#52 亜戯羽村巡礼
心二のメッセージ通り、深夜丁度0時までに指定通りの場所へと辿り着いた紅空、鳴夏、未撫だが、彼女らが向かう道中の間、心二たちは一波乱に見舞われていた。
「樹祀姫って知ってるか?」
天条心二の問いに暴走族一味を代表してリーゼント頭が不機嫌そうに答える。
「ぁあ?んなもん知らねーよ」
帰ってきたリーゼント頭の言葉に心二は歯を剥いて邪悪な笑みを浮かべる。
普段の心二からは絶対に見られない表情だ。
「午前ちょうど0時。ここ亜戯羽村ではこの村を荒らす者を居座らせないように天罰を与えるんだよ。」
ポケットからiPhoneを取り出し電源を入れると、不気味に心二の顔面が画面の光で照らされる。
「只今52分。樹祀姫サマの天罰執行までーー……」
iPhoneの画面を自分たちを囲む暴走族の彼らに向けて言葉を紡ぐ。
「…………残り8分。」
そんな心二の怪談めいた話を聞いてバイクで乗り回してやって来た暴走族の彼らの反応は……。
「っっはぁぁ?んだそりゃくっだらねぇぇ!
キマツリヒメ?テンバツ?きっしょいなぁお前!根暗かよ」
場を沸かせる様なバカ笑いと共に周りの連中も指を差して心二をひやかす。
まぁ心二からすると、大爆笑を我慢するかのようにプルプルと肩を震わすくらい…………
予想通りの反応だ。
「んなデタラメ話平気顔でほざけるなんてどうかしてんなぁぁ!なに?そんなにオレらが怖い?漏らしちゃう?」
……と、流石に頭に来る煽りっぷりに心二の眉間にシワがよる。
両隣の一緒に囲まれている投矢と拳斗は今にも暴れそうな勢いで歯軋りを鳴らしている。
「……おい心二。なにガキみたいな嘘ぶっこいてんだよ。こっちが恥ずかしいんだよゴラ」
拳斗の呆れ声に静かなる怒りの表情を浮かべる投矢。
そろそろ身内で大げんかが始まりそうなくらいまでになってしまったこの瞬間。
「さ、投矢に拳斗!この堪え難い侮辱を発散させる人柱は目の前だぜ?目一杯殴り潰せやオラァぁぁ‼︎」
吠えるが同時に自分たちを囲む奴らを手始めに正面の刺青男を殴り伏せた。
それに便乗し、吹っ切れるような拳斗の雄叫びが轟く。
「笑ってんじゃねーーぞチンピラ共がぁぁぁ‼︎」
吠えながら暴れ狂う拳斗に投矢も準備運動の如く首を回して手首をプラプラと揺らす。
いきなり暴れ出した心二たちを黙らせるべく、連中も拳を握り心二たちに押し寄せる。
後のことを考えず、向かってくる相手に本能で殴り本能で躱す。
そんなほぼ無意識状態の混戦が始まり、時間も刻一刻と迫り、遂に紅空へ送ったメッセージに記載された時刻……午前0時になろうとしていた。
「……頼むぜ紅空」
そう漏らした心二は、どうしても自分自身の拳を食らわせてやりたい……目の前のリーゼント頭に視線を向ける。
無言で、ただ自身の中でモヤモヤとしたストレスを発散するためだけの目一杯の右ストレートはリーゼントの顔面を正確に捉え、そのまま吹っ飛ばした。
「さて、0時丁度!」
iPhone画面にて、日付が変わったことを確認し、紅空は右手の指輪を目の前にかざす。
「……コード展開。」
桜南高校の第二上位成績優秀者、天条紅空の必殺コードは麗艶妖精。無限に爆弾を生成したり、様々な固形の爆弾を生み出すことが出来る。
この麗艶妖精の能力を知った上で心二が紅空に指示したメッセージはこうだった。
-秘密基地で麗艶妖精の能力を最大火力で発動してくれ。-
「麗艶妖精!」
コード名の発言と同時に紅空は即座に掌を地面にかざし、自身の最大火力、大規模爆弾の発動を決行する。
念動力を地面に送り込むかのように目を閉じて集中する
……刹那。
地面が神々しい光が天上を貫いた。
