#39 穿たれた彼は希望を託す。
んっんっ……と目標である滅神ベラゼクスを量産する悪魔の枯れ木へと駆ける天条紅空。
あの枯れ木を潰さない限り、厄介な攻撃力と俊敏さを併せ持ったベラゼクスが無限に生み出されてしまう。
握られた紅空の右手から緑の光を放ちながら小さな球状の爆弾が作られる。
掌サイズの爆弾といえど、その破壊力は成績優秀者だけが持つコード展開した能力というだけはある。
「……これで……」
意を決し、紅空は爆弾を枯れ木に放った。
この攻撃ないが成功すれば、ベラゼクスの無限量産でジリ貧になることはない。
振り上げた腕を豪快に振り抜き、爆弾をリリースした。
「……終わりっ!」
投げられた爆弾は、爆ぜることなく……音もなく消滅した。
「え…………。」
そして、紅空の目の前の枯れ木はグニョグニョと奇怪な物音をたてながらやがては人型の異形の物へと形成していった。
同時に量産されたベラゼクスもまた、用済みとばかりにボロボロと骨格を無視した奇妙な動きをし、地面と同化し消えた。
紅空の前にいる恐らく本体の姿形は先ほどまでの量産型のベラゼクスみたいな鎧姿ではなく、一糸纏わぬ姿で枯れ木を具現化したような肌色をしていた。
「…………ようやく、か。」
一言呟くとベラゼクスは目の前の呆然としている紅空を視界に入れた。
「……死ね。」
呪いの一言に反応する間も無く地中から突き破った数本の蔓が妖精の華奢な身体を貫いた。
「ぐっ……そんっ……な……ぁ」
左胸、右肩、右頬、額、右太ももに突き刺さり、貫通する蔓には、大量の血液を示す赤いバーチャル片がべっとりと付着していた。
首から上が受けたダメージは深刻で、もはや原型を留めてはいなかった。
「ちょっと!待ってキミ‼︎」
タンタンタン、と物凄い速さで地を駆ける心二を追いかける草神鳴夏。
「姉ちゃん!」
変わり果てた姉の姿を目の当たりりにした心二の目にはさらに狂気の炎を宿した。
「……んの野郎っ‼︎」
ベラゼクスに切りかかろうとする心二の手を強引にひっ掴む鳴夏。
「待って!考え無しに突っ込むのは自殺行為……」
「放せぇぇぇ‼︎ぶっ殺すっ、こいつをぶっ殺……」
「落ち着け単細胞生物」
激昂する心二の頭をパコーンと思い切りはたく垣峰守郎。
「ってぇなぁ何すんだ不良!」
「……誰が不良だと?」
守郎に対して放った罵倒の言葉をどういうわけか鳴夏と同じクラスの鍼嵩威郎が過剰なくらいの反応を見せた。
「ひゃ⁉︎お、お前に言ってねーよぅ」
凄まじい目力にビクリと肩を震わせる心二。
「あー、ゴメンね。こいつ不良呼ばわりされるとすっごい怒るの」
さて、と鳴夏は少し離れた位置にいるベラゼクスを睨む。
「さっき遠目で見た限り、キミの……あー、キミの名前聞いてなかった。なんていうの?」
今更な気もするが心二は照れくさそうに頬を染める。
「オレは天じ……」
「天神ヶ原心二だよなぁ」
名乗る前に守郎がふざけた偽名をかぶせてくる。
「誰が天神ヶ原だ!」
「不良呼ばわりしたお返しだボケ」
火花を散らす二人に呆れ、話を戻す鳴夏。
「……そ、そんじゃ心二くん。心二くんのお姉さんの能力は爆弾を扱うの?」
確認のためか、鳴夏は心二に紅空の能力を尋ねる。
「う、うん。そうだけど」
「……となると、お姉さんの能力がかき消されたのを見る限り……厄介だけどあいつは特殊攻撃を受けなさそうだね」
そう、桜南、宮祁の二校全総力がたった三体の天魔族に遅れを取った最大の要因は天魔族一体の戦闘力よりもその攻撃の手段の無さと言えるだろう。
その巨体が故ただの蹴りでさえも即死級のダメージを与えてきた巨神レベルクスは特殊攻撃をも身を通さなかった。
屋上で繰り広げられた炎魔王サタンとの戦いでも、正体は幻覚だったとはいえ特殊攻撃を無効化する幻視をかけられていたため、苦戦を強いられていた。
