#66 ある会長の想い
「あれ?」
静……と静まり返った屋上。
紅空は誰もいない事を確認すると頬を膨らませる。
「紗夜とカグめ〜、待っててって言ったのに!」
愚痴を零しながら、紅空はさっきまで一緒にいた朱緋紗夜、奥嬢輝夜と自分で腰を下ろしていたベンチへと向かう。
「私の携帯も置いてある。……どこか行くんなら持っていってくれてもいいじゃんか……。」
渋々携帯を拾うととりあえず時間の迫ったフロンティア二回戦の会場、地下体育館へ向かうため屋上のドアに向き直る。
「………………。」
紅空の表情には薄暗いモヤが差していた。
生徒会副会長を務める紗夜は真面目ながらも時折見せるイジワルな一面を考えると紅空に黙って少しの間なら場を離れる……なんて事はあるかもしれない。
例えば出店の食べ物を買いに行ったとか。
いいや、性格の話を抜きにしても紅空がフロンティアへ向かったのは今さっきだ。こんなにすぐに戻って来るとは思わないだろう。
しかし輝夜。
彼女は非常に温厚で心の清い人間だ。
言い過ぎ……なんて事は無い。
常にあらゆる可能性を考え、周りを見ている。
間違った誤解を相手にさせない丁寧な口調。
度を超えた気配りは、心さえも見透かされた様な気持ち悪さ故、彼女と親しくする者は少なかった。
そんな輝夜がバーチャルシステムで手に入れたのは第二学年上位成績優秀者二位の実力と最上位のランク3システムスキル、相手のわずかな仕草から次の一手を詠み取る心視だった。
「…………さて、と。」
紅空は階下へ降りる為の屋上の個室の扉に手を添える
ふと、ドアノブに向けていた視線を屋上部屋の屋根へと目を向けた。
紅空が知る同学年の強者の一人である輝夜が屋根から顔半分はみ出し、虚ろな瞳を覗かせていた。
「カグ!?」
ズタボロの輝夜を発見した紅空は屋上部屋の裏手から漏れた足音に気付くのに一瞬遅れる。
紅空の右頬を掠めたのは一本の鋭く尖った氷柱。
掠めただけなのに頬を刻んだ箇所からはズキズキと冷たい痛みが紅空の表情を苦くする。
「この技はカグのコード能力の氷結美神。……どういうことかしら」
睨むように紅空は輝夜の能力を使った男、蒔枷霧亜へ目線を向ける。
「もう一人いたでしょ?どこ?」
紅空の静かな怒りを宿す声音は霧亜を臆させることない。
「ここにちゃんといるぜ。」
霧亜の指差した方向は屋上部屋の陰で見えない。嫌な予感が紅空の背筋をゾクリと撫でる。電子生徒手帳を霧亜に向けながら彼の点数を調べる。
「あなた……もしかして二人に変なことしてないでしょうね?」
屋上から顔を覗かせてぐったりとしている輝夜を見たところ、衣服は身につけているようだ。
……下は分からないが。
白髪の輝夜はジャンプすればぽよよんと余裕に揺れるくらいの胸は持っており容姿も垂れ目の美人顔だ。
実にSっ気をそそらせる女の子。
紗夜にしろ輝夜ほど胸はないが容姿は申し分ない。生徒会の副会長を務めるようになったからか表情には凛々しさが常にあり時折見せるMの一面がまた股間にいい刺激をもたらす。
そんな上位成績優秀者二人が290点の彼に負けることなど想像できない。
しかし彼女らは倒れ、彼が立っている。
恐らくは上位のシステムスキルを有しているのだろう。それもかなり強力な。
「ほら、してねーだろ。」
屋上部屋の陰に消えていったかと思うと霧亜は傷だらけの紗夜をお姫様抱っこして紅空の元まで赴いてゆっくり降ろした。抱っこされてる最中の紗夜の抵抗の声が可愛らしかった。
「紗夜!大丈夫?」
「くぅっ……この年でお姫様抱っこされるとは朱緋紗夜、一生の不覚っ。」
「いいやこんな若くしてお姫様抱っこ経験出来るなんて羨ましいと思うよ〜」
紅空の言葉にも耳を貸さず紗夜は地面にうつ伏せシクシクと涙混じりに鼻をすすっている。
