#23 救出戦線〜共闘〜
「………っらぁぁ!」
金属バットを振り回す輩を馴れた様に回避しては殴り、蹴り倒す垣峰守郎。
数十人を相手に難なく戦い続けていられるのは隣で奮闘する守郎よりも体格がたくましい短髪の風上大空の存在が大きい。
背中合わせに守郎は大空に話しかける。
「……さっすがおっかねぇや。死ぬんじゃねぇの?そいつら」
見ていると大空の拳は思いっきり顔面を捉えている。 そのうえ、殴られた男は結構な距離を吹っ飛ばされるのだ。
重い一撃を食らった男たちは体をピクピクと痙攣させている。
「あぁ?羅亜がなにいってんだよ」
「………はぁ、あのな。」
ため息を吐きながら前から襲いかかる男の右耳を捉え、蹴り飛ばす。
「………そのあだ名で呼ぶの、やめろ。」
守郎の一瞬見せた冷酷な眼は大空さえも怯ませた。
「……羅亜?羅亜じゃねぇかぁ!」
すると男連中に一際異彩を放つ髪を真っ赤に染め上げた男が今更守郎の存在を認識した。
「…………誰だ。」
羅亜の名前を聞くたび、不機嫌になっていく守郎。
「中学時代に散々いじめてくれちゃったくせによぉ。……今度は殺すぜ?」
手には薄暗い中でも怪しい光をギラリと輝かせる刃物。
「…………はぁ?お前なんかに人が殺せるかっての。」
刃物を向けられても、眉一つ動かさず守郎は冷たい視線を目の前の男に向けながら吐き捨てた。
「………んだとぉ?」
怒りに顔を歪ませる男は歯軋りを鳴らしながらなんの迷いも無く刃物の柄を握り締め守郎に襲いかかる。
「死ねやぁぁぁぁぁぁ!!!」
下から放たれた鋭い守郎の蹴りが、刃物を持つ男の手首を捉えた。
「ギッ……!!?」
男の手から刃物が手離されたのも束の間、守郎の飛び蹴りが顔面を穿った。
「………がっっ…!!!」
カランと宙を舞っていた刃物が地面に落ち、金属質な音を発する。
「……………弱い奴ほど道具に頼る。」
そう吐き捨て次々と襲ってくる者に視線を向ける。
それを横目に大空も撃退しながら、そんな守郎の無双ぶりに、少し過去を思い出していた。
……………二年前。
一匹狼を貫き、数々の不良グループ、時には絡んできたヤクザを潰してきた当時の大空はいつものように……ターゲットにしていた骸式と呼ばれている危険なグループのアジトへと単身赴いた。
彼をその無謀な行動を駆り立てていたのは、ただ単に生きるためだ。
中学一年の時に仕事先で働いていた父が偶然出くわした強盗に殺害され、母もそのあとを追うように仕事の行き道で交通事故を起こし、死亡。
親戚の家に引き取られたが、何の因果か悪運か、深夜に何者かが親戚宅に火を放ち、大空は重傷を負うが家にいた者は全員死んだ。
一気に天涯孤独になってしまった彼にはとにかく金がなかった。
すると偶然、不良に絡まれてしまう彼だが、難なく返り討ちにしてしまう。
「……………ひぃ!……悪かった、金置いてくから、み、見逃してくれ!!!」
「……………金?」
その一件より、大空は変わった。
当時中学二年生の大空にバイトはできず、金に困っていた彼は絡んできた不良から金を巻き上げることにした。悪人から物を巻き上げるんだ。なにも悪くない。
そんな大空の歪んだ考えが、次第にもっと多くの金を求め、大きな不良グループ、果てはヤクザの麻薬取引を妨害するほどまでになった。
「…………ここか。」
林に囲まれた大きな古びた建物、骸式の麻薬取引場所となっている扉の前にはゴツい男と細身の男が見回りのように立っていた。
林に隠れる大空はそれを確認すると一呼吸、ゆっくり吐くと立ち上がる。
「ビンゴだ。さぁって、」
もう既に慣れつつある殴り込みに、ただ素手で己の肉体を信じて林から飛び出す。
「…………あ?」
「…………は?」
すると同時に反対側の林から金髪の男が自分と同じように飛び出してきた。
見回りの二人は既にこちらに気付き迎撃態勢に入っている。
「………なんだ?アンタ」
大空は謎の金髪に尋ねる。
その間、見回りの男はこちらに向かって何か叫んでいたが無論、無視。
