#24 救出戦線〜昇光〜
倉庫からの脱出に成功した天条心二たちは木場音佑が案内してくれた洞窟の隠れ家へ戻ってきていた。
「それにしても多いねぇ!こんなにお客さん来たの初めてだよ!!ねーおと、あかり!」
初めて会った時より相も変わらず、明るいテンションで洞窟内に彩りを振り撒いている木葉愛衣。
ところで今洞窟の中には心二メンバー、不良達から助けた見知らぬ女の子達を含め20人もの人が座り込んでいたり、眠っていたりしている。
チラ、と真っ暗な外に目を向ける太刀川奏也。今から旅館に戻ろうにも明かりなしでは遭難してしまう。
時刻はすでに23時を回ろうとしている。今西優璃と古旗由美は下着姿のまま、苦しそうな表情の女の人の側でずっとうつ向いていた。
自分達が捕まっている間、ずっとその女の人が襲われる様を見せられていた。
精神的に辛いのは無理もない。
眠っていた、というよりは気を失っていた菜川李女と弥富深海は未だに目を覚まさない。
奏也と守郎がゆっさゆっさと揺らしながら担いで洞窟内まで連れてきたのだが、その間一切意識を取り戻すことはなかった。
他の女の子達は暗い表情のままずっと地面を見つめていた。さっきまで貞操の危機に晒されていたのだ。こんな薄暗い洞窟内では、自分の中で蠢く不安は拡がるばかりだ。
そんな様子に気付いた愛衣はなるべくテンションを高くしながらおしゃべりに努める。
女の子達の内一人は、李女達と同じように気を失って寝込んでいる中に混じっている男、橿場直之の側でしくしくと涙を流している。
優璃から橿場に助けられたと聞いた時は半信半疑だった心二だが、橿場が倉庫で李女達と同じように気を失っていたことは事実。
用もなくあの倉庫内にいたとは考えられないし、助ける為に乗り込んできた……という優璃の話は恐らく真実なのだ。
すると橿場の側にいる女の子は涙混じりに橿場に囁く。
「メグ…お兄さんだいじょーぶ?」
愛衣とのおしゃべりで少し楽になった女の子達がメグと呼ばれる女の子に寄り添う。
「…………まだ目を覚まさないの。」
目尻に溜まった涙を指で拭う。
……胸が痛い。
心二は眉間に皺を寄せて拳を握る。罪のない女の子達が襲われる、そんな胸くそ悪い現場に立ち会った心二達の表情にもう怒りはなく、ただただ悔しさが滲み出ていた。
守れなかった人達のこんな苦しそうな表情を目の当たりにしてるんだ。
……無力を嘆かずにはいられなかった。
すると、不意に洞窟内に『くしゅん!』とくしゃみが響いた。
「………古旗?どうした寒いのか?」
心二がすかさず物音のした由美の方に目線を向ける。
「ちょ、下着なんだからこっち見ないでよー!!」
「えぇぇぇ、ごめんなさい」
怒鳴られてしまう心二。もうそういうツッコミは今更な感じがするのだが。
洞窟内には下着姿で寝込んでる女の子も居れば、起きている女の子も下着姿な状況だ。
そろそろ下着姿の女子にも慣れてくるものである。
それより、そんな洞窟でパンツ一丁の心二には何も反応しないのだろうか。少しは頬を赤らめても良いと思うのだ。
心二はその事に遺憾を感じてならない。
(……ていうか、男として自信なくなってくるぜ。)
「………でも、服は欲しいね。」
優璃が由美に同意の視線を向けそれに乗るかのようにコクコクと頷く由美。
そしてその勢いで心二の下腹部に向けられる女子二人の目線。
(……え?パンツまで貸せって言うの?追い剥ぎかよ。)
心二の衣服は一糸纏わぬ具合の悪い女の子に着せているので羽織るものを求める優璃と由美には応えられない。
だからと言って最後の砦であるパンツは渡すわけにはいかない訳で。
「守郎。男を見せるときが来たぞ。服を貸してあげなさい。」
心二は寝転がっている垣峰守郎に話を振る。
「あ?……まぁ、オレの服で良ければだが」
文句ひとつ言わず服を脱ぎ出す心二。
(なんだよ、中学の修学旅行の時にパンツ忘れたから貸してって言ったときは貸してくれなかったくせに!)
