#41エピローグ:次なるイベント
「あーーあーーひーまーだーよー!」
市内でも有名な柊病院は現在桜南高校全生徒が身体検査に訪れていた。
つい二日前にお見舞いで訪れた天条心二としては何でこんな頻繁に病院へ訪れなければならないのか……実に妙な気分である。
「うるせーな、んじゃなんかで暇潰すか?」
今西優璃の駄々に垣峰守郎が暇潰しのアイディアを尋ねてみる。
暇潰しといえば「しりとり」や「マジカルバナナ」といった言葉遊びが挙げられる。
数十年前の2014年も、現在の2044年もそれは変わらず、暇が出来れば言葉遊びは進んで行う。
「んじゃマジカルバナナは?うち得意!」
暇潰しと聞いて古旗由美は引き気味でマジカルバナナを推してくる。
「君たち、病院では静かに。」
すぐさま飛んでくる看護師のおばさんの注意にはーい、と素直に従う心二達。
「ちぇー、暇だなー。」
ぶーぶーとすねる由美を横目に太刀川奏也がふふっ、と笑みを含んだ可愛らしい表情を浮かべる。
「ゆーてもあともうちょいで終わりそやで。」
並んでいた列は確実に減っている。クラス別に並んでいるため、心二、優璃、守郎、奏也、そして菜川李女、椎村火影、撃村託巳らの所属する1年3組の残り人数もあとわずか。
拓巳は既に診察室へ呼ばれ、帰宅したようだが。
「……ったく、帰る方向同じなんだから待ってくれてもいいじゃんよー」
そそくさと帰ってしまった託巳に不満を漏らす火影。
……いや、そんな素っ気なくなってしまうのは仕方がないのかもいれない。
ついさっきまで、壮絶な戦いを繰り広げていたのだから。
心二の機転を効かせた一撃でバーチャル空間に取り残された二校の約全生徒を絶望に追いやった天魔族最後の敵を仕留めることができた。
天魔族という三体のバーチャルウィルスが消え去ったことにより、HPを全損した敗者関わらず、バーチャル空間に幽閉されていた生徒との接続を切断し、現実世界への帰還に成功した。
全員の帰還を確認し次第、彼らは病院で心身を検査したり、場合によっては精密検査を余儀無くされた。
バーチャル体とはいえ、目の前で人間が惨殺されていく光景を幾度となく見てきた数時間。
病んでしまうのも無理ない。
病んでいなくとも、託巳の様に疲労を感じている者は少なくないはずだ。
例えば、李女。
「菜川、だいじょぶか?」
彼女の疲れ切った表情に気付いた心二は気にかけた。
李女だけじゃない、奏也も由美も表情には出していないが、いつもの高いテンションはない。
「……あ、あぁ。大丈夫」
少し遅れて李女が返す。
いつもキリッとしてる彼女からは考えられない。
それでも李女は寝ぼけた表情で言葉を紡ぐ。
「……んーー、そう言えば今回の件、やはり桜南が責任取ることになるのか?」
あっ、と大事なことを思い出した様な表情をみんなして浮かべる。
「そ、そ、そーだよ……ウチのセキュリティが甘いからウィルスに侵入されたんだから。責任問題で廃校⁉︎あたしたち中退⁉︎」
ガクブル震えながら優璃が狼狽える。
はわわわわ、と口元を両手で覆いながら由美や奏也もまた目を泳がせていた。
「んなわけねーだろ。中退なんて……中退たんててててててててててて」
「守郎落ち着け、らしくないぞ!」
「うるさいですよ、そこの君たち!」
またしても注意される桜南1年3組勢。
仕方なく口を閉じるが、不安は拭えない。
全員の表情が青くなり、顔色が悪くなる。
「あり?何よみんなしてそんな顔浮かべて」
廊下の角からひょこりと出てきたのはショートヘアの茶髪に肩まで垂らすチェーンのピアスを身につけている宮祁1年3組の草神鳴夏。
「おー、確か〜〜〜……草神?」
「おおぅ……もう忘れられてる」
二人のやり取りに目を丸くする奏也達。
「え?心二その子と知り合いやったんか⁉︎」
異様なテンションで心二と鳴夏に面識があったことに驚く。
「あーうん。ベラゼクスと戦ってる時に話しただけだよ?」
そこまで聞くと奏也は残念そうに頭を抱えた。
そういえば奏也、開会式前にチラと見かけた鳴夏が気になっていたようだった。
