番外編 再出発のプロローグ
補習。
………いや、ね。
点数悪いんだからこうして夏休みに学校へ出てこなきゃならんのは仕方のないことだ。
なのに、何で……
「何でオレらは体育倉庫の掃除をさせられているんだ…………」
誰も居ない薄暗い体育倉庫で一人。オレ、
天条心二は呟いた。
「しーーんじ!」
開け放たれた倉庫の外から漏れる陽の光と共に明るい声が倉庫へ入ってくる。
振り向いて顔を確認するまでもなくその正体は今西優璃だと認識する。
「まだ補習室空くのに時間かかるって。」
……そう。
補習に来たオレと優璃が何で体育倉庫の掃除なんかをやらされているかと言うと……。
それは補習授業に使われている補習室の窓ガラスが割られたことによる。どうも、補習授業までの時間、廊下で鬼ごっこをして暴れていた奴がいたらしい。
まったく、高校生にもなってそんなことする奴がいるのか。やったとしても隠れ鬼くらいだろ!鬼ごっこて……。
あ〜、それより早く帰って夏休みの子供アニメスペシャル見たいなぁ。幽遊白書がオレを待ってるんだ!
「ってか、補習に使うくらい教室くらいいくらでもありそうなもんだけどな。」
「ホントそれだよね。………掃除終わった?」
「まだだ。……つーか、終わりが見えないんだけど」
口を動かしながら地面に散らかされたバレーボールを乱雑に籠に放り込む。
「……どれどれ。アタシも手伝おうかね」
薄暗い体育倉庫に入ってくる優璃はすぐさま咳き込み外へ出てしまった。
「……うわ、すごい石灰の匂い…。よくこんなところに居られるよね」
「オレは順応性が高いからな。」
何か使い方に違和感を覚える言葉を発しながら少し悔やむ。
「鼻がおかしいだけじゃない?」
咳き込みながらも優璃は床に散らばるバレーボールを片付け始める。
「…………。」
「……うわ、このボール空気抜けてるじゃん。心二〜、これで擬似おっぱいを堪能出来るよ〜」
……むぅ、エロゲならこのまま体育倉庫でイチャコラするもんなんだけど。
というかそもそも、何でエロゲの舞台になる体育倉庫はあんなに綺麗なんだよ。
実際の体育倉庫なんて中は石灰の粉末やら埃やらが舞ってるような惨状だぞ。
とてもじゃないが、こんなところでイチャコラする気にはならん。
「お前ら、何やってんだ?」
突如外から聞こえた男の声にオレと優璃は手を止めて顔を上げた。
外にいる優璃の傍には黒髪の男がダルそうに立っていた。
……いや、よく見ると毛先が金色に染められている。
かなり威圧的な見た目の彼の名をオレと優璃は知っている。
「あ、えと確か生徒会長…さん?」
毎回の全校集会に見かける生徒会長、如月雫三年生。名前の女らしさなど微塵も感じさせないその強面は新しいギャップ萌えを呼ぶやもしれない。少なくとも、オレはそんなギャップ萌えは守備範囲外だ。
「あぁ、その通り生徒会長さんだ。」
優璃の問いに胸を張って答える。なんだこの先輩、見た目のわりに気さくそうな奴だな。
「んで、見たところ倉庫の掃除をしてるのか?」
「そっすよ〜。補習室が空くまでっすけど……」
おぅおぅ生徒会長さんよぉ、どうなってんだよこういうのは美化委員会やらがやる仕事だろ?しっかり委員会を指揮しろ。
そんなオレの視線に気付かず会長さんは金髪の毛先を弄りながら倉庫内へ入ってくる。
「オレも同じだ。補習の最中にゲロ吐きやがった奴が居てな。生徒会長だからって先公に掃除申し付けられちまった」
たははーと笑いながら床に転がるバレーボールを拾う。
「………へ?会長さんも補習っすか?」
意外だ。生徒会長はどいつもこいつも成績優秀者だと思ってた。
そんなオレの視線を今度は敏感に感じ取ったらしく、ジト目で物申す。
「………あのな、生徒会長がどいつもこいつも頭いいと思ってんなよ?」
確かに、生徒会長が成績優秀というのは偏見かもしれない。眼鏡かけてたら頭いい、みたいな偏見と同種かもしれない。眼鏡をかけてるやつでも頭が悪いやつはとことん悪い。
……そうさのび太くん、お前のことだ。
「そんな会長さんでも生徒会長って務まるものなんですねぇ」
優璃が少しバカにしたような言い方をする。言い終えて自分の失礼に気付いたのか、口を両手で覆っている。オレなら可愛いから許すけどな。
しかし、一方の会長も不機嫌な表情はしていない。
やっぱり寛容な御方なのか?