そして、最後の天魔族である滅神ベラゼクスもまた、特殊攻撃が効かないことがわかってしまった。
「待ってくれ草神。」
鳴夏の推測に守郎が割って入る。
「えと、キミは……」
「垣峰でいい。オレらも天魔族の一体と渡り合ったんだけどよ……」
垣峰の名を耳にした鳴夏は目を輝かせた。
「うっそ垣峰って屋上で天魔族を倒したっていう垣峰守郎くん⁉︎」
生徒手帳のテーブル機能で得たであろう情報を思い出す鳴夏。
「あ、あぁ。……って、んなことより」
反れそうな話を元に戻す守郎は心二にチラリと視線を送る。
「オレらが戦った天魔族は特殊攻撃を無効化させる……という幻惑を魅せられていただけだったんだ。
今回もそんなタネとかじゃねーのか?」
現実問題、特殊攻撃を常時無効なんてチート能力を実際に見たことのない守郎達からしたら何かしらのタネがあるかと疑ってしまうものだ。
「……いや、それはないよ。」
そんな守郎の考えに思案する間も無く返してくる。
「何でそう言い切れるの?」
敵の様子を伺いながら心二が尋ねる。
「私が戦った奴は正真正銘特殊攻撃を無効化する類の敵だった。
ひたすら近距離の物理攻撃で畳み掛けるしか手はないんだっ」
鳴夏の言葉に一同が凍りついた。
ただでさえ厄介な唐突に生えてくる蔓攻撃を巧みに避けながら地道に近距離で殴り続ける。
相手の力量を考えればほとんど不可能な戦術だ。
「……まずいな。勝てる気がしねぇ」
気が付けば消えた量産型ベラゼクスと戦っていた大多数の生徒が敗戦ムード一色の心二たちのもとへ集まってきていた。
「話は聞いた、草神鳴夏。」
一番の期待を寄せられているであろう桜南高校のトップ、矢吹漣夜が力強く頷いた。
そんな漣夜に思わぬ反応を見せたのがベラゼクスだった。
地中から数多もの蔓が漣夜周辺の心二や鳴夏達を襲う。
「凧土!頼む‼︎」
「おおおぅよ‼︎」
襲い来る蔓にも恐れることはなく、漣夜は瞬時に最善の行動を取るべく声を発した。
凧土と呼ばれた大きな体の男は威勢のいい応答を返す。
「コード展開ぃぃぃ‼︎名は海洋神‼︎」
腹に響くような怒号でコードを展開した凧土の手前に自身の身長を裕に超す巨大な盾が出現した。
続いて漣夜はスン、と空気を吸い込み声を張る。
「死にたくねぇ奴ぁ凧土の後ろに入ってこい!」
盾の防御範囲内である凧土の後ろに続々と人が密集してくる。
次第に盾からは蔓を叩きつけるペシ、パシッという乾いた音が聞こえてきた。
盾の防御力はさすがと言ったところだ。
さらに盾では守り切れない左右からの攻撃を防ぐ為、漣夜と鳴夏が前に出る。
「おい守郎。」
凧土の後ろに集まる人の内、守郎に声をかける心二。
「んだよ。」
「んだよ……って、どうすんだよこれから!特殊攻撃が効かないんならやっぱり厳しいんじゃ……」
心二の不安に混じり、どこからか聞き慣れた声が聞こえてきた。
「……ん、何か聞こえなかったか?」
呟く守郎に心二も同意を示す。
「あ?確かに聞こえ……」
言いながら後ろを振り返る心二はうっすらと聞こえた先ほどの声の主を発見した。
「守郎ーー!心二ーー!」
手を振りながらこちらへ近づいてくるのはツインテールを揺らす古旗由美だった。
「……古旗!」
正直地獄と化した桜南高校にて無事でいたことに驚く守郎。
「怖かったよーーー!気がついたら誰もいなくて、裏門じゃ人がいっぱいグチャグチャにされてて……心細かったよーーー‼︎」
「え⁉︎由美⁉︎」
由美の声に盾のすぐ後ろで人に埋れていた怪我を負った李女を守っている優璃も由美に気付く。
手を振ってくる由美に大振りで返す。
そんな時だった。
盾の後ろに退避していた心二たちの横を何かが横切った。
瞬間、盾に身を隠していた人物が急に走り、盾から飛び出したのだ。
