#34 侍・参る!
深海のコード、天空女神の能力、“聖天魔法”は女神堕暉命中を大前提とした能力。
眩い光の光線を放つ女神堕暉は、当たった者への“攻撃のリミッター”を強制的に解除させる技だ。
無敵すぎる聖天魔法は、放つ一発一発が即死級の威力を持っている。
そのため、ハンデとしてリミッターなんて物が課せられている。
そのリミッター故、深海にはどうしても勝利できないタイプの相手が存在する。
例えば、特殊攻撃を無効化する能力を持つ者。
聖天魔法のリミッターを解除するための特殊攻撃の一つである女神堕暉が命中せずに無効化を許すのならば、深海の勝利は限りなく無くなる。
突然の深海の黒雷を眼球に受けた巨人は両手で両目を覆い、その場でしゃがみこんだ。
しばらくは動かなさそうな様子を確認し、弥富深海は鋭い視線と共に鋭い声を発する。
「……逃げるぞ!」
その黒い瞳、漆黒の翼という禍々(まがまが)しい様相からは考えられない行動だ。
「いやいやいやーー!弥富さん?動けるやつオレしかいねぇですぜ!?」
勢いある椎村火影突っ込みが深海に炸裂する。
ふと回りを見回す。
下半身を吹っ飛ばされた撃村託巳。
極限の精神状態から失神してしまっている狭山陽志。
もはや粉々の笠原音利。
その他大勢の惨殺済みの約100名。
「………。とりあえず、陽志を起こす。」
そう言ったかと思えば深海はふわりと羽撃き、陽志の元へと移動する。
「……っはぁ~……ん」
そして耳元で息多めの喘ぎ。
「はっ!……ここはどこだ!」
瞬時に飛び起きる陽志に、今この場の惨状を忘れかけた。
なんて呑気な奴らなんだろうか。
「……ここから逃げる。今度は足止めなんてしなくていい。」
しかし、彼らが作る柔らかい雰囲気は確実に彼らの頭を冷静にさせている。
「……ただ、全力でここから離れるっ」
語尾を強め、力強い深海の言葉に陽志は優しく微笑む。
「ふっ……くーちゃん、なんでそんなピンピンしてんだ?」
陽志が気を失う前までは手足をもがれ、徹底的にいたぶられたはずの深海。
確かに最もな疑問だった。
「……堕神よ。堕ちた神の力。」
必要以上の言葉を口にしない深海はただそれだけを口にした。
「……なるほど。ってか、堕神の力を使ってもあのデカブツにゃ勝てないのか?」
「ちょいちょいちょーーい!」
淡々と進んでいく話に解説を挟んでもらうべく、火影が割って入る。
「堕神ってなんでぇ?一体何の話してんだ?」
火影の疑問に面倒くさそうにジト目を向ける。
「んー……。堕神ってのはな。くーちゃんのコード展開の第二形態ってやつだよ。」
「……第二……形態?」
ごく一部ながら、陽志の言う通りコード展開の更に上の展開コードを所有する生徒がいる。
その内の一人が、第一学年上位成績優秀者第一位、弥富深海だ。
特殊攻撃無効化の能力と対峙してしまった場合の深海に委ねられた堕神の能力は、損傷したHPを全回復、そして相手の使う能力を解析し、使用可能にする模倣能力。
先ほどの黒雷は、陽志の超雷波を解析し、模倣した攻撃だ。
「……第二形態と言えど、やっぱりこの敵には勝てない。一度引くのが賢明。」
彼女の視線には、異論を許さない無言の圧力を感じさせていた。
勿論反対する理由なんてない。
逃げることには大賛成だ。
しかし……。
「逃げて、どうするんだ?増援を呼ぶのか?」
火影は尋ねる。
……そう。逃げたとしても、それは問題の先送り。
いずれ挑まなくてはならない敵だ。
…………勝てるのか?こちらの頭数を増やして?
