#59 菜川李女vs.橿場直之
「ったく、何だあのロン毛野郎。」
戦科が行われる地下体育館に向かう最中、守郎は先ほどの五時限目の事を思い出しては苛立ちを振りまいていた。
「いやー、でも守郎の絡み方もアレだとは思うよー」
そんな優璃の言葉にもケッと唾を吐き捨てるようにそっぽを向く。
「……まぁ、言い方は悪かったよ。何か心二と話してるみたいに自然と喋っちまった。」
「相手がオレだからって何言ってもいいってわけじゃないぞぅ!」
本当に息を吐くようにdisる守郎に冷や汗を流しつつ、体育館内から地下体育館へと降りて行く。B1階の観戦席は生徒がまばらに散らばり階下であるB2階の試合場を今か今かと見下ろしている。
……と言ってもまだ休み時間だ。あと数分といったところで六限目が始まる。
始業までの時間をやり過ごすべく、心二は退屈凌ぎに雑談の種を巻く。
「なーなーそいやさ、不登校の奴が戦科とか日常でバーチャルシステムを使ったらパラメータとかっていくつになるんだ?」
本当に素朴な疑問であった。
バーチャルシステムで呼び出す武器は自分の現代国語、数学、科学、歴史公民、英語の5教科の定期テスト合計点数で武器のランクが決まる。
パラメータも然り。
学歴社会な現代、成績優秀者が優遇されるのは戦科に限っては仕方のないことだが、兎にも角にもテストを受けずして平均レベルのパラメータが与えられるとは思えない。
現実は厳しいものだ。本当に厳しい。いやマジで。もう子供のまま時が止まれと思うまである。
して、心二の問いに守郎が確信を持って返してくれた。
「そんなのゼロパラメータに決まってんだろ。」
ゼロパラメータ。当然テストを受けなければそんなパラメータも存在するのだろうが、正直いって想像できない。
「ゼロって……それは守郎よりも弱いってことか!?」
「あぁそうだなーオレより弱い心二でも見下せるくらい弱いなぁ」
あん?と睨み合う心二と守郎を横目に見つつ、いよいよ始業のチャイムが鳴り響く。
同時に一試合目から四試合目までの組み合わせが行われる戦科試合は計八名の生徒が入場する。
三限の戦科で一回出番が回ってくるペースで
対戦を回しているので、一時限あたり50名
ほどを捌くためスムーズな進行を心掛けているのだ。
そしてその八名の中には例の菜川李女の姿が見られた。
「あ、菜川だ!そういや菜川は誰と試合するんだろ」
先ほど教室で聞いたのだが、声を拾うことができずに結局聞き直すことができなかった。
そんな李女が第四コートに位置取ると、同じく何の迷いもなく第四コートへ向かう人物を捉えた。
心二、守郎、優璃はその人物の名を知っている。
「……橿場、直之!」
夏休みの拉致騒動以降、どう彼と接するか距離を図りかねている心二、守郎だが優璃はへぇ……と口元を緩めていた。
「どっちが勝つんだろ……」
李女と直之は互いに上位成績優秀者。
それぞれ李女は三位、直之は九位の位置に座するパラメータは李女の実力の方が勝っていることを暗に語っている。
『それでは、戦科試合開始』
教師の気だるい試合開始の宣言と同時に李女と直之のバトルフィールド中央から甲高い衝撃音が響く。
互いの愛剣が敵を切り裂くべく振り下ろされる。一度、二度、三度と敵の剣と接触すると一旦距離を取る李女は右手に持っていた片手剣を振り上げた。
「……あん?」
その行動に直之はハテナを浮かべる。
李女は自ら距離を取ったため、そんな離れた位置からではどうしようもできない。
しかし剣を振り上げる理由は一つしか思い浮かばない。
「ーーーーっっ!」
無論、攻撃の手段に繋がる動作だからだ。
鋭く吐かれた吐息と共に李女は振り上げた右手を真下へ振り下ろす。