「…………ぁ?ぁんだよぁれは」
渾身の右ストレートが顔面に直撃し、派手に吹っ飛んだリーゼントアタマは空を一瞬見上げる。
だらしなく空いた口からは間抜けな呟きが漏れる。
自分たちが走ってきた山から巨大な光の柱が天まで立ち上っているのだ。
そんな異常な光景に暴走族一味はおろか拳斗、投矢ですらも目をひん剥いて上を見上げる。
信じられないとばかりに歪んだ表情にダラダラと脂汗が滴る。
さっきの心二の言葉を思い出す。
午前0時に村の平和を乱す者に天罰が降りかかるという怪談めいた話。
目の前の異常を認識した途端、鼻で笑っていた連中は確信した。
「……嘘だろ、ホントに天罰が⁉︎や……やべぇってこの村!に、逃げねぇと!!」
口々に不安を漏らす彼ら。
遂にはバイクに跨ってこの場から離れ、村から出ようとするものまで現れた。
「お、おい!てめーら‼︎何勝手に……」
頭のリーゼント頭の言葉を耳に留めず一目散にアクセルを踏みしめ山へと入り亜戯羽村から脱出していく。
気がつくとリーゼント以外の暴走族の連中は全員バイクで走り去ってしまった。
放心する彼もまた、ようやく正気に戻る。
「く、くそぅ!」
声を震わせながら猫背でバイクに乗りグラつきながら山へと入って行った。
場には心二、拳斗、投矢しか残っていなかった。
「ど……どうなってるってんだ?本当に樹祀姫が降りてきたってのか?」
たじろぐ投矢に心二はヒヒッと笑って答える。
「なーワケないじゃんか。あの光は紅空の能力……って」
そのままを説明したつもりが馬鹿げた視線に気付き言葉を詰まらせる。
「……ま、どーでもいいか。」
呟きながらあちこちに傷を作った拳斗は大の字に寝転がる。
それにつられ、心二と投矢も背中を地面へと預ける。
「……おい拳斗」
心二の呼びかけに拳斗は目線で促す。
「思い出した。文歌の将来の夢な……確かー……」
心二の答えを聞いた拳斗は満足げに夜空を見上げ目を瞑る。
「久しぶり、心二よ」
「……?おう。久しぶり」
朝……どころではなく昼頃にようやく目を覚ました心二はギシギシと軋む全身を起こし何となく縁側に腰を下ろした。昨夜の一件から倒れるように深い眠りについた心二は海風を肺一杯に取り込んでも暫くは夢の中にいるような心地でふつらふつら船を漕いでいた。
「やっと起きた」
後ろから聞こえてくる紅空の声と共に背中にピタッと冷たい感触がようやく心二を夢の世界から引き戻した。
「……姉ちゃんか。」
「あっれーー?昨日は紅空って呼んでたのに……てかすごい顔。」
額や口元に貼られた絆創膏を見ながら紅空は苦い表情を浮かべながら缶ジュースを渡し何故か残念そうに紅空は眉をしかめる。
昨日……。
よく覚えている。
確かに心二は昨夜……正確に言うと投矢を庇った辺りから人格が入れ替わった。
バーチャル空間内での……例えば橿場直之の時や交流会の時のベラゼクスとの決戦の時も二重人格が発動しても記憶は共有されていたが、幼少期の頃にもう一人の心二……しんくんが亜戯羽村で過ごした際の記憶は今の心二に共有されていない。ということは、現実での人格変化は記憶の共有が出来ないと勝手に思っていたのだが、奇妙な事に今回はきちんと記憶が共有されていた。
何より不思議なのは今まで心二が体験してきたバーチャルシステムの事を理解していた。
紅空にあんな指示を記載したメッセージが送れるくらいだ。この事実はしんくんにとっての亜戯羽村を離れて以降の6年間の記憶がしっかりと心二から共有されているということだ。……そして、その逆も然りである。
「……ちょっと興奮してただけだよ。これまで通り姉ちゃん呼びだかんな」