相手は70名余りのトップの実力を持っていた3年2組を致命的痛手を負わせることすら叶わず全滅させるほどの相手だというのに。
希望が見えてこない火影の増援を呼ぶかの問いに、深海と陽志は声を揃えて答える。
「当たり前だ!」
「…当たり前。」
二人の目には確かに希望の光が灯っていた。
「くーちゃんの女神堕暉はアイツには効かないみたいだ。だからオレ達は一旦退くんだよ。相性が悪いからな。」
「相……性、そ……そうか!」
相性が悪い、ならば相性の良いものを連れてこればいい。
こんなゲーム脳みたいな考えが通じるのは、ここがバーチャル世界だからだろう。
一陣の風が吹く。
これから起こる烈戦を予期したかのような、熱くて胸がたぎるような風。
自然とテンションが上がる。
何故か?
それは、やはり完全に消えていた希望……勝機が再び光を灯したからだ。
「相性……ねぇ。」
聞き慣れないボーイッシュな声が背後より聞こえた。
自信満々なその表情は、火影達の希望となっていた。
「あんたは?」
陽志が口角を上げ、苦笑いの問いを突然現れた少女に尋ねる。
「あったしは宮祁の1年3組、草神鳴夏!このデカブツを倒しに来た!」
茶髪の短髪が風でたなびき、色白の首筋が露になる。
その首元から視線が外れたのは、鳴夏の両耳のピアスから垂れている水色のチェーンの存在感だ。
初めて見るタイプのアクセサリーを暫し見つめ、圧倒的存在感を放つ鳴夏の武器に目を向ける。
両の手には、双の剣。
いわゆる双剣と呼ばれる種類の武器だ。
「かっけーーーーーー!!!!」
彼女の容姿、武器に半ば本気で惚れる勢いで火影は鳴夏を讃えた。
「草神さんとやら、それじゃオレ達は特殊攻撃で支援するから、隙を見て最大級の物理攻撃を食らわせてやってくれ」
陽志の巨人を倒す為の作戦を鳴夏に伝える。
真剣そのものの陽志に鳴夏はカラッと微笑んだ。
「援護なんていらないよ、離れたところで見ててなさいな♪」
「……へ?」
陽志は言葉を失った。
この巨人を相手に、一対一の勝負を挑むと言うのだ。辺りを見回せば無惨に潰され、引きちぎられた生徒達。
巨人にされば、陽志達など有象無象の群れでしかないのだ。
たった一人で巨人に挑む。
……不可能だ。
しかし彼女の表情には不可能なんてものは微塵も感じない。
これから陽志は目撃しなければならないのだ。
目の前の希望いっぱいの彼女の表情が絶望で染まっていく様を……。
鳴夏は双剣を胸の前で構え、前傾姿勢で巨人へと疾駆する。
「お……おい!無茶だ草神!!」
「うわうわ、ヤバイんじゃねぇの!?」
陽志と火影が不安の汗を額に滲ませる。
陽志は援護するべく、いつでも超雷波が射てるように右手を構える。
火影はただただ鳴夏の運命を見届ける事しかできなかった。
あんな可憐な女の子に頼ることしか出来ない自分を情けなく思う。
その果てに、女の子一人助けることが出来ない自分に怒りを覚える。
火影は初めて、自分の学力の無さを恨んだ。
成績が強弱を決めるバーチャルシステムでは、低成績者は絶対的に弱者だ。
弱者な自分が恨めしい。
火影は、勇気ある女の子の最後をしっかり目に焼き付けることにした。
守れなかった、女の子の散り様を、しっかりと目に刻むのだ。
「っっらぁぁぁ!」
鳴夏の怒号が裏門周辺に響く。
静かすぎた戦場にて、鳴夏は舞っていた。
両の剣をブンブンと振り回し、確実に巨人の頑強な右足を切り刻んでいた。
「っっ!ふっ、ふっ、っっらぁぁ!」
鳴夏の目にも止まらぬ高速の剣撃を受けて、巨人は黒雷攻撃のダメージから目を覆っていた両手をどけ、初めて目を見開き、口を大きく開いたかと思えば、絶叫に似た大声を上げる。
そんな巨人に構わず、鳴夏はさっきよりもより早く巨人を刻んでいく。
ズタボロになるまで刻んだ右足に続いて、今度は左足を刻んでいく。
「……すげぇ。」
