#67 垣峰守郎vs.蒔枷霧亜
垣峰守郎は校内を駆けていた。
自身のフロンティア二回戦の対戦相手である紅空が規定の時刻になっても姿を見せなかったことで、守郎は不戦勝で勝ち進んだ。
フロンティアは三回戦の一試合目へ進行して行く中、守郎は紅空を捜すことにした。
携帯を取りに行った紅空が戻らなかった。
……どう考えても何事かに巻き込まれたとしか考えられなかった。
守郎の頭は冴えていた。
成績優秀者狩りなる者による成績優秀者を襲撃するといった事件の頻発により、襲撃場所となっている複数の人気のない校舎裏には桜南祭の運営側の生徒が配置されており屋外で起こる可能性は極めて少ない。
守郎は迷わず校舎へ入る。
「……どこだ、考えられそうな場所は。」
額から垂れてくる汗を手の甲で拭い、閑散として校舎内を再び駆ける。
一言に、紅空は誤算を認めた。
対峙する蒔枷霧亜の能力を見誤ってしまった。
「……ぐぅっ……」
重い呻きと共に紅空は膝を折って焼き焦げた左腕を押さえる。
霧亜の有する能力を単に有効範囲の特殊攻撃を吸収、それを出現させるような能力だと思っていた。
輝夜の能力を吸収した氷散華……有効範囲内の箇所に水色のポインターが出現し、その箇所を氷結させる攻撃。それにより身動きを封じられた紅空に止めとばかりに繰り出された氷柱攻撃を相殺するために出したいくつもの爆弾を吸収されてしまった。
充分すぎる距離があったにも関わらず自分の攻撃を吸収された紅空は呆然と氷柱攻撃を全弾食らってしまった。
そこからは為す術がなく嬲られるワンサイドゲームとなった。
特殊攻撃を出しただけで吸収され、再利用する霧亜の能力に隙はなかった。
ただただ紅空の爆弾を吸収した時に見せた霧亜の黒く染まる片目が嫌に彼女の頭に残っていた。
後ろから紅空の身を案ずる朱緋紗夜と奥嬢輝夜の声が聞こえる。
しかし紅空の耳にはコツコツコツ……とこちらに近づいて来る霧亜の足音しか頭に入ってこない。
地面の平らなコンクリートのシミがいつの日かの天魔、ベラゼクスの顔に見えてくる。
それが思い出させるのは、自分の能力が通用しない恐怖。
自分の非力無力さだ。
紅空の前に、霧亜の影が重なる。
「まぁ……二年生第四位の実力を持つ天条紅空もこの程度だったってことか。」
戦意を喪失した紅空を見下し、霧亜は剣を振り上げる。
無音で霧亜を背後から襲う氷柱攻撃に霧亜はゆっくりと目を黒く染めてそれを吸収する。
不意を突いた攻撃が無情にも不発に終わると輝夜は涙をこぼす。
「……だめっ……紅空ちゃん逃げてください!」
輝夜の声と共に剣の切っ先は紅空の頭蓋へと向けられ……
バン!
突如勢い良く開け放たれた屋上の扉に一同は目を向ける。
肩で息をする金髪の少年がそこにはいた。
「はぁはぁっ…………。っんよし、見つけたぜ紅空さん。」
その少年の声に紅空は俯いていた顔を上げた。
目の前に立つ霧亜の後ろ。
先ほど会った金髪の少年、垣峰守郎がそこにいた。
「しゅーくん……!?」
「試合、オレの不戦勝で終わっちまいましたよ。」
ガニ股でこちらへ近づきながらやがて足を踏みしめる。
ジャリ……と足元の砂埃を踏みにじる音が自身の登場を誇示するかのように鳴らされた。
「……てめぇは誰だ。」
守郎の威圧的な目元はガラの悪い不良を連想させる。
「誰だっていいだろう。……で?金髪のてめぇは何しに来たんだよ」
「あーー?決まってんだろ。」
唐突に空気を切り裂きながら放たれた守郎の上段蹴りが霧亜の顔面を捕らえた。
「ごっ……」
ギュイ、と手元で捻られた右拳が唸るように空気を纏いながら霧亜の顔面に追撃を入れる。
「美人なお姉さん方を助けに来たんだよ。」
「ぎっ……!」
派手に吹っ飛ばされる霧亜。
