#40 不屈の彼らは希望を受け継ぐ。
「……へぇ、ランク3のシステムスキルなんか持ってんのか」
ついに力尽きてしまった垣峰守郎の言葉……「天条心二だけが持つ裏の手を最大限発揮出来る能力者」の可能性がある男とされる鍼嵩威郎は一先ず心二を連れて盾の中に入っていた。
「……うん。オレの二重人格は一度だけ全損したHPをフル回復して別の人格を呼びだすことができるって能力なんだ。」
かつての心二が勝利不可能とされた成績優秀者に勝ちを納めた最大の要因である二重人格は立派に心二の裏の手として機能していた。
「なるほどな、あの垣峰とかいう金髪が言ってんのはこういうことか……」
威郎は顎に手を添えて考える仕草をしてみせる。
「何らかの手を用いて攻撃力の高い物理攻撃を持つ能力者のオレとお前をベラゼクスん所まで持って行き、オレで隙を作ってお前が叩くって感じか?」
「そう、オレは二年の朱緋先輩で補助魔法をかけてもらうから、低成績のオレでも一撃で倒せる火力を手にいれられる。」
一見、成功しないし失敗しない半々の確率が見えるこの作戦。
もしベラゼクスの近くまでに辿り着く前に心二がHP全損の攻撃を受けて二重人格が発動してしまったら?
もしベラゼクスの近くまで辿り着き、威郎の攻撃で隙を突き、その上で心二の二重人格を発動させて二重の隙を作り上げた果ての攻撃で、ベラゼクスのHPを削りきれなかったら?
考え始めたら不安要素は数え切れない。
そんな不安定なバランス下で行われようとしていたこの作戦を完成させる為の調味料を加えたのは、威郎の能力だった。
「……そういえば、鍼嵩の能力ってどんなものなんだ?破壊力を持った物理攻撃を持ってるらしいお前は、さっき妙な防御用の結界を張ってたよな?」
あの結界はどう見ても特殊攻撃の類であるコード展開した能力だ。
コード展開した能力で大きく分類される特殊能力と物理能力。
それぞれ別の種類である二つの能力を同時に併せ持つなんて事は例を見ない。
結界を張った威郎はもちろん特殊能力のコード展開の筈だ。
「……あ?誰が物理攻撃で叩くって言ったよ?もっと融通を効かせようぜ」
そう言いながら、威郎は胸板に刻まれた十字架の傷跡を前に差し出された右手に怪しい光が宿る。
やがて右手に作り出されたのは禍々(まがまが)しい白銀の剣だった。
「この剣は『白刃の滅魔導』って魔剣だ」
ギラリと怪しく光を反射するその白刃の滅魔導と呼ばれた剣を威郎は魔剣と言った。
言うまでもなく、特殊能力で作られた魔法の剣。
ベラゼクスには無効の剣だ。
「そんな剣出してどうすんの?特殊能力で生み出した武器は無効化されるだろ?」
天条紅空の爆弾もまた呆気なく消え失せた。
飛来物であろうと、武器であろうと特殊能力で生み出された物は何であろうと消し去るベラゼクスの特殊能力無効化。
それは威郎自身もきちんと理解しているはずだった。
「この剣は消えたりしないぜ?いくら相手が特殊能力を無効化できる奴でもな。」
は?と頭を傾げる心二に、威郎は面倒くさそうに続きを話す。
「この白刃の滅魔導はあらゆる能力の加護を打ち消し、HPを全損させる必殺の剣だ。」
「……あらゆる能力の加護を打ち消す?……それでベラゼクスの特殊能力無効を打ち消せるってのか?」
不可能だ。
コードの特殊能力である力を使って生み出された武器というのは事実だ。
『あらゆる能力の加護を打ち消す能力』という能力は、ベラゼクスの能力無効化によって打ち消されてしまう。
