#21 救出戦線〜希望〜
「……………なぁ、お前さんら。」
希望も活力も失った天条心二は聞き覚えのない呼び声に反応を見せた。
「…………誰だ?」
顔を上げて声の主を見ると、やはり見覚えのない顔。
目元はキツいがそこを除けば茶髪の大学生くらいの男だ。
その男の後ろからは腰を押さえながら坊主の男も近づいてきた。
「…………てめぇ、さっきいきなり思いきり蹴り入れてくれたくせに…」
その一言でふと思い出す。
無防備の太刀川奏也を襲っていた二人組の男達だった。
「はぁ?自業自得だろうが。うちの連れに乱暴してたじゃねぇか!」
心二は疲れ切った顔で言い放つ。
「それは誤解だ。とりあえずお前らなんか食ったらどうだ?顔色やべ〜ぞ。」
そう言いながら茶髪はポーチからうまい棒を心二達に一本ずつ与える。
「……………何の真似だ。」
疑いながらサクサク食べる垣峰守郎。狭山陽志も無言でサクサク食べる。
「オレらは、一人だったその女の子を心配して近くの溜まり場にしてる場所まで連れてこうとしたんだよ。」
奏也を指差し事情を説明する。
「そう言って、溜まり場まで連れ込んでうちの奏ちゃんに乱暴するつもりだったんだろ?」
そう、エロ同人みたいに!
「………違う。オレらのアジトには世話好きの女もいる。安全性バッチリだ。」
「というか、わい男なんやけど」
むす〜、と頬を膨らませながら割って入る奏也。
……なにこの生き物飼いたい。
「………おぉ。そりゃ失礼。んで?お前らこの辺のどっかのグループに連れ拉致られたって?」
「…………そうだよ。手がかりもなんもねぇ。お手上げ状態さ」
うまい棒の袋をパタパタ叩きながら守郎が力ない声で答える。
「予想だけど、そのグループは多分、黒翅だ。この辺りじゃ一番勢力持ったあぶねぇ奴らだ。」
「…………黒翅だと?」
意外にも守郎がその単語に大きな反応を見せる。
「………守郎?知ってんの?」
「……………いや、中学ン時にそんな連中とやりあったかな……ってよ。嫌な記憶しか思い出せねぇが。」
額を片手で押さえながらそこまで言うと、黙ってしまった。
そんな守郎の仕草に手前で控えていた坊主の男が尋ねた。
「…………おい、そこの金髪。お前もしかして……羅亜って呼ばれてたことねぇか?」
その呼び名に心二と守郎が立ち上がる。
「………そこのハゲ、羅亜を知ってるの?」
心二の呼び方が気に食わなかったのか坊主頭は眉間にシワを寄せた。
「オレは松原太陽だ!ハゲじゃねぇ!」
坊主頭が自己紹介すると思い出したかのように茶髪も名を名乗る。
「オレは木場音祐。そっちは?」
「………天条心二。って、おいハゲ!なんでもいい、羅亜のことはこれ以上口に……」
「太刀川奏也や。松原さん?守郎のことを羅亜って呼んだのはどういうことや?」
話題を反らそうしする心二をよそに奏也はすっかり興味を持ってしまった。
「………わかった。帰ったら話すから、とりあえず今の状況を何とかしねぇと…。」
守郎が話を後回しにして、松原、木場と名乗った二人に尋ねる。
「………木場、犯人グループの目星がついてんなら、溜まり場にしてるアジトも分かるんだろ?」
「そりゃ、わかるけど……はっきり言うぞ?もう間に合わないと考えていいだろう。」
守郎の眉間に皺が刻まれる。
「黒翅のアジトはここから走っても十分はかかる。見たところ、天条たちはだいぶ森を探していたんだろ?連れ去られたのはいつ頃前なんだ?」
心二たちは、それに答えられない。絶望的な時間が経っていたからだ。
……………一時間。
誰もが思う。……もう手遅れかもしれない。
それでも、心二の拳、守郎の足、奏也の心、陽志の目は諦めてなどいなかった。
「…………そのグループ、ぶっ壊さねぇと気が済まねぇ…。」
その守郎の一言に木場と松原が冷や汗を流す。
「………さっすが、羅亜だな。現役と変わんねぇ。」
松原の口元に笑みがこぼれる。
「面白ぇ!おと、連れてってやろうぜ!」
木場は呆れて手招きする。
「………アジトに自転車がいくつかある。オレが案内してやるから、付いてこい。」
少し走るとすぐに洞窟が見えてくる。
不自然に存在する岩の洞窟はアジトにするならもってこいの場所だ。
木場と松原が先導して中へ入っていく。
