める様になるくらい近づいた時には、雫は少々笑みを浮かべ、乱れてもいない呼吸を整える。


「よっ、青山。」


街灯真下の彼女、青山礼愛に声をかける。



彼女もまた素振りをしていた竹刀を隠すようにして手を背中に回す。



「……あ、えと、如月雫。」



唐突のフルネーム呼びに思わずフッと笑いが零れる。


「何してんの?こんなとこで」


首に巻いたタオルで(ひたい)を拭いながら雫は尋ねる。



「す、素振りだ。剣道の」



「へ〜!剣道か!」


竹刀を見るに予想はしていたが、普段から本を読む姿が印象的な文学少女の礼愛を思い浮かべればやはり礼愛が剣道を(たしな)んでいるのは意外だった。


「月、水、金、休日は道場に通っているからな。休みの日には感覚を忘れないようにこうして振っているのだ。」



言い終わりようやく背中の竹刀を胸の前に抱く。警戒の意識が解けたみたいで雫は嬉しかった。



「でも、危なくないか?こんな夜に一人で素振りってさ。」


ついつい表情に出てしまいそうなだらしない笑みを引っ込めるように雫は心配の眼差しを向ける。


そんな眼差しを向けられた礼愛は自信満々に竹刀を構える。




「私、強いから。不審者なんて怖くない。」



ただ……と、礼愛は言葉を紡ぐ。



「この無言の空気がいつ危害を加えて来る物になるのかと思うと、少し怖い。」



「無言の空気?」



その時は礼愛の言葉の意味を汲み取れなかった。




毎日走り込んでいる雫は火、木曜日には自主練の素振りをしている礼愛と遭遇しては数分だけの雑談を交わしていた。


日を追うごとに、礼愛は学校では見せない様な表情を見せてくれた。


面白い話をすれば笑い、怖い話をすれば急に口数が少なくなったり。

学校では人と関わろうとしない礼愛を思い、あまり必要以上には話しかけたりはしないと心掛けていた。


そんな気遣いもあり、気がつけば雫は唯一話せる火、木曜日のランニングの時間が待ち遠しくなっていた。






「ねぇー、最近さ。委員長調子乗ってない?如月と何かつるんでるらしーよ」


「え、まっじ?意外」


放課後のスタバで密かに交わされる言葉。


それが火種じゃないにしろ確実にその日を境に無口系文学少女である委員長、青山礼愛は悪い意味でクラスメイトの話題に上がることになった。




……そして、遂に六月上旬。



平穏を演出していた歯車が狂い始める。





ある日の終礼後。


各々が席を立ち、いつもの様に部活着に着替える。



「ちょっと男子ー!まだウチらいるんだけど!」


「そんじゃ早く出てけよー、もしかしてオレのマキシマムボデー見てーのかよー」


「黙れマムシボディー!」



さて、、、と毎日毎日同じ様な喧騒を背に雫はふっと礼愛の席に目を向けた。


彼女はいつもの様に机の教科書類をカバンに直し……



「ん?」



雫は首を傾げる。何だか礼愛の表情がいつもより暗いように感じる




「な、なぁ青山」


極力学校では話しかけまいと決めていた雫だが、思わず一歩踏み出し一声かける。


「……如月。」


かけられた声に応える礼愛はやはり沈んだ表情を浮かべていた。



「何か元気ないぞ?」



「……そう、見えるのか。はは」


乾いた笑いが自嘲気味に吹かれる。


しかし一息置いた礼愛はふっと凛々しく微笑む。



「何もない、これから稽古だからな。気合いを入れなくては。」


そういい雫に背を向け、教室を後にする。


去り際の手振りに、空元気が伝わった。



「…………。」



ゴクリ……。


意を決した雫は生唾を飲み込む。


この時、雫は初めて……


「後を……付けてみよう」


変態さんの道を歩んだ。





ストーカーの視線は常にターゲットのお尻に向けられる。

一説によると上半身を見ていると不意に振り返られた時に目があってしまう危険を孕む可能性があるからだという。



……と、ストーキングを続けていると、いつの間にか校舎を出ていた。


「……おかしい」


