#8 こんな怪談どうですか?
どの学校にも一度は聞いたことがあるであろう七不思議伝説。
そういえば高校に入ってからは聞いたことがなかったなぁ、なんて心二は呑気に構えていた。
ただ、その七不思議に『七人殺しの七不思議』などという物騒な別名がついていたのが気になった。
「ゆりっちや李女ちゃんの通ってた中学校には七不思議なんてあった?」
紅空は雰囲気を作るためか、それとも本当に真剣なのか声のトーンを下げて二人に尋ねた。
「ありましたよー?やっぱどこにでもあるもんだよねー」
優璃に続いて李女も「私の所もありました。」とやはり七不思議伝説はどこの学校にもあるようだ。
「しゅーくんはしんくんや私と同じだったから知ってると思うけど七不思議伝説は中学の時に聞いたことあるよね?」
無言で頷く心二と守郎。
全員の顔を見回してから紅空は話を続ける。
「さっきも言った通り、私たちの通う桜南高校にも七不思議があるんだけど……」
そこで紅空は該当者に挙手を促すように片手を挙げるジェスチャーをしながらみんなに尋ねた。
「小学校、中学校の七不思議。どっちでもいいんだけど、七つの七不思議の怪談が全部、幽霊に“惨殺”されるってオチの七不思議があった学校の卒業生はいる?」
みんなは周りを見渡すが、誰一人としてそんな学校の卒業生はいなかった。
紅空は挙げていた手を下げて話を続ける。
「だよね。大概は失踪や怪奇の目撃とかが混じってる。寧ろそういうのが大半ってのが七不思議って感じ。そもそも七不思議なんてやっぱり噂でしかないんだよねー。
……でも七不思議に関してこんな噂もあるんだよ」
紅空の目は守郎に向けられる。
「しゅーくん、どんな噂かわかる?」
「紅空さんがさっき言ったやつでしょ?幾つもの七不思議を持つ学校の中に一つだけ、七つ全部の怪談が幽霊に惨殺されるってのがオチの七不思議を持つ学校の噂。」
守郎は手を顎に当てながら紅空の期待した答えを言ってみせる。
「そうなんだよね〜。それでさ、その噂に該当する学校が実は……私たちの通う桜南高校だったりするんだよね。」
別に紅空は怪談が好きな女の子ではないのだが話し方が結構上手かったためか女子陣は最後まで聞くと表情を強ばらせる。
「ちなみに、その七不思議の怪談の内容は?」
心二がそう聞いてみると紅空は怪談を思い出しながら話しはじめた。
「まずは『美術室の切り裂き教師』って怪談でね。女子生徒に体を密着させて二の腕をもみもみしながら教えていたらそのことを女子生徒が担任の先生に言ったのよ。それでその美術教師は解雇されて〜自殺しちゃったの」
「美術教師ざまぁ。」
「亡くなった今でも夜な夜な美術室に迷い混んだ生徒、主に女子生徒の二の腕部分だけをカッターで切り取っちゃって殺しちゃうんだって」
「どんだけ二の腕好きなんだよ。」
しかし殺し方自体は惨い。
「次が『体育倉庫のレイプ教師』って怪談でー」
「また教師か!もうここの教師が怖いよね!?」
所々に挟まる心二のつっこみのテンションに救われているのか、怖がっていた李女も少し楽な表情になってきた。
優璃の方は恐らくレイプの単語でテンションが上がったのか心二のつっこみが炸裂する前にはケロっとしていた。
「遅くまで残っている陸上部の女子部員を体育倉庫に連れ込んで押し倒し服を無理矢理脱がし………」
「ちょ優璃、鼻息鼻息。興奮しすぎだから」
「はっ……!ごめんごめん」
「女性徒の股を強引に開き…」
「うひゃ!?」
心二は自身の腰回りの服が掴まれてるような感覚。
振り向くとそこには李女が顔を真っ赤にして心二のパジャマを摘まんでいた。
「……菜川?そんなにくっついてどうした!?」
「い、いや……なんでもない。」
「そして猛り狂う右手に…カミソリが握られ…………」
「へ!?カミソリ!!?」
素っ裸の女の子の股を開いて右手にはカミソリ…?
