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バ革命  作者: 、、
〜暴臨の天魔族編〜
40/96

#33 戦地の悲報

『……えー、皆さん。聞こえますか?皆さん』



暗闇に(とも)る光を前にして、すぐ近くから聞き慣れた校長の声が聞こえてきた。



「……なんだ?校長の声が聞こえてきたぞ?」


右も左も分からない静寂の状況下で心二は校長の声に反応した。


「うぅ、何かすごい近くから聞こえてくるよぉ……」


同じく暗黒の異空間に閉ざされてしまった陽炎(かげろう)筑紫(つくし)にも聞こえたみたいだ。


『知っての通り、3年2組の全生徒が侵入させてしまったモンスターウィルスの内一体に全滅させられてしまった。』


「やだぁぁーーー長話が始まるぅぅぅ!!」



普段朝礼で味わっているトラウマが絶望の顔を浮かばせ、優璃の悲鳴が突然聞こえてくる。

暗くて見えないから分からないが、頭を抱えて(なげ)いているのが容易に想像できる。



「……突然大声出すなよ、ビックリすんじゃねーか」


思わぬ伏兵の(こぼ)した一言により性癖をバラされた雌龍(めりゅう)代音姫(よねひめ)が吠える。


「いや、これは放送だ。緊急時の放送。」


「「緊急時ぃ?」」



補足してくれる守郎の声に優璃と代音姫が声を重ねて聞き返す。


「あぁ、何かあったらバーチャル空間内のすべての生徒に伝心されるようになってる」


「へぇぇ、何かあったのかな?」


筑紫の声を最後に、心二達は伝心に耳を傾けた。






目の前に(ドウ)と立ち尽くす鎧戦士から逃げまとう状況に聞こえてきた校長からの緊急放送。



「……逃げるぞ。」


言うが早いか、李女は再びテニスコートから飛び出し、逃走を開始した。

奏也も李女に続く。



「逃げながら放送に耳向けるて、かなり高難易度やでぇ……」


弱音を吐く奏也の背中に伸びてくる大きな土色の(むち)

鞭と言っても直径30㎝を越すであろうその巨大さは狙われる者へ危機感を抱かせる。


「……っえ、ヤバイやばい!やーばーいー!!」


奏也の左腕を鞭が捕らえた。

うねうねと身をよじらす鞭はもはや触手である。



「……!?太刀川!!」


奏也の危機に李女は尾骨から伸ばされた九本の尾の内二本を奏也を掴む鞭を引きちぎるべく伸ばした。



『バーチャルシステムにウィルスが浸入したと思われます。


奏也の危機にも構わず進んでいく校長の放送。


冷や汗を流しながら、鎧戦士の触手を撃退すべく二本の尾を操る。


がっしりと土色の触手を李女の尾が捕らえた。


捕獲を確認すると李女は残り七本の尾先から水玉を生成する。

以前に七不思議の守護モンスターに向けて放たれた

水圧砲射(ハイドロキャノン)だ。

尾先に集約された水玉から貫通力に特化された光線……いや水線を放つ技。

それはいとも簡単に二本の尾で固定された触手を貫く。


「……あっ、あんがと菜川!」


貫かれ形を崩す触手から解放され逃走を再開する奏也。

しかし、なおも鎧戦士の足元からどんどんと生えてくる触手は二人を狙い回す。


「駄目だ、これではまた捕まる……!


いくら必死に逃げようとも、奏也、李女と手のき距離は縮まらない。



『ウィルス浸入を許してしまった要因としては……』


「っっ!もう放送何の話か分からへんわ、何やウィルスて!」


知らぬ間に進められる放送に、奏也と李女はおいてけぼりを食らっていた。


「仕方がない……今は逃げることに専念……っ!?」


一瞬の隙が、李女を不幸が襲う。


足元からほんの少し目を反らした結果、李女は地面の(くぼ)みに足を(くじ)け転倒してしまった。


「しまっ……」


真後ろに迫る触手の先端が、異様に(とが)っていた。


鎧戦士の目的は、彼らの捕縛なんてことじゃない。


ただ単に、殺害。



「菜川ぁぁぁ!!」


「う……!」



体のバランスを崩し、体勢が低くなる。眼前に迫る触手を回避する術はなかった。


ゴォォォォォォ、と突如激しい音と共に突風が眼前の触手を巻き込み、散り去った。


「……しャーねェ。手ェ貸してやるよォ。」


気だるげな声が突風が吹いてきた方向から聞こえてきた。

確か、上空からの鎧戦士の奇襲を知らせた声も、同じ方向から聞こえたような気がした。


「……?あんたは……」


奏也が現れた少年に視線を向けた。

直接話したことはないが、夏休みの旅行の件では窮地のところを助けられた桜南高校第一学年第九位の天空竜(オシリス)こと、橿場(かしば)直之(なおゆき)ただった。



挿絵(By みてみん)