「まぁ、ぶっちゃけオレあんま仕事やってねぇし。副会長が優秀でなぁ頼もしいのなんのって」
……この学校ヤバイんじゃないの?もうちょっと慎重に会長選ぶべきだろう。
「…………なんで先輩が会長に選ばれたんだよ。」
おっとっと、ついつい口が滑ってしまった。
「そりゃぁお前。身内票でなんとか、な」
身内多すぎだろ。身内というか大民族レベル
「……まぁ、でも大事なのはやる気ですからね!そういう真摯な態度も投票に大きく影響したと思いますよ?」
さっきの失言のフォローなのか、優璃が気を使ってらっしゃる。
……まぁ、確かにやる気はあったんだろう。自ら生徒会長なんかに立候補するくらいだからな。
「そりゃやる気はあんぞ?選挙の演説の熱弁はすごかったと評判だ!」
「なにが熱弁だ、笑いを取ろうとした姿勢が目立っていただけではないか。」
またまた外から凛と通った綺麗な声音が聞こえる。
……隣の優璃が急に目を光らせる。
「あ、あなたは…!風紀委員長の青山先輩!!」
興奮気味の優璃の声が倉庫内に響く。
………え?なに?
隣から未だ減らないボールを片付けながら雫がため息を吐く。
「………はぁ、厄介な奴が来たもんだ…。」
「………なにがすか?」
オレの問いに答えず、会長さんは開け放たれた倉庫のドアを指差す。
直に現れたのは長い後ろ髪を肩から前へ垂らし、大きく膨れた胸部をも包み込む量の黒髪美少女だった。
「お、君達は体育倉庫の掃除をしてくれているのか?ありがとう。」
「……い、いえ。好きでやっていますから…」
目を合わせられないっ!
なにこの人……見知らぬ大人なお姉さんに話しかけられてるみたいだ!
そしてそんなオレを羨ましがるような目で睨んでくる優璃。
……怖いよ優璃ちゃん。
「おい、オレも掃除してんだけど」
突っかかるように会長さんは自分を指差す。
青山先輩と呼ばれている先輩はオレに向けていた視線を隣の会長に合わせる。
「生徒会長サマなんだから当然であろう?むしろ後輩に手伝わせるなんて……恥ずかしいとは思わないのか?」
「………っ!!」
ぐうの音も出ない様子の会長さんは少しかわいい。
はっ…!これがギャップ萌え!?
「……あ、あの…ホントに僕は好き好んで手伝っているだけなので…」
とはいえ、流石に可哀想なのでフォローを入れてあげる。
そんなオレに青山先輩はキリリとした笑みで返してくれた。
「君は偉いな。私は風紀委員長の青山礼愛だ。よかったら覚えておいてくれ」
「……あ、僕は天条心二です!」
突然の自己紹介に気の効いたことも言えずにとりあえず名乗るだけ名乗った。
風紀委員長、ということは三年生なのだろう。
一年後には青山先輩は卒業してしまっているのか……。
もう少し早くに知り合いたかった!!
「……それより、何の用だ?」
思い出したかの様に会長さんが青山先輩に尋ねた。
するとまたしても、青山先輩はバカにしたような表情でツンと言い放つ。
「……教室の掃除が終わったからに決まっているだろう。用もないのにお前に会いに来るわけないだろう。」
ここにいる理由を聞いただけで一気に捲し立てられる会長さんはまたしてもぐぬぬ、と唸っている。
このふたりはどういう関係なんだろう。
「はいはい、そりゃご苦労さん。」
言いながら会長さんは倉庫を出ていく。
「天条くんだっけか?お前はまだ掃除してんのか?」
去り際に会長さんが尋ねてくる。さりげに名前を覚えてもらっていることに感動を覚える。
「……あ、そっすね。まだオレたちの使う補習室使えないみたいだし」
優璃に目線で確認するがアイツは青山先輩をガン見しているためオレに気付かない。
……おいおいこのまま優璃ちゃんと青山先輩の百合ルート突入か?
