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バ革命  作者: 、、
〜喪失の初恋讃歌編〜
56/96

#49 ノイズ・オーガ

真っ暗な夜道を波の音に合わせてゆったりと足音を刻みながら歩く天条(てんじょう)心二(しんじ)はふと夜空を見上げる。


まさにその瞬間、暗闇の上空を真宵の使者が横切る。



「……コウモリか?」


奈良では見ようと思って見れる生物ではないため、空を羽撃(はばた)く黒い影を心二はしばらくの内眺めていた。


我に帰った頃に、心二は自身の目的の場所に向かって再び歩みを進める。



…………ここは亜戯羽(アゲハ)村。


かつて心二が暮らしていた故郷の村だ。



何かの特産物があったりだとか、古い歴史を持つ村でもない、言ってしまえば辺鄙(へんぴ)な村だが、どこにでもある都市伝説……改め村伝説なんてものが亜戯羽村では言い伝えられている。



樹祀姫(キマツリひめ)



それは亜戯羽村の子孫繁栄を信仰させ、'滅び'から村を護るとされている亜戯羽村の守護神だ。


先ほどの旧友、恋塚(こいつか)文歌(ふみか)の葬儀にも何度か「樹祀姫」の単語が出てきた。


(いわ)く、村の人達はある場所を樹祀姫の(ほこら)と呼称し、定期的にお供えをしているのだとか。



心二は歩を止めて暗闇を(まと)う目的地を()め付くように見渡した。


夕暮れ時に見た林の木々の茂みを掻き分けたように不自然に存在していた小道。


その小道こそが、樹祀姫の祠へと続く一本道なのだ。



当の目的である心二の中に眠るもう一つの人格、心二(しんくん)の手がかりを得るために手探りながらも過去の自分が通ってきた道を辿っているのだが、正直見込みはこれっぽっちもありはしないのだ。


それならば亜戯羽村滞在の間、宿をとらせてもらっている恋塚宅に戻りアルバムを眺めている方が有意義な気もするが……。

帰りの途中に通るのだから、別に無駄と言い切れはしないだろう。


(ゆえ)に本当の意味で偶然立ち寄っただけだったのだ。


その偶然が、まさかこんな出会いをもたらすとは思いもしなかったのだ。



「……しんくんか?」


背後からの呼びかけに心二は辺りの暗闇のせいもあってか、肝を冷やして勢い良く振り返った。




「あ、えと……未撫!」



「えと……って。本当失礼だよね」



挿絵(By みてみん)




心二の視線の先には、先ほど葬儀場で見かけた旧友の華読(はなよめ)未撫(みなで)が長い茶髪を夜風に揺らし、広大な海をバックに一人佇んでいた。

そんな未撫は何か足りない様な不満感で眉をしかめながら続ける。


「んー……そこらへんは昔のままなのに。随分変わったよね」



「わ、悪かったよ。」


オレの返事にまたしても不満顔。


そんな表情をされると反応に困る。

どう言葉をかければ良いのか思案顔を浮かべる心二に、未撫はアスファルトをひたひたと踊るように心二へと近づいて行く。


「拳斗はね。あー言って今のしんくんを否定してるけど……」



未撫の言わんとしていることに心二の頭の中が静聴の態勢をとる。

瞬間、サァァァ……と夜風が森を揺らすように木の葉を吹き付ける。


「あたしは、ね。今の心二も素敵だと思うよ」


「ん⁉︎」


澄ました表情で夜風によって乱れた髪をかき分けながら言った一言に心二はドキリと胸をときめかせる。


しかし、未撫の表情はラブコメジャンルの漫画でよく見る告白する女の子みたいな赤らめた表情なんかじゃなかった。


「今まで帰ってこなかった理由も聞かない。

向こうで何があったかも聞かないから……」



話しながらも未撫の視線は心二に向けられていた。

手放してしまったモノをもう二度と手放さないように。



「また帰ってきてよ……。」


この言葉が心二を活気づけた。


華読未撫という女の子は確かに天条心二の帰りを待っていた。

人格が変わろうが、自分を忘れようが。


恋塚文歌もまた、天条心二の帰りを待ってくれていたのだろうか。


……いや。一人でも、しんくんではなく心二である自分の帰りをこの村で待ってくれた人がいるだけで充分じゃないか。


心二に残された時間は、もう明日しか残されていない。


「サンキューな未撫。」


必ず思い出さなければいけないことがある。


学校のテストの時に前日頭に叩き込んだ公式や年号、単語を思い出す……なんて比じゃないくらいに。


……思い出さないといけないことが!