「………そりゃこっちのセリフ、だが。どうやら目的は同じみたいだな。」
チラ、とこちらに一瞬目線を送るが、すぐに標的をその冷たく鋭い目で見据える。
「はっ、違いないな。今回の相手は一人じゃ手こずりそうだったんだ……ここは共闘と行くか?」
「………悪くねえな。」
見回りの男を一瞬で蹴散らし、堂々と扉を蹴り飛ばす。
「………倉庫破りじゃゴラァァァァァ!!」
勢いある大空の怒号が建物内を軋ませる。
「………いくぞ、でかぶつ。」
「応よ!キンパツ!!」
思い返せば、今の光景は似ていた。
羅亜と呼ばれた垣峰守郎との最初の出合い。
「………ったく、いつまで経ってもコイツらはオレのことを羅亜羅亜呼びやがる。」
イラつきながら迫る敵を蹴り飛ばす。
「………なぁ。垣峰だっけか?骸式ってヤクザ、覚えてるか?」
ふと、そんなことを尋ねていた。
その問いにようやく合点がいったように守郎は大空を見た。
「………そうか、やっぱりお前あん時の…」
意外にも守郎は大空を覚えていた。あの時は互いに名も名乗らずひたすら物騒な物を振り回す男連中を相手に無双していたから。
終わった頃には死屍累々の中、二人並んでくたばっていた。
そのまま一言も喋らず、しばらくして守郎は倉庫を後にした。
……金品目当てだった大空には意外な行動に写った。
「………なぁ垣峰。あん時オレはヤクザから金巻き上げるために殴り込んだんだが、お前は何のために戦ってたんだ?」
守郎は、何も盗らずに倉庫を出ていってしまった。
その問いに守郎は答えなかった。
だが、答えの代わりなのか意味深なことを呟いた。
「………あん時は、機嫌良かったからな。」
「……………は?」
その瞬間、舞台の方から怒号が響いた。
「…………てめぇ、今なんつった?」
怒りに顔を歪ませながら、天条心二は白髪に問いかける。
その表情とは対照的に白髪は涼しい顔で答える。
「……女達を拉致った理由を聞いたんだろ?犯すためだけに決まってんでしょ。」
嘲りながら答える。
ごそ、と何かが動いた音に反応し、心二は壁際を向いた。
そこには、裸に剥かれた汚れた格好の女が苦しそうに横たわっていた。
その女のあからさまに熱っぽい表情が気に掛かり心二はすぐさま女に駆け寄る。
「……………熱?風邪引いてるのか?」
女のおでこに手を当てた心二は確信した。
「………あぁ、そいつ五、六人にいかされてたからなぁ。いい声してたぜぇ。最高。」
白髪が言い終える前に心二は持てる力の全てを振り絞り、ぶん殴った。
「………ってぇなぁ…。何すんだよ」
尚も嘲りながら心二を見る白髪。
そんな白髪の後ろに何人かの人影が心二の目にようやく映った。その人影の中に、見知った顔が二人。確かに、そこには倒れ込んでいた菜川李女と弥富深海がいた。
「…………おい、まさか後ろの子達も……」
絶望に顔を歪める心二に白髪はただただ、鼻で笑う。
そんな様子の白髪に心二の怒りは遂に振り切った。
「………てめぇ、殺す……!!!殺してやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「はっ……無理無理。お前では、殺せない。」
言いながら男は指輪に手を近付ける。
「心二ぃぃぃぃぃぃ!!!」
入口の方から無事に助け出した今西優璃の声が心二に意識を向ける。
「そいつにバーチャルシステムで戦っちゃだめえぇぇぇぇぇ!!」
白髪を指さしながら、確かにそう言った。
「………え?」
しかし、遅かった。
白髪の指がゆっくりと指輪に触れる。
一気に場の雰囲気が変わる。
比喩的ではなく、現実的に変わったのだ。
それは、バーチャルシステムが起動した確かな証拠。
「…………さ、いじめてあげるよ。……コード展開。」
手に持つ刀がコードの発言と共に黒く変色し、砕け散る。
「………はぁ!?コード持ちだと…!!?」
回りを黒い靄が覆う。
嫌な予感がゾクゾクと心二の身体中を苛む。
「…………上等だ。とっとと倒す!!!