紅空の前に立ち塞がる影がようやく晴れた瞬間だった。
「……紅空さん。」
心配そうに顔を覗かせる守郎にへへっと力ない笑みを返す。
下がった目尻からも相当な疲労を感じさせる。
「結構血流しちゃってますね。貧血で辛いんじゃないっすか?」
バーチャルシステム内でのHPの損傷は血液の減少と同義だ。
何十本もの氷柱を全身に受け、自身の爆撃を左腕に食らっている紅空のHPは吹けば消えるろうそくのように乏しい。
「紅空さんは休んでてください。」
言うと守郎は両手で下ろしていた前髪をいつも通り掻き上げる。
彼なりの気合い注入だ。
右手で真ん中だけ下ろした前髪をすくとゆっくりと深呼吸。
蒸気でも吐いてるかのように重い圧が辺り一帯を包む。
「しゅーくん、ちょっと……」
覇気のない紅空のいやらしい囁きが守郎を振り向かせる。
「どしたの紅空さ……ん?」
何も言わずに守郎の耳元へ口を持っていく紅空はあることを伝える。
「……なるほど。んじゃパパッと頼んで来ます。」
守郎の力強い了解を聞いて満足した紅空もまた親指を立ててグーサインを出し、ゆっくりと瞼を閉じる。
目で殺すような威圧をかけられる霧亜は殴られた右頬をさすりながら立ち上がる。
視線の先には気合充分の守郎。
「…………よし、来いよ。」
「こんの……ひよこ頭ぁぁぁぁ!」
霧亜の怒号と共に手前の何もないところからまたしてもいくつもの氷柱を放つ。
ずぶりずぶりと守郎の全身に突き刺さる。
「ぐっ……」
鈍い唸りが漏れる。
……だが。
「……っっその程度、効かねぇなぁぁ!」
守郎の勢いは殺せない。
怒号と共に霧亜の元へ駆け出す。
「すごい……あの金髪の人。私の氷攻撃をあんなに受けても平気なんて。」
守郎のタフさに小さく口を開ける。
そんな可愛らしい口をいつの間にか離れていた紗夜の柔らかい左手が覆う。
「口が開いてるぞ。」
「あん……うんって、あれ?紗夜ちゃんどこ行ってたの?」
「あ、あぁ。少し……な。」
全身に氷柱を受けた身体での全力疾走が堪えたのか霧亜の目前で繰り出そうとした拳が急に力が抜けたように手応えのない右ストレートが霧亜の頬を撫でた。
「あっれ……?」
「バカが。」
バッサリと差し出した手首を切断されてしまう。
「いっっ!?」
自身の身体の一部がざっくり切り落とされるショッキングな光景に守郎は何も言えず後ろへ倒れこむ。
「呆気ねぇな、ひよこあた……」
突如守郎の身体が光を灯す。
明らかに何らかの特殊能力だ。
しかし理解する前に、消滅させる前に被爆を許してしまう。
紅空の能力、本来は自分の分身体の爆弾を生成する滅弾と呼ばれる攻撃の一種だ。
今回は守郎の姿形をした状態の滅弾。
霧亜は対したダメージを受けることもなく、爆煙に包まれる。
「……本物のひよこはどこに行った?」
そう。本物だと思っていた守郎が分身体だった事実は揺るがない。
なら、本体はどこに……。
首を回し視界がはっきりしない煙の中で異常がないかを警戒する霧亜。
ふっ……と電気のスイッチを入れるかのように煙が突然晴れた。
「はっ?」
何が何やら疑問を漏らす霧亜は遠くにいた紗夜が見慣れる杖を持っている姿を確認する。
憩泉霊と呼ばれるその杖は魔法神のコードを所有する紗夜限定の専門武器。
攻撃に使うでもなく、使うとしたら盾だが、本来は範囲の大きい魔法を使えるようにするための物だ。
例えば……環境変化。
「精術・螢燈。」
その魔法はかつて炎魔王・サタンとの戦いで暗闇を晴らすために用いたその魔法は暗闇や煙、あらゆるモノを払う魔法だ。
そして、煙を払った目的は煙の中の霧亜の場所を特定すること。
「……?」
やはり守郎の姿が見えない。
霧亜はもしや……と上を見上げる。
キィィィィン!
