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バ革命  作者: 、、
〜喪失の初恋讃歌編〜
52/96

#45 六年越しの再会

新幹線に乗るのが実は初めてだったりする天条(てんじょう)心二(しんじ)は苦い顔で駅弁をつまんでいた。



「うぅ……なんか耳が変だなぁ。」


「あらしんくん、新幹線は初めてだっけ?今はトンネルの中を走ってるからだよ。

外を走っているときに比べて、トンネル内では電車の周りの空気が流れる部分が狭くなるの。列車とトンネルの壁の間にはトンネルの外と比べてものすごいスピードで風が流れているから…………って、しんくん?」


「…………何言ってるかわかんないっす。」


流石は優秀生……とジト目で睨む。

普段は間の抜けた発言や過剰なスキンシップで絡んでくる心二の姉、天条(てんじょう)紅空(くれあ)だが、我が桜南高校二年生の第四位の成績を持つ上位成績優秀者(トップエリート)だ。

…………と、まぁ目の前に座る彼女にそんな貫禄は皆無なわけだが。


長期休暇期間でもない平日の昼間から新幹線に揺れる二人はどこへ向かうのというと、二人が幼少の頃よりずっと暮らしてきた故郷の愛媛県の亜戯羽(アゲハ)村だ。


いわゆる里帰り……といえば和やかな雰囲気を漂わせる旅行などだが、今回はそれだけが目的ではない。

昨夜天条家のかかってきた電話は亜戯羽村の旧友、恋塚(こいつか)文歌(ふみか)の死を知らせるものだった。



「…………なぁ姉ちゃん。」


車窓に映る真っ暗のトンネル内の景色から目を逸らし、心二の呼びかけに反応する。



「……どしたの?」


心二の問いにおおよその予想がついてるのか、いつもの笑顔に曇りが見えた気がした。


「恋塚は……何で死んじまったんだ?」


電話を受けた紅空は恐らく聞いているはずだ。長かったトンネルをようやく抜けた新幹線の車内には外の光が射し込んだ。



「…………?姉ちゃん?」


突然の外界の光に目を細める心二の視界にはやはり紅空が写っていて、ただ少し違うのは…………。


「文歌だよ。」


「え?」



先ほどよりも一層悲しげな表情を浮かべていたことだ。


「恋塚じゃなくて文歌。しんくん昔はそう呼んでたんだよ?だから……ね。」


「……あ、あぁ。わかった。」


紅空は淡々と文歌の死について語ってくれた。流す涙は流し尽くした紅空の目線は常に下へと向けられており、話している内容が内容なだけに、車窓から見える大海原の広大さが目の前にあってしても、二人のテンションは沈んだままだった。


旧友、恋塚文歌は何らかの事件に巻き込まれて息を引き取ったらしい。

らしい……という表現は適切で、文歌の死亡場所は崖から飛び降りた事によるものだった。心二も話を聞いて自殺を連想したが、遺書らしきものが近くに見つかることはなく、何らかの事件に巻き込まれた、と地元の警察は睨んでいるらしい。




「電話してきてくれた(なで)ちゃんもやっぱりショックだったみたい……急に友達が死んじゃうんだもん。

あ、撫ちゃんも覚えてない?華読(はなよめ)未撫(みなで)ちゃん」


そして心二の耳に再び聞き逃せぬ名前が紅空の口から発せられた。



「そう!その未撫ちゃんって人のことも教えてほしい、昨日に電話かかってきたんだよ。やっぱりその子も亜戯羽村の友達だったのか?」


紅空は少々驚いた表情を心二に向けた。


「撫ちゃんと話したの?」


「話したけど……その時は相手が誰だがわかんなかったから……。傷つけて泣かせちゃったかもしれない。」



いいや、傷つけてしまったのは間違いないだろう。自分にとってはかけがえのない思い出を心二と過ごしてきたのに、当の心二はすっかり忘れ、自分の名前さえも記憶に残ってないのだ……。

恐らく恋塚文歌の悲報を伝えようと電話してきた未撫だ。

自分のことを忘れてしまっていたのなら、恐らく文歌のことも覚えてないのではないだろうか、そう思ってしまったのだろう。

6年ぶりに勇気を出して電話して来た未撫には、あまりに(むご)い仕打ちであろう。


「会ったら謝りなよ。あと、撫ちゃんは撫ちゃん呼びで呼んだげてね」


「あぁ、でもさ。何で撫ちゃんオレの番号知ってんだ?」


「私がだいぶ前に教えてあげたの。文ちゃんと鳴ちゃんも知ってたと思う。」


紅空の口から新たに出てきた亜戯羽村の旧友の名にまたしても心二は反応する。


「鳴ちゃん?となりのトトロに出てきそうな名前だな。サツキちゃんもいるのかな?」


「よく遊んでた女の子は文ちゃんと撫ちゃんと鳴ちゃんだけだよ。……って、とりあえず遊んでたメンツの名前と写真見せよっか。」


iPhoneをささっとスライドする動作をすると画面を見せた。

見せてくれた写真には仲睦まじくはしゃぐ男女五人が写っていた。




挿絵(By みてみん)



