#37 滅神vs.人間
風を巻き起こす能力を得意としていた橿場直之は天空竜の能力を得てから格段に強さを手に入れた。
襲い来る残りの天魔、鎧姿の滅神ベラゼクスの唯一鎧を纏われていない肩口から尖端を尖らせた触手が唸り暴れていた。
「これじゃ、近付けないっ」
菜川李女の真骨頂、遠距離の水射攻撃は触手に遮断されてしまい手出しは出来ず、近付くこともできない。
そんな強敵、全身鎧を纏う滅神ベラゼクスに対して唯一善戦していたのは直之だった。
剣からしか風を生み出すことができなかった鎌鼬だったが、天空竜の能力は全身から風を生み出すことができた。
迫る触手に臆することもなく触手に接触する身体から風を放射させ軌道を変えることで無傷のままベラゼクスと渡り合っていた。
しかしベラゼクスは一筋縄ではいかなかった。
天空竜は攻撃特化の剣、天空竜の剣を隙が生まれるたびに斬りつけているが、触手が阻んで攻撃が通らない。
「くッ…………ッんの野郎!」
何度も触手を斬りつけるが、傷一つできはしない。
ベラゼクスも隙が生まれる度に触手で反撃に出るが、直之は風の能力で受け流し、回避を続けている。
そんな接近戦の均衡状態の攻防がしばらく続いていた。
「……!心二から返信来たで!もうちょいで来てくれるわ!」
直之の指示で心二に応援のメッセージを送信していた太刀川奏也の電子生徒手帳の元に、心二の返信が返ってきた旨を李女と直之に伝える。
「よォしッ……あと少しか」
激しい鍔迫り合いの果て、直之は隙を突いて一旦ベラゼクスから距離を置いた。
「橿場、何で天条を呼んだんだ?」
李女は唯一疑問に思ってた事を直之に尋ねた。
心二は必殺コードを扱える点数に達していない低成績者だ。考査の5教科合計点数が基本的ステータスを決めてしまうバーチャル空間に於いて、点数の低い生徒は常に不利だ。
そんな心二を成績優秀者ですら一瞬の驕りが命取りとなる強敵と対峙するこの場に呼ぶというのは、些か疑問に思う。
「……何だァ?あいつのシステムスキルを忘れたのか?」
直之の言うシステムスキルとは、低成績者救済のルールの一つ。
現実の自分が持つ能力が一定水準を超えていれば、それは才能と認知されてこのバーチャル空間でもその能力を活かすことができる。
システムスキルの能力は様々で、優璃のように目が良い……というだけでその眼力はバーチャル空間でも活かされる。
守郎もまた才能とされるレベルの能力がもたらしたシステムスキルを所有している。
中学時代、ほぼ毎日のように不良達と繰り広げてきた喧嘩の日々から磨き上げられた反射神経。また、戦いに関する発想や思考は常人を逸してると言ってもいいほどの物を持っている。
そんな彼らの能力はランク1。
ランク2までのシステムスキルは成績優秀者の生徒なら誰だって使える様になっている。
低成績者が高成績者である成績優秀者に勝つには、最高位のシステムスキルであるランク3が必須となるだろう。
まさか、覚えてないのか?と嘲笑の目を向けられる李女。
「……知ってる!ランク3の二重人格。当たり前だろっ嘗めないでくれ」
「菜川ぁ……その格好で怒ると怖いわぁ」
らしくもないムッとした表情で返すコード展開済みの猫姿の李女に少々恐怖を覚える奏也。
どこら辺が怖いかって言うと……つり目の眼光や小さな口から見える牙。
普段の大人しい李女を考えれば……分からなくもない。
「君たちぃ!大丈夫か⁉︎」
こちらへやってくる大勢の生徒の内のよく通る女の声が李女達を呼んだ。
「お!やったやん応援やで!」
奏也は即座に判断できた。
やってくる人混みの中から今朝の交流会開会の時に目にした如月雫生徒会長を目にし、ホッと胸を撫で下ろす。
「どうやら、これで最後の天魔みたいだな」
雫の一言に奏也が大きく反応する。
「へ⁉︎もう2体は倒してもうたん?」
「えぇ。巨神レベルクスは草神鳴夏さん、炎魔王サタンは垣峰守郎くんが倒したみたいだぞ」
顔いっぱいに笑顔を咲かす奏也の問いに優しい大人っぽい声音のお姉さんが答えてくれる。
自身の豊満な胸周りをも包む程に長く垂らされた黒髪が特徴的な風紀委員長、青山礼愛だ。
「あ……あんがとです。」
年上の女性から話しかけられた時、男の子の多くは思わず目を逸らしてしまう。
それは外見美少女……いや、美青年の奏也とて例外ではない。
そんな年上の女性がこれまた綺麗で美人ならば、確実に動揺してしまう。