もし能力無効が適用されないなら、HPを全て削り切るまさに必殺の一撃を放つことができるのだが。
「何だその面、不可能とか思ってんのか?」
自信なさげな心二の表情を見て、威郎はフッと笑う。
「この剣は大きな代償を払うことで呼び出すことが出来る。白刃の滅魔導は特殊能力じゃない。超異能力だ。」
「超異能力……?聞いたことないぞそんなの。それに大きな代償?」
説明が続くこの時間に、威郎は少々の焦りを見せていた。
こうしてる間にもベラゼクスの攻撃を受け続ける凧土の盾がいつ破壊されてしまうかも分からないこの状況で必要以上の無用な会話は慎むべきだ。
「……手短に話すぜ。ちゃんと理解してくれよ」
あぁ、と心二は相槌を打ち、作戦の肝となる部分を威郎は遂に話し始める。
「オレの創呪神の能力はあらゆる武器を自身のHPを削ることで召喚することができる。さっきの結界もこの白刃の滅魔導もオレのHPを代償を支払って出現させたものだ。
何かを代償として、コード展開の能力を発動させる類の能力者を超異能力ってんだ。」
「……そんな能力を使う奴がいたのか」
一度もそんな能力者を見た事がなかった心二を見ての通り、超異能力と呼ばれるコードを持つ者は少数なのだろう。
「ん?お前、今HPはどれくらいなんだよ」
心二が見た限り、威郎は防御結界とあらゆる能力の加護を打ち消すという白刃の滅魔導を召喚している。
もし二つだけなら、HPの消費はあまり問題ないのか。
そんな心二の安易な考えを威郎は無意識に崩した。
「オレは今回の交流会で三度の武器召喚を行った。武器それぞれの召喚に必要なHPは異なるんだが……白刃の滅魔導は別格だ。」
別格……の一言に心二は嫌な予感を予知させる。
「白刃の消費HPは自身の残りHPから99%を減らす。」
「99%⁉︎それってつまり……」
威郎は無言で頷いた。
そう、どんな攻撃でも一回食らえば確実にHPは全損してしまう。
さすがは放つ一撃で相手のHPを全損させることができる一太刀だ。
「お前の思ってる通りだ。オレは一撃でも攻撃を食らえない。これから行う作戦に恐らく次はないぜ。」
ドッ、と重い重圧がのしかかる。とてつもない緊張感が心二の体を蝕んでいた。
「いいか、白刃を上手く使う作戦は……ざっとこんな感じだ」
作戦概要を話すこと数十秒、いよいよ最後の攻撃が行われようとしていた。
激戦からしばらくの時が経った裏門にて、大勢の屍が朽ち果てている中、狭山陽志達は未だ空を仰いでいた。
「……そろそろ、行ってみるか?テニスコート前。」
常時更新される生徒手帳のテーブル機能の書き込みを見ている陽志は行動に移そうとしていた。
周りを見れば陽志同様にくたばっている数名の男女。
陽志に返す言葉は、誰も発さなかった。
「…………大丈夫。」
しばらくして、先ほどの陽志の問いの答えであろう言葉を弥富深海がゆっくりと発した。
「…………きっと、大丈夫。」
紡がれた言葉の続きには、妙な自信が感じ取れた。無責任なだけか、面倒臭くて動きたくないだけか……。深海の真意は分からないが、少なくともその言葉には、友達への信頼が確かに感じられた。
「…………だな。オレも……もう疲れた」
再び彼らは無言で空を仰ぎ始めた。
最後の攻撃の準備が盾の内側で密かに行われている中、ベラゼクスは依然、盾へと淡々と攻撃をしかけていた。
途中途中で挟まれる盾が防ぎ切れない左右からの攻撃も、草神鳴夏と矢吹漣夜の柔軟な対処により、一撃も盾の内にいる者への攻撃を許していなかった。
「……うん。これでよし」