差別化された学歴社会に革命を誓ったあの時の少年は、遠く離れた故郷の地で再び口の中で呟くのだった。



「今度はオレ自身を……革命(ひっくりかえ)してやる番だっ」



「え、ちょっとしんくん?」


未撫に背を向け恋塚宅への帰路に着こうとする心二は右手を空へ上げ、親指を立てる。


「今度帰って来た時は向こうでの土産話でも持ってくるよ!みんなに聞かせてやるさ」



心二の宣言は、暗に解峯(ときみね)拳斗(けんと)との和解を意味していることに気付いた未撫は去って行く心二の背中をある人物と重ねていた。



「……心二(しんくん)?」


その呼びかけに、応えるものはいなかった。






恋塚宅へ帰宅した心二は用意してくれた晩ご飯を平らげ、そそくさと風呂で火照った体を縁側で冷ましていた。


ぼけーっと仰向きになりながら天井を眺める心二はハッと洗濯機にいれたズボンのポケットに入ったままのあるものを思い出す。


すぐさま洗濯機の中に突っ込んだズボンをまさぐる。


確かな固形の感触を確認し、ポケットの中のものを引っつかんだ。


「……これは、確か優璃たちがくれた小包み」



今朝早くに訪ねてきた今西優璃と垣峰守郎が手渡してくれた小包み。

未開封のため、中身が想像つかない心二は手渡してきたのがあの二人……という事実に少しながら嫌な予感を残しつつ、小包みを丁寧に開封する。



「ん。これって……」


中に入っていたのは手のひらサイズの携帯端末だった。

しかし、心二はこの端末を知っている。


比較的安価で購入できるボイスレコーダーだ。

高音質で青春の一幕を録音して残そう!なんて売り文句がついていたこのボイスレコーダーは何と四文字のパスワードを設定して他人に聴かれないようにすることが出来るのだ。


さっそくボイスレコーダーを起動させてみると案の定パス入力を求められる。


ふと横目に入った小包みに同封されていたパスのメモ書きの内容をそのままボイスレコーダーにパスを入力する。


パスを承認された心二はそのまま録音済みリストの画面へと通される。

もちろん、ボイスレコーダーにはたった一件だけ音声データが記録されていた。

おそらく優璃たちが吹き込んだ音声だろう。


迷わず再生ボタンを押して耳を澄ませる。



『………………。』


再生されているはずだが、人の声が聴こえない。後ろで何やらゴタゴタしている雑音が聴こえてくる。


「……?何だ、喋らないの……『おっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい‼︎‼︎‼︎』ってうるさっ⁉︎急に大声だしてんじゃねえよ」