「それと、カグは何であんな屋根裏に打ち上げられてるの?」
それでも紅空は傷心の紗夜に追求する。
その問いに答えたのはいつの間にか背後にいた輝夜本人だった。
「あれはぁ……そのぉ氷分身……」
「……ぅ!?ビックリしたカグか。」
控えめに言うカグは紗夜同様、かなりの傷を負っていた。
「その傷、あいつにやられたの?」
こくりと頷く輝夜。
横たわっていた紗夜も力む吐息と共に立ち上がる。
「どういう訳かカグの攻撃も私の魔法も消滅させられるんだ。」
要するに特殊攻撃の無効化能力。
交流会の際に苦戦させられた天魔の三体が有していた主な能力だ。
内の一体は幻影の魔法を使って無意識的にこちらの魔法を制限させられていた様だが。
……そう、例えこちらの特殊攻撃が全く効かなくても相手が幻覚魔法を用いて魔法を制限させている……と錯覚させられている可能性は大いにある。
……が、ここまでの推察は恐らく紗夜も行き着いているだろう。
紅空と共に幻影魔法の使い手、天魔の一体である炎魔王・サタンを相手にした紗夜なら。
「天魔の時と同じく幻影系の魔法をかけられているのかと思って全能の光をかけてみたんだが、違うようだ。」
魔法神のコードを所有する紗夜の能力は補助魔法……いわゆる付加能力をかけることの出来る能力だ。
自身や味方に攻撃力追加の付撃魔法や受けるダメージを減らす付防魔法、移動速度を上昇させる付速魔法などの多用性ある付加能力をはじめ宙を舞い飛行が出来る付翼魔法や先ほど口にしたの状態異常、HPを回復する全能の光の様に実に多種の魔法が使える。
威力は心許ないが各種属性魔法攻撃の様な特殊攻撃も放てるが強みになるのはやはり付加能力だろう。
「それじゃ正真正銘特殊攻撃無効化の能力じゃない。武器で戦うしか勝ち目がない。」
しかしこちらは三人。一人の相手を制圧するのなら武器だけでも充分だろう。
しかし紗夜の表情は曇りが差したままだ。
「……それだけじゃない。」
紗夜の呟いた通り、まだ何かあるのだ。
事実紅空が戻ってくるまでの僅かな時間、紗夜と輝夜の二人で挑んでも勝つどころか傷一つ相手に付けることが出来ていないのだから。
「カグの攻撃を出してきたんだ。消滅……という言葉を使ったが、あれは吸収の類の能力だと思う。」
その推察で紅空も合点がいった。
霧亜との出会いざまに紅空に繰り出された氷攻撃はそういう事だろう。
「……ったく、あんたは敬遠してたんだがなぁ、天条紅空。」
ため息まじりにぼやかれた紅空はキッと霧亜を睨む。
「……ため息したいのはこっちよ。これから後輩とフロンティアだって言うのに。さっきお手柔らかに〜とか言っちゃったよ……。こんな現場見ちゃ無視してフロンティアなんて行けないじゃない。」
ふっ、と背中にかかる後ろ髪を払う。
「話……聞かせてもらうわね。成績優秀者の紗夜とカグ襲われたんだし、成績優秀者狩りなんて噂が蔓延る今となっちゃ偶然とは思えないもの。」
目の色を変えた様に雰囲気が豹変していく紅空。そんな彼女を初めて見るのか紗夜と輝夜は戸惑いを隠せない様だ。
コホン、と咳を一つ。
紅空は口を開く。
「紗夜とカグの陵辱代はしっかり払って貰います!」
よかったぁ、いつもの紅空だぁぁ……。
紗夜と輝夜は確かに安堵した。
「コード展開、麗艶妖精!」
妖精の粛清が始まりを告げる。
フロンティア二回戦の最終試合。守郎は会場である地下体育館で対戦相手の紅空を待っていた。
フロンティア取り締まり担当教師の鬼神先生は仕切りに左腕の腕時計に目線を落としていた。
召集からは既に15分が経過している。
「垣峰、本当に天条は来るのか?」
低く渋い声で鬼神は守郎に再度確認するよう尋ねる。
