#29 かくして祭りの幕は上がる。
「やばい!眠たい!!」
SHRの時間が迫る教室内で天条心二は嘆いていた。
「ねーねー守郎ーー」
黒板に落書きしていた垣峰守郎を呼び出す。
「何だよ」
落書きを邪魔された守郎は眉間に皺寄せて机に顎を乗せてだらしなく見上げる心二を睨み付ける。
「眠たいんだよ。何か目の覚めるような話をしろ」
ギリッと歯軋りが守郎から聞こえる。
「………っ。なら、お望み通り目の覚めるような話を聞かせてやろう。けいおんってアニメあるだろ?」
お、とアニメ話に興味を示す心二。
とっとと話すがよいと続きを促す。
「澪ちゃんっているだろ?」
「うん!オレの嫁のことだよね?」
「黙れ。……それでだ、一期の合宿で海に行った話があるだろ?」
「うんうん!」
強面の守郎から話されるけいおんの話は知らない人からしたらまったく別アニメのように思えてくる。けいおんってパッと聞いたらホラーアニメの題名みたい。「刑怨」……って漢字変換してみたら見る気失せる。
「海で遊ぶ軽音部の面々、そこで澪ちゃんがりっちゃんにふじつぼの話をされて怖がるシーンがあるが……お前は何で澪ちゃんがふじつぼを怖がっているわかるか?」
ごくり、も生唾を飲む心二。
「……守郎、その話はグロいのか?」
にひっ、と悪戯な微笑み言葉を紡ぐ。
「さぁぁ?グロいかもしれないし、そうじゃないかもしれない。んじゃ話すぞー。ふじつぼに足の膝を……」
「ストッッッップだ守郎!!もうお前どっか行け!
「うっせー!言われなくても行ってやるよビビりがぁぁ!!」
互いに吠え合い、心二は再び眠気に襲われる。
「しーんじ!おはよ!」
天使降臨の予感を察知した心二は机に伏せていた顔を即座に上げる。
実際心二の目の前に現れたのは天使だった。
「おはよう天使ちゃん!」
「だから奏ちゃん言うな……ってあれ?心二今わいのことなんて言うた?」
小首を傾げて自身の記憶を辿る彼は美形顔の太刀川奏也こと奏ちゃん。
心二から始まった「奏ちゃん」という愛称は今ではクラス規模で馴染んでいる。
それでも彼は奏ちゃんと呼ばれればこう返す。
「おっはよー奏ちゃん!」
「奏ちゃん言うな!!」
「えへへ、心二もおはよー!」
鞄を肩にかけながら心二と奏也に挨拶を交わすのが、今西優璃。
「てゆーか、奏ちゃんはともかく……今日は早いねぇ心二。」
下卑た笑いを浮かべながら心二に詰め寄る。
「……な、何が言いたい?」
すると優璃の目線は心二の下半身へと向けられる。
「べっつにーー、何でもないよ」
優璃の言わんとしていることを何となくで察する心二。だがそれ以上は話を広げない。
優璃と出会ってから約五ヶ月。分かったことは多々あるが……今も印象に残っているのは思春期真っ最中の女の子、だということだ。
「んー、それよかさ。」
優璃が顎に人差し指を添えながら話題を変える。
「……おい、いつまで股間見てんだ。」
「あぁ、ごめんねついつい。」
「ついつい股間を凝視するてどんな女の子やねん。」
「仕方ないよー奏ちゃん。こいつビッチだもん。」
「由美がいないけど……どこいったのかな?」
教室をキョロキョロと見回す優璃。由美の席に鞄が置いてあることから、登校はしているようだが。
「……っておいおい!ビッチ呼ばわりされてんだぞ?否定しろよ!!」
「ん?だってあたしビッチだし。」
「いやーーーー!!そんなの信じないーーー!!!!うわぁぁぁぁぁぁぁ」
心二の絶叫と被さるように、SHRのチャイムがなった。
すると廊下から騒々しい足音が近付いてくる。聞いた感じ全力疾走並の騒々しさだ。
「ギリッギリセーーーーフっっ!セフセフぅぅぅ」
教室に滑り込んできたのは優璃が捜していた人物、古旗由美。廊下を疾駆していたどうやら彼女らしい。
「由美ーー、おはよー!」
「おっす優璃ーー!今日も実ってますなぁぁ」
「「何が!?」」