それとこれとは別な気がする心二の心中での怒りとは裏腹に、アホな顔した守郎は脱ぎたてほやほやのシャツと半ズボンを優璃と由美に差し出す。
「………由美着なよ!」
パチンとウインクで促す優璃。
そんな優璃の仕草に頬を赤らめながら守郎の服に手を伸ばす由美。
「………さて、とそれじゃ優璃のは……」
心二は優璃に服を貸してくれそうな男を目を巡らせながら探す。
「え?奏ちゃんのでいいよ?」
奏也に声をかけようとする優璃を必死で止める。
「ちょい待ち優璃ちゃぁぁん!!」
「かな………って何よ。」
出かけた言葉を遮られ不満の目を向ける優璃。
「ん?誰か今わいの名前呼んだ~?」
「だ……誰も呼んでないんじゃないかな?」
「……?あー、すまんすまん」
「ちょっと!奏ちゃんでいいじゃん!」
異議を唱えるべく顔を近付け睨む優璃。
流石に下着姿の女の子に馴れた心二と言えど、この近距離からの谷間には意識せざるを得ない。
むしろ意識しない男、ちょっと表出ろ。
谷間の良さを万の言葉を用いて説明してやるから。
しかし、そんな状況にも平静を装い対処するのが男心二。ぶっちゃけ姉の下着姿や裸エプロンと言わず裸さえも視認済みの心二にとっては谷間くらい……たたたたたににににに
「谷…………コホン。えーとぉ優璃ちゃん。いかんいかんダメだよぉ」
「目泳いでるし声震えてるよ!?なんか怖い……ってかなにがダメなの?」
あまりにも意識してしまっている心二は深く深呼吸をし、呼吸を整える。
「………あー、奏ちゃんはダメだ。見ればわかるだろ!」
「何がダメなの?」
まったく分かってらっしゃらない優璃は困り顔のまま上目遣いで心二の目を覗き込む。
(バカ、ちょバカ!そんな上目遣いでこっち見るな!パンツ一丁じゃ隠せない物がオレには……!!!!)
「わいの服か?ええよ、もちろんやん」
背後で奏也の声が聞こえる。振り返ると何事か吹き込んだ様子の守郎。
目があった時の守郎のどや顔には殺意が芽生えた。
(………あの野郎、奏ちゃんに言いやがったな!)
そんな中、するすると服を脱いでゆく奏也。
露になる色白の肌に心二の心がキンととなる。
やがて半ズボンにまで手が添えられするりと股を伝って下へ落ちる。
「ほれ優璃。わいのでよかったら着てくれや」
「ありがとー奏ちゃん!マジ天使!!」
「……奏ちゃんちゃうけどな。」
心二は奏也の胯間に目を向ける。そこには確かに男の子らしい凸部分が存在した。
「………………ううぅぅ。」
心二はその場にへたり込む。
久しぶりに横になったからか、心二に急激な眠気と疲労感が襲う。
やけに長い一日だったような気がした。
昼間はアニメイトではしゃぎ、長い距離を歩き、公園で遊んで楽しい思いをたくさんした。
帰りの電車では駅を間違え精神的に辛い乗車時間を友と共にし、温泉でくつろぎ、晩ご飯を食べることなく、優璃たちの異変に気付き不安と疲労に苛まれ、時に友とぶつかり絶望を味わった。
そんな深淵とも言える森に差し込んだ光。
木場達との出会いが絶望の淵にいた心二たちを救い上げた。
倉庫に着いた時に芽生えた燃えるような闘志を心二は一生忘れないだろう。
自分にも救えるものがある。
自分にも救いたいと、死ぬほど思えた奴がいる。
心二は確かに気付いていた。
この大切な気持ちを、何と言うのか。
「……………眠い。」
心二は深い眠りにつく。
気恥ずかしい今の気分は、どうも自分に似合わない。
瞼を閉じて数十秒後には、心二の意識は闇へと落ちていった。