「あぁ。紅空さんは忘れ物を取りに行っただけだ。」
故に必ず紅空はやって来る。
そう守郎は力強く言葉を返した。
「……。あと5分で天条が来なければ二回戦を始める。」
一瞬見せた困り顔をすぐに引っ込めると、再び紅空の登場を待つ。
……天条紅空は、現れなかった。
心二は部室棟裏の路地をひそひそと物陰に隠れながら伺っていた。
左手にはいちごミルクのフルーツ飴が握られている。
「んー、流石にもうこの辺は見回りの人が配置されてんなー」
心二の視線の先には周囲を警戒する二名の男子生徒。
見覚えがあるのは彼らが委員会連の会長職だからだろう。
成績優秀者狩りの犯行と思われる襲撃事件は未だに後を絶たない。
学校側もようやく対処策として見張りを配置したようだ。
「……まぁ、狙われるのは成績優秀者の奴らだし。優璃が襲われるってことはないよな。」
密着させていた校舎の壁から離れ、別の場所を探すことにする。
「あ?お前お前、何してんだよ。」
ふと、観察していた路地の反対側からかけられた声に反射的に振り返る。
視線の先にいたのは毛先を金に染めた少々ガラの悪い男。
そんな見てくれでも現桜南高校生徒会長を務めている如月雫だ。
「あ。えと、会長さん。」
「そ、会長さんの如月だ。夏休みの掃除ん時の少年だよな?」
心二はもちろん自分の高校の生徒会長である如月を知っているが、まさか相手が自分のことを覚えているとは思わなかったので少々嬉し笑いをこぼしながら頷く。
「そうですそうです。会長さんは何してるんですか?」
「見回りだ。ほら、成績優秀者狩りの噂は知ってるだろ?」
面倒臭げに話す雫に心二は同情するように笑みをこぼす。せっかくの学園祭を校舎周りの見回りで潰してしまうのだ。見たところ何の成果も得られていない様だし、無駄な時間が流れているのだろう。
「前に一緒にいた巨乳ちゃんはどうしたんだよ?」
暇潰しとばかりに雫はそういえば、といった顔で尋ねてきた。
巨乳ちゃん……とは、おそらく心二の捜してる今西優璃のことだろう。
「あーそれが、たむろするのにいい場所を探しに行ったっきり戻らないんですよ。」
心二の言葉を聞くと雫は目の色を変える。それを敏感に察した心二は舐めようとしたフルーツ飴の手を止める。
「おいおい、大丈夫なのか?」
真剣に優璃の身を案じてくれる態度は心二にとっては温かかった。
「優璃は成績優秀者じゃないし、その辺は大丈夫だとは思い……ますけど」
しかし改めて他人から聞かれると姿の見えない優璃が心配になってくる。
そんな心二の肩をポン、と右手を添える雫。
「ま、オレらも優璃ちゃんは捜しとくから、お前もちゃんと捜せよ。」
「あっ、はい!」
何だろう。前までは恐い外見からか、勝手に適当な性格何だろうなぁ……なんて先入観で会長なんか向いてないだろうと思っていた心二だが。
みんなが雫を支持した理由が何となく分かった気がした。
「お前、名前は?」
またしてもそういえば、と目を丸くして今度は名前を尋ねられる。
確か夏休みの時に名乗った覚えがあるのだが……。
「天条心二っす!」
元気良く名乗る心二を見て雫はおぅ、としっかり相槌を打つ。
「んじゃ心二……っ!?」
心二は豹変した雫の表情を見て察した。
ここらを取り巻く雰囲気が一変した。
よく野球の試合で流れが変わった……なんて言い回しをするが、目に見えない似たようなそれを心二ははっきり感じた。
炎を纏う雫の拳が心二に迫っていた黒い波動のような靄を焼き尽くす。
「あっぶね。心二大丈夫か?」
突然の襲撃に面食らった心二は目を丸くしながらコクコクと頷く。
心二の無事を確認すると雫は心二の後ろの校舎裏を睨む。
「誰だお前……いや、まぁ予想つくけどな。」
ヌッと校舎陰から姿を現したのは長髪の男だった。