手前の女の子三人の後ろには同い年くらいの男も二人いる。


「右の金髪でガラの悪そうなのが解峯(ときみね)拳斗(けんと)。左の短髪は野球少年の石川(いしかわ)投矢(とうや)……って、しんくんは女の子の方が興味あるかな?」


「んなことないよ!」


てへへー、と紅空はからかうが、どこか元気のない表情。


「右の片目が前髪で隠れてるおっぱいの大きい子がしんくんが電話で泣かせちゃった華読未撫ちゃん。」


「泣かせたとか言うな。……って、すっげぇ美人!この隣の子は?」



未撫の隣で小指と親指を立てて写ってるショートヘアの彼女に目を向ける心二に、紅空が少し寂しげな声音で答えてくれる。



「この子が…………恋塚文歌ちゃん。」


今は亡き者になってしまった16歳の少女は

親友たちに囲まれて微笑んでいた。

かつてこの輪の中に自分がいたのかと思うと

心二の中でじわりじわりと彼らと過ごした記憶が残っていない事に後悔の念に駆られて行く。

文歌に至っては、もう話すことも出来ないのだ。


「しんくん?」


沈む心二の表情に気付いた紅空が心配そうに顔を覗き込む。


「ん、あぁ……ごめん。えと、文歌の隣の子が鳴ちゃん?」



空元気ながらテンションを上げようと心二は話を戻す。


右目を前髪で隠してる胸の大きい子が未撫。


黒髪のショートヘアで可憐な印象の彼女が恋塚文歌。


さて、一番左でピースしている彼女が鳴ちゃんと呼ばれる女の子のはずだ。

茶髪の髪は肩まで垂れていて、よく見ると何やら光り物も髪に混ざって垂れていた。

目で辿ってみると、鳴ちゃんの耳たぶに行き着いた。

どうやらピアスのようだった。


「あれ?……鳴ちゃんって子だけ……な〜んか見覚えあるぞ」


裏の心二が絆を(つちか)ってきた彼ら彼女らの顔を見ても何も刺激されなかった表の心二の記憶が唯一反応を示すことができた彼女。


「え?しんくんそれ本当なの⁉︎」


紅空も予想外の心二の反応に驚いた。

心二の話だと、亜戯羽村を離れるまでの心二の記憶は今の心二には残されていないはずで、それ以来心二は亜戯羽村に戻っていない。

だから心二は亜戯羽村の人間を覚えてるはずかないのだ。


「どこで見たんだ……どこでどこでどこで………………どこでっ」



-「そんじゃね、心二」-



鳴ちゃんと最後に話した言葉だ。

確か病院の廊下で…………。



「草神……鳴夏……。」


心二は思い出した。

鳴ちゃんを……そして、草神鳴夏の正体を。



「姉ちゃん!鳴ちゃんの本名は……草神鳴夏か⁉︎」


新幹線はスピードを落として行き、目的地へと停車した。



「え、うん……そうだけど……もしかして思い出したの⁉︎」


荷物を手に持ち、新幹線を降りる。


紅空の問いに心二は外の空気を目一杯に吸うと、キョトンとした顔で返事をする。


「思い出してないよ。ただ、草神なら前の交流会で会っただろ?姉ちゃんも会ってるはずだよ」



「交流会で?そんなまさか……。鳴ちゃんは亜戯羽村の人なん…………あ。」



そういえば……と紅空は持ってきていた電子生徒手帳を起動させる。



「……確かベラゼクスのところに向かう時に何か懐かしい名前を見かけたような……」


言いながら交流会当時の掲示板(テーブル)を開いて履歴を確認した。



「…………本当だ!鳴ちゃんの名前載ってる!」


ベラゼクスとの最終対決直前辺りのテーブルに草神鳴夏の名前を確認した。


「ん〜、会わなかったけどなぁ」


紅空は首を傾げるが、それも仕方のない事だろう。

鳴夏がベラゼクス戦の加勢に来た時には紅空は惨殺されてダウンしていたのだから。


「んで、ここからどうすんの?」


駅を出ると大きな建物が並ぶ通りへと出た。田舎と聞いている亜戯羽村には不釣り合いだ。


「ここからバスで一時間ちょっとかな」


「よし、バスん中で寝るぞー!」


身体を伸ばしながらフラフラとした足取りで停留所へ向かう。







「しんくん、亜戯羽村に着いたよ!」


「…………あぁ、着いたね」


「どしたのしんくん?バス酔いしちゃった?」


「…………違うけどさぁ。」


海風に当たりながら心二は口角を引きつらせる。

顔色が優れない心二だが、もちろんバス酔いではない。


心二はチラリと地面に目を向ける。

カサコソカサコソ車道を横切る多数のねずみ色の物体。

心二は冷や汗を流す。


「な、なぁ姉ちゃん。この虫たちはなんで車道にこんなにもいっぱいいるの?」


