#57 破滅の手
「え!?それじゃ鳴夏って心二の幼馴染みってこと?」
「そゆこと、あー別に心二の事好きとかじゃないから☆その辺は大丈夫!」
優璃と鳴夏の会話に聞き耳立てる心二の心にチクリと刺さる言葉の棘。
引き抜こうとすればさらに自身を傷付けてしまう棘に構いもせず心二は会話に突っ込んで行く。
「っ……。よくもまぁ本人を前にして平気でdisれるよな」
「なーに言ってるの、せっかく背中を押してあげてるのに」
ニヤニヤしながら優璃へと視線を向ける鳴夏は手元にあったポムポムプリンのぬいぐるみを抱き寄せる。
「お前の背中を崖っぷちから押してやりたいよ……つかオレのポムポムプリンに触んな!」
「あ!このぬいぐるみ知ってる!アナル付いてるキャラクターだよね」
優璃の中では『アナルの付いたぬいぐるみ』ことポムポムプリンは先日暇つぶしで守郎と立ち寄ったゲームセンターで取れたものだ。黄色い身体のベレー帽を被った動物だが、そんなポムポムプリンのお尻には✳︎の刺繍がされている。
「オレの可愛いポムポムプリンにアナルとか言うな!」
「おい、階段まで聞こえてんぞ」
不意に開かれた扉から風呂上がりの守郎が心二の声量を注意する。
「お、出たか守郎。んじゃオレも入ろっかな〜、守郎!こいつらがところ構わず部屋を物色しないかちゃんと見張っとけよ!」
「へいへーい。」
欠伸混じりに答えると、心二は寝巻きを抱えて階段を降りて行く。
さて、と風呂上がりでも眠気に屈する事はなく、優璃と鳴夏はクイっと袖を捲る。
気のせいか目付きが現場に残された手がかりを見落とさない探偵の目をしていた。
祖父の名をかけそう。
「エロ本っていうのは元来ベッド下に隠されていると言われてきたけれど……」
優璃は顎に手をやり自身の考察を見直す。何について考察しているかはともかく、結構サマになっている。
「えぇ。近年の男子は知恵を身につけてきたみたいね。……例えばだけど、私の愛聴してたラジオではこんな隠し場所が紹介されててね」
言いながら鳴夏は室内の本棚指差す。
目的のものを見つけるとフフフ、と怪しい笑みを浮かべる。
鳴夏が本棚へと手を伸ばし掴み取ったそれは百科事典だった。
カバーに入ってるのは勿論百貨辞典のはずだが、なんと中からは巨乳姉萌え本が二冊確認できた。
「「ひゅー」」
某アニメのネットラジオでこんなお便りメールが読まれた。「エロ本を上手く隠す方法はありますか?」
このメールに某男性声優は百科事典の中身を抜いてその中にエロ本を隠していたとのこと。
影響を受けすぎた故の結末だった。
一方、自身の部屋を物色してたら止めろと命じられていた守郎はというと、壁に背を預け完全に寝息をたてて船をこいでいた。
心二の部屋で姉物のエッチ本が発見された頃、紅空はキッチンにいる母と食事の洗い物を手伝いながら亜戯羽村でのことを話した。
「ひゃー、鳴夏ちゃんこの辺に引っ越してたのね。あんた達と一緒に帰ってきた時はビックリしたわ」
ふふふ、と懐かしい表情で笑みを含みながらお皿を洗って行く母の一心。
「まぁね〜」
カチャカチャと食器を片していく中、依然と亜戯羽村での話は底を尽きない。
「心二とあの子達仲良く出来たのね。6年も顔を出さなかったから勝手に仲間はずれにされてるかもとか心配しちゃった。」
「はは……まっさかぁ」
結構的を射た母の一心の心配に内心ドキリと口元を引きつらせる。
「……ちゃんと文歌ちゃん弔ってあげた?」
答えるまでもなく紅空は心残りを感じさせずにただ親指を立てる。
「うん、なら良かった。疲れたでしょ、もうお風呂に入って寝たら?」