見たい気もするが……。
「おや?天条くんも補習に呼ばれているのか?」
そんなオレの返答に青山先輩が食い付いた。
「礼愛先輩!アタシもなんです!」
「そうかそうか、夏休みなのにお互い大変だな」
青山先輩に頭を撫でられる優璃は心底幸せそうだ。
あー、こりゃ完璧百合ルートですね。
……ん?お互い様?
「青山先輩も補習なんですか?」
控えめな姿勢で訊いてみるオレに青山先輩は腕を組みこう答えた。
「その通りだっ!!」
自信満々なその返答は風紀委員長らしくはあるが…
桜南高校三大組織の内、二人の代表者が補習に呼ばれているなんて…
あー、こりゃ本格的にダメかもしんないっすね。
ちなみに三大組織とは生徒会、風紀委員会そして、秩序委員会。
生徒会は学校内のルールを取り締まり、風紀委員会は名の通り風紀を取り締まる。
あまり馴染みのないであろう秩序委員会は
主にいじめを取り締まる組織として活動している。
風紀委員会と似たような役割だが、いじめ問題はいつの時代も陰湿な手口は変わらない。それは科学技術が発達したこの時代も例外ではないのだ。
風紀委員会は生徒の表の面、いわゆる制服の乱れなどの風紀を取り締まるが、秩序委員会は生徒の裏の面を専門として、校内のいじめ問題の沈静化を図るために活動している。いわば裏・風紀委員会と言うわけだ。
「それでは、お互い補習頑張ろう!」
最後まで青山先輩は笑顔を崩さず、会長さんを連れていってしまった。
「引っ張んなアホ!」
「先生や生徒を待たせてるんだ。早く行くぞ!」
仲の良さそうな喧騒が補習室に向かう二人の姿が見えなくなるまでオレの視線を釘付けにしていた。
いいなぁ、会長さん……。
さて……時間も潰せたし、オレたちの使う補習室もそろそろ片付けに終わりが見えてきた頃だろうか。
「優璃、補習室見に行くか?」
「ひゃう!?……んんっ、そ、そうね~」
依然、緩みきったアホな顔を浮かべていた優璃はようやく百合の花園から帰還したようだ。
何十分振りかの新鮮な外の空気を吸えた。倉庫内が熱気を籠らせていたからか、外は吐息が漏れるくらい涼しかった。
オレと優璃は静まり返った校内へ入り、階段を上がっていく。三年生フロアの二階では、会長さんと青山先輩が補習授業を受けているのだろう。
そんな二階を上がり二年生フロアの三階へ。
ようやくオレら一年生フロアの四階に着いた。
「あ、終わってるみたいだね!」
さっきまで補習室前の散らかり様を思ったら全然片付いていた。
「……行きますか。」
気合いを入れつつ、オレは補習室のドアを開ける。
補習を終えたオレは机に体重を預けグダっていた。
クーラーが効いている室内は心地がいい。
見上げる天井はいつも意識して見ない分、見入ってしまう。視界の端には十二時を差した時計を捉えていた。
「心二。」
同じく補習を終えて疲れきった表情の優璃がオレの視界に入る。
「由美が守郎ん家にみんな集まってるって!行こ!」
にひっとはにかんで優璃は日光照りつける外を指差した。
オレは体を起こして鞄を手持つ。
夏休みも半ばに突入した今日この頃。思えば先日の拉致騒動だけでもかなり刺激的な夏休みだと自負できる。
……嫌な夏休みだなぁおい。
でも、オレたちの夏休みはまだ始まったばかりだ。
……青春は、ここから始まる。
「心二〜!行こう行こう!!」
「おうよ!」
さて、前シリーズはシリアスすぎて疲れたのでこのような短編を挟むことにしました!
実を言うと今考えてる第4シリーズはバ革命の作品の一時の完結編に当たる内容になってるのです。
今までの3シリーズで伏線は張ってきたのですが、まだやめとこうかね笑
なので現在は代案の第4シリーズの話を考えているのですよ…
ある程度まとまり次第、第4シリーズを開始していこうと思います!
そして、今回の挿し絵を見ての通り微妙にキャラデザが変わってきていたりします。
本当に初期と比べて優璃のキャラデザは変わりましたねぇ…笑
さてさて、とりあえずは短編続きになりますが、お楽しみください!
次話は今回のはなしの続きで守郎くん家のあれこれ話です!
あとがきは今回初登場の青山先輩です!