「くぅぅぅ、わいがもうちょい生き残っとったら知り合えたかもしれんのにっ」
こんなに悔しがっている奏也を見たのは初めてかもしれない。
「んで?何浮かない顔してんの?」
「そうそう、今回の件で桜南高校の責任で廃校とかんなったらやばいなーって話してたんだよ」
心二の言葉に鳴夏がハハハと高らかに笑う。
「そんなわけないじゃない、私は誰かに送りつけられたウィルスのせいだって聞いたよ?」
「へ、そうなの?」
初耳の情報に心二達は安堵する。
「そ、それじゃ廃校なんかになんないね!よかったーーー」
優璃と由美が後ろで手を取り合って喜んでいる。
「おい心二。そろそろお前呼ばれるぞ。」
心二の肩を叩き、守郎が検査を行っている部屋へと視線を向ける。
「あ、なんだもうなのか。」
守郎の言う通り、間も無くして心二の名前が部屋の奥から聞こえる。
「天条心二くん、入ってきてくださーい。」
低い男の声で心二のフルネームを呼んだ。
「……ふふ、やっぱり」
「ん?」
何かに納得したように鳴夏は含み笑いを浮かべ心二の顔を見る。
「そんじゃね、心二」
「……お、おう。またな!」
呼び名がくん付けから呼び捨てに変わった鳴夏に少々驚きつつも、心二は手を振り別れを告げる。
心二が部屋に入っていくのを見届け、鳴夏も場を去る。
「えと、君たちもそこの金髪くんもバイバイ!」
「……オレの名前は忘れてんのかよ。垣峰だ。」
てへへ、とはにかみながら小走りで廊下の角を曲がり見えなくなる。
「守郎もあの子と知り合いなん⁉︎」
「ん?まぁな」
またしても、奏也は項垂れた。
心二達と別れた鳴夏は彼らから見えない廊下の角を曲がったところで立ち止まり、開かれた窓から顔を出し、空気を吸い込んだ。
「どうだったんだ?あいつ」
吸い込んだ空気を吐き出そうとしたところでいきなり声をかけられた鳴夏は驚き咽せて咳き込む。
「ゲホゴホッ……って何よ威郎じゃない」
鳴夏に声をかけた同じく宮祁1年3組の鍼嵩威郎は咳き込み涙目の鳴夏を見て何事か察した様だ。
「……言わなかったのか。」
「う……エスパーかいアンタは‼︎」
鳴夏は壁に背を預けだらしなく口を開けながら窓枠に顔を出す。
「別にいいのよ。私の名前聞いても何も思い出さなかったみたいだしぃ。忘れてるなら別にいいのよーー」
不貞腐れたような口調で鳴夏は吐き出すようにそう言った。
その目は何処か切なげで、普段の鳴夏を知る威郎としては気味悪いものだった。
「らしくねぇの。」
ただ一言そう言い、威郎はその場を後にした。
「……っちょ、ちょいちょいちょい!」
そそくさと行ってしまう威郎に気付き後を追いかける。
「腹減った。甘いもん食べに行く」
「甘いもの⁉︎いいねーいこいこー!スイパラ行こうよスイパラー」
男は桜南高校1年3組の教室前にいた。
「あれあれ。妙に静かだと思ったら、だっれもいねぇーー」
鍵のかかった3組から離れ、他の組も見て回るが、やはり誰もいない。
「んむんむ。今日って祝日だったか?」
9月3日。思い当たる祝日は思いつかない。
男は大きく欠伸をし、職員室にいるはずであろう担任教師の花江幸に会うべく、職員室へと足を運ぶ。
男は階段を降り、2年のフロアである三階の教室を覗き、誰もいないことを確認すると、いよいよ男は首を傾げ、だらしなく猫背で歩を進める。
「んむんむ。もう帰っちまうかなー。どうせ普段行ってねーんだし。ってかてか。今行っても遅刻なんだよなぁ。つかつか。制服忘れたし」
目をこすり少し考えたような仕草をしてからもう一度欠伸をする。
「よーしよし。帰ろー」
早速昇降口を出て、日差しの照りつける昼過ぎの空気を吸い込む。
「んむんむ。引きこもりにこの空気はなんか新鮮ですわなー」
身体を伸ばしまたしても大きく欠伸をし、前を向くと校門の前で校舎を眺めている同年代であろう男に気付く。
長く伸ばされた白髪は目元が見えないほどに伸ばされており、男は気味悪い表情を浮かべる。
「んむんむ。何やらお仲間の気配。」
男は白髪の少年に話しかけるべくコホンと喉に引っかかっていた痰を除く。
「おうおう。そこのアンタ。」