攻め入る心二と威郎に出来る限りの補助魔法を付加する紗夜は拳をグッと握る。
「付撃魔法、付防魔法、付翼魔法、付速魔法。攻撃、防御、両翼追加、移動速度のそれぞれが上昇する魔法だ。」
両肩から翼を生やした心二と威郎は万全な戦闘体制へと入っていた。
「……にしても、便利なコード能力だな。」
紗夜の補助魔法によって自身の肩から生えた翼を眺めて、威郎は鋭い釣り目を輝かせる。
「なにウキウキしてんだよ」
「しっってねーーーよ!」
彼らのやり取りを見て、右方向からの攻撃を防いでいる鳴夏がフッと笑う。
「なんだなんだ?仲良くなったねーお二人さん。」
「あ?仲良くねーよ」
「なんだとぅぅ⁉︎」
素っ気なく答える威郎に心二が吠える。
冗談はここまで、とコホンと咳を一つ。
「……いくぜ、作戦通りにな。」
「……任せろ。」
皆の期待の眼差しが二人に集まる。
不安げな目線、希望の目線、絶望に沈んだ目線、悲しみの目線。
様々な感情が見て取れる。
「心二!」
ひょこり、と右目を傷付けられた菜川を見ていたはずの今西優璃が笑顔で迎える。
「菜川は大丈夫か?」
「うん、だいじょぶ。……でも、やっぱりはやく元の学校に帰れた方が李女ちゃんも喜ぶかな」
イタズラな笑みを心二に向ける優璃の様子に、心二は背中を押された気がした。
「……あぁ、だいじょぶ!」
右手にこれまでの逆境を打ち返してきた自身の愛刀、ソード・ランカーを召喚する。
「絶対にぶっ倒してやる、あんなバケモンとの戦力差なんて……革命してやんよ‼︎」
振り返り、ベラゼクスのいる方向へと向き直る。
「しっかりね!」
パン!と背中を優璃に叩かれ喝を入れてくれる。
「へいな‼︎」
タン!と地面を蹴り、盾から飛び出す心二と威郎。
ここからはいつ攻撃を食らってもおかしくない戦場だ。
突撃開始からしばらくは囮となる威郎がベラゼクスへと辿り着くまでに攻撃を食らわないことが第一の関門だ。
その際に気を付けるべきは突如として生えてくる地中からの(つる)蔓攻撃だ。
残りHPが欠片ほどしかない威郎には相性の悪すぎる不意打ち攻撃だが……
施された策がちゃんと二人にはある。
紗夜の付翼魔法によって得た両翼は二人を宙へと浮かばせた。
これで地にいる彼らにとって不意打ちとなる地中からの蔓攻撃でも、空に舞う彼らにとっては不意打ちでも何でもなくなった。
これでベラゼクスに接近できる確率がうなぎ登りに上昇したはずだ。
あとは正面から来る速度を持った蔓攻撃を回避すれば……いよいよ攻撃に移行できる。
「よし、行くぞ!」
一気に距離を詰めた心二と威郎は続いて第二の関門、いよいよ囮の役目を威郎が担う場面だ。
心二は威郎との作戦を再度思い返していた。
ー……ベラゼクスへの接近に成功したら、いよいよオレが囮になって攻撃を仕掛けに行くが……心二は常にオレの斜め後ろにいてくれ。ー
ー斜め後ろ?何で?ー
空中旋回し、距離を詰めた彼らは着地の後先を行く威郎の斜め左へ降り立ち、後を追う。
ー……斜め後ろに配置する理由は、囮のオレが食らった攻撃に心二を巻き込まないようにするためだ。ー
ー……あ〜そっか、蔓攻撃は貫通する可能性があるからね!ー
ーあぁそれが第一の理由だが、次の行動をスムーズにとるためでもあるんだ。ー
心二は右に持っていた自分の剣、ソード・ランカーを左手に持ち替えた。
ー……次の行動って?ー
ーとりあえずは合図を出す。合図を確認し次第、速やかに攻め込んでくれ。ここからはスピード勝負だ。ー
左手に武器を持ち替え、準備を済ませた心二は合図を待った。