咄嗟に構えた霧亜の片手剣が上から振り下ろされる守郎の片手剣と勢い良く接触する。
「……まさか上に逃げてたとはな……、そんな翼まで生やしてよ」
冷や汗を垂らす霧亜の言うとおり守郎の背中からはポリゴン片を集束したような翼が生えていた。
「お前……見たところ成績優秀者なんかじゃないだろ……誰の能力だ。いつそんな他人から能力を受け継ぐような隙を……!」
言葉にしながら霧亜はふと気付く。
隙ならあったじゃないか……と。
霧亜が守郎に殴り飛ばされた時、彼は数十秒は彼らから目を離していた。
「気付くのがおせーよ。紅空さんにオレの爆弾、副会長に翼。充分用意できた……ぜっ!」
言い終えると守郎はノーガードの懐に前蹴りを放つ。
「ぐっ……」
後ろへ下がる霧亜の髪の毛を乱暴に引っ掴むと守郎は頭を後ろへ逸らし勢いをつけて思い切り霧亜の額へヘッドバッドを決める。
「いっっ!」
痛みを堪える霧亜の一方的な悲鳴。
中学時代、近所の生徒を震え上がらせた伝説の不良……羅亜の実力は衰えてなどいない。
「てめぇ、このひよこがっ!」
反撃に剣をデタラメに薙ぐが、顔色一つ変えずに金髪をなびかせて後ろへ回避する。
「ひよこだと?ならピヨピヨ言わせてみろよ。ほらぴーよぴーよ。」
心二を煽る要領で霧亜を挑発する。
挑発に乗る相手ほど動きが単調になりやすい。霧亜は剣を振り上げたまま前進する様を見て守郎は勝ちを確信した。
「これで終わりだ。」
霧亜が剣を振り下ろすのに合わせて守郎は勢い良く前進して半身の態勢をとる。
鎖骨すれすれながらも霧亜は空を切る。
守郎にダメージはない。
ガラ空きの霧亜の顎目掛けて守郎はグッと拳を握りしめる。
バーチャルシステムでの戦いとは思えないほど最強に見える素手での戦い。
顎が砕けんばかりのアッパーカットは霧亜を宙に浮かせるほどの威力だ。
ふーーっ。とやり遂げた様な守郎の吐息と共にドサっと霧亜が落下する音。
彼はピクリとも動かない。
「……ちっとやり過ぎたか。」
そんな守郎を見て輝夜はほへーっと感心を漏らす。
「しゅ……すごい!」
「ほらカグ。また口が開いてるぞ。」
とは言いつつも、紗夜も内心守郎の強さに驚いていた。
サタンとの戦いでも彼は特異な発想で弱点を突き勝利を手にした。
直に目撃したそんな彼の掴み所のない強さ。
彼女は興味を抱かざるを得なかった。
「低成績者なのにこんなに強いとは。まるで会長の様だ。」
「ん?何か言った?」
紅空へ駆け寄ろうとする輝夜は紗夜の独り言に反応して振り向く。
何事か目をパチクリさせながら返答を待つ彼女は同性ながらも可愛らしく映る。
「いいや、何でもない。」
言いながら紗夜も紅空の元へと歩き出す。
「カグー、おっぱい飲みたーい。」
「何言ってるの〜紅空ちゃん。」
「それじゃ紗夜!」
「……ほう、これ以上私の胸を貧しくするつもりか。」
そんな華の女子高生の会話にどんな反応をすれば良いのか。
とりあえず守郎は離れたところで空を見上げ、聞こえないふりを決め込むことにする。
曇りの空にはいつの間にか晴れ間が差していた。
体育館前で睨み合う心二と堅志は遂に動き出す。
人目を避けるべく心二は戦いやすく人のいなさそうなところまで走る。
体育館の倉庫前なんていい場所じゃなかろうか……体育館のすぐ近くだし。
なんて短絡的な考えで心二はあっと言う間に倉庫前へ辿り着いた。
後ろの堅志も心二と同じく立ち止まり剣を構える。
「綾瀬……だな?お前何で学校来なかったんだよ」
心二は戦う前にそれとなく気になっていた事を尋ねる。同じクラスの生徒が不登校になった原因。気にならないわけない。
「んむんむ。察して欲しいところなんだけど。まぁ言う必要もないよね?」
語尾に気迫を感じさせる堅志の言葉。教えてくれるなんて気はさらさらない様だ。
「花江先生、いい人だよな。オレが何かやらかした時、他の先生にいつもいつも頭下げて謝ってさ。他人のために謝れるのってホントすげーって思う。」
常々から思っている事を、ふと漏らす。
心二に関しては挙げればキリのない。
守郎とかもう毎日迷惑かけてそうである。
優璃だって女子更衣室に週に一回は下着を忘れるので個別で使う時は面倒な申請をしなければならない更衣室の鍵を開けてもらったりだとか。四組の生徒には色々振り回されてるだろう。
恐らく綾瀬堅志にだって当てはまるはずだ。
「……あぁあぁ。そーだな、毎日の様に電話くれたり家にまで来たり。最初は暇な先生だなーとか思ってたけど、話聞いてるとそうでもないんだな。よく先生からお前らの話とかしてくれたよ。仲良くなれそうだよとか余計な言ってくれたりよ。」
堅志は俯きながらそんなことを漏らす。
「余計なんてことないじゃん!綾瀬、オレと友達に……」
「それ以上口にするな。例え先生に友達作れなんて言われてもオレはそんなモン作る気になんかならねーよ。」