手に持っていた剣は……その手に握られていない。
「…………ッんだそりャァ」
直之は口を歪めて李女の乱雑な攻撃を冷静に分析する。
李女は右手に持っていた剣をボールを投げるかのように直之に向かって剣を放り投げた。
命中率は限りなく無に等しい。
直之は考えた。
自分の武器を投げ捨ててまで仕掛けてきた命中力皆無な攻撃。
この無駄の多い特攻に意味を見出すのは、実に簡単。
……武器はもう必要ないからだ。
「コード展開!水神雌狐」
李女の発言と同時に直之へ投げつけた剣が一瞬で豪熱に当てられたかのように宙で溶ける。
ピシャリと直之の周りに飛び散った溶液を鬱陶しそうに避けながら直之は胸の前で剣を構える。
「コード展開、天空竜!」
地に溜まる溶液には紅い天空竜の逆鱗が波紋を作っている。
どこからともなく聞こえる竜の雄叫びは、目の前の女狐を狩るべく息巻いているかの様。
「さて、始めよう。」
李女は自身の尾骶骨から伸びる九尾を揺らしながら態勢を低く構える。
水分を集めて形成された九尾の尾先にはこれまた水分をプクプクと球状に形作っている。
李女の挑戦的な言葉に直之はコード展開して片手剣から形を変えた大剣を軽々と持ち上げる。
「もう始まッてんだろがよ」
言いながら直之は大剣を紅蓮に燈す。
刀身を徐々に朱を濃くしていくのは天空竜の能力である。
言葉にするなら「溜気斬り」。
力を溜めて放つ斬撃。溜めれば溜めるほど攻撃の威力は段違いに上がり、威力は落ちるが遠距離に斬撃を飛ばすこともできる。
無限の威力を有する攻撃力の天空竜のコードは如何なる防御も打ち砕き、どんな多大なHPをも瞬く間に削り尽くす。
そんな直之は紅蓮色に溜気した大剣で空を切り裂き三日月状の剣撃を李女に向かって飛ばす。
威力は落ちるが天空竜の遠距離攻撃だ。
地にできた溶液溜まりを一瞬横切った紅蓮の三日月は幻想的で、裸眼で見ると一層……見惚れてしまう程だ。
しかし李女は一息吐くと九尾の内二本の尾を伸ばして自身の目の前で交差させて構える。
飛んできた遠距離斬撃を難なく二尾で防ぐや否や、残りの尾の先端に溜めていた球体をビームのように放出した。
その数、三撃。
一方直之は遠距離斬撃を放つと即座に溜気をしていた大剣を宙へ投げ上げ、三撃の水圧砲射を避ける態勢をとる。
一撃目、右腕を掠め、上体のバランスを崩す。
二撃目、崩した上体の僅か上空、先までの直之の頭蓋の位置を射抜く。
投げ上げた大剣が直之の先ほど立っていた地点へと降ってきた。
三撃目、宙の大剣に命中。直之の胸へと物凄い勢いを伴って大剣ごと直之の身体を吹っ飛ばす。
ドッスンと思い切りお尻から不時着した直之はすぐさま手放してしまった大剣に紅蓮を燈す。
その間、直之は冷や汗を流しながら李女を睨む。
先ほどの攻撃の威力、掠っただけで身体を持っていかれるあの重たく速い攻撃は間違いなく即死級の必殺技。
直撃だけは避けたいあの攻撃だが、現実問題、あの発射速度の砲射を複数弾撃たれると避けるのすらままならない。
直之が李女に勝つにはほぼ最強の名を謳う水圧砲射を撃たせることなくケリを付けることだ。
……接近戦。
李女との戦いで優位に立つにはこれしかない。
直之は依然紅蓮を燈し溜気を続ける大剣を構えながら李女の元へ駆ける。
幸い李女の尾先には水圧砲射の種となる水玉は浮かんでいない。
攻め入る好機は正に今。
パシャパシャと水圧砲射の飛沫が溜まった水たまりを蹴りながら李女に溜めに溜めた溜気斬りを食らわせるべく疾駆する。一撃必殺の溜気斬りを目にして、徐々に迫ってくる直之を李女はただ傍観している。
逃げる素振りも見せなければ、次撃の水圧砲射をチャージする様子もない。
「何ぼーッと立ッてん……ッ!?」
