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バ革命  作者: 、、
〜喪失の初恋讃歌編〜
53/96

#46 生者と死者

海風が曇り空の亜戯羽(アゲハ)村を吹き抜ける。まるで村に新鮮な空気を運び込んでいるかのようで、吸い込んだ天条(てんじょう)心二(しんじ)は少しだけ緊張をほぐすことができた。



「……心二……?お前……」


六年越しの旧友との再会。

投矢と呼ばれている目の前の彼は恐らく、電車で姉の天条(てんじょう)紅空(くれあ)から聞かされた石川(いしかわ)投矢(とうや)だ。


二重人格を持つ心二の中に眠る裏人格と共に過ぎ行く幼き日々を駆け抜けた友達の一人である投矢は何も言わず黙って心二を見つめている。


ますますに心二は緊張で顔を固まらせる。


心二に亜戯羽村で投矢達と過ごした思い出は残されていない。彼とどんな話をしていたのか、自分とは気が合っていたのか……それを知るのはずっと心二の中で眠っている裏人格の心二だけだ。


ようやく口を開いた投矢に心二は思わず身構える。


しかし、投矢の反応は心二を呆気にさせる。



「しーーんじ‼︎お前ひっさしぶりだなぁ!六年ぶりってお前……小学生が中学……高校……うん、高校生になっちまうぞ‼︎」


片手で数を数えながら、そんな冗談を笑顔いっぱいで投矢は言った。

まるで遠い過去の思い出を懐かしむような優しい表情で。


「あ、あぁ!久しぶり、投矢!」


心二も目一杯、懐かしそうに返す。


そんな心二に紅空は驚いていた。


「ちょっとしんくん?」


ひそひそ話のような小さい声で心二を呼ぶ。


「記憶がなくなったこと……言わないの?あとあと話についていけなくなっちゃうよ?」


もっともな意見だ。

向こうは心二の事情を一切知らない。

亜戯羽村での記憶を失ってしまったこと……それは要するに投矢達との思い出を一切記憶に残っていないということだ。


それを明かしてしまうのは簡単だろう。


……しかし、それを心二は許せない。


だってそれは、死んでしまった恋塚(こいつか)文歌(ふみか)の事を覚えていないということなのだから。


それを投矢達に知られるわけにはいかなかった。そのために心二は、記憶を取り戻すと意気込んでこの地へとやって来たのだ。


「いいんだよ。こいつらにまで、昔の天条心二を失って欲しくないんだ。」


自分が失ってしまったように、彼らにまで昔の自分を忘れて欲しくない。まして、昔の自分しか知らないままに逝ってしまった文歌のためにも、この村の人達には、昔の天条心二を記憶に残していて欲しい。



「な〜にこそこそ話してんだよ、オレも混ぜろい」


心二と紅空の肩にドン、と重々しい手を乗せる投矢。

投矢の(てのひら)には豆がいっぱい出来ていて、紅空から聞いていた野球少年……という言葉を連想させた。


「別に、しょーもない話だよ。それよか投矢、まだ野球はやってんのか?」


あくまで昔を思い出すように心二は投矢に尋ねる。



「やってるぜ、今日は野球部休みだしとことん昔を語ろうぜ心二よぉ」


やけに…………というか本当に馴れ馴れしく絡んでくる投矢。別段悪い気はしないが、やはり自分からしたら初対面も同然な訳で、少し絡みづらい。


「ん!まずは荷物置きたいなぁ。後で投矢ん家に顔見せに行くよ」



「あい?どうせ今回も文歌ん家に泊めてもらうんだろ?オレも着いてくさ。」


紅空に確認するような口調で自分の意思を言葉にする。


「え、そうなのか?」


この村を出て行ったのなら家は手放したはず。祖父母は六年前に他界してしまったので亜戯羽村を離れるとなると残る者がいないからだ。

そもそも亜戯羽村を離れることになったのも、祖父母が死んでしまったことによるものだと聞いた。

祖母が他界したことにより、亜戯羽村に残って面倒を見る必要は無くなり、丁度その時期に転勤が決まった父親の天条(てんじょう)誠人(まさと)に合わせて、今住んでいる奈良へと引っ越したらしい。