「え、守郎?」
守郎は盾を横切った蔓を追いかけた。
蔓の狙いを察したからだ。
ここら一帯の生存している生徒は凧土の盾に身を隠しているので、蔓の攻撃を受けてしまう可能性のある人はいない。
たった今姿を現した由美に関しては、言わずもがな別の問題だ。
「……えっ……い、いや」
由美目掛けて襲い来る蔓に、標的である彼女は腰を抜かしてしまう。
そんな由美の体へと守郎は強引に抱きつき、ゴロゴロと互いの体を密着させながら地を転がり、蔓の攻撃を避けた。
由美が腰を抜かしていた場所には蔓がドップリと突き刺さり、地面を割っていた。
間一髪だっただけに冷や汗を流さざるを得ない守郎は上体を起こしながら安堵し、視線を自身が馬乗っている目の前の由美へと向ける。
「あっぶねー……。大丈夫か?」
「あっ……う、うん。ありが……とう」
戦場に漂うラブコメ臭は、あまりにも場違いだ。
「わーわー!守郎がいたいけな女の子を押し倒してるーーーー‼︎」
「ひゅーひゅー」
心二が嫌味なまでに声を大にして煽る。
そんな心二に守郎は引き笑いを浮かべて怒りを宿す。
「心二てめーそこを動くなよ?」
心二にお仕置きをするため守郎は馬乗っていた由美の体から離れ、ペキパキと拳を鳴らす。
「あー、くっついて悪かったな由美。今から煽りやがるバカぶっ飛ばしに行くから。とりあえずお前も盾ん所に避難しねぇとな」
「へ、あ……うん!……もう少しこのままがよかったなぁ……」
由美の小声が守郎に届くことはなく、由美は上体を起こし、差し伸べられた右腕へと手を伸ばす。
「……ありがと。」
「お、おう」
またも漂うラブコメ臭が香り始める。
そんな二人を見て、またもや心二が今度は声を荒げながら守郎の名を呼ぶ。
「……ったく、うるせー奴だな。」
心二たちに背を向ける守郎はやれやれといった様子で呆れる。
そんな守郎の様子を見て由美は少し微笑んだ。
「さて、行くか。」
いまだ叫ぶ心二にいい加減頭に来ていた守郎だったが、心二の言葉を聞き逃しはしなかった。
「守郎ーー!早く逃げろーーー!」
「……は?」
気にかかる言葉を発した心二が気になり、守郎はついに心二の方へと振り向いた。
ドッ‼︎……。
振り返りざまの守郎に待ち受けていたのは、あまりに予想出来た結末だった。
太い蔓に貫かれた守郎は崩れ落ちる。
「……っっ、」
目の前で倒れ行く守郎に由美は某然とすることしかできなかった。
「しゅ……守郎?」
絶望に顔を歪める由美に、守郎は苦悶の表情を浮かべながら口を開ける。
「……オレのことはいい……っから、早く心二たちのところまで……行け」
「で……でもっ…………!」
躊躇ってる由美の手を急いで駆け付けた心二にがしりと掴まれる。
「古旗!早く盾んとこ行くぞ!……それと守郎。」
虫の息の守郎に目線を落とす。
「……んだよ、余裕ぶっこいてたオレを笑おうってか?」
「勝つ方法を教えてくれ。」
キッパリと言い切った心二に守郎は心底意外そうな表情を浮かべる。
「……てめーは恥ってモンがねぇのかよ」
恥ぃぃ?と心二はくだらない事を聞いてくる守郎に吐き捨てるように返す。
「んなこと言ってる場合かよっ、確かにお前に頼るってのは生理的に受け付けないってのは確かにあるけどさー……」
ふん、と何かを吹っ切るように鼻で吹き捨てると、言葉を紡ぐ。
「……奏ちゃんも李女も姉ちゃんもやられたんだ、この際すがれるものなら何にでもすがってやるよ‼︎」
真剣な眼差しを浮かべる心二を見上げると守郎は目を閉じて、頭をフル回転させる。
持ち前の戦いに関する思考に特化した守郎の頭脳は長考の末、一つの勝機を垣間見た。
「……やっぱり勝つにはお前だけが使える裏の手を有効活用するのは必須みたいだ」
嫌味な口調で呟く守郎に心二はパァァッ、と顔を輝かせた。