陽志は構えていた右手をゆっくりと下ろした。
ダメージを負ったであろう右足は無数の切り傷が刻まれており、そのせいか、巨人の右膝がカクリと折れ、地に膝を着かせるまでに至った。
だが、このまま何もしない巨人ではない。
右腕を大きく振り上げ、左足を刻んでいる鳴夏を確認すると、思いきり降り下ろした。
「おい!あの子巨人の攻撃態勢に気付かず切り続けてるぞ!!あれじゃ潰されちま……!」
火影は喋っていた言葉を途切らせた。
未だ浮かばせている彼女の余裕満々の表情には、まだ奥の手が隠されているのを感じさせる。
そう、つまりは――
「コード展開っ」
――……切り札だ。
「……舞闘神」
鳴夏の体を眩い光が包み込む。
しかしそれも一瞬。
巨人も光に目がくらみ、降り下ろしかけていた右手は高く掲げたままだった。
そんな巨人を鳴夏は見逃さず、コード展開によって
大きく変わった鳴夏の外見を一言で表すならば、侍。
真っ裸の上半身には胸を絞めるように巻き付けられた黒い布。
下半身はぶかぶかの漆黒に染め上げられた袴を身に付けていた。
そんな侍少女の鳴夏が手にしていたのは依然双剣のままだ。
コードを展開した者達のほとんどは、武器を必要としない能力が多々あるが、どうやら鳴夏はコード展開しても双剣を使って戦うみたいだ。
……しかし、コードを展開したからには、何らかの能力が存在するはずだ。
「煉獄の剣!蒼幻の剣!」
確かに鳴夏の口から発せられた言葉に反応するかのように、鳴夏の両手に握られた双剣が四散し、禍々しい二つの剣が召喚される。
真っ赤な宝石そのものを使用したような柄から伸びる透明の剣。
しかし色は柄同様に紅い。
そんな紅い剣が鳴夏の右手に召喚される。
最強の攻撃力を誇ると言われる“伝説の魔宝”と呼称されている七つの剣の内の一つ、名を煉獄の剣。
左手には同じく伝説の魔宝が内一つ、蒼幻の剣。
その二つの名刀を構え、巨人の左足へと再び高速の剣撃をお見舞いする。
巨人の大きな頭が激しく揺らされる。
激痛の余り頭を抱える。
さっきまでの攻撃とは比べ物にならない激痛が巨人を襲っているのだ。
「ぎぃふぅっっ!……んがぁ……んがぁぁぁ!!!!」
怒り狂った巨人は両の手の拳をキツく握り、足元の地をひたすら叩き割る。
そんな巨人の反撃をもろともせず、鳴夏は飛んで翻り、鮮やかに回避して見せた。巨人の胸の目の前。鳴夏は余裕の笑みで剣を再び構えて回転しながら巨人の肩甲骨を削ぎ落とす。
「ぎょぎぃぃっっ!!……ぎひっぎひひ」
鳴夏の攻撃に顔を歪ませながら痛がる巨人だったが、その表情が一気に気味の悪い邪悪な笑みへと変貌する。
鳴夏は巨人に攻撃を加えてからはただ宙へ浮かび着地しようとしているだけだ。
つまり、隙だらけ。
空中でも自由に動けるのは、深海みたいに翼を持っていたり、陽志みたいに自身の能力を応用する者達だけだ。コード展開可能な者、全員が全員宙を自由に動ける訳ではない。
鳴夏のコード展開、舞闘神の能力は様々な武器の召喚。
恐らくそれだけだ。
翼が生えてるわけでもなく、大気の元素を操って宙を駆けることだって不可能。
故に巨人が放とうとしている右ストレートを、回避する術はない。
「ダメだ、ここはオレの超雷波で巨人の攻撃を反らせて……」
陽志が再び右手を構えるが、とても間に合いそうにない。
激闘を繰り広げる鳴夏と陽志達の距離を考えて、巨人の右拳に電撃を命中させて軌道をずらすなんてことは出来っこない。
「……鎌鼬!」
すると鳴夏は右手に持っていた煉獄の剣をさっきの双剣の様に四散させ、代わりに鎌鼬と呼ばれる刀を召喚した。
「……あれは……!」
陽志が鎌鼬と呼称される刀に反応を示す。
確か、上位成績優秀者に昇格する以前の、橿場直之が所有していた刀だ。
かつて天条心二と垣峰守郎の前に立ちはだかり、苦戦を強いた刀だ。