直でぶん殴らねぇと気が済まねぇんだよ!!」
疾駆しながら武器のソード・ランカーと呼称される片手剣を召喚する。
「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
怒りの咆哮を上げ、剣を振る。
白髪は怯みもせずただただ右手を前に差し出す。
差し出された右手を切り落とす勢いで振られた心二の一撃は見えない衝撃波に遮られ、跳ね返される。
「…………っ!!くそ。」
弾かれた心二は距離を取ることなく再び剣を乱雑に振る。
しかし、無情にも白髪を覆う見えない壁が邪魔をする。
「心二!!」
不意の真横からの声に心二はようやく白髪から距離を置いた。
声の主は桜南高校第一学年第二位の座に位置する成績優秀者、狭山陽志。
彼は空気を蹴るかのように空中を浮遊しながら舞台に向かってくる。
「……へぇ、面白い能力だね。差し詰め大気を操る系統の能力か。」
冷静に解析する白髪は依然として余裕の笑みを浮かべていた。
無言のまま、空中疾駆で倉庫の天井ほどまでの高さで移動していた陽志は最後に空を一蹴り。
白髪の手前で飛び降りた。着地音がしないのも陽志の大気を操る能力で空気を足元に密集させることで落下音を消したのだろうか。
ものすごく華麗に着地し、そして右手を突き出した。
「…………なんだ?それは」
しかし、なにも起こらない。ただ……陽志の後ろで立っていた心二には理解できていた。
白髪の後ろで倒れている女の子達が宙に浮いていた。
そのまま、音も立てずに舞台袖より下に下ろすことに成功する。
「………心二、そこで倒れてる人を背負って、倉庫から出ろ。」
「………え?」
そこで倒れてる、と言うのは横で裸の女の人のことであろう。
白髪の仲間の男達は守郎と大空によってほとんど全滅。目の前の白髪さえ倒せれば一件落着のはずだ。
「なんでだよ!二人で戦えばこっちの方が有利だろ?」
心二の訴えに陽志は冷や汗を流す。
「………おい、まさかこの化け物に本気で挑むつもりか?」
状況をよく考えろと視線で語る。
今、この瞬間においてもっとも大事なことは何か。
それは怒り任せに白髪をぶん殴ることでもなく、
こいつらを暴行罪で警察に突き出すことでもない。
ただ、この場から逃げること。
陽志が舞台へ助太刀する前に言伝てしたのか、奏也が中心となり、倉庫入り口では縄で拘束されていた子達を解放し、動けそうにない女の子達を運び出し外へと逃げていた。
倉庫に残ってるのは心二と陽志と倒れている裸の女性、白髪に守郎達によって粛清された男たちのみとなった。
選ぶべき選択は明確だ。
「……………お前はどうするんだ?」
陽志の背中に向かって尋ねる。
振り返り、陽志は笑顔で自信満々に告げる。
「大丈夫だ。逃げるくらいは余裕余裕。」
空中浮遊ができる陽志のことだ。逃げることなら恐らく容易にできそうな気もする。
どっちみち、今は動けない倒れた女性を助けることを優先すべきだ。
「…………任せた。」
「うっす。」
心二はすかさず裸の女性を抱きかかえる。
何かに苦しむその表情を見るたびに、怒りが込み上げてくる。
(………くそ。)
女をお姫様だっこで抱き上げ、ついつい胸や恥部に目が行くどうしようもない煩悩を振り払い、心二は倉庫の出口へ向かう。
そこには優璃が立っていた。
「心二!大丈夫!?」
心二の姿を確認するとすぐさま心配そうな顔でこちらに近付いてくる。
「あぁ、それより……この女の人…………」
「あ………!」
優璃は心二に抱かれていた女の顔を見た瞬間、嫌な記憶でも思い出したかのように苦い顔をする。
「どした?」
「………いや、あたしたちの前に犯されてた人……なの。苦しそう……熱があるのかも。」
すると、心二はようやく重要な問いを思い出した。
「優璃!………いや、菜川とかも犯されなかったか?その………中に出されたり、とか。」
言い淀む心二に優璃は無理矢理に優しく微笑みながら、力強く答えた。
「うん!だいじょぶ。……寸前で、橿場が助けてくれて……」
その名前に驚愕の顔を浮かべる。
「橿場って……あの橿場直之か!?」
「…………うん、ちゃんとお礼言わないとね。」
胸の前で手を組みながらデレッとした優璃を前に心二は危機感を覚えた。
(………え、惚れた……の?)
「と、とりあえず!裸の女の人を心二が抱きかかえるなんて、ちょっとアレ……だよ。 」
確かに、冷静に考えると端から見ればかなりの危ない絵面であろう。
「………あ、そうだよな。……どうする?」
と、言いつつ。
取れる最善策は一つであろう。心二は何も言わず服を脱ぎ出す。
「………ひゃい!?し、心二は何で服を脱ぐの?」
顔を赤らめながら目を背けるのでなく、ガン見するところがいつもの優璃らしい。安心からか、笑みがこぼれる。
「……え、何裸でニヤついてるの?」
…………さすがに引かれたようだ。
「とりあえずこれを着せよう。そんでさっさとここから離れるんだ。」
パンツ一丁でシャツとズボンを差し出す心二。
何とか着せることができたが、ここで忘れてはいけないのが、今も端から見れば下着姿の女とパンツ一丁の男、そしてそんな二人に肩を貸されながら森を歩いている眠っている女……依然として危ない絵面である、ということだ。
一方、倉庫内……。
「………あんた、知ってるぜ。米国からの帰国子女、秦野慎巴。確か近くの七条高校に入学したって聞いてるけど…」
意外な陽志の一言に初めて白髪である秦野は表情を変えた。
「………へぇ、知ってるんだ。」
「うちにもそんな感じの帰国子女がいるんだよ。そいつから聞いたことがある。」
余裕であることを意識させるためか、陽志は無理に欠伸を漏らす。
瞳に溜まる邪魔な涙を拭うと変わらずに凄むのある視線を向ける。
「…………まさか、こんなゲス野郎だとは…思わなかったけどな。 」
夜が段々と深まっていく森の中、異様な静けさがただでさえ低い声音で言い放った陽志の言葉を冷たいものに変えていた。