「……橿場やん、一人か?」



直之の回りには誰一人いなかった。

チームで行動するのが有利になってくる交流会での単独行動は、あまりに無謀すぎる。



「ほッとけ。」


尋ねる奏也に素っ気ない返事を返す直之。


「菜川だッたか?(ちから)ァ貸してくれ」


李女に協力を求める直之の声音は力強かった。


「太刀川、お前は………」


そして直之は奏也にも、ある指示を出した。


「……おー、任しとけ!」


奏也は生徒手帳でメッセージを飛ばした。








暗黒の(もや)に包まれた屋上で、校長からの伝達を聞き終えた心二達は呆然としていた。


心二、優璃、守郎、筑紫、代音姫全員は口をだらしなく空けて、虚空(こくう)を眺めていた。


「……えと。どゆこと?」


沈黙の口火を切った心二は誰となく尋ねる。



「つまり……だ。」


そんな心二に守郎が答える。


「早い話、交流会に参加しているオレ達は、このバーチャル桜南高校に閉じ込められちまったってことだ。」


「そんなことはわかってんだよ!そこまでバカじゃないよぅ!」


「……なんだ、わかってんじゃねぇか。」


「何かウィルスだ何だって言ってたよねぇ?」


筑紫が口にした“ウィルス”の一言。


確か、ウィルスの言葉が伝達で出てきた辺りだっただろうか、緊急伝達を放送する人物が校長からある生徒に交代された。

機械のウィルス系に詳しそうなパソコン部の部長、縋先(すがさき)哲史(てつし)が代わりの伝達放送を(にな)うことになった。


「ん、あぁ。確かウィルスを送り込まれたって話だったか?」



そんなウィルスの名称も縋先は公言していた。



「……確か天魔(てんま)だっけか?そのウィルスってのは」


言いながら代音姫はスマートフォンの画面に指を滑らせていた。


「……見つけた……。なんだか厄介そうなウィルスだな……。」


検索に引っ掛かったバーチャルシステムウィルス、“天魔”……。


バーチャルウィルスとカテゴリーされるそのウィルスは、構築しているバーチャル空間にモンスターを侵入させてしまうことをウィルス侵入と言う。



今回開かれることとなった他校同士の交流会だが、実はそう珍しいことではなく、学校側がレクリェーション感覚で行うことが多い。

そんなレクリェーションを盛り上げるため、バーチャルシステムに同期出来るモンスターソフトなんて物が販売されていたりする。

プログラムされた様々なモンスターをバーチャル内に解き放ち、みんなと一緒に共闘できるといった楽しみ方が(おも)である。

もちろんあくまで遊戯(ゆうぎ)用のモンスターソフト、チート級な強さを持つモンスターが同梱されているパッケージに注意書きがされている。

そんな注意書きを載せるよう義務付けられる対象となるパッケージソフトには一体以上、神異(じんい)級と呼ばれるモンスターが存在している。



「…………神異級モンスターが……三体。」


「……あ?」


代音姫の呟きに守郎が目を見開いて驚く。


「天魔ウィルスには、三体……神異級がいる」



「三体……か。」


ほっと胸を撫で下ろす心二を横目に守郎は信じられないものを見るような顔を浮かべる。


「……おいおい心二。どこに安心する要素があんだよ。」


「ん?」と心二は首を(かし)げる。


「校長が言ってたろ?3年2組は現れた神異級モンスター(うち)一体に全滅させられたって。」


「えーー!?たった一体に!?」


優璃が声を上げて驚く。