「あるのか⁉︎勝つ方法が⁉︎教えてくれ!」
「いいか?この作戦は心二一人じゃこなせない。攻撃力を持った囮が居てこそ、成功するんだ」
「攻撃力を持った囮?」
あぁ、と守郎は凧土の盾に集まる生存者多数を見る。
「あんだけいりゃ、必ずいるはずだ。繰り出す一撃が必殺の能力者がよ」
「……いなかったら?」
「ゴリ押しで全員攻撃しかねぇだろ。」
「それが出来ないから勝てないんだろ?」
ベラゼクスの恐るべき所は突然生えてくる地中からの蔓攻撃だ。
全員攻撃なんて無策な行動は、蔓攻撃の餌食になるだけだろう。
「……へー、面白ぇこと企ててんじゃん」
そんな心二と守郎の会話を聞いていたのか、凶暴な笑みを浮かべて、鍼嵩威郎が立っていた。
「……怖い。」
「あ?」
思わず声に出してしまう心二にやはり感じ悪い反応を示す。
「オレの能力ならその必殺の一撃が繰り出せるかもしれねぇぜ?」
「……へえ。そんな顔でもしかして成績優秀者様っすか」
「喧嘩売ってんのかてめぇ……」
無用な喧嘩を売る心二に対し、守郎は安堵の息をつく。
「だったら、あとはてめーらで頑張れや……。オレはそろそろ限界……みてー……だ」
出血量の一定値を超えたのか、守郎は眠るように意識を失った。
「……あぁ、任せろ。」
力強く頷くと、心二はあることに気付く。
「……あり?蔓攻撃がこない?」
今更ながら、そんなことに気付いた。
心二と威郎のいるこの場所は盾の防御範囲を裕に飛び出している。
実際この場にいた由美は蔓攻撃の餌食になりそうになった。
そんな由美は無事に盾の防御範囲に入ったようだ。
しかし守郎が心配なのか、ずっとこちらを見つめている。
由美へと視線を向けていた心二は、ようやく気付く。
「……あれ?」
確かに、一瞬何かが紫に光ったのだ。それもここら一帯を囲む様にして。
「……あ?気付いたか。そうだ、これがオレの能力、コード名は創呪神」
そう言ったと同時に、威郎の纏っていた制服がシンプルな羽織りへと変貌する。
威郎の能力により、張られた結界がベラゼクスの蔓攻撃を防いでいたのだ。
「……さぁて、んじゃとりあえずその金髪が言ってたてめぇの裏の手……ってのを教えてもらおうか」
怪しく笑みを含みながら、彼は邪悪に心二を睨みつけたのと同時に、心二と威郎を守っていた紫の結界にヒビが入り、攻撃態勢を取ろうとしていた。
挿し絵に関して嬉しいニュースと悪いニュースがひとつずつあります。
では、嬉しいニュースから。
今回の話でついに挿し絵が100枚を突破しましたーー笑
気がつけばスケッチブックが五冊になってたのでもしかして……!な展開があったのです。……まぁ言っちゃえば構図とかキャラの表情があまり気に入らなくてお蔵入りになったイラストとかも数えればもう少しあるでしょうね
そんな挿し絵に関しての悪いニュース。
今回二回ほど挿し絵で出てきた古旗由美ちゃんなんですが……
守郎くんがやられてしまった時の顔芸とも言うべき表情の由美ちゃんと、守郎にのしかかられてメス顔を浮かべている由美ちゃんなんですが……
前髪が違いますよね?僕も画像を文章に載せた時の確認時に気付きました笑
僕的にはメス顔の方が由美ちゃん本来の前髪です!
礼愛さんと被ってる気もしますが……まぁ由美ちゃんはツインテールなんでそこらへんで判断していただければと……笑
いやー、メス顔とか豹変したキャラとかの顔を描くのは中々楽しかったりしますね。
……しかしですよ、今回のシリーズでの新キャラ大勢登場とかしてしまったらキャラの容姿が被ってしまう事件が起こっても仕方ないと思うんです!
ほんと、いっぱいキャラがでてくる漫画の作者さんはすげーと思います。
そんな新参キャラいっぱいだった今シリーズもそろそろ終わりです。
ラスト二話、どうかお付き合い願います。