嫌な予感しかしないその怪談の結末は案の定の行く末を辿ることになる。
「翌朝発見された顔は鈍器のようなもので原形を留めないくらいにひたすら殴られた女子生徒の姿がそこに………」
「……………………………おぅ。」
………重っ。
「てゆーか……もうそれ事件じゃねぇぇぇかーーーーーー!!!ただの醜い人間が引き起こした悲しい事件じゃぁぁぁぁん!!!」
ちっちっち、と紅空は人差し指を立てる。
「発見された女性徒の死体状況なんだけどね。下の毛が剃られてたの。近くにカミソリが落ちてたことからその女子生徒がパイ○ンだという線は薄いって…」
「はぁぁぁ!?二の腕コレクターの次はまん……じゃねぇ、下の毛コレクター!?もうここの教師こえぇよ!!!!!」
「でもその教師はもう死刑が宣告されて死んじゃったよ?そして夜な夜なそのレイプ教師の幽霊は体育倉庫に迷い混んだ生徒、主に女子生徒の下の毛をカミソリで………」
「あたしが期待してたレイプじゃないよぉ…」
「優璃はもう少し自重しろ。なぁ守郎、姉ちゃんが話してる怪談って本当にこんななのか…って………寝てやがる。」
「はわわわ………」
すぐ隣を見ると赤面している李女が狼狽えていた。
コホン、と紅空は切り直すかのように咳をひとつ。
「それじゃ本題!今話した二つを含めた七つの怪談の中に、『四階の拷問回廊』っていうのがあるんだけど…」
心二たち一年生の教室は四階。夕方頭を割られた女性徒を見たのも四階である1の3の教室前。
「なるほど。その怪談の惨殺内容が……」
頭をかち割られ殺された……ということ。
すると李女は驚愕の表情を浮かべた。
「それでは……私達が見たあの子は…幽霊!?」
こくり、と紅空は納得いかないように頷く。
「別に私も幽霊なんて信じてないんだけどね。噂される七人殺しの七不思議を持つ桜南高校で、私の可愛い弟とそのガールフレンドちゃんが七不思議の一つを体験したとあっては……ねぇ。」
「………ガールフレンド…(ぽっ)」
照れる李女の手を取り紅空は立ち上がる。
「と言うわけで!今夜!!七不思議を確かめるために学校へ忍び込もうではないかっ!」
すんごいワクワクを隠そうともしないくらいに晴れやかな笑顔でそう宣言した。
「く、紅空さん。……私は……」
口に出しづらいのか言葉が詰まる李女。
大体言いたそうな事が分かった心二は代わりに紅空に言った。
「姉ちゃん、オレもそれには賛成しがたいな」
えー?なんでーー?と紅空は唇を尖らせる。
「何でも何も。七不思議なんてオレも信じないけど、実際オレと菜川は見た。あれはヤバいって」
李女も無言で心二に賛同するかのように頷いている。
「あたしは賛成!」
そう言いながら紅空に抱きつく優璃。
「おっほー!ゆりっちは来てくれるかーーー!」
心二はいつの間にか起きてた話に入ってこない守郎に視線を向けた。
「ん?オレか?別に反対はしねぇよ。完全下校時刻以降は防犯対策としてバーチャルシステムを機能させてるはずだろ?」
その守郎の一言に心二は疑問を抱いた。
「え?どゆこと?」
この心二の一言にその場にいた全員が驚いた。
(…………え?何この空気。)
「しんくん、まさかここまでお馬鹿さんだなんて」
「バカ野郎…。」
「お馬鹿なあたしでも分かってるよ!」
「…………天条…。」
李女までそんな目を心二に向けていた。
ため息を吐いて守郎はどこから説明すべきか頭を抱えながら考えている。
「んー、バーチャルシステムについてはわかるな?」
心二はこくりと頷く。
