#25 エピローグ:軌道修正
「てめぇらの安眠はオレの一晩中の見張りのお陰なんだからな!」
だーっはっはっ。
から元気の様な覇気のない笑い声が朝の洞窟内を彩る。
「本当ありがとね守郎」
寝起き、疲労等々でフラフラ船を漕ぎながら感謝を述べる優璃。
焦点合ってない辺り少し心配。
「優璃!ブラ!!ブラが取れてる!!」
「ボイン?由美のはペタンでしょ?」
悪意があり過ぎる難聴スキル。容赦のない罵倒にも由美は急いでノーガードの優璃の胸部に寝相で外れたであろう下着を付けてあげる。
皆が目を覚ますとある物に気付く。
狭山陽志のお持ち帰りした幾つもの女性の衣服がたんまりと積まれた山だ。
無論、不良達から奪い返した服である。早速自分の服を見つけると埃を払って身に付ける。
そんな女子陣は未だ眠たそうな表情を浮かべている。昨夜からのゴタゴタを考えれば分からなくもないが。
「てゆか陽志。朝帰りなのは何で?」
心二が素直な疑問を陽志にぶつける。
敵襲に対応するため一晩中起きていた守郎から、陽志が朝日を背に無事帰還したことは聞いている。
やはり昨夜、倉庫での決戦を任せた後に何かあったのだろうか。
「いや、迷った。」
そんな心二の複雑な予想とは反して、陽志からの返答は実に簡潔に完結していた。
「……だったら後は任せろとかやるなよな」
「人生で一度は言ってみたいセリフだろ!あの時言わないでいつ言うんだ!!」
朝っぱらからどうでもいい事で声を荒らげる。これこそが学生クオリティー。
ようやく服を着て目の拠り所に困らない格好となった女子陣を代表して優璃が口を開いた。
「……橿場がいない!」
「あ?」
これまた死にそうな声で垣峰守郎が額を押さえながら辺りを見回す。
……いない。正確に言えば橿場の妹メンバーもいない。
「……守郎。お前ずっと起きてたんだよな?」
心二はジト目を向けながら守郎に確認する。
相変わらず鋭い目付きを浮かべながら焦らしに焦らした守郎はようやく返答らしき言葉を漏らす。
「……あ〜、あぁ……。いや、もしかしたら、一瞬、寝たかも」
「……寝てんじゃんか。さっきあんなに一晩中寝ずの番してましたって威張ってたくせに」
「おう心二ゴラ。喧嘩売ってんのかゴラ。やるかゴラ」
「うるさいゴラ。売ってませんゴラ。黙れゴラ」
「……なぁなぁ。今七時やねんけどさ、旅館の朝ごはんって何時までやっけ?」
死にそうな顔で奏也はみんなに尋ねる。昨日の昼から飲まず食わず。
彼らの腹の虫はさっきから鳴りっぱなしである。
「……確か、10時頃までか。」
……なら、取るべき行動は一つだ。
「2時間は食いまくるぞゴラぁぁぁぁ!!」
「「「ゴラぁぁぁ!!!」」」
守郎の怒号に同意を示すように手を挙げる心二達。
一晩を過ごした洞窟から急いで出ると、後ろには木場音佑達が心二たちを見送る為に控えていた。
「おっ………木場、本当にありがとうな」
心二は、足を止めて心からの感謝を口にする。
木場達に出会えていなければ、心二たちは優璃たちを助けることは出来なかっただろう。
偶然が巡り会わせたこの出会いを、彼らは生涯忘れない。
硬い握手を交わす二人の横では守郎と風上大空 が厳つい表情で向き合っている。今にも喧嘩しそうな勢いだ。
「…………ま、あれだ。また会おうぜ」
大空の表情からは考えもしない言葉が発せられる。
「………そだな。今度はゆっくりと飯でも食いながら」
口を緩ませながら心二と木場のように握手を交わす。
「愛衣ちゃーーん!また遊びに来るからねー!!絶対いくからねぇぇ!!」
優璃はと言うと、木葉愛衣に抱き付きながら別れを惜しんでいる。いつの間に仲良くなったのだろうか。いや、よく見れば抱き付かれている愛衣は困り顔を浮かべていた。
「う、うん!……また、来てね!!お姉ちゃん!!」
それでも愛衣は満面の笑みで返す。
いい子……。
別れの後、走って洞窟を後にした心二たちは昨日と比べ不気味な面影は皆無となった森を疾駆する。
「…………む〜。橿場のやつ、起きたらさっさと出ていっちゃって。」
さっきまでとは違い、むくれながら優璃は呟く。その一言に反応する者は居ない。
せめて一言くらい告げて去ってもいいのに。
……と、全員爆睡してるシチュエーションを浮かべながら心二は思う。
(わざわざ起こしてまで……ってのは、しないだろうな。)