陽志の……いや、当時あの戦科試合を見ていた火影と深海の記憶に残っている鎌鼬の能力は確か……
「っと、危ない!」
宙に浮かぶ無防備の鳴夏に放たれた巨人の右ストレートに合わせて、危機一髪の所で鎌鼬を召還し、鎌鼬持ち前の風を操る能力で巨人の大きな勢いを伴った拳と鎌鼬の起こす小さな風とをぶつけて生まれた風圧で鳴夏自身を吹き飛ばし回避に成功した。
しかし、かつての橿場直之が心二に使った鎌鼬を伴った竜巻は彼のコード展開の能力のため使えないが、鳴夏は回避できればそれで良しとばかりに、
鳴夏はようやく着地し、再び巨人を追い詰めるべく地を駆けた。
巨人は怒りに顔を真っ赤に染め、余りに小さな鳴夏を瞳に捉え、迎え撃つ。
両手を握り地を割って見せた先ほどの攻撃の構えを取っていた。
「これで最後だよっ!」
鳴夏は地を蹴り、大きく跳んだ。
またしても無防備な姿を巨人の前でさらし、巨人は今度こそと両の拳を降り下ろす。
先ほどの鎌鼬を使った回避は真正面からの攻撃だったために使えた芸当だ。
真上から迫る強大な勢いを伴った両手を鎌鼬程度の風圧でどうにか出来るものでは決してない。
すると鳴夏は鎌鼬、蒼幻の剣。両刀を散らせ、再び二つの武器を召喚した。
「海王神の双璧!」
鳴夏の両手に召還されたのはとてつもないでかさの盾だった。そんな盾には不可思議な模様が刻まれており、何者をも通さぬ頑強な盾は、海王神が具現化したかのような力強さがあった。
巨人の両拳が盾を叩く。
……が、やはりビクともしない。
巨人は諦めず、次撃の態勢をとったその時。
またもや鳴夏の体が眩い光を放った。
謎の光の正体は先ほどの鳴夏のコード展開と同様の物だ。
一度コード展開を解除し、再びコード展開を行ったのだ。
それによる再びの極光に巨人は目を細め、尻餅をついた。
その一瞬の隙が、勝敗を決した。
光から飛び出た鳴夏の両手には一つの刀。
「…………名は華裂の一太刀。」
無様に腰を下ろした巨人の胸板を鳴夏の一太刀が切り裂いた。
如何なる物を通さなかった頑強な肉体は、遂に無敵を謳った不可能を討ち取った。
巨人はバーチャルモンスター同様に、ポリゴン片へと四散した。
鮮やかな水色のポリゴン片を身に纏い、鳴夏は握られた刀を散らす。
「ふぅ……。これでやっと一体だねっ」
ニコリと陽志達に微笑む鳴夏。
それに釣られて彼らもはにかむ。
そう……ようやく一体。
残りは二体。
このバーチャル空間の桜南高校に君臨しているのだ。
一方その頃、バーチャルシステムを管理している本物の桜南高校では。
「校長先生、伝達は終わりました。ウィルスが侵入してしまった旨は話しましたが、バーチャルシステムの強制切断不可能の件は、やはり黙っておいて正解のようでした。」
伝達放送を終えた縋先哲士は、校長に話しかける。
「うむ、御苦労。……しかし、このような危険ウィルスがこうも容易く感染するとは思えないな」
校長の考えは的を射ている。
哲士は深く頷く。
「えぇ、何者かの陰謀ですよ、これは。」
「もしものために、交流会のバーチャルシステム調整の仕事を君に任せておいてよかった。君までもが交流会に参加して、バーチャル空間に閉じ込められてしまえば、事態はもっと深刻だった……。」
もしも陥っていた事態に背筋を凍らせる校長。
「では、僕は引き続き、ウィルスの解析を再開します。」
「頼むよ。有益な情報を発見し次第、緊急伝達を飛ばそう。」
今後の方針を決め、縋先哲士はPCに向き直る。
「……?。何だろう……」
縋先は早くもバーチャル桜南高校の異変に気が付いた。
「……屋上のフロアのプログラムに何か書き込まれてる。」
文字化けされた屋上のプログラムがバーチャルウィルスによって加えられた物だと理解する。
「……屋上に何かあるのか……?」
――……舞台は屋上、暗黒に佇む彼らは目撃した明かりをおいもとめていた。




