#20 救出戦線〜絶望〜
「………………ん?」
いつの間に寝ていたのかと、優璃は目を覚ます。
目を擦ろうとしたが、どうやら手足を縛られているようだ。
頬に接している地面は嫌に冷たい。
自分の置かれている状況が掴めていない中、耳を澄ますまでもなく、遠くからゲラゲラうるさい下卑た笑い声が聞こえてくる。
嫌な予感が優璃の目を声のする方へ向けさせる。
そこには舞台に集まっている男達。ステージライトが点灯しており、ぼやけた視界ながらもよく見える。
やがて、その舞台で何が行われているか理解し始める。
裸の女の人達が男達に犯されていた。
「………えっ。」
思わず漏れた声は幸いにも連中には気付かれなかった。
よくよく耳を済ませば女の子の悲鳴、喘ぎ、泣き声が連中の笑い声に混ざって聞こえていた。
優璃がよく見るエロ本などに載ってある光景が目の前にあった。
いつもはエロ本の中で快感を味わいながら一つになる男女の姿を見て、いつか自分もこんな愛を確かめ合うような、そんなセックスをしてみたいと憧れに似た感情を抱きながら見ていたエロ本。
目の前で男達と女達がしている行為自体は、エロ本と同じなのに…。
優璃は恐怖を覚えていた。
これがセックス?こんな行為に自分は憧れを抱いていたの?そんな疑問が芽生え始めた。
泣き叫び、顔を涙、鼻水でグシャグシャにしながらも抵抗する自分よりやや歳上の女の人は複数の男に押さえ付けられながら、股を乱暴に開かされ無理矢理に挿入される。
「…………!やめてっ…いや…あっ、あっ痛い!!!痛いぃっ………ぁあっ!いやぁぁぁ!!」
女の人の叫びが聞こえる。
すると後ろですすり泣く声が聞こえる。
「………由美!?」
振り向くと自分と同じように手足の自由を奪われた古旗由美が女の人が犯されてる様子に耐えきれず、涙を流していた。
「………優璃ぃ…うちら、どうなっちゃうの?」
由美が泣きながら優璃に分かりきっているであろうことを尋ねる。
優璃は答えることができない。
回りを見ると6人くらいの女の子に混ざり、菜川李女と弥富深海が倒れていた。
間違いない。
優璃は思い出す。
肝試しドッキリの最中に遭遇してしまった男達に眠らされ、どこかもわからない倉庫らしき場所に連れてこられていた。
目的は、あの拷問紛いの行為を見ていれば痛いほどよくわかる。
自分達は、ただ犯されるためだけに集められたのだ。
そう………このままでは自分達も犯されてしまう。
「……………あたしの、せいだ。」
肝試しドッキリなんて提案しなければ……。
自責の念に駆られる優璃。
自然と目頭が熱くなり、鼻にツンと刺激を感じてすぐに頬が涙を伝う。
………自分が悪い。
だから、優璃は強く決心した。
(………この責任は、あたしが取る!)