墓場地帯まで戻り、ようやく旅館が見えた頃には全員死んだような顔をしていた。
「ん、あれは……」
旅館の壁に背中を預ける見知った顔。
男のくせに長めの黒髪。目付きの悪さは知り合いの中じゃトップクラスの男だ。
「あー!橿場!!」
不意に蘇る優璃のハイテンションに向こうが気付いた。
「ゲッ……」
橿場直之は反射的に嫌な表情を浮かべる。
「あ、心二。」
立ち止まる彼らを代表して心二が前に出る。対して橿場も壁から背を離し、迎え立つ。
「……………。」
「……………。」
対峙する心二と橿場はしばらくの間、互いに無言を貫く。
そんな空気に耐えかねて優璃が口を開く。
「………あ、あ~橿場、昨日は助けてくれて本当にありがとう!!もう頭が上がらないよぉ」
「堂々と上げながら言ってんじゃねェか。」
心二は驚いた。
初対面の時の目の前の男を心二は外道とまで見ていたくらいだった
低成績者に対してはカツアゲ、暴力を執行して高笑いする様な奴だ。
低成績者に人権など無い……。
そんな一面さえ彼から感じた。
それが今では低成績者の優璃と普通に……コミュニケーションが取れていることに驚かずにはいられなかった。
1つ咳を零し、心二は言葉を紡ぐ。
「…………あ、あれだな。まぁオレ達は助けが間に合わなかったわけだしぃ?お前が助けに来てなかったら危なかったわけだしぃ?その………ありが」
「おい、何か勘違いしてねェか?」
心二の途切れ途切れの言葉を遮る。心二の眉間に皺が寄せられた瞬間だ。
「………何がだよ。」
「オレは妹とそのダチを拉致った奴等をぶち殺したかっただけだ。別にお前らのために動いたわけじゃねェ。そう思われんのも虫酸が走る。だからこれで終わりだ、そんじゃな。」
早口で捲し立てて言いたいことを言い終えるとさっさと旅館の中へ引っ込んでいく。
「…………。」
全員が、微笑ましく彼の後ろ姿を見送っていた。
「さ、朝飯朝飯」
守郎は頭を掻きながら旅館へ入っていく。それを合図にみんなして守郎に続く。
ぼ~っとしてる心二の背中をコツコツとつつくのは優璃だ。
「心二、行こ?」
「あ、うん。」
まだ疲れが取れてなさそうな優璃の表情が、妙に心二をムラムラとさせる。
「……いかんいかん」
そんな呑気な思考が、ようやく昨日から張り詰めていた糸が切れたことを実感する。
朝食を食べたら、とりあえずお風呂に入りたいかな……。
心二は心からのため息を排気して、皆に続き旅館へ駆けていく。
あっという間の三日間県内旅行も終わり間近。
ふと心二は、昨日の李女の言葉を思い返す。
『………だから、私はまだまだ一緒に居たかった。お前たちと一緒に。』
「……。」
心二は駆けていた足を思わず止める。
森羅万象に始まりがあり終わりがある。そしてそんな終わりの時はいつの間にか目の前まで迫ってきている。
今の旅行の日々みたいに。
少しずつ少しずつ、終焉に飲み込まれていく。
李女の言葉の真意が明らかになるのはこれからずっとずっと先の話。
そのずっとずっと先を、ここから心二達は歩み始める。
一先ずの災難を乗り越えた彼らの夏休みは再び始まりを迎えた。
長かった…!!
ようやく第3シリーズも書き終えましたーーー…。
期末試験やなろうの読み切り小説企画にも参加させていただいたので一時期完全に作業を中断していたあの頃が懐かしいぜ!
今回で出てきた謎の白髪、秦野慎巴くんはこの先も関わってくるのでどうか苗字だけでも覚えていただければ幸いです笑
倉庫で助けた女の話は第4シリーズの冒頭で出てくるので、投げ出した訳ではありませんよ?(真顔)
ではでは、第4シリーズの内容は………
と、いきたいところですが。
短編集を挟みたいと思います!
どこぞの上条さんみたいな夏休み展開はこちらも話のネタが尽きますよ…(´・ω・`)
そんな短編集はギャグ成分MAXでお届けしますので、どうか気軽に読んでいただければと思います!
そんなことよりですよ、聞いてください!
僕の好きなラノベ作家からTwitterでフォローされたーーーーー!!んですよ!!
もう感激ッッ!!
さてさて、今回のあとがきイラストは前回の深海さんの別バージョンです!
名前のところが前回と違いますが、こちらが正しいということを訂正させてくださいぃぃ。
ま、どちらもアクアとは読めますがね
では、さようなら!!




