#16 黒い虫
現在夏休み。旅行先の旅館客室にて二人の少年はだらだらと横になっていた。
「……………………。なぁ守郎。」
充分な間を開けて呼ばれた守郎は返事をする。
「オレ達は何しにここへ来たんだろう。」
「そりゃぁお前…………。」
これまた充分な間を開けて心二の問いに答える。
「……………暇だから来たんじゃねぇの?」
だん、と突如として立ち上がり守郎を見下す心二。
「なんだその適当な理由は!ここへ来た理由?そんなの遊びまくって素敵な思い出を作るために決まってるだろう!さらなる友情を育むために決まってるだろう!てめぇのそのちっぽけな幻想、オレの右手でぶち殺してやるよ!!!!」
心二の怒号と共に守郎へ殴りかかる。
やれやれとめんどくさそうに上体を起こし心二の幻想をぶち殺すべく迎え撃つ。
ぱしっと乾いた音と共に心二の右手を受けとめ関節技を決める。
「いだだだだだだだだっっっ!!!!ギブギブギブ!!!」
「いいか心二、よく聞け。旅行なんてこんなもんだ。結局は回りの環境で決まんだよ。ここら一帯を見てみろ!あるとしたら墓場と森だけだ。オレ達に許されているのはお墓に巣食う幽霊さんと戯れたり、森の熊さんと蜂蜜を舐め合うことだけだ!」
「……………!?……く、くぅ…。」
心二の幻想をぶち殺したところで、はてさて。
余計な体力を使ったせいでさらにやる気をなくす。
暇すぎて半ば本気で熊さんと蜂蜜パーティーでも開こうかと考えていた守郎だが、もう動く気すら起きない。
「あー、上条さんの夏休みはあんなに刺激的なのに、こっちの夏休みは何なんだよ。シスターさんがベランダで干されてたり、魔術の世界に足を踏み入れるなんて展開にはならないのかよぅ…」
「もうお前学園都市行けよ。」
「行けるわけないだろ!てめぇのその惨めな幻想をこの右手でぶち殺す!!」
「そんなんわからねぇだろ!てめぇのその惨めな幻想をこの右手でぶち殺す!!」
ばん、と扉が開かれた音と共に陽志の声が熱気に包まれた客室に響く。
「うるせぇよお前ら。上条さんごっこしてねぇで外出るぞ外。」
文句を言わせずじゃれあっている二人の手を引っ張り外へ出さそうとする。
「ちょ、陽志、やめろって!どうせ暇なら部屋でだらだらしとくって!」
「そうだ陽志!今すぐこの手を離せ!!」
吠える二人を無視し、玄関まで連れてくる。
「みんなが森行くってよ。部屋で死んでる二人連れてこいって言われてんだ。ほら、靴を履け。」
心二が露骨にバカにし腐った表情を陽志に向ける。
「森ぃ?何すんだよ。熊さんと蜂蜜パーティーでもするってのか?」
「……なんでそんな発想がでてくんだよ、違う。」
守郎が「違うのか!?」と目を見開き驚愕する。
少し考える仕草を取る。
すると今度は心二に電流が走る。
「……まさか熊さんと天下一武闘会でもするってのか?」
「お前らなんでそんなに熊さんとコンタクトとろうとしてんだよ。違うよ。」
すると、扉がガラリと開かれる。外の熱気が玄関に入り込んでくる。その鬱陶しい熱気と共に入ってきたのは……天使、いや深海だった。
「おぅくーちゃんも来たか。コイツらが中々来てくれないんだよ。何とかしてくれ。」
深海は人差し指を下唇に触れさせながらただ一言。
「………………来てくれないの?」
「「ばっかやろ。行くに決まってんだろ」」
二人の目は凛々しく輝いていた。
「こ、昆虫採取ぅ?」
森へ向かう理由を墓場の前で待っていた優璃達に聞くと背筋を凍らせる心二。
「お前らマジか。虫取り行くの?」
「そだよー。受付のおばちゃんが虫取りあみ貸してくれたんだ!」
優璃が奏也を指差す。
奏也の手には裕に自身の身長を超す長さの虫取りあみを視界に入れた。
「………っていうか奏ちゃん、虫取りあみ似合いすぎだろ。」
「誰が奏ちゃんや。」
墓場前からしばらく歩くと漸く墓場地帯を抜け、森へと入っていく。
「あれ?なんか涼しいねー。」
由美の呟きに改めて気付く。
確かに下手に客室で寝転んでるよりは遥かに快適な温度だ。
「ところで、虫取りつっても何取るつもりなんだ?」
守郎が後ろを歩く女子陣に尋ねる。
「んー。やっぱ蝉?」
「蝉なの!?せっかく森来てんだからカブトムシとかクワガタとかだろ!?」
優璃のボケに心二の激しいツッコミが炸裂する。
「え?蝉カッコいいじゃん!一週間しか生きることを許されない宿命を背負うあの生き様!きゅんと来るよ!!」
…………どうやらボケではなかったようだ。
「…………しかし、カブトムシやクワガタムシを採ろうとするなら、ちゃんと昼間に仕掛けを用意しておいて夜まで待たないと難しいと思うぞ?」
李女がもっともなことを言う。
奴らは昼間には椚の木の近くの土で眠っているものだ。
なら椚周辺を掘ればいいじゃないか、とか言うヤツがいるが…なら掘ってみるといい。
カブトムシやクワガタが堀り当てれるのは運が良かったらの話だ。大半はカナブンやダンゴムシ。
上条さんなら持ち前の不幸でムカデなんかを掘り当てるだろう。