「ちゃんと話聞いてろよ……」


「えー?そんなこと言ってたっけ?」


素できょとんとしている優璃に呆れる守郎。


百合(ゆり)が知らねぇのって、桜南校長がその話してる時に百合がギャーギャー騒いでたからだろ?」



「あり?そうなの?……てゆーかあたしの名前のイントネーション違うよ!百↑合じゃなくて優璃↓だよ!」


「だぁぁぁ!とりあえずこの暗いところから脱出しないと……」


心二は緊急伝達の話を打ち切り、離れたところに灯る謎の光のもとへ再び歩き出した。


「あぁ、そう言えばあの光が何なのかって話だよねぇ……忘れてたよぉ」


「忘れてたのかよ!!」



そこまで離れていない心二達と謎の光の距離はすぐに縮まり、目的の光の目の前へと難なくたどり着いた。



「あぁっ、間違いないね!」


自信満々に誰かへ返答するような勢いある返答が桜南高校の駐車場に響いた。


「ここには!弥富さんがいた!間違いないね!」


またも彼、撃村(うちむら)託巳(たくみ)の絶対的自信がもたらす確信を復唱した。


「何でそんなこと思っちゃってるんだよ、イタイんだが……。」



椎村(しいむら)火影(ひかげ)はジト目の視線を託巳に向ける。


「言ってろ火影、オレの鼻を()めるなよ」


スンスン、と鼻を(すす)る託巳の様子は少し変態じみていた。


「ん、なんだあれ?」


火影は必死に逃げまどう十数人のグループを発見した。

全員の表情は男女問わず険悪だった。

中には恐ろしさのあまり涙を浮かべているであろう女の子も見受けられる。



「おうおう、何かヤバそうな感じじゃん」


「…………っ」


呑気にぼやく火影と違い、託巳の目付きは鋭かった。さっきまでの柔らかい表情はどこにもない。

冷や汗までも()らす託巳を見た火影もさすがに

首を(かし)げる。



「どうしたんだよ、さっきまでのキモい顔はどこいったんだ?」



尋ねる火影に目も向けず、ただ一言。


「……あのグループ……1年4組、弥富さんのチームだ!」


託巳はすぐさま地を蹴り、1年4組チームと思われる彼らの元へと走って行った。








バーチャル空間での肉体に痛覚は一切(いっさい)介入(かいにゅう)しない。


そんな今の陽志の肉体を(むしば)んでいるのは精神面のダメージだ。


陽志の頭蓋(ずがい)に異様な違和感を感じている。


3年2組の全生徒70名を全滅させ、1年4組の分割(ハーフ)チームを半壊にまで追いやったバーチャルウィルス“天魔”の内一体の巨人の右手が陽志の頭を(わし)(つか)んでいるのだ。

いつ頭蓋を砕かれ、脳を潰されるか分からないこの状況下。

その恐怖は(はか)り知れない。


それでも陽志は、深海(あくあ)手足を引きちぎった(かたき)としての(にく)しみの眼光を向けていた。


徐々に陽志の頭蓋に力が込められていく。

地に()ちた深海に、視線を落とすことさえ(かな)わない。


「…………ぐっ……ぁぁっ……!」


(けた)違いの目の前の巨人に、陽志は()(すべ)なく頭を圧迫される恐怖心から来る喘ぎを上げる。


こちらを睨み付ける巨人の化け物じみた笑みから目を()らすべく、陽志はそっと逃げるように目を閉じた。






「狭山を……離せぇぇぇぇ!!!!」


戦地の静寂をぶち破る怒号は、闘志を消しかけてた陽志にも届いた。


「狭山くん!やっぱり助けに来たよ!!」


先ほど逃がしたはずの笠原(かさはら)音利(おとり)の声も聞こえる。




挿絵(By みてみん)