いや……待つ間も無く、その瞬間は訪れた。
勢い良く斜め右を行く威郎の左胸を太い蔓が貫いた。
ー……んで、その合図ってのはオレが囮としての役目を果たした時……つまり攻撃を食らった瞬間だー
「ぐっ……‼︎」
動きが鈍る威郎を最後まで見届けることなく、心二は合図を受け取り、最後勝機を最大限活かす為、威郎の左手に握られた白刃の滅魔導へと手を伸ばす。
リレーのバトンのようにしっかりとパスされた白刃の滅魔導を心二は右手で受け取り、ベラゼクスへ攻め入る。
ー……いいか?オレがやられたらすぐさまリレーのバトンパスの要領で白刃の滅魔導を受け取り、そのままベラゼクスに一撃かまして来い。ー
ー……それはいいけど、さっき言ってたスピード勝負ってのは?ー
ー……あぁ、そこが一番重要だ。心二が白刃を受け取ったってことは、オレのHPは全損してるはずだ。そうなると、オレの武器である白刃は恐らく十数秒で散っちまうんだ。ー
武器の所有者が倒れてしまったとき、十数秒で消えてしまうバーチャルシステムは覆しようがない。
どうあっても心二は攻めに入って十数秒で蹴りをつけなければならない。
ー……いいか、死に物狂いで…………ー
「…………ぶっ殺して……こいぃ‼︎」
後ろから聞こえてきた威郎の声に心二は心の中で応え、両の眼に一体の敵を捉えた。
迎え討つべくベラゼクスは右手に蔓を纏わせて、槍を作り出した。
恐らく心二を叩きのめす為の武器だ。
あの槍攻撃をどう対処するか……。
長考する時間も余裕も心二には残されていなかった。
「…………っ!」
心二の左手に持つソード・ランカーとベラゼクスの槍が大きな衝撃音をたてて第一撃目。
強烈な槍の一対は重く、完全に受け流すことは出来なかった。
しかし無理矢理に態勢を落していた心二は余る右手の切り札を遂に振り上げた。
ぐいっっ……と嫌に強烈な力が今まさに繰り出されようとしていた攻撃を妨害した。
白刃を持つ右腕が地面からいつの間にか生えていた太い蔓に絡まれて拘束されていた。
「……!やば…………」
先ほどの攻撃から次撃に備え、既に槍は引き戻されていた。
豪快な槍の一突きが風を切り、右腕を拘束された心二の胸に大きな穴を開けた。
言わずもがな、確実に心二のHPをすべて奪い尽くす一撃だった。
するりと右腕に絡まっていた蔓が解け片膝を折り、心二の上体が前へ傾く。
ギン、と心二の目にメラメラと不屈の闘志が燃え上がる。
二重人格により、再び心二の別人格が蘇った。
くるりと翻り、最後の一振りを振り下ろす。
「んぎっっ……」
しかし、相手もそう甘くはなかった。
すかさず槍を突き出し、心二の右肩を抉った。
ここで、とんでもないアクシデントが起こった。右肩を潰した際、振り下ろす右手に握られた白刃を落としてしまう。
「やっっっべ…………‼︎」
宙をゆっくりと落ちてゆく白刃をただただ眺める。
利き腕を失った今、逆転の手立てはない。
「…………くっそがっ」
それでも負けられない戦いというのは、確かにあるのだ。
倒れそうになる心二は地面を踏みしめ、バランスを保ち左手に持ってた自身の剣を投げ捨て、落下する白刃に手を伸ばす。
がしりっ、としっかり掴んだ白刃をそのままベラゼクスに突き刺すべく左手を押し出した。
「くらいやがれぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎」
その時、誰もが固唾を飲んで見守った。
勝負の行方を、自分達の未来を。
…………勝敗は決した。