「菜川の言う通りだ。奴らは手強い。万全な仕掛けを用意しても、引っ掛かっているのはムカデムカデムカデ。ほんとカブトムシとかクワガタとか存在するの?ってくらい引っ掛からねぇんだよ。」
守郎が苦虫を噛み潰すような表情を浮かべながら呟く。
「せやねんなぁ。わいなんて父さんと椚の木に蜂蜜塗りたくって仕掛けといて、夜に来てみればカブトムシのメスがぎょうさんおったけど、いざ採ろう思って近くに寄ったら全部ゴキブリやった。あれはトラウマやったわ。」
奏也が顔を青くしながら自嘲気味に呟く。みんなもその恐怖体験じみた奏也の話に顔を真っ青にする。
「カブトムシのメスとゴキブリってそんなに似てるの?」
「似てるなんてもんじゃねぇぞあれは。オレなんて手に取った瞬間のあのゴキブリ特有の気持ち悪い動きで漸くゴキブリだと分かったくらいだ。あの鳥肌が立つ感覚は…もう感じたくはないな。」
由美の問いに陽志も実体験を織り混ぜながら思い出があるのか、実感のこもった声音で返す。
「っていうかもうゴキブリの話はやめろ。ほんとに出てきそうだ。」
心二はそう言うと一本の木の前に立ち止まる。
「お、これ椚じゃん。」
守郎の言葉に皆がおぉ!と木を見てまわる。
「うーん、やっぱり李女ちゃんの言う通り仕掛けを用意しなきゃダメか。」
「でも、カブトムシは昼間は椚の木の下で眠ってるって話を聞くよ?」
由美の言葉に心二、守郎が「お前は何も分かってねぇ。」と声を揃えて断言する。
「えー!何でよ、掘ってみたら案外見つかるかもしれないじゃん!」
「あのな、眠ってるのはカブトムシやクワガタだけじゃねぇんだぜ?」
守郎の呆れた声に心二が続きを紡ぐ。
「ムカデやらダンゴムシ、さらには得たいの知れない気持ち悪い虫だってたくさんおねむしてるんだ。ンな気色悪いもん見たくないだろ?」
うぅ、と由美は苦い顔をして黙ってしまう。
「それじゃぁ、やっぱり蝉?」
優璃がふたたび蝉を提案する。
蝉なら確かに今でもそこら中からミンミンと聞こえてくる。見つけようと思えばすぐに見つかるだろう。
「持ち帰って夜中にミンミン鳴かれたりしたら面倒だ。」
ぶー、と優璃が頬を膨らませる。
「それでは、これからどうする?」
李女の問いが心二の言葉をつまらせる。
森に出たは良いがビックリするくらいにやることが見付からない。
「……………見て、あれ。」
今まで黙っていた深海が指を指しながら何かを見付けたようだ。
皆がその指の先を見てみると、古びた建物を見つけた。
「コテージか?」
守郎は自信なさげにその建物へ向かって歩き出す。
皆も守郎に釣られて建物を目指す。
コテージと思われる建物の目の前までやって来た心二達。
守郎が代表してドアノブを回す。
するとドアノブは綺麗に回った。
「空いてんな。」
そのままドアを開けようと引いた瞬間。
「!?」
守郎は力一杯引いたドアを開けることなく閉めた。
「え?どったの?守郎。」
心二が守郎の行動を不思議に思い顔を覗く。
「守郎?なんでそんな顔真っ青になってんの?」
ゆっくりと心二に目を合わせる守郎は顎をドアにくいっ、と向けた。
「?」
はてなを浮かべる心二に守郎は冷や汗を流しながら
言葉を発する。
「ドアに耳を澄ましてみろ。」
「へ?まぁいいけど。」
言われるがままに心二はドアに耳をくっつけ目を閉じる。
「……………!?うわ、うわぁぁ!!!」
心二はすぐさまドアから耳を離しコテージから離れる。
「ど、どしたの?」
優璃がビックリしながら心二の顔を覗く。
息を飲んでからコテージを指差す。
「……多分あのコテージ、蜂の集り場になってる。」
「?」
由美がなにいってんの?こいつ、みたいな声をあげる。
「ドアに耳くっつけてみたらわかるって!」
由美が首を傾げながらドアに近づく。それにつられ優璃も近づく。
そして、ドアに耳を澄ます。
「……………いやぁっ!!!」
二人とも僅か5秒程でドアから離れてしまった。
「ど、どうしたのだ?」
急にドアから離れた優璃と由美に驚き李女が尋ねる。
「ドアから蜂の羽音が聞こえる!音の大きさからしてこのコテージ一杯を巣にしてる!!」
よくコテージを見てみると下の隙間からオレンジと黒の禍々(まがまが)しい模様をしたスズメバチが数匹出てきた。
もし守郎がドアから聞こえるスズメバチの羽音に気付かず開けてしまっていればと思うと、ゾッとする。
「…………森は危険がいっぱいね。」
危険はデスフォレストの作中だけでお腹いっぱいである。
随所に禁書ネタが盛り込まれてる今回のお話ですが。
もし、ネタの意味わかんねぇよ!上条さんって誰だよぅ!なんで幻想を右手でぶち殺そうとするの!?とお思いの人は電撃文庫から出ている
『とある魔術の禁書目録』をご一読くださいませ笑
そろそろ平和な日常劇に終わりを見せようとしている今シリーズ。
最近の勢いあるPVに背中を押されて書かせていただいております。
是非とも皆様の口コミでこの『バ革命』を広げて下さいませ!
それでは、次回にて!!!