二人の刺激的な会話にクラス中の男が言葉を重ねる。
無論、何がと言われればおっぱいなのだが。
「おっほーー、相変わらずの揉み心地☆」
「うっひゃーー、相変わらずのま・な・板☆」
「「な・に・が☆」」
「お前らうっせー。」
教室の前ドア近くで互いの胸を揉み合う二人。
今まさに教室中の目線は前ドアに集中していた。
「……っておいたくみん。くーちゃん以外の女の子に何鼻の下伸ばしてんだよ」
「ドキッ!?……へ?別に見てねーよ」
「ドキッってなんだよ。その顔でかわいい反応すんじゃねーよ。」
一昨日の一件から彼、撃村託巳ことたくみんは隣のクラスである1年4組の弥富深海に惚れているという事実を知った。
男なら一度は惚れるであろうあの美貌、そして物静かな雰囲気。
一目惚れから先へ進むために行動できないのは、彼女が美しすぎる故にだ。
高嶺の花。……まさにこの言葉通りの存在である。
「はーい、HR始めますよー……」
いきなり担任の女教師、花江幸先生によって開かれたドアに教室中の視線が集められる。
花江先生の眼前には互いの胸を揉みしだく我がクラスの女子生徒2名。それを瞳孔開いた汚い目で凝視する我がクラスの男子勢。
「……よし!学級崩壊ね!私帰るわ!!」
「先生が壊れたーーー!!」
「コホン。ごめんねみんな、少し取り乱しちゃって……。」
いつも通りの聖母のごとき笑顔で花江先生はHRを始める。
「あと10分後にはグラウンドに召集の放送が流れると思うけど……今のこの時間は各自でルールの再確認をしてもらいます!というわけで学級委員の菜川さんと天条くん、前に出て」
「えーー。各自で確認するんでしょー?オレら必要ねーじゃん!」
早速異論を唱える心二。
「学級委員の仕事全然してもらってないですからね。そろそろ委員長らしいことしてもらわないと☆」
「んなこと言ったって……菜川も嫌だよなーー……ってもう教卓の前でスタンバってらっしゃる!?」
「残り10分だ。早く済ませないと間に合わないぞ?」
クールに微笑む心二と同じく学級委員長の菜川李女。
彼女の真面目さがひしひしと伝わってくる。
「へいへーーい。やりゃいいんっしょ」
教卓に立った心二は教室中を見渡す。
「あ!先生、垣峰くんがスマホいじってます!指導指導!」
「なーんのことかな学級委員長様?」
「……さっさと始めなさい。」
凍えるような声音で諭される。肩をブルりと震わせ背筋を伸ばす。
「えと、何から話そうか?」
隣で控えている李女に尋ねる。
「そうだな……まずは交流会の内容から確認してみようか」
りょーかい、と手元の電子生徒手帳を確認する。
「えー、お前らが知っての通り交流会の内容は戦科のチームバトルだ。」
「だーれがお前らだ。皆さん、だろうが」
「うっせー守郎!!」
「天条くん。もう少し丁寧な言葉遣いでお願いしますね?」
またもや花江先生の声が心二の肩を震わせる。
「……チームはクラス単位で編成することになり、オレ達1年3組のチームは向こうの宮祁高校の1年3組とチームを組むことになります。」
「……チームバトルの勝敗は、宮祁高校が用意したオリジナルのバーチャルモンスターをどれだけ倒せるか……というものです。」
区切りのいいところで李女が代わって読んでくれる。おかげでスムーズに進行を進めることができる。
「せんせー、優勝チームはなんかプレゼント的なものってあるのかな?」
手を挙げて質問する優璃。
「参加者プレゼントは準備しているって聞いてますけど……。」
一方心二は未だに先ほどの優璃自身からのビッチ宣言を気にしていた。
参加者プレゼントという言葉に目を輝かす優璃の瞳はキラキラと輝いていた。
「……先生!天条くんが今西さんをめっちゃ見てます!キモいです!!」
「はぁ……天条くん。」
「ちょっとせんせー!なんかオレに厳しくないっすか!?」
9時過ぎ、桜南高校全校生徒はグラウンドに集められた。