缶ジュースを飲み終えた心二に手を差し出す紅空。
「捨てて来てあげよう」
「あ、あぁ。悪い」
空の缶ジュースを渡し、台所へと向き直る紅空は「そうそう」と何かを思いだした。
「しんくんさ、昨日のメールのメッセ……ちゃんと覚えてるよね?」
紅空の言葉に心二は自己主張の激しい寝癖を摩りながら紅空へ向き直る。
「覚えてるけど……」
すかさず眼前に昨日心二から受信したメッセージ画面を向ける。
「何でしんくんは秘密基地の場所を知ってたの?」
一瞬、ドキリと胸打つ心二だったが紅空が疑問に思ったのも当然だ。
彼女は今も心二が亜戯羽村で過ごした思い出を根っこから失っていると思っている。
黙る心二に紅空は返事を急かすべくいつもの常套句で追い詰める。
「……な〜にを」
「隠す気なんてないよ。」
紅空の言葉を遮る心二はゆっくりと立ち上がり自身の右掌に視線を落とす。
「思い出したんだ。もう一人のオレの記憶も、みんなで秘密基地を作った事も、ここで過ごした思い出も」
突然打ち明けられる事実に紅空は目を見開く。紅空にとってはつまり、心二の空白の出生から約9年もの記憶を思い出したということ。
「そ、それじゃしんくんは……あの時の文ちゃんの事も……」
「……うん。だからさ、これから巡りに行くさ。」
亜戯羽村を発つのは明日の早朝。それまでに心二は行かなくてはならない場所があった。
幼少期の心二が亜戯羽村で過ごした記憶が、昨夜の入れ替わりをきっかけに今の心二にも共有されている。
ようやく心二は失った記憶を知ったのだ。
……そして、紅空の言うあの日の続きを描くため……天条心二は一先ずある場所へ向かう。
土曜の休日……それに昼時の亜戯羽村の船着場付近には驚くほど人がいなかった。
昨日の葬儀に参列していた多くの人達を考えると実に信じられない無人の空間。
そんな心二は木々が生い茂る例の樹祀姫の祠へ続く小道前へとやって来た。
夏には蒸し蒸ししそうな林道はすでに過ぎ去った夏の面影を一切残さず、吹き抜ける海風が心地良さすら心二に感じさせていた。
四方八方から生える林の空間を歩いて行くと前方にはやはり祠が見える。
何やら最近通ったような覚えのある林道は祠までも見覚えがあるときた。
……夢にまで出て来た祠だ。
夢の中では前髪で顔を隠した見知らぬ少女に連れられ招かれた祠を前に心二はとりあえず両手を胸の前で合わせ、一礼する。
「姫様……でいいのかな。夢に出てきてくれたあんたは幼女だったから……うん、姫様かな」
勝手に納得する心二は本題へと入る。
「夢では忘れたとか言ったけどさ、思い出した。姫様はずっと子供の頃のオレたちを見守ってきてくれたんだろ?そんで今も……。」
あくまで子供に喋りかけるように腰を下ろし、夢に出た樹祀姫の容姿を思い出しながら言葉を紡いだ。
「オレは6年村を開けたはぐれ者で、そんなオレの夢に出てきてくれた姫様に今日はお礼と別れを言いに来た。」
スッと立ち上がり今度はゆっくりと頭を下げる。
「ありがとう。そんで、また帰ってくる。」
心二の言葉に返す者はいない。
それだけ言い残すと祠に背を向け元来た道を再び辿る。
思えば言葉が返ってくるわけないじゃないか。樹祀姫が幼女なんて事実はないし、夢に出て来た彼女も所詮は心二の妄想の賜物かもしれない。
心二は自身の独り言を自己満足に呟いただけだ。
けれど、心二は不思議とそんな夢の中の樹祀姫を単なる妄想で片付けはしなかった。
今なら自信を持ってそう思える。
「……文歌はオレのことを……6年間顔も見せなかったオレを嫌いにならないでくれたのかな」
『………………もうすぐわかる。』