皆で脱出するんだ。
そのための次元石だ。手にはめられているバーチャルシステムを展開させるための指輪を2回タッチして起動させれば、戦う手段を手に出来る。
ここから皆で逃げることができる。
縛られている中、手探りで手元を探る。
しかし、指輪の感触はなかった。
考えるまでもない。
指輪が奪い取られている。
当たり前だ、連中もバカではない。
反撃の術を徹底的に奪われているからこそ、女の人はやられるがままに犯されているのだから。
目の前が真っ暗になる。
このままでは、本当に……。
やがて女の人の泣き声は聞こえなくなり、足音がこちらへ向かってきている。
すぐさま寝たフリをするが、髪の毛を乱暴に掴まれ起こされる。
「さぁて、次は君らの番だ」
目の前で汚い男の笑みを視界いっぱいに映される。
由美も李女も深海も同じように起こされ引きずられていく。
「いや!やめて、やめてよ!」
由美の嘆きがすぐ横から聞こえてくる。李女と深海は何が何だかといった様子で辺りを見回していた。
優璃を視界に写すと、李女はただ一言。
「………優璃ちゃん?ここはどこだ?天条たちは?」
………………天条。
天条心二。
希望を感じさせるその男の名前が聞こえた瞬間、優璃は泣き叫んだ。
「………心二ぃ。助けて……助けてぇぇぇぇ!!」
無情にも、その呼び掛けに答える者などいない。
ずるずると、引きずられる優璃の目に映ったのは全身に精液を浴びる裸体が痙攣を起こし目は見開かれ犯され尽くされた女の人の、死人のそれよりも恐ろしい無表情の顔面だった。
墓場を通り越し、森に入って三十分ほどが経過した心二たちは、なんの手がかりも発見できずに未だ森を捜索していた。
「………くそ!建物すら見つからねぇ!!」
イライラを隠せずに垣峰守郎が吠える。
普段は温厚な太刀川奏也ですらも眉間にシワを寄せ疲れきった表情を浮かべていた。
「………駄目や。なんの手がかりも見つからへん……」
昨日に行った蜂の巣と化したコテージはとっくの前に通り越し、かなり森の奥地へ来ていた心二たち。
バカ広い森林の中から何かを見つけるなんて骨が折れるなんてものではない。
ましてや方向が合っているのかもわからない状況での捜索ほど、ストレスの溜まるものはないだろう。
「……どうすれば……いいんだよっ!」
心二はやり場のない怒りを森に思いきり蹴ることでぶつけた。
なにも喋らなければ、元の森の静寂が心二達の疲弊しきった心を蝕む。
もし見つけたとしても、もう間に合わないのでは…
そんなことばかりを考えてしまう。
「…………どうすれば……!」
「………どうしようもねぇよ。」
心二の独り言に守郎がイラつきながら答える。
「どうしようも……」
心二は歯をギッと食い縛る。
「……なんだよッ!」
守郎に向かって歩を進める。
心二の拳は力強く握り締められていた。
その仕草を見た狭山陽志はやめろ!と制止を促す。
「オレらが諦めたら……誰が……誰が助けんだよ!!」
吠えながら守郎に殴りかかる。
思いっきり頬を殴られた守郎は心二を中学以来のかつてない怒りの目で睨み付けた。
「助ける?じゃあ優璃達はどこにいんだよ……言うだけならなぁ、誰にも出来んだよ!!」
心二の左頬めがけ守郎の右フックが炸裂し、吹っ飛ばされる心二。
「心二!」
あり得ないくらいに吹っ飛ばされた心二の元に奏也が駆け寄る。
「二人共落ち着け!!なにやってんだよ!!」
さらに殴ろうとする守郎を止めながら陽志が二人の間に割って入る。
守郎のスマホは電池を切らし懐中電灯の機能は失われ、森の奥地にて帰りの道がどこかもわからず、昼からなにも食べていない彼らの体力は限界だった。
守郎はその場に座り込む。
脚が震えて立つ体力も残っていないようだった。
無力な自分を攻めるかのように守郎は地面をひたすら殴る。
それを無言で見続ける陽志もしゃがみこみ無心に輝く星空を眺める。
このままでは優璃達どころか、自分達の命も危うい。
そんな中、森の奥から光が見える。
真っ暗な森での光はすぐに心二達の希望の光となる。
「光や…!誰かおるんか?」
奏也は一人でにその光へ向かおうとるる。
「……待て奏也……!一人じゃ危険だ」