そんな増援の声に反応したのは巨人も同じだ。

新たな暴虐対象の出現に巨人はニィィ、と不気味な笑みを浮かべ、迎撃のため歩を進める。

邪魔と感じたのか、右手に盛っていた陽志を乱暴に放り捨てた。


「狭山くん!」


音利の身を(あん)ずる悲鳴に反応した巨人の右足が音利を目掛けて踏みつけた。


ボゴッ、と地を割る音が聞こえる前に音は猛ダッシュで間一髪、足蹴直撃範囲から(はず)れた。


「………っん……。」


生唾を飲み、再び敵にしている巨人の無敵さを思い知る。


安堵のため息を()く間もなく次撃の右足が上げられる。


何度も猛ダッシュで回避できる体力なんてバーチャル空間と言えど持ち合わせてなどいない。


「……!?えーと……笠原さん!早く()けてー!」


うろ覚えの女の子のピンチに託巳は指示を叫ぶ。


「うっ……!無茶……言わないでよぉ」


弱音を吐きながら再度猛ダッシュで回避を(こころ)みる。


だが、どう見ても間に合わない。


「くっ……!どうしようも……っ!?」


託巳は偶然向けた目に移った傷だらけの女に気が付いた。


手足を千切られ、無惨な姿に放り出された彼女は、託巳が一目惚れながらに惚れ込んでいる弥富(やとみ)深海(あくあ)だ。


「……弥富……さんっっ」


ギリッ…と()(ぎし)りの音と共に託巳の中で何かが吹っ切れた。


「……殺すっ……」


右足を上げ、今にも踏み潰そうとする巨人に託巳は捨て身の攻撃を仕掛けるべく、疾駆(しっく)する。


「おいたくみん!何するつもりだ!!」


火影の声に聞く耳を持たず、がら空きの左足も首を自身の片手剣で切り裂いた。



「うぅぅがぁぁ?」


巨人は不意に受けた攻撃に声を出して驚いた。

バランスを崩し、間もなく転倒。

踏み潰されるはずだった音利は無傷のまま回避に成功した。


続いて横たわる巨人の胸板に飛び乗った。

巨人を睨み付ける託巳は巨人の足首を切り裂いた片手剣で巨人の喉元に突き立てた。



「がぁぁぁぁ!」


巨人の断末魔は火影と音利に希望を与えた。


「……いけんじゃねぇか?これ」


「わ……私も加わります!!」


勝機を得た託巳、火影、音利はひたすらに攻撃を繰り返した。

ある者は憎しみを宿し、ある者は危機感を払拭するべく剣を振るった。


そんな彼らの反撃のターンは、一瞬で終わりを告げた。


「ぐひっ…………」


突然握られた巨人の拳は横一線に()いだ。


描かれた弧の範囲内に入っていた託巳の腹部が鈍い痛みに襲われる。




動きを見せた巨人の攻撃を恐れて一旦(いったん)距離を置いた火影と音利。



「だ、大丈夫か!たくみ…ん……え?」


託巳の身を心配し、彼の方を見た火影は……思わず二度見してしまう。


「はっっ……!ぐぅぅ……」


託巳は地を()い、手放してしまった剣を手にするべく、手を伸ばす。

起き上がって取る方が明らかに効率的で安全な状況下で託巳が起き上がらないのは人目見ればわかった。


「うひゃ!?……なにこれ……って……え?」


音利の元に何かが降ってきた。

音利の足元に覆い被さる飛来物に目を向ける音利は、顔を真っ青にして表情を凍らせる。


その飛来物の正体、それは地を這っている撃村託巳の下半身だった。


「……いや……いやいやいやいやいやいやいやいやぁぁぁぁぁぁ!!!!」


絶叫し、半狂乱になる音利の元に巨人の右足が踏み下ろされる。


あまりにも呆気なく、音利は原形を留めることのできない足蹴を食らってしまう。


「お、おいおい……こりゃぁ……」


火影は目の前で惨殺される音利を目の当たりにし、体を(ふる)わす。


「火影……逃げろ……!早くぅ……」


託巳の(うめ)きに近い声で火影に呼び掛ける。

下半身を失い、立つことが出来ない託巳は逃げるどころか再び戦うことも出来ないだろう。


「たくみん……なに言ってんだよ、お前置いてなんて行けるかよ」


ドン、と地響きが地を揺らす。

火影と託巳の前に、いつの間にか巨人が目の前まで近づいていた。



「……やべぇ。」


勝てるはずがない。

勝てると思ったことすら(おろ)かなほどに。


絶対に勝てない。


そんな託巳と火影の視界に突如入った黒い人影。

羽の生えたシルエットから連想したのは、すぐそこで倒れていた筈の、手足をもがれた弥富深海だった。



そしてその飛び立つ人影は間違なく弥富深海本人だった。



「……リターンマッチよ。」





挿絵(By みてみん)


……しかし、親指と人差し指から生成される黒いスパーク、漆黒に染められた翼、黒い左目。

天空女神(ディオーネ)の聖天魔法の能力を持つはずの深海からは想像できない能力だ。


(てのひら)から放った黒雷は巨人の顔面を(とら)えた。






ふぇぇぇーーー、シリーズ8話目にして敵戦力が未だにノーダメージだよぉぉぉぉ!


もう少しお付き合いくださいませ……!


さてさて、2月14日のバレンタインデーにこの『バ革命』のバレンタイン短編小説が合作小説に載せていただけることになりました!

つきましては2月14日に更新予定の#34にてお知らせいたします。

#34ならびにバレンタインデー短編をお楽しみくださいませ!

さ、3日間で#34書かないと……。


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