背中を向ける心二の漏らした独り言に何処からか返す言葉が確かに聞こえたのだから。
「……へへっ。ありがとうな」
樹祀姫の祠へ立ち寄った心二は次の巡る場所に文歌の部屋を選んでいた。
何の迷いもなくアルバムが閉まっている引き出しを開ける。
相変わらずの重さのアルバムを開き心二は無心でページをめくる。
そして心二はあるページを開いた途端に、ある記憶を思い出す。
開かれたページの右端の写真は、他のどの写真よりも懐かしさに溢れていた。
柵に囲われた大海原が見渡せる崖、心二たちは『秘密基地』と呼んでいたその場所で、幼い心二と文歌がレンズに入るよう顔を近付けて両手でピースを作った笑顔の一枚。
幸せそうに笑う二人だが、内心は涙を浮かべている。お互いに、別れの時が着々と近づいてきているからだ。
心二が亜戯羽村を発つ日……文歌は心二に告白をしたのだ。
そんな文歌に彼は無邪気な笑顔を含めて受け止めた。
昔を思い出す心二の口元が緩む。
「……ん?」
一通りアルバムに目を通した心二がアルバムを引き出しに直そうとした時、奥に何か引っかかりを感じた。
手探りで引っかかっている何かを取り出す。
非常に見覚えのあるそれは、優璃と守郎からもらったボイスレコーダーの携帯端末そのものだった。
電源を入れるとやはり貰い物のボイスレコーダー同様、パスワードの入力を求められた。
07214545、07211919、072185○5……。様々なパスを打ち込んではみるものの、解除不能。
そもそも人様の所有物……加えてパス付きの物を許可なく見ても良いのか。
当然褒められた事ではないのだが、文歌の声を聴いてみたいのも事実。
「……パスは……何だろう。」
当然この手のパス……しかも8文字制限のパスは勘で入れて行くには気が遠くなるくらいの時間を要する。
だが同時に、このパスを設定した者は当然毎回8文字のパスを打ち込んで使うのだから、忘れにくい……あるいはどこかしらにパスのメモ書きがあるのかもしれない。
とは言え、8文字のパス。心二は文歌の生年月日を入れてみることにする。
カレンダーに可愛らしく花マル印が付けられた8月24日の日付を確認し、生まれた年とを組み合わせたパスを入れる。
「……どうだ?」
心二は悟った。
案外人間、解かれにくいパスワードよりも打ちやすく忘れにくいパスワードを採用するものだ。
心二もその一人なワケで。
……文歌もまた、その内の一人だったというだけの話。
ちなみに、優璃と守郎からもらったボイスレコーダーのパスが69696969だったということを付け加えておこう。
いやぁ、思春期って素晴らしい。
シリーズの終盤ともあってかなり詰め込んだ話でした。
テスト勉強の直前までセリフ回し考えて考えて……心二のセリフなんか本当に悩みました。次の話……初恋讃歌編のラストエピソードはさらに悩みそうです。
そして今回はイラストの方も時間をかけました。
とりあえず崩れたキャラデザのままで今回の心二のイラストは描きたくなかったのでまずはキャラデザを戻すことから。
姫様もなるべくロリロリしく描きたかったのですが、今の僕にそんな技術はありませんでしたぁ……汗
テスト1日目は科目も余裕だったので時間は取れたんですがね笑
さあて、いよいよ初恋讃歌編ラストエピソード。
初めて死人が出てきた今シリーズ……
ハッピーエンドかバッドエンド、どちらに落ち着くのか……
恐らく今週中には終わってるのでぜひよろしくお願いします!
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あとがきイラスト、ピアスを垂らすの忘れましたが鳴ちゃんです。