ようやく礼愛のお尻から目をそらし、辺りを見回す。

礼愛は校門には向かわずひと気の少ない工作室裏へと呼び出されていた。


普段から誰も立ち寄らない工作室裏は雑草が生い茂り、手入れも殆どされていない。

これから稽古に行くと言っていた礼愛の先ほどの言葉を聞くと、筋の通らない行動だ。



礼愛を追うべく、雫も工作室裏へと忍び足で向かう。


雑草を踏む足音一つ一つをなるべく小さく心懸け、壁に手を付けてひょっこりと壁越しから目を覗かせる。



「!?」


目を疑う光景がそこにあった。


思わず顔を引っ込め、背中を壁に預ける。


「……おいおい」


目にした光景を一言で表すなら、漫画でよく見る『いじめの現場』。

一人を複数で取り囲みガン飛ばすスタイル。

それも全員女というのが割って入りにくい。


……まぁ、現時点では礼愛がいじめられているとは正直断言しにくい。



「……それで、何かしら。」


「え?もしかして呼ばれた意味がわかんないの?まっじ受けんだけど」


威圧的は相手側の少女は礼愛の胸倉を乱暴に掴む。


険悪なムードが壁越しから伝わってくる。


「女こえーーー。」


他人事の様にそう呟くが、そろそろキャットファイトが勃発しそうな雰囲気だ。



「助けねーと……。でも、どうしたら」


相手は女の子だ。

割って入って礼愛を逃がしたとして、そこからどうする。

逃げるのは簡単だ。

でもそれでは解決にはならない。


礼愛に向けられた彼女達の敵対意識を取り除かない限り、それは問題の先送り。



相手が男なら強引に礼愛を逃がし、この先礼愛に絡んでくるようなら暴力を執行して黙らせればいい。



必死に思考を巡らせる雫は、後ろから近付いてくる足音に気付かなかった。


「な〜にしてんのかな?如月ぃ?」



「へ?」



ゲシッ、と不意に股間を蹴り上げられる激痛が雫を襲う。


脳天を揺らすような鈍痛は険悪な空気取り巻く現場へ姿を隠すのを忘れて飛び出してしまう。


「へ、何!?」


いきなり壁越しから出てきた股間を抑えて地面を悶々と這い転げる雫を見て、女子たち全員が唖然とする。


「……き、如月?」


目を丸くするしながら礼愛は雫の名を呼ぶ。


その呼びかけに応えるのは雫の股間に大打撃を与えたガタイのいい三年生だ。


「ほー、こんなクソガキに友達がいんのか?……って結構可愛いじゃん」



取り巻きの男二人を率いて、女子達の元へとズカズカ足を踏み入れる。


「な、何よ!今こいつと話してんのに」


「あぁ?」


男は礼愛に絡む女子達を鋭い眼差しで睨め伏せる。



「オレらはこの子と話したいんだよ。ガキは失せろや」



少し肩を押してやると少女達は一目散に黄色い声を上げて逃げて行った。



「きゃーきゃーうっせーな。黙って失せやがれってんだ。」



「いやいや、お前が失せろ。」


ゾクリと背筋を睨めるかの様な気味悪い感覚。それと同時に股間を蹴り上げられる激痛が追って男を襲う。



「……っ!?いっぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」



巨体をゴロゴロ転がせる男を見下して雫はフン、と鼻息を鳴らす。


「トシちゃん!?」


トシちゃんと呼ばれている巨体の男の肩を揺らす取り巻きの男。

既に白目を剥いてグロッキー状態なトシちゃんはすぐには目を覚まさないだろう。



そうと分かると彼の行動は早かった。


一撃で巨体のトシちゃんを蹴散らしてしまう雫の脅威から逃げるため、一目散にその場を離れた。


「……相変わらず喧嘩相手には容赦ないんだな。」



「あ?……って、お前」



声の主に雫は唖然とする。


彼はさっきまでトシちゃんの取り巻きとして傍観しており、雫はまったくの初対面の人間だと断定していたからだ。


よくよく見ると彼の鋭い目つきには見覚えがあった。


小学生の頃から仲が悪かったために喧嘩相手と化していた矢吹(やぶき)漣夜(れんや)、後に秩序委員会の会長を務める事になる男だ。



挿絵(By みてみん)