「ん?フナムシのこと?」


……そうフナムシ。海へ行ったことのない者には馴染みのない虫だろう。


熱帯から温帯の海岸に広く分布する代表的な節足動物だ。

海辺を想像すると近くにテトラポットという岩のブロックみたいなのがたくさんあると思うのだが、主にそこにうじゃうじゃと湧いている。

雑食なフナムシは藻類や生物の死骸などを食べてくれるため、海岸の掃除役と言われていたりもするのだが、ゴキブリを連想させないまでもない見た目を持ち、ゴキブリを連想させる俊敏な動きから、見慣れない人には大変嫌われている。

ゴキブリに例えているが見た目はダンゴムシに近い。ダンゴムシをゴキブリサイズにまで大きくしたような見た目と言ったら容易に想像出来るのではないだろうか。

気になった方はフナムシの画像検索をしていただければ良いが、決してオススメはしない。


そんな気持ちの悪い見た目の彼らが心二の目の前の車道を闊歩していた。


「フナムシがいるのは仕方ないよ。すぐそこに海があるからねぇ……」



その通り右に広がる住宅に対して、左側には岸壁が設けられており、そこを下ると広大な海が広がっていた。

少し先を行ったところに小さい坂があり、それを降りると砂浜がある。

実家が近くにあるのならすぐに海水浴ができる程に海の身近な環境にある。



「んで?ここからどんくらい歩くんだ?」


心二は疲れた顔を浮かべながら紅空に尋ねる。


すると紅空は頭にハテナを浮かべながら答える。


「しんくん、ここはもう亜戯羽村だよ?」


「…………へ?」


天条心二はいよいよ故郷である亜戯羽村へと戻ってきたのだ。


かつての友との記憶を取り戻す時の旅がここから始まるのだ。



「…………って、ここ全然村じゃなくて海辺ぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎」


心二くん、亜戯羽村での初めてのツッコミが炸裂したのであった。


「あっれ?紅空じゃん!」



挿絵(By みてみん)


背後からの男の声に心二と紅空は反射的に振り返る。

振り返り様に見た紅空の笑顔から察するに、つまりは……


「ひっさしぶり!投矢ぁぁぁん」


…………そういうことなのだろう。


「久しぶり……って、そこの男は?」


言いながら投矢は心二に視線を向ける。


いよいよ再会を果たす旧友達。


紅空は笑顔いっぱいに投矢へ紹介した。


「しんくんだよ!六年ぶりだよね?しんくんが帰ってきたの‼︎」


海風が三人の身体に吹き付ける。


心二の凍りついた六年前以前の記憶が溶かされるか否かは別として、心二の名を聞いた投矢の反応は予想外なものだった。




忙しい春休み。


皆様いかがお過ごしでしょうか?


僕の方はバイトの面接やらたこ焼きパーティーやら課題やら友達とグータラ過ごしたりして中々自分の時間が作れないです。


そんな中#52を更新しましたが、ついに心二の故郷、亜戯羽村へ到着しました。


天魔族編で出てきた鳴夏が実は亜戯羽村の旧友だったという話が出てきましたね。


その事実を知った上で天魔族編のエピローグを読んだらまた違った感想が生まれるようになってます。

紅空の鳴夏の名前を発見したような描写も

#38に描かれているのでぜひ読んでみてください!


そして亜戯羽村のモデルですが、父方の実家をモデルにしています。

家の真ん前が海でよくフナムシを見かけました。気がついたら家の中にも奴らうじゃうじゃいたりと中々のトラウマものです。

晩御飯とか食べてる時に真横を通ったりしますからね……

本当、気持ちが悪いです(キッパリ)


フナムシ見たことない読者様に本編では少しフナムシの解説をしましたが、今後フナムシは状況描写などで使う可能性が多分にあるので本編での説明でよくわかんねぇや、とかいう人は画像検索してみてくださいw

または怖いもの見たさ……とかw

しかし、繰り返しますがオススメはしません。

画像検索で出てくるフナムシの画像はおそらくテトラポットに湧いてるたくさんのフナムシとか結構鳥肌ものな画像だと思いますので……汗



さて、次回はそんなフナムシいっぱいの亜戯羽村でのお話。

初恋讃歌編を最後までよろしくお願いします!


あー、今週末の金田一少年Rはよ見たいなぁ。


あとがきイラストは懐かしの菜川李女ちゃん!



挿絵(By みてみん)




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