喋りかけられた白髪の男は目の前にいる気だるそうな男に目を合わせ、背を向ける。
「おやおや。話しかけてんのに無視かよ〜冷てぇなーー」
遂に一言も交わすことなく、白髪は何処かへ消えて行った。
「んむんむ。コミュ障なりにがんばったんだがねぇ。よしよし。帰りにマガジン読んでくか」
男は一瞬怪しげな笑みを浮かべ、登校数分で下校していくのだった。
「にしても珍しいな〜。優璃が漫画借りたいなんて」
病院での検査を終え、途中まで一緒だった守郎達と別れた心二は優璃が漫画を借りたいというので自宅に招いていた。
「まぁまぁ。たまにはそんなこともあるのだよー。紅空さんはまだ帰ってないの?」
「まだみたいだなー。」
玄関を上がり、シン……と静まり返った家内から優璃は察した。
心二の一つ上の姉、天条紅空もまた、交流会を経て病院で検査を受けているはずだ。
家にいないのであればまだ病院を出ていないのだろう。
「……ってことは、心二と二人っきりか。」
上目遣いで誘うような表情を向ける優璃に少なからずドキリと心臓が脈打つ。
優璃の誘ってるような口調の冗談には慣れたものだが、やはり不意打ちで繰り出されるそれにはまだ耐性がない。
そんな心二と優璃は知り合ってまだ一年と経ってはいない。
「…………心二?」
「っっえ?あー……おう?」
顔を覗かせる優璃に気付き慌てて反応する心二に優璃はぷくぅ、と頬を膨らませる。
「もう……。せっかく冗談かましたのに、なんかあたしがスベったみたいじゃん!」
「ハ……ハハハ悪ぃ悪ぃ。」
……そう、冗談だ。
玄関からすぐの階段を登り、心二の自室へと向かう。
「ほーー、変わってないなーー。いつぶりだっけ?」
「え?……確かーーー……」
夏休み前、正確に言えば七不思議騒動の直後だったはずだ。
すぐに思い出した心二は懐かしげな表情で当時の事を話し出す。
「懐かしいねーー、確かその時に李女ちゃん
と仲良くなったんだよねー」
優璃も同じで、鮮明に記憶されているようだ。
入学から数ヶ月が経ち、現在は二学期。
イベント事が多い今学期最初の行事、交流会が終わり、話題は次の学校行事へと変わっていく。
「次は体育祭かー。楽しみだなぁ」
そう呟く優璃に心二は意外な表情を浮かべる。
「ん?女子は嫌がりそうな行事っぽいけど……」
「あたしは好きだね。身体動かすの好きだし!」
そう言う優璃の目はランランと輝いていた。
「あー、優璃はそういえば運動神経良かったよな」
いつしかの水泳対決のことを思い出す。
優璃と直に勝負した心二は充分に分かっていたはずだ。
「そんな心二はどうなの?」
「どうなのって……運動か?」
優璃の問いに心二は自信を持って答える。
男たるもの少年時代は朝から日暮れ時まで駆け回り遊んだものだ。
運動は大好きだし、それは今も変わらない。
「運動……うん!大好きだね」
グッと握る心二の拳に優璃も拳を握りコツンと当てる。
「んじゃ、体育大会は頑張ろうね!目指すは……」
「「一位!」」
立てられる人差し指は絶対的な一位を示していた。
月末に迫る体育大会に胸をときめかせ、彼らはもう少しだけ、辿ってきた高校生活に話の華を咲かせるのだった。
約二ヶ月の大長編となった第4シリーズ、暴臨の天魔族編……ついに完結です!
いやぁぁぁ、つっかれました。
学年末テストとかも挟んだおかげで、かなり時間がかかりました。
なにせキャラも多いし、新しい能力考えたり、伏線張ったり、どういう戦闘を描写したりと中々疲れた長編でしたね。笑
なので思い出深いシリーズになりましたね。
今シリーズの一話二話を見返してみると心二と深海の絡みが描かれていたりとかいう話も忘れてましたし笑
ほんとバトルばっかでキャラとの掛け合いがあまり出来ないシリーズだったわけですが。
さてさて、次回第5シリーズは以前のあとがきで話した通り今までのバ革命の作風とは打って変わるようなシリーズになります。
心を入れ替えて、皆様もよろしければ引き続きよろしくお願いします。
あとがきイラストは第5シリーズの宣伝イラストです。