「あら?女の子の家に泊まるのはやっぱり意識しちゃう?」



紅空がイジワルな顔でこちらを見てくる。


「……む。んなわけないだろ。」



そんな心二と紅空のやりとりを見て何故か投矢がきょとんとした表情を浮かべる。


「…………心二、お前何か変わったな」


「え?変わったって何がだよ」


茶化しながら心二は投矢に尋ねた。


しかし、投矢は冗談で言っているような感じじゃなかった。


「…………投矢?」



「な〜んてなっ!」


急にカラッと笑顔を戻し心二の背中を叩いた。


「ったいな〜、何すんだよ!」


「いいからいいから!さ、文歌ん家行こうぜ〜なっ紅空!」



能天気なテンションに釣られて紅空も投矢についていく。


「行こ!しんくん!」



「あ、あぁ。」


差し伸ばされた紅空の手を心二はそっと掴んだ。



亜戯羽村滞在の約三日間の宿である恋塚家の道のりの途中、道のあちらこちらにフナムシがカサコソ歩いていた。そんな中、道の真ん中に(うごめ)くねずみ色の何かを目撃した。

どうやら車か自転車に潰されたフナムシの死骸(しがい)を他のフナムシが食べているようだ。


「……うぇぇ。フナムシって共食いもすんのかよ。」


「まぁフナムシは雑食だからね。何でも食べるよ。海の掃除屋さんの名は伊達じゃないね」


「海のお掃除屋さんの名にかけて!ってか?どこの金田一少年だよ……。掃除屋さんならあぁいう奴らをお掃除して欲しいもんだね。」


そう悪態つきながら心二は後ろからバイクに乗りながらブンブンとはた迷惑な騒音を鳴らす青年三人組を睨みながら言った。


「あー、あいつら最近は毎日この道をあのうるせー爆音鳴らしながらライディングしてやがるよ。」


Fuuuuuuuuuuuuuu‼︎と狂気じみた奇声を上げながら心二達を追い抜かして行った。



「「「事故ればいいのに」」」



しばらく歩くと左側に(のき)並み建っていた住宅が森林地帯へと変わっていた。

急にイノシシが木々の茂みから出てきても全然おかしくないくらいの野生がそこにはあった。


「ん?」


左側に視線を向けながら歩いていると、明らかに人為的に作られた小道が見えた。



「この小道……なんか見覚えあるな」


小声での心二の呟きに返すことはなく、小道を過ぎて港が見えてくる。


「お、鳴夏じゃんあれ」


投矢の言葉に超反応レベルで投矢の視線を追う心二と紅空。


アスファルトに埋め込んでいる鉄製のリングに太い縄を通し、でかいボートをいくつも停泊している船着き場にポツンと女の子の影。


間違いなく、心二も交流会の時に出会った投矢と同じく亜戯羽村の住人、サスペンダーを着た草神(くさがみ)鳴夏(めいか)の姿だった。


あちらも心二たちに気付いたのか、大振りで手を振る。



「ひっさしぶり!みんなーー‼︎」


「おーーう!久しぶりだなーー‼︎」


鳴夏の言葉に投矢が大声で返事をする。



挿絵(By みてみん)



「よっす投矢!……って、紅空に心二⁉︎帰ってきたんだぁ!」


「そりゃ帰ってくるよ〜、文ちゃんのお葬式だもん。いっぱい泣きながらお別れ言いにきたんだから……。って、鳴ちゃんこそ投矢に向かって久しぶりってどういうことなの?しんくん(いわ)く前の交流会にも参加してたみたいだし?」