まだまだ暑い日中では、うちわやタオル、水分などが欠かせない。
しばらくすると、大型バス5台がグラウンドに駐車する。
バスから降りる大勢の生徒は、桜南高校と交流会を行う相手校、宮祁高校の面々だ。降りた生徒は指示された場所へ集合を促される。
心二達が集まる1年3組の元に集まってくる宮祁高校の生徒達は恐らく心二達と協力してバーチャルモンスター達を倒す宮祁高校1年3組だろう。
見た感じ、金髪を揺らす守郎や託巳みたいな外見的特徴を誇示させる生徒はいないように思える。
……いや、一人だけ心二の視界に入った。
毛先を黒く残された白髪の男。
左目を前髪で隠され右目にかかるはずの前髪はワックスで固められている。
とても怖そうな印象を持った心二だが、さらにその印象を強めるのが彼の目だった。
細く開けられた目蓋から覗く鋭い右目。
睨まれたら死んだフリしてしまうくらいの目力だ。
「お、なぁ心二!宮祁のあの女の子かわえくない?」
はしゃぐ奏也が指差す先は1年3組の宮祁高校生徒であろう、茶髪のショートな女の子。
外見からも優璃みたいにはしゃぎそうな女の子だと予想させる。確かに可愛い。
「でも、お前の方が……可愛いよ」
「…………ホモぉ」
「「ひゃっ!?」」
突然隣から聞こえた可愛らしい低い声にビックリする心二と奏也。声のする方を見ると、見慣れない顔の男の子。顔の幼さは心二と同じくらいといったところだ。
ぱっちりと開かれた両目に赤く染められた頬。やけに目立つまつ毛。彼に罵られてもちっとも心が痛まなさそうだ。
そんな無害さを滲ませる彼は自分を見つめる心二と奏也に笑顔で声をかける。
「あはっ、ごめんね。僕いわゆる腐男子とか言うやつで……。ついついホモぉと呟いてしまったよ」
「お、おう。あーオレは1年3組の天条心二。」
「わいは太刀川奏也や。同じく3組。」
「僕は陽炎筑紫!僕も3組なんだぁ、優勝狙おうよ!」
やけに高い声とテンションのせいか、こっちまで元気になってくる。
「おい、こんなところにいたのかツクシ。ちゃんと並べ。」
背後から急に現れたダルそうな声音の彼女に襟を掴まれる筑紫。
「あ、代音!紹介するよー、同じチームの心二と奏也だよ?」
急に怖そうなナイスバディの女の子が現れたからか、心二と奏也は思わず黙ってしまう。
「ったくお前は……いつのまにか仲良くなりやがって……。」
ため息混じりに筑紫を引っ張る。
「とりあえず並べ。心二と奏也だっけか?悪いな、またあとで改めて紹介させてくれな」
「あ、あぁ。」
そそくさと宮祁高校の1年3組の列へ戻っていく二人。
「……なんか、キャラの濃そうな二人やったな」
「……まったくだ……しかし。」
心二は筑紫との会話を思い出していた。
心二と奏也の絡みを見て、彼はホモぉと呟いた。つまりはBLを連想させたのだろうが……
「あいつ、奏ちゃんをみて男だと分かったのか。中々おそろしい観察力だ。味方には心強い。」
「……奏ちゃん言うな。」
……直、開会式が始まる。
両校の校長の話の後、同じく両校の生徒会長の挨拶だ。
夏休みの補習ぶりに見た桜南高校生徒会長、如月雫に心二は違和感をおぼえていた。
黒髪の毛先を金に染めた髪型、ややつり上がった目元、低めの声音。
「こんな奴でも敬語使えるんだー」そんな顔を心二は浮かべていた。
桜南高校の新入生歓迎会にも体育館にて挨拶をしていた雫だったが、確かあの時は思いっきりタメ口だったはずなのだ。
雫の意外な一面を垣間見て、続いては宮祁高校生徒会長の揶沼駛人が前に出る。
「こんにちは皆さん、宮祁高校生徒会長の揶沼駛人です」
ヤンキッシュな雫に対して、こちらの生徒会長はいかにも真面目そうな態度、外見で人望も厚そうだ。
回りの女子がそわそわしているのが伝わってくる。
……が、心二から言わせればそんな印象を抱いたかと問われれば全否定したいところだろう。
だって見てみろよーあの目!