中はちゃんと複数のろうそくで申し分無い明かりが灯されており横の岩の隙間からは湧き水が流れていた。
木製の机があったり、カーペットがあったりと妙に生活感溢れる洞窟内だった。ここで住めと言われても普通に暮らせるだろう。
すると可愛らしい女の子の出迎えの声が洞窟内に響く。
「あ、おかえりー!おとにあかり♪」
心二達の前には優璃達に引けを取らない可憐さの童顔少女が笑顔で迎える。
「こいつら、遭難した奴ら。黒翅に友達ラチられたらしいんだ。自転車いくつか借りてくぞ?」
早口で状況を説明する木場。
それに可愛く反応する少女は、うん!と頷き心二達に駆け寄る。
「私、木葉愛衣って言います!大変ですね…なにもできないですけど…が、がんばってくださいね!!」
身ぶり手振りで応援してくれる愛衣。
思わず心二たち全員の顔がにやける。
「…………おい、てめぇらにやついてんじゃねぇ。」
すると洞窟の奥からいかにも不機嫌な声音のゴツい男が出てきた。
「別にいいだろ可愛いんだし。あ〜このゴツいのは風上大空。オレら大空船のグループの頭だ。」
ご丁寧に紹介してくれる木場。
勝手に名前明かしてんじゃねぇ!と吠える大空はこちらに近付いてくる。
「…………お?そこの金髪、もしかして羅亜か?」
人目見て守郎に気付く大空。
「そうだぜー、おもしれぇだろ!!」
松原の楽しそうな返答に大空も口を三日月の様に歪める。
「ほーほー、最近じゃまるで聞かなくなったが。そうか、黒翅もバカなことしやがるなぁ…羅亜のダチに手ぇ出しちまうなんて」
守郎の肩を手で叩き軽いノリで大空は言った。
「うっし、オレも黒翅乗り込むわ!あいつら数だけ増えて目障りだったしよ」
「ええーー!?そらも行くの?私一人じゃない!一人はヤだよぉ……」
うつむきながらしゃがみこんでしまう。
「…………かわわぁぁっ!!!」
「おい心二、心の声漏れとるぞ」
思わず愛衣の仕草にキュンと来る心二は奏也の指摘を受けるまで無意識の独り言に気付かなかった。
「………なら、そらが案内してやってくれ。あかりとオレでここ残るから」
木場の提案にバンザーイ!と両手を挙げる愛衣。もう見てるだけで癒される女の子だ。
「……………んじゃぁ行くか?てめぇら!!」
さっきまでの不機嫌な態度はどこへやら、しかし頼もしい存在の大空は自転車を三台引っ張り出してきた。
再び芽生えた希望に再び勝機を掴む心二達だったが、時間が経ちすぎていたのは紛れもない事実。
…………もう遅すぎたのだ。
数分前、心二達と木場達がファーストコンタクトを取った頃、黒翅のアジトでは心が痛くなるまでに悲痛な今西優璃達の絶叫が響き渡っていた。
縄をほどかれ、服を強引に脱がせようとする男達に優璃たちは必死に抵抗していた。
「………や!やめて!触らないで!!」
尚も男達の手つきは止まらず、優璃の上着を脱がした。
すぐ隣ではもう古旗由美は下着姿で複数の男達に拘束されていた。
「やだぁぁぁ!!!放して!!」
由美の絶叫が場の女の子の平常心を奪い去っていく。
菜川李女の悲鳴はさっきまでは確かに聞こえていたが、もう聞き取れるほどの声は発せられず、ただただ泣き崩れていた。
弥富深海に至ってはもう声すらもしない。
少しだけ深海のいるであろう方向に視線を向けると大勢の男が群がっており、姿を確認することさえもできない。
さっきまで優璃たちが寝転がっていたところには、次なる犠牲者であろう自分達と同い年くらいの女の子がビクビクしながらこちらを見つめている。
まるで、数分前の自分を見ているようだった。
やがて下着姿だけとなってしまった優璃は四肢をがしりと捕まれ、ついに男の手が下着へと伸びる。
すべてを諦めた。
すべてに目を背けた。
すべての責任を放り投げた。
………そして、純潔を捨てた。
「…………ごめん、心二。」
涙を出しきった両目からぽつりと一滴の涙が溢れた。
(………せめて、綺麗な身体のままで……)
「告白くらい………したかった、なぁ。」
優璃はそっと、目を閉じた。
そんな優璃の瞼はすぐさま大きな物音と共に開かれた。
まるで何かが落ちてきたような硬質感のある音。
すると、さっきまで捕まれていた感触がなくなっていた。