日付が変わり、森はさらに不気味な漆黒を纏い始める。
洞窟内は寝息を立てている者が大多数となった。
起きている者も、うつらうつらと体を揺らしていた。今にも寝落ちしてしまってもおかしくない。
そんな者達の集う洞窟内に、ようやく帰還した少年は安堵の笑顔を浮かべる。
「……はぁ。やっと、終わったのかね」
思わず独り言を漏らす少年。
「…………おかえりんさい。」
死んだ魚の様な目を向けながら、帰ってきた陽志の帰りを労う。
「………起きてたのか守郎。」
「オレが寝ちまったら、敵襲に気付けんだろ。」
「ここは戦地かよ。」
言いながら洞窟内を見渡す。すると奥に見慣れた金髪の少女を視界に入れる。
「…………くーちゃん達は大丈夫なのか?」
欠伸を噛み殺しながら守郎は答える。
「んー、まだ目を覚まさねぇな。優璃の話だと、戦科勝負に負けただけらしいから、危険はないと思うが。」
そっか、と陽志は洞窟の奥に足を運び深海の元に腰を下ろす。
「………悪い。怖い思いさせちまって。」
深海の手を握り何事か呟いている陽志を横目に守郎は虚空を見つめる。
「…………疲れた。」
やがて守郎の意識も常闇へ落ちていった。
日光が洞窟の入口に射し込む。その明るさに違和感を覚え皆は重い瞼を持ち上げる。
直に、皆が目を覚ました。
それと同時に喜びの涙を零す者が一人。
「お兄ちゃん……!お兄ちゃん!!」
「……め、メグ!」
静かに安堵の表情を浮かべる者が一人。
「……………陽志。」
「くーちゃん!……ったく心配させやがって。」
呑気に身体を伸ばす者が……一人。
「あ〜、よく寝た。」
体を伸ばす心二の背中に柔らかい手の感触。そういえば服を着ていないことを思い出し敏感に反応してしまう。
「………天条。」
「………菜川。」
久しぶりに聞いた李女の声音は未だ昨夜の疲労が残る心二の体に癒しを与えた。
怖かった。悲しかった……ありがとう。
色々口に出したいことがあるのか。口ごもる李女はもじもじしながら、あくまでクールに言葉を選んでいるように見えた。
考え終えた李女は満面の笑みを向けてこう告げるのだ。
「…………おはよう。」
ふふっと笑う心二は当たり前の返答を、こちらも満面の笑みで返す事にする。
「……………うん、おはよ!」
長かった夜はとっくに明け、彼らの朝は始まった。
「………………ふぅ。」
達成感のような気持ちを吐息と共に吐き出した。
狭山陽志は倉庫を脱出し、両手には何枚ものシャツ、次元石をポケットに突っ込み、足を引きずりながら、ただただ無心で森を歩いていた。
彼……秦野慎巴は呆気なく陽志から身を引いた。
倉庫で彼らの行った所業の口封じをする事もなく、陽志を見逃した。
陽志を拷問して心二達の逃げた先を聞き出すことだって出来た筈なのに。
簡単に事は収束に向かったのだ。
「…………いいのかよ。ここでオレの口を封じなけりゃ、アンタ少年院に直行だぜ?」
そんな陽志の問いに秦野は不気味に白髪を揺らしてこう答えた。
「………別に、捕まることなんてないよ。だってオレ………」
舞台から降り、倉庫の出口へ歩みだしながら不敵に不気味に、そして意味深な言葉を紡いだ。
「…………この世界の勝者なんだから。」
その言葉の意味を陽志は理解している。
米国国内の上位成績優秀者の地位を嘗めてはいけなかった。
その意味を陽志……いや心二たちは間接的に知ることになるのだから。
「アンタとはもう関わりたくもないね。」
そう吐き捨てた陽志に、返す者はいなかった。