言いながら、堅志の右手には麻痺をさせる黒い靄が生成される。
しかし今回は右腕全体を覆う様に靄がデカくなる。
次第に靄が晴れていく。
無意味に広がった様に見えた靄だが、心二は異変に気付く。
靄に覆われた堅志の右手は人間の手ではなかった。
表面がゴツゴツして触れば皮膚を切りそうな硬質感のある魔物の様な禍々しい右腕。
心二は無意識に後ずさる。
その様子を見た堅志はやっぱり、、、わかっていたようにため息を吐く。
「所詮お前もそうだ。オレが普通じゃないってわかるとそんな態度を取る。」
心二は思わず電子生徒手帳を取り出して堅志の点数を確認する。
守郎の言ってた通り不登校で定期テストを受けていない生徒である堅志の点数はもちろん0点だ。
するとこの魔物の手はシステムスキルの一つなのか。
となると現実の堅志はこんな魔物の腕を出すことに類する能力を持っていることになる。
「友達……いいや、人なんて糞食らえだ。」
それだけ言うと堅志は魔物の腕を前に出す。指先には乏しい闇色の光源が出現する。
やがて五つの光源が細い光線のように心二に向かって発射される。
心二は咄嗟にライトブルーの『砂状の太刀』を手前に展開して防御する。
一瞬堅志から目を離したためか、離れた位置にいたはずの堅志がいつの間にかすぐそこにいた。
「これでおしまい。」
「ぐっ……!?」
振り下ろされる魔物の腕に心二は呆気にとられる。
直撃は……避けられない。
「地面よ爆ぜなさい!」
心二と堅志の間の地面が突如聞こえた女の声と共に爆破した。
「んむ?なんだ」
吹き飛ばされる堅志は冷静に着地して爆破源を観察する。
一方の心二は受け身も取れずに背中を地面に打ち付ける。
「な、なんだ!?」
狼狽える心二は辺りを見回して追撃者を捜す。
「よしナイス雨凪!」
「やーんもっと褒めてーん」
あまりに場違いで呑気な喋り声が倉庫裏の小道から出てくる。
声で予想はついてたが、優璃だ。
そして仲良さげに一緒にいるもう一人の女の子は確か何処かで会ったことがある。
あれはフロンティア一回戦直前のことだ。
彼女はただベンチで寝ていた。
会話はあまりしなかったがその魅力的な女体が彼女の名前と一緒に記憶されていた。
「よっ心二!助けに来てあげたよ偶然だ、け、ど☆」
「また会ったね天条心二くん!名前覚えてる?」
名前は……そう。
「流星雨凪!……ちゃん、に優璃!?」
そんな心二の反応に優璃はえっ?と驚いた。
「心二なんで雨凪知ってるの?」
「え、いや偶然話しただけだよ。それより、堅志を大人しくさせるの手伝ってくれ」
「もちろん!道を外したクラスメイトをなだめるのは同じクラスメイトとしての責務だよ!」
「私は優璃ちゃんがやれというなら何でもやるよ?」
「え!?今なんて?」
心二は思わず雨凪の言葉を聞き返す。
彼女はてへっと冗談っぽく舌を出して誤魔化す。
というか心二は二人が知り合いだったこと自体、初耳であった。
「んむんむ。面倒くさいね〜三人か。いじめだ〜これ。」
言いながら堅志は半身に靄を纏う。
「さ、行くよ心二!雨凪はあたしと心二を補助して!」
「りょーかい!優璃ちゃんの貞操は私が護る!」
「……オレも護ってね?」
そう再確認し、心二は優璃と共に特攻を仕掛ける。
堅志の半身を纏う靄は既に晴れ、魔物の半身を得ていた。
「来い、偽善者。」
フロンティア三回戦は気付けば次の試合のコールがされた。
雫の勝利を願うばかりである。
「行くぜ、綾瀬ぇぇ!」
本編のことより話すことがいっぱいあります。
Amebaでブログ始めました。
かなり個人的な日常のことを書いてますのでよろしければでいいです。
あ、ブログはこんな丁寧を心がけた文章じゃなくもう今時〜な若者の文章なのでそこらへんはよろしくお願いします。
http://s.ameblo.jp/bbbtenma
pixivでイラスト投稿も始めました。
ほとんどがTwitterやここのあとがきで載せたイラストですが。
バ革命の小説もpixivで投稿しています。
投稿するに当たって表紙を載せることが出来るのがわかって書き下ろしの表紙なんかもあるのでそれだけでも見に来てくれれば……。
現在は『七人殺しの七不思議』の中盤あたりまで投稿してます。
http://touch.pixiv.net/member_illust.php
今回の話を書きながらニコ生で現在一挙放送してるスラムダンク見てました。
すごい面白いです。
さて、次回から心二達と堅志の戦いです。
ここまでくると今シリーズ終盤です。
次話もよろしくお願いします。
あとがきはストライク・ザ・ブラッドの煌坂紗矢華さんです。
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