心二が奏也を止めようとする。
奏也はそんな心二に女神のような笑顔を浮かべる。
「大丈夫や!多分人や、ここがどこか教えてくれるやろ?すぐ戻るから待っといてな!」
光のもとへと向かい闇に紛れじきに姿を消す。
そんな一瞬の静寂は突如として破られた。
「……!?うわぁぁぁぁぁ!」
それは間違いなく奏也の悲鳴だった。
「奏也!!!?」
心二は立ち上がり悲鳴のもとへ向かう。
守郎も体に鞭打ち立ち上がる。
「……………冗談じゃねぇ。これ以上仲間傷つけてたまるかよ」
ふらふらの守郎に心二はため息を吐き肩を貸す。
「…………走るぞ。」
「…………心二。」
陽志も守郎に肩を貸す。
「心二、お前は奏也を助けろ!オレらもすぐ行く」
「…………ごめん!オレ、助けてくる!守郎を頼んだ!!」
心二はよたよたしながらも足を動かす。
やがて光源が見えてくる。
予想通り、それは懐中電灯だった。
その懐中電灯を持つ男二人は奏也を無理矢理捕まえていた。
「てめぇら!!!」
心二は今までの怒りをぶつけるかのように吠えながら飛び蹴りをかます。
「いてぇっ!!」
男は吹っ飛ばされ、無事に奏也を取り戻す。
「心二!」
飛びきりの奏也の笑顔が心二に力を与える。
「今のオレ、最高に輝いてるかも。」
残る一人の男が殴りかかる。
心二はすかさず指輪を起動させる。
「奏ちゃんに手ぇ出した報いだ。お前らぶっ殺す」
バーチャルシステムを展開させ、自身の愛剣を呼び出す。
相手も刀を召喚し、斬りかかる。
「死ねやぁぁぁぁ!!」
単純な直線攻撃を心二は冷静に交わし、体重を前にかけていた男はバランスを崩した。
「…………頭の悪い攻撃だな。」
前に死闘を演じた橿場直之の攻撃を思い出す。アイツの攻撃は、殺意が篭ってた。
「そんな空っぽの一太刀、効かねぇ!!」
そう吐き捨てる心二は確実に仕留めるため相手の首を切り飛ばす。
呆気なく相手のバーチャル体を戦闘不能にする。
次元石を使ったバーチャルシステムは起動させた本人が戦闘不能に陥るか、自分の意思で切断しない限りバーチャルシステムは継続される。
首を飛ばされた見た目グロテスクな男は成す術もなく横たわる。
直に守郎と陽志がやって来る。
「心二!無事か!?」
「………おう、それよりこいつさ…」
横たわるバーチャル体に顎をクイっと向けて続けた。
「…………ほう。」
守郎は思いっきりにやける。
二人組の男がこんな時間に懐中電灯でさ迷っていた。
これを偶然と考えるのは浅はかだ。
「間違いない。ここらに溜まり場があると考えていいだろう。コイツらが見回りかなんかだとすれば脅して場所を吐かせることだって可能だ」
一気に希望が見えてくる。
そうと決まればバーチャルシステムを解除するとすぐに守郎は男を拘束する。
「…………ここらにアンタらの溜まり場があるはずだ。どこか言え。」
まるで鬼の形相だ。
角とか生えてきそう。
「ぐっ…………なんでだよ!?てめぇらに関係ねぇだろ!!」
「ふざけろ!オレらの連れがここらを溜まり場にしてる不良に誘拐されてんだよ!!さっさと吐け!!!」
吠える守郎。心二達も男が溜まり場の場所は吐くのを今か今かと待っている。
そんな彼らに聞かされたのはよ驚愕の事実たる絶望だった。
「………は?ここら辺を溜まり場にしてる輩なんて山ほど居んだよ!!少なくともオレらは誘拐なんて真似しねぇよ!!」
「…………………なっ……にぃ!?」
守郎の顔がみるみる絶望に染まる。
後ろからは奏也のしゃがみ込む音が聞こえる。
「…………んなアホな。やっと、希望を見付けたのに…ここで振り出しかいな…」
見えた希望の大きさほど、絶望の大きさは計り知れなかった。
彼らが見た希望はただの仮初めの希望でしかなかったのだ。
心二達は、ただただその場で倒れ込んだ。
「心二ぃぃ、助けて……!いやぁぁぁぁぁ!!!」
「……………優璃、どこだよ……どこに………居るんだよっっっ!!!」
彼と彼女、互いを呼び求める声は、違う場所で確かに叫ばれていた。
二人の味わう絶望。
二つの絶望。
今の彼らには、絶望することしか出来ない。
希望を感じることなど、許されないのだ。