そうだ、と心二は思い出したように鳴夏を見つめる。


「草神……いいや、鳴夏。お前オレと桜南高校でも病院でも会ってるよな?」


心二と紅空の質問責めに鳴夏もゆる〜く、そしてマイペースに応える。


「うん。私は宮祁(みやけ)高校の生徒として交流会に参加してたよ。

紅空が思ってる予想も多分合ってるよ。

私は今年の七月にこの村を離れて奈良県へ引っ越したんだ。」



さも他人事のように話す鳴夏だが、事は結構な大事だ。


「なんでまた急に……?もしかしてうちみたく転勤とか?」


紅空の深刻そうな表情を見て鳴夏は笑いながら首を横に振る。


「え?ちっがうちがう、だって別にいつまでもここにいなくちゃいけないってわけでもないし。うちはただ単に引っ越したかったから引っ越しただけだよ。」


心配した紅空は鳴夏の話を聞いてバカらしくなり鼻で笑っている。


「なんだ、心配させないでよ。それじゃ鳴ちゃんも何処かに泊めてもらうの?」


「泊めてもらうもなにも、うちの家は手放してないよ?おばあちゃんが残ってるからね」


「へー、おばあさん元気してる?」


「してるしてる!おじいちゃんも毎朝海に潜って遠泳してるからすっごい元気だよ!」



一部聞き逃せない話が聞こえたが、久方ぶりに再会した友人同士、互いに会話の花を咲かせていた。



「おう心二や」


置いてけぼりの心二は同じ境遇の投矢に小声で呼びかけられる。



「なに?」


「お前、鳴夏の制服姿知ってんだろ?可愛いか?」


「……か、可愛いって……」


数週間前に見た制服姿の鳴夏を思い出す。


「そーだな。うん。キューティーだったよ。」



羨ましそうな眼差しを向ける投矢は学校帰りの制服のズボンからスマートフォンを取り出す。


「帰ったら鳴夏の制服姿写メってくれ!LINE教えるからっ!」


「お、おう。」


気迫のこもった投矢の顔は、奈良で今頃体育祭を頑張っている垣峰(かきみね)守郎(しゅろう)の顔とを重ねさせる。



「今から文歌ん家行くんでしょ?私も付いてく〜」


話がひと段落つくと、鳴夏は紅空の手を握って先を急ぐ。


「あーちょっ、待てって!」


百合百合した二人を心二はすかさず追いかける。

駆け足で切る海風は日本の内陸部に住む心二には嗅いだことのない潮の香りが鼻腔(びこう)をくすぐった。



「あ、心二フナムシ踏んづけちまってるぞ。」



「ぎゃーー!」




ボートの停泊所を少し過ぎたところに、またまた家が建ち並ぶところまでやってきた。


「げっ、家の門にもフナムシが……」


未だ海のゴキブリことフナムシに馴れない心二は、不意に視界に映るフナムシを見ては顔を青くしていた。


「おいおい、お前昔はフナムシにオムスターとかいって名前付けて飼ってたじゃねぇか」



そんな心二に笑みを浮かべて投矢は昔を思い出しながら心二をからかう。



「ひぇ⁉︎ま……まぁそんなこともあったかなぁ」



前を歩く鳴夏は、急に右の家の門へと入っていく。


「おばさーーん!こんにちはーー!」


インターホンも鳴らさずに……というかそもそもインターホンらしきものがない家に鳴夏はガララとドアにしてはボロの木製のスライドドアを開ける。


門の表札には「恋塚」の文字。

どうやらこの家が亡くなった恋塚文歌の家らしい。


「お、お邪魔しまーす。」


……と人様の家に上がる常套句(じょうとうく)を口にするのは心二だけで、鳴夏はもちろん投矢、紅空でさえもズカズカ家の中へ入っていく。


「あら、鳴夏ちゃん!帰ってきたんねぇ」


玄関からすぐの部屋から文歌の母親らしき人が笑顔で迎えてくれる。


「うん!紅空も心二も帰ってきたよ!」


そう言いながら紅空と心二に視線を向ける鳴夏。


紅空はどーも、とピースをするが心二はと言うと初対面の大人に対する緊張感のせいか、頭を下げることしかできなかった。


「あっらぁぁ……しんくんかね?おっきくなったねぇ」


言いながら頭を撫でられて頬を染める心二を見て紅空は怪しく笑う。


「ふふふおばさん、大きくなったのは身長だけじゃないですよ」


「あらら」


「何が言いたいのかなぁ?このバカ姉は……」


クスクスと久しぶりに心二を入れた昔のメンバーの面子(メンツ)を見て微笑む文歌の母はリビングへと心二達を通す。


「懐かしいなぁ、文歌ん家の匂い!」


すんすんと家の匂いを嗅ぐ紅空の発言がとても恥ずかしい心二は頭をコツンと小突いてやる。


「何よしんくん!」


「恥ずかしいから匂いを嗅ぐな……」


そんな二人のやり取りを見て文歌の母が驚いたような顔をする。


「心二くん、なんか立派んなったねぇ。昔は紅空ちゃんみたいに陽気だったんに」