奏也の身近にいる綺麗な女の子と言えば弥富深海が連想されるが、ミステリアスな雰囲気を持つ深海より接しやすい印象を奏也は持った。
そんな第一印象を抱かせたのが、彼女の生徒会長、如月雫に対する態度だった。
「よし、お前。先陣切って死んで来なさい。」
「だーれがお前だっ、てめぇが逝ってこい!」
清楚な外見の礼愛はその上品なお口からとんでもない言葉を発した。
突然の美人からの辛辣な発言にも瞬時に切り返す雫のメンタルにも驚かされるものがある。
いや、何よりも……この罵り合いを止めようともしないクラスメイトの皆様を見るに、これが彼ら3年5組の日常なのだと察する。
「……って、何やと⁉︎守郎が天魔の一体を倒したってホンマなんですか⁉︎」
「そうよ?生徒手帳のテーブルに交流会のおおまかな途中経過が記載されているよ。」
ニコッと今更礼愛に聞き返す奏也にもさっきの罵倒を発した口からは考えられないくらいに丁寧に返してくれる。
一方の奏也は礼愛の”テーブル”という言葉にはてなを浮かべていた。
そんな様子の奏也を見てクスッと礼愛は微笑んだ。
「学校からの連絡が掲示される掲示板みたいな機能があるだろ?それをテーブル機能と言うんだぞ?」
「うぅ……おおきにです」
「んで、お前らがさっきまで戦ってたんだな?あの天魔の能力を教えてくれ」
目つきの鋭い雫会長は奏也たちに敵の能力について尋ねてきた。
しかし、答えられるほどの物を彼らは見れていない。
「今の所はあの天魔の周辺を囲んでいるぶッとい蔓さえ警戒すりャァ、普通に渡り合えてますよ。能力の類はまだ見れていません。」
「……警戒とは?」
直之の警戒の言葉に礼愛が聞き返す。
「ん?あァ。あの鞭みてェな蔓の多種多様な動きももちろん怖ェが……、何よりもあの蔓は、尖端を尖らせて殺傷力を高めることが出来るんっすよ」
そう……尖端に丸みを帯びた普通の蔓は、対したダメージを食らうことないしそれほどの脅威も抱かなかった。
そんな油断が李女の顔色を真っ青に変えたことは直之が加勢に来る直前の事だ。
ほとんど無害な蔓がすぐ目の前で禍々しい切っ先へと変貌を見せられたら、所有している能力次第では無傷での回避はほとんど不可能に近い。
「……なるほどな。とりあえずは様子見で一発かましてみるか……。おい風紀委員長、手伝え」
「命令するな、この強面。」
互いを罵りつつも、戦闘態勢の礼愛と雫。
礼愛の右手には至って普通の一本の太刀が構えられ、雫は武器も無しにボクサーの様に顔の前で固く握られた拳を構える。
「……一撃の強さはお前の方が上だ。私が上手く隙を作ってやる。その隙を有難く突くがいい。」
「ったくよ、素直じゃねぇなてめぇは。任せとけ、きっついのを食らわせてやるよ」
キッと相手を睨みつけたのを最後に、両者は地を蹴り最後の敵に挑む。
宣言通りに礼愛は雫に攻撃の隙を作る為、率先して武器の太刀を振る。
自身のコードを所有していない二人だが、彼らには才能があった。
剣術の達人と称された青山礼愛はランク3のシステムスキル、絶対氷結。
体術の覇者と称された如月雫はランク3のシステムスキル、炎拳纏い
「……はっ!」
鋭い礼愛の声と共に腰に低く構えていた太刀を横一線に薙ぐ。
振り抜いた太刀の弧状には幾つもの太い蔓が立ち塞いでいたがやはり直之の攻撃同様、蔓に傷一つ付けることができない。
そして一太刀しかない礼愛の攻撃を防いだベラゼクスは、当然の如く無防備になった懐に必殺の尖蔓が叩き込まれようとしていた。
しかし礼愛の目に敗北は見えない。
振り切った右手の太刀川を左手で取りにいく。
「む……無茶や!利き手でもない左であの鋭い殺傷力を持った蔓は防げん‼︎」
どっ、と嫌な汗が吹き出す奏也。
このままだと、華奢な礼愛の腹部を酷く貫く運命は逃れられない。
「わ……私が遠距離攻撃の水圧砲射で軌道をズラせばっ……!」
李女が今にも宣言通り水圧砲射を放とうと9本の尾々から水気が集められていた。
「やめとけ。」
男のたった一言で、場は静まった。
ひたり、と常時閉じられた右目に違和感を持つのは誰もが同じだろう。
彼、矢吹漣夜は周りを静すと、ただただ絶体絶命の礼愛を黙視していた。
……そんな中、礼愛の初撃を受けた数本の蔓に異変が起きた。
さっきからプルプルと身震い……いや、蔓震いをしていた蔓がピキピキ、パキッと凍り始めたのだ。
「……っ⁉︎」
流石のベラゼクスも鎧兜から覗く魔物の様な黒い目玉がギョロリと蠢いた。