静観する李女の不気味な佇まいに気を取られ頭が回らなかった。
こんなのは、少し考えれば分かることだった。
わかりやすいくらい……直之の接近を誘発していたということに。
異変は直之の足元から生じた。
視線を落とすとそこにあるのは水たまり。
見た感じ、何の変哲もないそれは外見とは裏腹にその水たまりを踏みしめている直之は脂汗を垂らしながら……絶対的窮地を認めざるを得ない、血走った目を浮かべながら……立ち尽くす。
……いや、立ち尽くさざるを得ない……といった表現が正しいであろう。
そう、動けないのだ。
全身の自由が奪われた……と言うわけではなく、水たまりに足を付けた両足のみに言えることだ。
「……どういうこッたよこれは……!」
足裏の表面からビッシリ水たまりにくっついてしまったように吸着している両足を無理矢理引き剥がそうと力を込めるが、無駄も無駄。
無駄ったらしい程に無駄な抵抗であった。
「その水たまりは粘液溜まり。橿場はそこから動けないよ。」
何が何やらといった直之に李女は九尾全てを一点に集結させながら一言。
「……ッあ?そんな特殊な水たまりを仕掛ける隙なんてなか…………っ……」
言いながら、直之は理解した。
一度だけ心当たりのある……粘液溜まりを仕掛けたタイミングがあった。
「……コード展開した時かッ」
直之は憎々しげに吐き捨てる。
厳密に言えばコード展開の際に李女自身が剣を投げ飛ばした時だ。
剣が豪熱に当てられたように宙で溶け、溶液を撒き散らした。
その溶液が直之の自由を奪っている粘液である可能性は十分に考えられる。
「その通りだ。」
九尾の尾先の中心で生成されている特大の水玉はもはや爆弾である。
今さら直之は自身の置かれている状況に気付く。
両足の自由を奪われ、いつ発射されるかも分からない一撃必殺の遠距離攻撃。
直之は手元に目をやる。
未だ紅蓮を燈す天空竜の大剣。
恐らく結構な威力を溜気出来ている筈だ。
直之は闘志を燃やす。
両足の自由は効かずとも拳を握ることが出来る様に、大剣を振り上げて空を裂くことだって出来るのだ。
見据えるは女狐。
打ち砕くは、彼女の自信。
「……来いよッ」
直之の挑発に応えるように放たれた水圧砲射……いや、水圧光線は地面を抉りながら獲物の竜を捉えるべく猛進する。
直之は轟音を立てながら迫ってくる光線をギリギリまで引き付ける体で構えていた大剣を思わず引き抜いた。
想像を絶する射撃速度は名の通り光速の如し。
思わず目を閉じるほどの眩しい光が地下体育館を照らす。
世界が真っ白に包まれたかのような錯覚に襲われた心二は勝負の決着をこの目で見届けるため、開眼。
最初に目に入ったのは直之の大剣……欠けたその切っ先が深々と地を抉っていたことだった。
抉られた物……いや者は地だけではない。
左鎖骨を中心に半径5cmの風穴を開けられた直之の姿がそこにはあった。
『…………だ、第四コート勝者……菜川李女』
間抜けなトーンで告げられた竜と狐の戦いは狐に軍杯が上がった。
「李女ちゃんつよーい、さっすが第三位」
優璃から感嘆の一息と共に賞賛の一言をつぶやく。
戦科試合稀に見る名試合は帰り道の話題に花を咲かせることだろう。
だが、今は余韻を感じる時ではない。
時の流れは待ってなどくれない様に試合はどんどん進められていく。
いつもは他愛のない会話を繰り広げる心二や優璃は今日も今日とて戦科試合を眺めていた。
そんな二人はちょっとした違和感を感じていた。
その正体である、同じくすぐ横で気だるげに試合を眺めている垣峰守郎に投げかける言葉を形作る。
「何だよ守郎、話に入ってこいよー。」
「ん?あぁ。何の話だっけか?」