「……うん。そうしようかな」
普段は疲労を顔に出さない紅空だが、今回は流石にへとへとと足取りがおぼつかない。
お風呂へ入ってくることを薦めると紅空は力ない笑いを浮かべながら浴室へと向かう。
閉められた洗面所と浴室の扉をガララララとスライドする。
洗面所に入ると目の前には心二が今まさに下着を脱いだ所だった。
確か亜戯羽村へ出発した朝にもこんな事があったことをそういえば……と思い出す。
「またかよ!ノックしろよ」
「……一緒に入る?」
疲れた表情で誘うような事を言う紅空は、いつもと違って色っぽく、改めて年上の魅力……つまりは姉の素晴らしさを再確認する。
正直一瞬真剣に考えた。別に実の姉にあれこれする、なんて考えはよぎらないが目の前の疲れ切った紅空を見ていると癒してあげたい……なんて危ない欲がほとばしるのだ。
ここはグッと堪え、彼は力強く答えた。
「うん!遠慮する。」
逃げるように浴室へ入る心二を確認し、フッと特に意味のない笑みを吹くとその場にへたり込んでスースー寝息を立て出した。
浴室に入った心二はバスタブに貯められた湯に身を浸けることなく、シャワーのレバーを捻り少し強めの水圧を自身に浴びせる。
ポトポト滴る雫がタイルへ落下していくのをボーッと見落とす心二はシャワーを止めて眉間へ垂れる水滴を払いもせずに目を瞑りながら湯船に浸かる。
「…………っはぁぁ。」
自分の内に溜まっていた疲れを吐き出すかの様なため息をつきながら心二は手探りで桶をひっ掴み、お湯を溜めて顔を洗い、ようやく奈良へ帰ってきた事を再確認した。
使い慣れた浴室は目を開けずともどの辺にバスタブがあるのかだとか、桶の場所はどこか分かる。
この感覚が心地良い。
いつも身を浸かる湯船の温度が心地良い。
そして……目を開けたその眼前にあるいつもの浴室のタイルが、心地良い。
心二は奈良に帰ってきてから目にする全ての物に注意深く目を向ける。
自分の中で眠っているもう一人の自分に奈良の故郷をちゃんと伝えるように。
亜戯羽村以降、記憶の共有が出来るようになった二人の天条心二に、改めて故郷を紹介するというのも変な話ではあるが。
とりあえず、心二は中にいる自分に向けてポツリと一言。
「…………ようこそ、もう一つの故郷へ。」
瞬間、上から落ちてきた水滴が湯船にポチャリと波打った。
気持ち良さそうに熟睡の表情を浮かべる優璃と鳴夏の肩を優しく揺する。
現在は午前9時。
友達とのお泊まり会では夜更かししてしまいがちだが、優璃と鳴夏も例外ではなく午前3時くらいまではお喋りに興じていたのではないか。
そんな優璃は小さく開けられていた口元を閉じてリップクリームを馴染ませるように唇をムニムニと動かす。
やがて瞼をゆっくり開く。
外の世界はやはり眩しく糸目のまま自分の安眠を阻害した目の前の心二を一瞥する。
「……何で休日なのに起こされなきゃなんないの」
流石に機嫌が悪そうだ。
しかしそこは心二、心を鬼にして覆っていた毛布を引き剥がす。
「ひゃっ……さ、寒い!」
まだ10月に入ったばかりだというのに、これでは冬の朝が思いやられる。
しかし突然の温度の差にどうやら優璃は完全に覚醒したようだった。
「もう何よ心二!まだ日曜の9時でしょ?もう少し寝かせてよ!」
「うん、本当にごめん。でも仕方ないんだって、鳴夏も道連れに起こしていいから……」
心二が言い終える前に天条家内にピンポーンと来客を告げるインターホンが鳴り響いた。
「あー、来た来た」
「へ?誰?」
何も聞かされていない優璃は心二に説明を求める。