戦科に用いられてるシステムで、自分の意思をゲームの中の自分そっくりのキャラクターに接続し、戦わせる……というものだけがバーチャルシステムではない。
自分の意思をゲームの世界に持っていくように、その反対も可能なのだ。
つまり、現実世界でも戦科試合のように仮想の武器を召喚することができるのだ。
その場合は実際にそこに存在する建物、人物にバーチャル空間を上乗せするように組み込むので、たとえ現実世界で刃物を刺されようが、爆弾で吹っ飛ばされようが、その凶器と実際の体の間にはバーチャルで張られたバリアが存在するので傷一つ負うことはない。
刃物で刺されたことにビックリして血の気が引いて貧血で倒れることはあるが。
防犯対策というのは、外から侵入した不審者を無力化するためだ。
この学校の関係者ならば戦科試合で使うための自分のバーチャル体が存在するが、不審者にそんな物などあるはずもない。その場合、不審者の5教科合計点数は0の強さの仮のバーチャル体のステータスが適用される。つまり最弱のバーチャル体だ。
「つまり………現実世界でも戦科みたく戦えるんだよな?」
「そうだ。だからもしお前らが見たってのが不審者なら撃退はできるし、本当に幽霊だとしてもそれでもバーチャルシステムは機能してんだから襲われても戦えるだろ」
「幽霊が透明だったらどうすんだよ!」
ぷふっ…と紅空が思わず吹き出す。
「しんくんしんくん、バーチャルシステムを嘗めちゃ駄目だよ!システムが機能してる以上、その範囲内にいる物体物質は何なのかを完璧に自動認証してバーチャルを上乗せしてるんだから!正体不明なイレギュラー的な存在だとしても、バーチャルシステムが機能してる学校に入れてるならバーチャル攻撃は有効と考えていいはずだよ。だから相手は普通に攻撃を食らうことになるんだよ。」
「それに、いくら武器がバーチャルで作られてるとはいえ、実際の体に影響が出るのだからバーチャルシステムがバリアを張っているのだぞ?攻撃を食らえばそれ相応の傷を負うぞ?」
「そういうことだよ!心二!」
一気に複数人から大体を説明され心二は自分なりに纏めてみる。
「なるほど、もし幽霊だったとしてもそれはバーチャルシステムにとってイレギュラーな存在。本当に幽霊ならシステムのバリアは張られないし、そもそもイレギュラーな霊体は校内で存在すること自体有り得ない。そしてバーチャルシステム内ではバーチャル攻撃が絶対のルール。だからシステム内で存在してるモノにはオレたちのバーチャル攻撃は有効ってことか…」
バーチャル空間内でバーチャルシステムの加護を受けずに校内に浸入することはつまり、爆弾飛び交う戦場に素っ裸で放り出されるようなものなのだ。
不審者なら撃退可能。霊体はそもそもバーチャルシステム内での校内では存在することすら出来ないのだ。
「大体そんなモンだ。そもそも透明なんだったらこっちには何の危害もない。それに、この中には学年ランク上位成績優秀者のお方が二人もいるんだ。楽勝だろうがよ」
守郎のいう通り、学年ごとの成績優秀者の中でも上位10名にのみ与えられる称号、上位成績優秀者と呼ばれている戦科の猛者が二人もいるのだ。
第二学年第四位『麗艶妖精』の異名で呼ばれる天条紅空。
そして第一学年第三位『水神雌狐』 菜川李女。
これだけの戦力、無力化されている不審者だろう瞬殺できる程だろう。というか……姿形も残らないかもしれない。
「なら………行くか?」
そう言う心二に紅空が両手を挙げて喜んだ。
「それじゃ…………………………」
守郎はダルそうに、しかし口元はニヤリと歪ませながら立ち上がった。
「行くか?」