なんか裏がありそうで怖い。
「それではみなさん、今日は素晴らしい一日にしましょう!それでは……スターーート!!」
気がつけば挨拶は終わっており、わぁぁぁ!と歓声が上がる。
祭りの始まりを感じさせる、そんな雰囲気だ。
開戦宣言と同時に、回りから次々とモンスターが出現する。
「お、いきなりか」
守郎がネックレスにぶら下げたバーチャル世界の武器を呼び出す次元石と呼ばれる石が埋め込まれた指輪を二回タッチするして愛剣、ブラメイル・スラッシャーを構える。
「いくでぇ!心二っっ」
奏也も同じく武器の双剣を構えていた。
「よっしゃ!」
心二は走りながら片手剣、ソード・ランカーを振り上げる。
「っっらぁぁぁ!」
回りを蠢く骸骨剣士を切り伏せる。
背後に回り込む骸骨をいち早く察知して振り返りながら切り上げる。
一撃で倒せるHP値なのか、驚くほど楽に倒せる。
すると横から銃声が聞こえる。
彼女の持つ等身大のライフルの銃口から煙が立ち上る。
「心二!骸骨は倒してもポイントが少ないよ、狙うは蛙よ!」
優璃の重々しいライフルが差す先にはグラウンドの隅に佇む金色に光る心二の下半身ほどあるバカでかい蛙。
「……あ、確かにあれは蛙……か?お前よく見えるな」
「索敵スキル持ってるからねぇ、目のいい人特権のシステムスキルだよ」
言いながら優璃は自分の目を指差す。目が緑に光っていることからシステムスキルを使用していることが人目でわかる。
「ほんと、こういうイベント専用のスキルだよなぁ」
バカにしながら心二は蛙のもとへ向かう。
それに気付いたのか、数人が心二に負けじと走り出す。
二日前の始業式にインストールするように言われた電子生徒手帳のOアプリにはそれぞれのモンスターを討伐したことにより得られる討伐ポイントが明記されているのだが、それによるとグラウンドを群がる骸骨剣士の討伐ポイントは10に対し金目ガエルは2500の討伐ポイント値だ。
骸骨剣士250体分を金目ガエル1体を倒すだけで一気に獲得できるのだ。
カエルを狙うのは心二を含め五人。五人全員の目が緑に発光していることから索敵スキル持ちのようだ。心二もシステムスキルを所有しているが、心二の二重人格は強敵と渡り合うための実践向けスキル。この場面では役に立たない。
段々とカエルとの距離を詰める五人。
もう少しのところで心二の耳になにかがかすった。
ものすごいスピードを纏ったなにかが心二達を追い抜かし目の前の金目ガエルを倒したのだ。
「……くっ」
心二は立ち止まり標的を横取りした人物を苦笑いを浮かべながら睨み付ける。
「遅いぜー心二。」
コード展開済みの第一学年上位成績優秀者第二位の狭山陽志は不敵に笑う。
彼のコード名は「神無」、大気を操る能力を有している。
夏休みの旅行で見せた大気の扱い方は流石いったところで、陽志は遠く離れた地点から足の裏に大気を集め、射出することで離れすぎていた心二達との距離をゼロどころか追い抜かしてしまった。
一方、定時になると校内のどこかに出現する鬼がグラウンド出口に出現し、それを追う形で大半の生徒がグラウンドから姿を消した。
カエルを仕留められなかった心二はとぼとぼと優璃の元へ戻る。
只今開始から15分が経過し、時刻は9時半。
祭りは始まったばかりだ。
ようやく交流会が始まりました~……。
うしっ、次回でようやく本編です!
よろしくお願いします!
あとがきイラスト、今回は休ませていただきます。