そういえば部屋を見渡すと一緒に寝ていた部屋主の紅空がいない。
「姉ちゃんなら来客のお出迎えだ。守郎はとりあえずおもてなし用のお菓子を買ってきてもらってる。」
言ってる間にも下の階では来客者を笑顔で迎え、階段を上がってくる足音が聞こえてくる。
部屋に入ってきたのはニヤニヤと緩み切った笑顔を浮かべる紅空。
その背後には懐かしい面々が控えていた。
「……あ!あーー!確か大空と音祐!」
指差しテンションを上げながら優璃はガタイのいい大男と長髪の男を名指しする。
「うっす、久しぶり」
彼らは夏休みの拉致騒動で知り合った大空船と名乗るグループ、大男の風上大空と長髪の木場音祐だ。
「あ!優璃お姉ちゃんだ!」
瞬間、ブワッと室内の空気が変わる。
大空と音祐から覗くつぶらな瞳の主が二人の間をぬっと通る。
「……!へ?」
姿を現した柔和な面持ちの巨乳っ娘にお姉ちゃん呼ばわりされた優璃は戸惑いを隠せないでいた。
理由は至って単純。
自分に妹などいないからだ。
しかし、大空と音祐の面子から考えて予想できる目の前の巨乳っ娘に優璃は夏休みの拉致騒動で出会った小さな少女を重ねた。
「……あ、あーー!!えーー!?もしかして、愛衣ちゃん?」
優璃のオーバーリアクションに愛衣と呼ばれた少女はピシッと右手を挙げる。
「はい!愛衣であります!」
元気よく名乗る愛衣だが、如何せん三ヶ月前の面影を童顔しか残していない故、優璃は目の前の彼女があの少女だとはとても思えなかった。
心二は勿論この木葉愛衣の変貌には多少なりとも耐性があった。
亜戯羽村出発の前日、共に来訪してきた音祐からこの件についての相談を受けていたからだ。
そして今回は、その相談を解決するために天条家を訪れてもらったわけである。
心二は本題へ入るべく注目を集めようとパンパンと手を叩く。
「よしそんじゃとりあえず……って、おぉ?」
優璃は心二の袖口を引っ張り、言葉を遮る。
「どゆこと?愛衣ちゃんがばいんばいんになってるんだけど……」
それを今から話すんだろうが……、心二の目線が優璃に何らかを察させた。
「愛衣ちゃんはとりあえず隣のオレの部屋でくつろいでてくれ。」
言いながら心二は紅空に視線を向ける。
それを笑顔で返し紅空は愛衣の小さな背中に手を添える。
「さ、行きましょうか……えへぇ」
心なしか隣の部屋へ向かう足取りが速いような気がした。
「おい、お前の姉貴愛衣に何もしねぇだろうな?」
「し……しない、だろ」
語尾に「……多分」の一言をどうにか飲み込んだ心二はバタン!と勢い良く閉められた隣部屋のドアを合図に心二は優璃、大空、音祐へ視線を向ける。
「さて、と。そんじゃ只今より愛衣ちゃんに大人の階段登らせようと思います!」
「おい、意味深な言い方してんじゃねぇぞ」
ピシッと額に青筋を立てる大空の鋭い眼光に眉をしかめる。
「だ、だってそういうことだろ?」
まぁそういうことなんですがね。
相談の依頼主である音祐からもその様に聞いている。
「あんまり余計なことは教えんなよ。」
音祐にジト目を向けられながらそんなことを言われた優璃は頭にハテナを浮かべる。
「……はい?何であたしに言うの?」
「はい?」と今度は音祐がハテナる。
話がややこしくなる前に避けたい心二は優璃に命じる。
「そういうわけだ、優璃が愛衣ちゃんに性教育してやって欲しいんだ」
「…………!?」
しばらく固まる優璃だが心二はさして気にしていなかった。
何てったって優璃だ。
穢れを知らぬ少女にエッチな事をあれやこれや言えるのだ。
役得役得。
「嫌だっっ!」
「なにぃ!?」