そして礼愛の腹部に目掛けて伸ばされた尖蔓を左手に持ち変えられた太刀で受けた。
本来なら太刀などでは到底受け止めることの出来ない蔓攻撃。
しかし礼愛は文字通り、受け止めた。
蔓が礼愛の太刀に触れた瞬間、蔓は瞬く間に冷凍され、完全に太刀と蔓とが接着した。
肩口から生える蔓を捕らえたことはつまり、完全に動きを封じることに成功している。
「……さぁて」
そこで改めて、涼しい顔を浮かべながら礼愛は言ってやる。
「……隙は作った」
初激を受けた蔓が崩れ落ちたと同時に彼はベラゼクスの懐に潜り込んだ。
「任せとけぇぇぇぇ‼︎」
炎を纏う雫の右拳に、全ての力が集約される。
「……うっ……!」
突然聞こえた呻き声に雫の動きが一瞬鈍る。
そんな雫の視界の端には礼愛がいた。
……地面を突き破りった蔓によって、右の頭蓋と右肩を抉られた礼愛が。
「……⁉︎青山ぁぁ‼︎」
攻撃を中断した雫はすぐさま礼愛の元へ駆け寄る。
「ば……馬鹿者っ!こっちへ来る……」
瀕死の礼愛が言い終える間も無く、またもや地面から突き出た蔓が雫の左足を抉った。
「ぐっ……」
片足を失った雫は無様に地へと沈む。
「……くそっ…………なっ⁉︎」
身動きの取れない雫を見下す鎧戦士、ベラゼクスは肩口から無数の尖蔓を伸ばす。
「如月ィィ!」
右目から血の涙を流しながら悲痛の叫びを上げる礼愛。
消えかけた闘志を再び宿すべく地に捨てられた太刀を握る。
「……くっ、そんなっ」
礼愛の太刀はとても武器として使えるような状態ではなかった。先ほどの致命傷を受けた不意打ちの際に、切っ先を折ってしまったようだ。
成す術なく涙を流し崩れ落ちる礼愛。
「……そんなっ、また私はあいつに……!」
過去の自分と重ねる礼愛は自分を惨めだと蔑んだ。
「……まったく、てめぇらはあん時も今回も……人に迷惑かけんじゃねーよ」
ぼそりと呟いた漣夜はゆっくりと閉じられていた右目を開いた。
「……コード展開。」
刹那、雫を抉ろうとした無数の蔓が一本残らず何者かによってすべて斬り落とされた。
「何が……起こったんだ?」
呆気にとられる直之は周りを見渡す。
しかし、やはり考えられることは一つしかなかった。
コード展開し、和装した漣夜の何らかの能力。
コード展開時、確か彼はこう言った。
……八岐大蛇、と。
桜南高校最強の男、矢吹漣夜。
コード名、八岐大蛇。
あと3話〜4話で第4シリーズを畳む予定です。
長かった……。あーいや、まだ書き終えたわけではないのですが笑
キャラを出しすぎたおかげで、新キャラどんなキャラだとかがあまりわからないような状況だと思いますので次シリーズは新キャラと既存キャラをうまく絡ませつつ、キャラの掘り下げをしていきたいと思っている現在……
実は第5シリーズの内容はすでに決まっています。
記念すべき5シリーズ目、これまでのバ革命とは少し違った雰囲気のシリーズを考えています。
それは懐かしさであったり、後悔であったりというようなものを読んだ後に感じていただけるようなストーリーを作ってるのですが……
言っちゃいますと感動モノです!
皆さんを泣かせにいくようなストーリー‼︎
第1シリーズはバトル
第2シリーズはホラー(ジャンル分けをするならば)
第3シリーズもバトル
第4シリーズもバトル
……そろそろバトルのないシリーズもいいんじゃないかと思って話の構成なんかを組んでいます。
今回出てきた新キャラが、主要キャラの実は○○……⁉︎という展開を考えていて。
まずはそのとあるキャラを掘り下げていこうかと思います。
これからその伏線を張る予定なので、ぜひ注意深く第4シリーズ残り3〜4話をご覧いただければと思います。
さて、実はネットラジオをやってるお方にゲスト出演させていただいたりしておりまして、少しですがバ革命の宣伝なんかをしたりしてますので、気になったりとかしていただいた方はぜひ見てみてください!
……よかったら他の回も面白いのでぜひ……笑(宣伝)
僕の出演回はネットラジオ第43回の回です。
http://www.voiceblog.jp/radio-kizuna/
あとがきイラストはまたも比較画像!
今回は菜川李女ちゃんです!
もう少し出番をあげたいです笑
出番といえば由美ちゃんが今シリーズに入って交流会開始から姿が見えませんが、ちゃんと出てくるので忘れたりしてあげないでください(切実)