唐突に優璃の奇声とも言える下ネタに鼓膜が拒否反応を起こす。


「イヤホンどこだ、イヤホン」


すかさずイヤホンを挿入し、音量を一気に下げて静聴を続ける。



『やーい心二のバーカバーカ!』


『優璃は何で煽ってんだよ……』


いつも通りの調子で喋る二人のやりとりに心二の口元が緩む。


『心二のどーてい野郎!悔しかったら卒業してみろー』


『おいやめてやれよ……。心二だって卒業したいんだぜ?不可能なことを言ってやるなよ』


流石に心がへし折れそうな童貞(しんじ)をよそに、ようやく暴言の矢を引く優璃の手が止まる。


『……こほん、心二!しっかり友達を(とむら)ってあげたの?まだならしっかりと送り出してあげてよね。』


若干照れ臭いのか、気恥ずかしそうな口調で優璃は声援を飛ばす。


『帰ってきたら抱きしめてあげるから!』


「え!マジで⁉︎」


いきなりの告白に心二のボルテージが急上昇する。

はっ……と我に返る心二は辺りを見渡して誰もいないことを確認すると再びボイスレコーダーに耳を傾ける。


『……守郎が!』


『あ?心二抱くくらいならパグ抱くわ』


「……っの野郎!こいつら帰ったら覚えてやがれっ」


期待させられていただけに、心二の怒りは上がったテンション分の上昇を見せていた。



『ったく、よぉ心二。こんだけ言われて悔しいだろ?」



言わずもがな、悔しいに決まっている。


守郎の声だけでも、心二の頭の中にはバカにしたような守郎のヴィジョンが浮かんでくる。


「……あぁ。すっげぇムカつく!」


そんな心二の言葉を予想したように、守郎は鼻で笑いながら言葉を紡ぐ。


『だったら、しっかり元気取り戻してからオレら殴りに帰ってこいや』


守郎の言葉に心二はギリッと歯を軋ませながら怪しい笑みを隠しもせずに表情へ出す。


流石に付き合いの長い守郎のことだ。


天条心二の取り扱いには慣れていると見える。


『んじゃ、またね心二!』


優璃の別れの言葉を最後に、再生されていた音声は停止した。


聴き終えた心二はゆっくりと立ち上がり、文歌の部屋へと足を踏み入れる。


特に用があったわけではないのだが、とりあえず心二は部屋の真ん中まで歩くとそのままどさっと腰を下ろし寝転んでみる。


「……んっあぁぁぁ。つっかれたなぁ」


ため息まじりにぼやきを(こぼ)す心二は今日一日を振り返ってみる。


確か四時半頃に目を覚まし、朝風呂に入る……なんて女子力あふれる一日の扉を叩き、風呂から上がると優璃と守郎から先程聴いた例のボイスレコーダーを受け取り、間も無く家を出発して電車に揺られて6年ぶりの故郷、亜戯羽村へと帰省した。


この地で心二を待っていたのは旧友達との出会いだった。


再会という言葉を使わないのは心二自身、旧友の記憶を何一つ残していないからだ。

初めての出会い……そして自分の知らない自分と長い間過ごしてきた彼らと関わる……という正体不明の恐怖。


そんな自分を彼らは出迎えてくれた。


昔を懐かしむような雰囲気が常に彼らからは漂っていて、話を合わせるのに精一杯だった。


……が、遂に今の心二の正体に違和感を持った旧友の一人がみんなの前で追及した。


旧友たちとの青春を記憶している別人格が、心二の中で眠っていることを隠し通すための嘘は、追い詰められることによって、いとも簡単に見抜かれてしまった。


旧友たちは離れて行き、心二の居場所がこの亜戯羽村からはなくなった。


そんな中、心二の守ってきた事情を知り、勇気をくれた者。

昔と人格が変わろうが天条心二という人間の帰りを待ってくれていた者。


……そして、いつも通りの雰囲気で心二を(なじ)り、気持ちを奮い立たせてくれる者達。



期限は明日いっぱい。


心二の記憶を辿る冒険單(ぼうけんたん)


本番はこれからとばかりに、明日に備えて心二はゆっくりと目蓋を閉じる。


現在の時刻は23時を過ぎたところ。



砂浜にはポツリと人影が揺らいでいた。


夜の静かな海岸を好む石川(いしかわ)投矢(とうや)は今夜も金属バットを片手に砂浜に腰を下ろした。


光を放つ雫を真っ黒なパレットに(こぼ)したような綺麗な夜空を見ることが出来たのはここ最近では珍しかった。

数十日ぶりの星空満点の空はそこに存在するだけで投矢の両の目を魅了していた。


心地良い海風がさらに投矢の身体を包み込むように吹いている今日は、亜戯羽村で迎える夜でも特に気持ちのいい夜だった。


誰しもが寝る前に少し散歩でも……と心動かされるだろう。


そんな夜の……はずだった。


「……ん?」


何処(どこ)か遠くから聞こえてくるのは……


例えるならばそれは……


…………禍々しい鬼の行進。


ようやく四月中旬に投稿を予定していた

「バ革命 憩いの原点回帰編」を昨日遂に投稿しました!


よかったらご覧ください!

http://ncode.syosetu.com/n0145cb/





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