「……!?え、お前。」
心二は彼を知っている。
一週間ほど前に担任の花江幸から紹介された不登校のクラスメイト、綾瀬堅志だ。
「んむんむ。もう成績優秀者だけじゃ物足りなくなってきちゃってさぁ。あんた生徒会長でしょ?」
堅志は黒い靄を纏った右の掌を前に差し出す。
「ちょっち相手してよ。」
気だるげな堅志の黒目が怪しく覗く。
クラスメイトの心二に対しては眼中にないようだ。
『フロンティア三回戦第一試合如月雫と佐野正樹は地下体育館へ集合しなさい。』
校内放送がフロンティア三回戦の対戦カードを発表する。如月雫。彼の名前がはっきりと含まれていた。
「……げ、オレの番か」
意外なことに雫もフロンティアへ参加していたようだ。
となると、雫は今すぐにでも会場の地下体育館へ向かわなくては相手の不戦勝扱いで負けてしまう。
「おいおい。あんたはオレと相手するんだぜ?」
堅志は構わず攻撃を続ける。
掌から放たれる黒い靄の攻撃は雫の炎拳で相殺する。
そのまま雫は堅志の元まで特攻するべく駆ける。
「ならとっとと勝負をつけさせてもらうぜ」
両拳をメラメラと揺れる豪炎。
その拳から繰り出される一撃は堅志の顔面を捉えた。
堅志の身体を吹っ飛ばしたその打撃の威力は計り知れない。
「いって痛……。」
瞬時に立ち直す堅志は反撃とばかりに黒い靄を放つ。
「何度撃っても同じだぜ……っと」
言いながら軽く靄を払う。
どうやら靄に殺傷能力はないらしい。
「会長さん、そろそろ体育館行かないと……」
心二の言葉に雫は笑顔で頷き、堅志へ目を向ける。
「いやー疑って悪かったな。どうやら君は成績優秀者狩りとは関係なさそうだ。」
雫の中で疑いが晴れたことにより堅志を確保して話を聞く必要がなくなった。
これで彼は心置き無くフロンティアに参加することが出来る。
「そんじゃ心二、フロンティア行ってくる。」
「はい!」
心二の視界で手を振り体育館へ走り出そうとした雫はカクン、と神経がブツ切れたように地面へ沈んだ。
「……え?か、会長さん!?」
ヒヒヒッと笑みをこぼしながら堅志は自身の武器であろう片手剣を召喚する。
「んむんむ。効いてきたみたいだな。」
計画通り、とでも言うのか堅志は倒れる雫の元へゆっくりと歩み寄る。
右手には地面に刃音を立てながら引きずられる刀。
心二にはその刀が血に飢えた獣に見えた。
「ぐっ……なんだこれ、身体が動かねえっ……」
立ち上がろうともがく雫だが、力を入れようものならピクッと痙攣し、力が抜けてしまう。
「くっそ……フロンティアに行かねぇと……。決勝であいつに……伝えなきゃなんねぇんだっ」
悔し交じりにこぼす雫の無念。
「待てよ。」
そんな彼の姿が心二を動かした。
倒れる雫の前に立つ心二は立ちはだかる堅志を睨む。
「一旦退いてくれ。会長さんをフロンティアに連れて行く。」
「やだやだ。」
無慈悲に心二の言葉を否定する堅志。
なら……と心二は倒れる雫を背負う。
「逃げるっ!」
そう言い残した心二は背中に雫を抱えて逃亡する。
「んむんむ。そうはさせないよっと」
逃げる心二たちを逃さない堅志は黒い靄を放つ。
間一髪、身体を翻し半身の態勢を取りギリギリ被弾を防いだ。
しかし既に堅志は次弾を用意している。
このままではいつか攻撃を食らってしまう。
「……ねぇ会長さん。あの靄って食らっても何ともなかったんですよね?」
せっさほいさっと地下体育館を目指す心二は背中の雫にあの謎の靄攻撃について尋ねる。
「……多分HPは減らない。憶測だがあれは遅効性の麻痺攻撃だ。」
「麻痺……ですか」
確かにそれなら急に雫が倒れた説明も付く。麻痺……もしそれが本当なら心二は一発たりとも受けることはできない。
フロンティアの試合アナウンスが流れてもう五分は経つ。