「ちょっとおばさん!陽気とは何さ!」


紅空は両手を上に挙げてプンスカ!と抗議を申し出る。


「……いや、まぁあれから四年も経ちますし。」


心二は独り言のようにポツリと呟いた。


「……ねぇおばさん。」


リビングのドア手前で、鳴夏は立ち止まる。


廊下で立ち往生する全員の視線が、鳴夏に集中する。



「文歌の部屋……見せて欲しいな。」


「…………。」


急に……現実に引き戻された感じがした。

心二も紅空も鳴夏も、呑気に遊びにこの遠く離れた亜戯羽村へと訪れたわけではない。


友の先立ちを見送るため……。


四年の年月を経て再会できた彼らに、親友の死から目を背けることは許されなかった。


何より文歌の死に目に立ち会うことが出来なかった心二、紅空、鳴夏の三人は彼女と触れ合う時間に飢えていた。

ましてや心二は写真でしか文歌を見たことがない。

心二に惚れていたらしい紅空の言葉が心二の中をぐるぐると繰り返し復唱されている。


もし自分の好きな人と四年もの間会うことが出来なくて、もう一生会えなくなってしまったら……。

死んでも死に切れない。


そんな思いを文歌にさせてしまっているのだとしたら?


心二の中でとてつもなく大きな罪悪感が生まれた。


生前の文歌を知るのは、心二の中に確かに存在する、もう一人の裏人格の心二だけだ。


心二は心の底から、彼女を……恋塚文歌を知りたいと思った。


「オレからもお願いします。」


鳴夏の言葉に黙って(うつむ)いてしまう文歌の母に、心二は頭を下げる。


「…………頭上げてよ。そんなお願いされなくたってあんた達には見せんね。ただ、ごめんね。」


段々と力弱く紡がれる言葉。


そして、ついに文歌の母は耐えきれず涙を流す。


「あの子が死んじゃったなんて……信じらんなくって……。これは長い長い悪夢なんだって、そう(うそぶ)く自分がいるんね……。

変な期待が……、辛くって……苦しくって……!」


我慢してきた何もかもが……涙と共に流れていき、文歌の母はその場に泣き崩れてしまった。


すぐさま駆け寄る紅空と鳴夏の表情も、先ほどまでの文歌の母のように、流れようとする涙を押し殺す表情をしていた。


「…………ちっと、外の空気吸ってくんぜ」


それだけ言って、投矢は玄関へと去って行く。

文歌の母をリビングへと連れ添って行った紅空と鳴夏の後ろ姿を、心二はただ見送って、そのまま崩れるように腰を下ろす。


生きていた文歌が何度も通ったはずの廊下の床をそっと撫でて、心二は誰にも聞こえないような声で呟いた。


「文歌……オレはどうだったのかな。」


-……もう一人のオレは文歌の事、どう思ってたのかな?-


答えの出ない自問に、返す者はいなかった。



挿絵(By みてみん)







シーーーリアスブレイカァァァァ‼︎



ってわけで、なんか暗い雰囲気になってきている本編ですが、この先まだまだ暗い展開が続く予定なので、どうかこの初恋讃歌編という心二の原点とも言える第五シリーズ、最後までおつきあいください!


ようやく先週末に金田一少年の事件簿Rが始まりましたね!

なっつかしい!たぎるたぎるぅぅ!

はじめちゃんを毎週見れるなんて‼︎

……ただ、どうやら2クールらしいので、そこは少し残念。



さて、宣伝ごとです。


随分と前の話にはなりますが「バ革命」5000PV突破しました!


ってことで、こんな企画を進行中です。

その名も「バ革命 憩いの原点回帰編(仮)」!


投稿時期が正確に決定し次第この後書きにてリンクを貼り付けて発表します。


何をするのかというと、この作品の宣伝でバ革命の始まりとも言える序章の革命編#1〜#4を一気読みで纏めたものを初め、既読者様が退屈しないようにと主人公、天条心二のキャラクターが出来上がるまでの過程をラフ画イラスト付きで解説している誕生秘話、主要キャラのキャラデザイン裏話、お蔵入りした多数の挿し絵、新作イラスト、そして書き下ろし短編を2編収録予定です!


心二の初期のラフ画イラストを探したり、短編2本書いたり、新しくイラスト(イラストは女の子のいやらしい服着せたイラストなので楽しかったですが……w)描いたりと結構大変な作業でしたが、5割ほどは片付きました!恐らく四月中旬に投稿となります。


ぜひこちらの方もよろしくお願いします!


では、今回の後書きイラストは宮祁高校の

陽炎筑紫くんと雌龍代音姫ちゃんです!



挿絵(By みてみん)










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