本当に上の空で試合を傍観していたのか、すぐ隣で聞こえていた筈の話の内容も頭に入ってなかったようだ。
「優璃をアニメ大好きな女の子にするために、名作アニメ紹介してるんだよ!守郎は何のアニメ勧める?」
「優璃がアニメにハマったりなんかしたら腐の道まっしぐらだと思うんだが……」
ひっ……と小動物じみた震え声を漏らす心二はさておき、優璃は守郎に端的に尋ねる。
「何かあったの守郎?」
普段の戦科試合の待ち時間、守郎はと言うと彼自身が注目を置く組み合わせ以外の試合は腰を下ろして眠りこける様な奴が今日に限ってこの有様だ。
不思議……というか不審にすら思うまである。
優璃の問いに守郎は長話になりそうだと判断したのか、一つ咳払いをして依然試合が繰り広げられているコートを眺める。
「昨日の夜に大空から電話がかかってきたんだ。それが妙な話でよ……」
「妙な話?」
すぐさま食いつく心二にチラと視線を向けると一言だけ守郎は告げる。
「破滅の能力者……ってのが目撃されたんだよ」
「……破滅?」
その名の通りあらゆるモノ全てを滅する超越者を呼ぶ名だ。
「な、何だよそれ。そういうコード所持者がいるってのか?」
聞いた感じ、そういうコードを持つ能力者が居てもおかしくはない。なので守郎の妙な話……という言い方はどうにも要領を得ない。
「オレもそう思って適当に相槌うってたんだけどよ……」
言い知れぬ不安を感じさせる言葉の区切り方に心二と優璃は息を飲む。
「触れられただけで、太陽の刀が折られたんだよ」
「は?」
守郎の言っていることを理解するのに一瞬を要した。
戦科試合、次元石を用いたバーチャルバトル。どちらも戦いの基本となるのは自身の武器だ。
これを失うと、コードや攻撃系しかも上位のシステムスキルを持っていない限り反撃を仕掛けることも、先攻することも出来ない。決定的なのは……戦う術を失うこと。
そんなチート的コード能力が存在することに心二はやはり一瞬硬直する。
「その破滅の能力者は桜南の制服着てたって話だし、もしかしたら今日行われてる戦科試合に出てるかもってな。ずっと見てたんだが成果なし。」
しかし、恐らくは実在する破滅の能力者は心二、優璃、守郎に嫌な予感を抱かせた。
全て無に返す能力……実に謎に満ちた能力者の存在を背に文化祭まで残り二週間ちょっと。
祭りの幕開けは着実に迫ってきている。
テスト期間にて更新が遅れておりました
いつもは一週間前でも勉強の気分転換で小説書いてたりしてたんですが、今回のテスト期間に関しては別で……
まぁぁいにち提出しなければならない提出物があって鬼畜テスト一週間前で頭が回んなぁぁぁぁぁい!!!
……かったわけです。
それに今回は戦闘描写がメインの回。
バトルシーンが大半の話の執筆の遅さは異常な僕ですが、次回は恐らく桜南祭に向けての日常話になりそうで今回よりは早めに上がると思いますが……
んー、いい成績残さないと個人的に色々よくないのでまた更新遅れるかもです。
そして、今回で初の濃い影を使用したイラストを挿し絵にしてみましたが、中々いい感じだったので今後も使っていきたいと思います。
あとがきイラストは間に合わなかったので本アカウントで載せた落書きシリーズを載せていきたいと思います
極黒のブリュンヒルデから黒羽寧子ちゃんです!
戦隊ヒーローみたいなポーズを取らせてみました。
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@tenrei_100
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原作見てる僕としては最終回どうやって畳むのか楽しみです