運営側が待ったとしてもあと五分頃だろう。
「心二!左へ避けろ!」
後ろからの雫の通りに重い身体を左へ飛ぶ。
「っく〜……。」
自分と雫の体重がかかった状態で飛んだのだ。足に負担のかかるのは当然である。
このままでは心二の身体が体育館までの逃避行に耐えることが出来ないだろう。
息を荒げながら前へ進む心二を見て雫が表情を暗くする。
「心二……。大丈夫か?」
「だっ……だいじょーぶっす!」
見たところ、とても大丈夫な様子ではない。
心二の心臓の鼓動が雫にまで伝わってくる。
「心二のステータスは200ぐらいだろ?そんな筋力ステータスじゃやっぱり無理だ。オレを捨てていけ、お前まで攻撃受けてHPを失っちまったら……」
HPを失ったら、せっかくの桜南祭を気を失った状態で過ごしてしまう。
桜南祭を運営する生徒会の雫としては、一年生で初めて桜南祭に参加する心二たちには楽しんでもらいたいのだろう。
「……会長さん、フロンティアの決勝で何があるんですか?」
フロンティアの優勝者には学校側から願いを叶えてくれる。
多くのフロンティア参加者の目当てはそれだろう。しかし、先ほどの雫の呟きは願いを叶えて欲しい……そのような旨では無かった気がする。
「……オレは別に学校側にして欲しいことなんてない。ただ優勝して、ある奴に伝えたいことがあるんだ。」
「ある奴?……ってうわっ!!」
会話の途中であろうと靄攻撃を仕掛けてくる堅志。
そしてついに心二は足にかかる二人分の体重に耐えきれず、攻撃を避けた際に転倒してしまう。
「……やっばい、転けちゃった」
やはり心二の200そこらの筋力パラメーターでは人一人背負いながら逃げることなんて出来るわけない。
やはり400オーバーの……それこそ成績優秀者並みの成績がなければ……。
「……そうか。成績を上げればいいのか!」
心二はすぐさま立ち上がり心中のもう一人の人格、しんくんに語りかける。
「しんくん、いけるか?」
『いつでもオーケーだ。』
間髪入れずに帰ってくる声。
心二は、宣言する。
「コード展開っ!武刄雷!」
バッと差し出された右手には同時にキラキラとライトブルーの粒子が生成される。
そんな心二の様子に雫は目を丸くする。
なにせ低成績者が成績優秀者のみにしか扱えないコード展開を使ったのだ。
心二のシステムスキルは二重人格。二つの人格を融合することだ。
二人の思考、成績も融合することは、心二自身の成績は倍の数値になるということ。
その数値は526点。
点数だけで言えば校内で最高の点数だ。
「よし会長さん!さっさと体育館へ向かいましょう!」
「え……ちょっ……」
ひょいっと雫を抱えて走り出す。
流石にこうも突飛な心二のステータスの変化に堅志も初めて表情を固くする。
「んむんむ。面白いな〜あの童顔野郎。」
心二と雫は難なく体育館前まで辿り着いた。その頃には麻痺で自由の効かなかった雫の身体は元通りの自由を手に入れていた。
「うしっ、会長さん!まだ間に合いますよ!早く地下へ!」
おぶさっていた雫を下ろすと心二は先を急かす。落ち着いて礼もさせない勢いだ。
「この借りは必ず返すからな!ありがとう心二!」
うす!と敬礼で応えると雫は体育館内へ入っていった。
「……さて、と。」
一呼吸つくと心二は後ろを振り返る。
やはりその視線の先にはクラスメイトの綾瀬堅志がついて来ていた。
「あんた、名前なんて言うんだ?」
そんなクラスメイトの質問に心二はイラっと口角を引きつる。
「一応クラスメイトなんだけど……。天条心二。」
天条心二……、復唱したのち堅志は邪悪な笑みを浮かべる。
「あんたとなら楽しめそうだ……。」
「来いよ。同じクラスの仲間としてお前を更生させてやる。」