自由を手にしていたのだ。
「………え?」
再び清潔な身体のままで起き上がれることに喜びを感じる前に、優璃の耳には確かに聞こえる。
今も発せられている。
………闘志を奮い立たせている男の咆哮。
すると下着姿の由美、李女、深海がこちらへ這ってくる。
「優璃ぃぃぃ……。」
泣きながら三人は優璃の身体に顔を埋める。
状況が掴めない優璃は懸命に辺りを見回した。
そこにはたった一人で戦う男がいた。
優璃はその男の名を知っている。
第一印象こそ最悪だった為か、その男が自分達を助けた事実と前までの最悪な印象のその男とを同一視できないでいた。
しかし、紛れもなくその男の名は…
かつて心二と守郎との戦科試合に破れた歪んだ性格の成績優秀者、橿場直之だった。
「…………てめェら全員………ぶッ殺す!!!」
明らかな殺意と共に橿場はバーチャルシステムを展開した。
言わばバーチャルワールドと化した倉庫内は上位の成績を持つ彼、彼女らの独壇場に早変わりした。
橿場の愛刀、鎌鼬が神風を纏わせながら召喚される。
それに続き深海と李女もそれぞれの愛刀、天空神の短剣と化身の太刀を呼び出す。
「「「コード展開」」」
それが、反撃の一言。
各々(おのおの)の真の姿、深海は天空女神へ、李女は水神雌狐、そして、夏休み前の期末考査で九位の上位成績優秀者入りを果たした橿場のコード展開は神の化身へと神化を遂げていた。
以前心二たちと戦った時の連舞鎌鼬を凌駕する、嵐を従える天空竜。
天空竜。それが橿場の真のコード展開だ。
三体の神を従える橿場、深海、李女。
もはや、こちらには勝利しか見えてこなかった。
優秀は心から安堵した。
帰れるのだ。
心二たちと会えるのだ。
由美も依然として優璃の胸に顔を埋め、喜びを噛み締めている。
向こうで拘束されている女の子たちも涙して喜んでいた。
そんなハッピーエンドまっしぐらのこの状況に、不確定要素を優璃は確認した。
舞台へ連れていかれた時に初めて視界に捉えることができた舞台奥のソファに腰を下ろしている白い長髪の男。
長い前髪に隠れた目はその男自身が自ら立ち上がることで前髪の隙間から確認できた。
その目は正に強者の眼光。
何故か、この男の負ける姿が想像できないでいた。
ただの勘が外れていることを優璃は強く願いながら、橿場達を涙の枯れた両の眼で見据える。
「アンタがここの頭かァ?オレの妹とその連れを拉致った罪、泣いて償えよ…!」
橿場は言いながら一瞬視線を縄で拘束されて横たわっている女の子たちに向けた。
「……イヤだねぇ。だってお前らでは……」
ソファに腰を下ろしていた白髪の男は立ち上がりながら自信満々に告げた。
「…………俺様に勝てるわけねぇもん」
「ほざきやがれェェェッ!!!」
吠えながら、天空竜の加護を受けた橿場が特攻する。
薄ら笑いを浮かべたまま、白髪の男は一言。
「……………コード、展開。」
同時に混沌の闇が辺りに出現し、白髪の姿をみるみる神の姿へと変えていく。
「…………聞いたことがある。米国国内の上位成績優秀者の中に、真っ黒な神を従える不吉な生徒がいるって…。」
帰国子女の深海から、そんな呟きが漏れる。
米国での国内成績優秀者が、目の前にいるとでも言うのか…?
白髪は両手を伸ばし、コード名を告げた。
「……………混沌源神。」
その頃、心二たちは自転車を必死に漕がし、こちらへ向かってきている真っ最中だ。
二つの希望が、直に交わる。
はたしてその結果、より大きな希望が生まれるのか
はたまた不確定要素がより大きな絶望を生み出してしまうのか…。
今の彼ら彼女らはまだ知る由もない。
いよいよ終盤の今シリーズです!
挿し絵がないのはですね、実は今日でこの話を合わせて記念すべき1日合計三話を投稿しているわけですよ
書けているストーリーは惜しみ無く出し尽くしたいのでイラストは後回しで載せることにしました!
二日後にはイラストつきで更新しているので是非その際はよろしくお願いします!
今後のストーリーにも影響する予定の米国の国内上位成績優秀者。
実は次シリーズに深く関わってくる予定なので…というか三話前にふんだんに伏線は張ったのですがね笑
では、次話もお願いします!!