優璃から強い意志の込められた一言は絶対的な拒絶を意味していた。
「何でだよ!優璃こういうの好きだろ?」
「失礼な!そりゃ興味は深々だけど純真な中学生に下い事なんて言えないよ!!」
ぐぬぬ……と心二は言葉が見つからず黙ってしまう。
誰だってそうだ。綺麗なものを汚すなんて真似は好まない。
少なくともこの場にいる者達は抵抗を覚えている。
「おい!話が違うだろ心二!」
事か上手く運びそうにない展開に音祐はアタフタしながら抗議する。
大空も無言ではあるが腕を組みながらこちらを睨んでいる。
「おおおオレに言うな!てっきり優璃なら喜んで説明してくれると思ってたんだよ!」
「本っ当に失礼!一旦あたしの純真さについて腹を割って話す必要がありそうだよ」
むむむ……と頬を膨らませて心二を睨む優璃の背後で今の今まで寝息を立てていた鳴夏がようやく上体を起こした。
「…………うるさいんだけど」
寝起きの機嫌は最悪そうな鳴夏は目元を擦りながら不満を漏らす。
「そうだ、鳴夏はどう?」
ハッと思いついた代案を優璃は目を輝かせながら鳴夏へ話を振る。
「……何のこと?」
首を傾げる鳴夏に愛衣の事情を話す優璃。
話し終わる頃には垂れていた瞼もすっかり覚めていた。
「ということで鳴夏!愛衣ちゃんに性教育したげて!」
「ヤーよ。何で初対面で年下の女の子にゲス話しなくちゃならないのよ」
やはり都合よく引き受けてはくれない。両手を合わせて何度も何度もお願いしていたが返ってくるのは乗り気ない一言。
次いで自身の代役を求める優璃の耳には何者かが階段を上がる足音が届く。
「おーっす。買ってきたぞー」
買い込んだお菓子でパンパンに膨れた買い物袋を胸の前にかざした守郎が不機嫌そうな表情で買い物から帰ってきた。
「おー、ご苦労ご苦労」
「何で上から目線な言い方なんだよ」
心二の対応にますます自身の眉に皺を刻む守郎へ縋る様な視線を向ける優璃に彼は気付いた。
「な、何だよ」
「守郎!お願い!」
胸の前で両手を結び、目元に涙さえ浮かべん乙女の表情は守郎に謎の恐怖を抱かせる。
しかし、発した言葉は非常に乙女とはかけ離れたものだった。
「愛衣ちゃんに性教育して!」
「え、いいの?」
先ほどまでの切れ長つり目がクリッと驚いたように開かれた。
というかほとんど素の反応。
瞬時に反応したぞ守郎くん。
そんな守郎の胸ぐらを乱暴に掴むゴツい右手。
「良いワケねーだろ」
瞬間に垣間見た守郎の下心を見逃さなかった大空は人を殺しかねない視線で守郎を睨む。
「誰がやるっつったよ」
「目見てりゃわかんだよ」
険悪なムードが漂う中、またしても性教育の代役を押し付けることに失敗してしまう。
「どーするの?もうアテになりそうなのいないよ!」
「だーから、優璃がやればいいじゃん」
相変わらず心二は優璃頼りで代案を考える気はないようだ。
「頼む今西!もうお前しかいないんだ!」
ついには可愛い愛衣の成長の為、頭を下げなさそうな音祐が頭を下げて優璃に懇願し出す始末。
大空も守郎の胸ぐらを掴んでいた右手を離しそのまま五本の指先を立てて申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「え……えぇぇぇ。」
強面の彼らのお願いは少々鬼気迫るものがある。
優璃は必死に代案を目を泳がしながら考えを巡らせる。
すると、隣部屋から催促する紅空が顔をひょいと出す。
「ねぇまだ教育者さまー、そろそろいいかな?お姉ちゃんそろそろ我慢の限界……」
ハッと、部屋のほとんど全員が代案を思いついた。
「紅空ちゃん!」