「あ、あの〜。」


偶然の再会に面食らう雫。


そんな雫を死んだ様な目で返す漣夜。


しかし同じ学校の生徒で、二年目となる中学生生活だというのに今更このやり取りは意味が分からない。


何故雫はこんなに驚いているのか。



「如月……は、その人と知り合いなのか?」


「あぁ、喧嘩相手だ。」


迷いのない即答に紡ぐ言葉を見失う礼愛。

そんな礼愛に雫は腕時計を指差す様に左手首を差しながら稽古の時間を心配する。


「あっ」



ぶわっ……と嫌な汗を吹き出す様に苦を露わにする礼愛を見ると雫はぺっぺっと追い払う様に手を払う。


「頑張ってな」



「うん!ありがとう!」


一瞬見せた礼愛の笑顔は、間違いなく友達に向ける親密な笑顔だった。





「んで?何であんなデカブツの金魚の糞やったんだよ?」


二年ぶり程の漣夜との会話に特に感じるものはなく、聞きたいことだけを聞く。



「お互いこんな外見だからな。普通につるめる奴があんなのしかいないんだよ。」


あ〜ね、と同意。

言わずもがな雫にも普通に仲の良い友達なんていない。

外見が怖い。ただそれだけで近付いてくる人はいないものだ。

……いいや、それだけなんて簡単な言葉で(くく)れるものじゃない。

あまりにもそれは致命的な欠点だろう。


「まぁ金魚の糞やってたお陰で気付いた。オレぼっちのが合ってるわ」


「あぁ、間違いない」


ヒヒッ、と気味悪い笑みが零れる。

拳を交えて仲を割け合った彼らは笑顔を浮かべた。


雫は気が付いた。

淡々と空白な時を過ごしてきた中学一年生の自分と比べると、今は物凄く充実していた。


悪友とこうして笑い合えたのは、女の子に笑顔を向けられたのは初めてだった。



先ほどの礼愛の笑顔。


間違いなくこの時、雫と礼愛の間には友情関係があったのだろう。


……そう、二人は友達だった(・・・)




カツン、、、カツン、、、


階段を下る音が反響し、外の歓声が漏れて来る。

階下へ近づく程、歓声が大きく大きく聞こえてくる。


これまでの思い出を振り返らせる余裕を与えないくらいに胸中はドクドク心音が荒ぶっている。


いいや、無闇に思い出さない方が良いのかもしれない。

これから拳を交える相手は、下手をすれば手を抜いてしまうかもしれなから……友達に手加減をしてしまうかもしれないからだ。



外の照明が全身を照らす。



四方八方から飛んでくる歓声、自分に浴びせられる幾百もの視線。


そして前からは圧倒的存在感を放つ青山礼愛の視線。



「……遅いな、生徒会長。」



「はえーな、風紀委員長さんよ。」





挿絵(By みてみん)





双方が揃ったのを確認すると、担当の鬼神先生はバーチャルシステムを展開させた。



迅速に整っていく戦いの準備に、無駄話を叩く余裕はない。


「ふ……いや、青山。」


雫は一言だけ、彼女に告げた。


「手加減はしない。女でも容赦無く勝たせてもらうからな」



ゲヘッ……と悪人面を浮かべる雫に礼愛は安心した様に安堵する。


「そうしてもらった方がこちらとしても気が楽だ。出来損ないの生徒会長をこの機会に叩きのめせるのだからな。」


『フロンティア決勝戦、青山礼愛対如月雫、始め!』



ひときわ大きな歓声が、彼と彼女を包む。



地を蹴る衝撃、靡く髪、敵の表情。



現実世界かと疑う程のリアル渦巻くバーチャル空間で、二人のストーリーは火花を散らしながら語られる。



始まりました第7シリーズ「追憶の運命(さだめ)一会(いちえ)編」最初は過去編。

ようやく礼愛と雫の中学時代を描くことが出来ました。


……まぁ肝心の彼らが友達じゃなくなったとある騒動は描けていませんが。

フロンティア決勝戦の終盤に上手い具合に挟むつもりです。



そうそう、今回からバ革命のロゴを変えました。

序盤のバ革命とは違って少し雲行きの怪しい色合いを使いました。

あともう一回ロゴを変える予定ですが、その時は最終章に入ってる頃なのでいよいよ物語の終わりです。



あ、今回のサブタイトルは嚆矢濫觴(こうしらんしょう)と読みます。


物事のはじまり、という意味の四字熟語です。



さて、次回からはバトルバトルバトルな回なので頑張って凝った展開の戦いにしたいです。


では次回もよろしくお願いします!

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