優璃は紅空に抱きつき、ただ一言お願いする。
「愛衣ちゃんに性教育してっ!!」
「え!?いいの!!!」
守郎の反応より数倍の歓喜に満ちた姉の顔が、目の前にあった。
スキンヘッドを貫いている大空船メンバー松原太陽は今頃性教育を受けてるであろう愛衣の顔を浮かべながらケーキ屋の前で立ち止まる。
本日を持って純な心を失ってしまうと思うともの悲しい思いを隠せない。
「……愛衣にケーキでも買って帰るか」
店内へ入ると丁度いい室温が太陽の身体を包む。
もちろん苺のショートケーキと決めているため、選ぶ間も無く成されている列に加わる。
愛衣の喜びながら頬張る天使の表情は素晴らしいものだが、いつしか愛衣の育った胸ばかりを見ている今日この頃。
見やれば残りのショートケーキは一個であった。自分の注文で丁度なくなるようだ。
何とも運がいい、と宝くじでも買ってみようかなと呑気にケーキを喜ぶ愛衣の顔を思い浮かべながらルンルン気分で前の人がお会計を済ますのを待つ。
ーーそんな時ーー。
トントン、と後ろから肩を叩かれた太陽は気軽な気持ちで振り向いた。
同い年くらいの……しかし大人な雰囲気が感じられる女の子が自身の肩を叩いたようだ。
連れの目つきの悪い男には目もくれず、太陽は女の子に何用か尋ねる。
「お願い」
笑顔を含めながら両手を合わせそして紡がれる一言と同時に卑猥な赤みを帯びる舌をペロリと出した。
「キミの頼もうとしてるショートケーキ、譲ってくれない?」
「……は?」
即答……しないと見るや否や、舌を魅惑的に出す彼女は小指に嵌められたバーチャルシステムを展開するための次元石と呼ばれる指輪を舌で触れる。
何ともいやらしいその仕草に見惚れる太陽をよそに、彼女は戦闘態勢に入っていた。
「……っ!ちょっちょっちょい待ち!」
すかさず自身の武器である片手剣を召喚する。相手は様子を伺うことなく武器のレイピアを太陽の心臓目掛けて突き出す。
しかし、太陽は反射神経で思わず構え、払った片手剣は相手のレイピアをいとも容易く弾いた。
上体のバランスを狂わせるまでに影響を受けた太陽の反射神経攻撃に次いで、心苦しいながらも太陽は話し合いに持っていくべく次撃の攻撃でこの戦いを終わらせようとした。
彼女の身体を切り裂くのは実に簡単だ。ガラ空きの女体に自身の剣を突き刺すだけ。
連れの男は腕を組んで目を閉じている。割って入ってくる可能性も薄い。
勝負を決するのは実に容易い……はずだった。
今まさに切り裂かれる状況にある彼女はどう思ったのか自身の左手を差し出した。
苦し紛れの防御なのか、、、
そんな太陽の考えを彼女は容易に、そして絶望的に打ち砕いた。
挑戦的な彼女の笑みにはやはりペロッとイヤらしい舌が口から垂れていた。
ゴッ……と謎の破砕音が聞こえたのはその時だった。
「なっ……にぃ!?」
彼女の差し出された左手に太陽の片手剣が触れた瞬間、強大な謎の力に触れたように粉々に砕けたのだ。
「ダメだぞー?かもしれない運転って言葉あるじゃない?色んな可能性を想定して行動しなきゃ……例えばぁ」
弾かれた右手に握られたレイピアは今度こそ太陽の心臓を突き刺した。
「…………自分の剣が急に砕けて、止めを刺される……とかね」
太陽は倒れるまでの瞬間に様々な疑問が浮かんだ。
急に話しかけてきた彼女は誰なのか、
何でそんなに舌がエロいのか、
コード展開を使わずに剣を砕くなんて芸当がどうして出来るのか、
そして何より……どうして太陽が買おうとしていたケーキが苺のショートケーキだとわかったのか。
彼女のイタズラな笑みが最後の瞬間までチラついた。




